軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第232話:男たちの和解と、晴れやかな帰路

校舎裏の、普段はあまり人が来ない機材置き場の近く。

俺は四人の男子生徒に囲まれる形で立ち止まった。

(……わざわざ人気のないところに連れてきたってことは、やっぱり喧嘩になるのか?)

俺はポケットに入れていた手を静かに抜き、小さく息を吐いた。

もし殴りかかってきたりしたら、なんとか怪我をしないように躱して、隙を見て逃げ切る方法を考えないといけない。

頭の中で逃げ道をシミュレーションしていると、ふと、視界の端で何かが動いた気がした。

俺から十メートルほど離れた、渡り廊下の太い柱の陰。

そこから、、ひょっこりと半分だけ顔を出している女子生徒の姿があった。

(……凛)

どうやら、日直が終わって下駄箱に来たタイミングで俺が連れて行かれるのを目撃し、こっそりと後をつけてきたらしい。

柱の隙間から、心配そうな、それでいてこちらを監視するような『ジト目』でじっと様子を伺っている。

そのあまりにも可愛らしいスパイのような姿に、張り詰めていた俺の緊張がふっと抜け、思わず口元が綻びそうになった。

(……凛にだけは迷惑をかけないように、危ない目に遭わせないように、なんとか上手くやり過ごさないとな)

俺は改めて覚悟を決め、四人に向かって口を開いた。

「……で? 話って何だ」

俺の低い声に、四人の肩がビクッと揺れた。

緊迫した空気の中、先週、俺に腕を捻り上げられたリーダー格の男子が一歩前に出てきた。

彼の手首には、まだ白い湿布が貼られているのが見えた。

何か言ってくるのかと身構えた、その時だった。

「…………ごめん!!」

男は突然、俺に向かって深く頭を下げた。

「え……?」

「あの時は、どうかしてた。頭に血が上ってて……。本当は、冬月さんがお前と付き合ってるって聞いて、ただ単に羨ましくて……それで、暴言を吐いてしまった。冬月さんにも怖い思いをさせた。本当に、悪かった」

絞り出すような、嘘偽りのない声だった。

それに続くように、後ろに立っていた三人の男子も、「悪かった」「ごめんなさい」と次々に頭を下げたのだった。

俺は完全に拍子抜けしてしまった。

殴り合いになるか、また嫌味を言われると思っていたのに、まさかこんなに素直に謝罪されるとは予想もしていなかった。

彼らも冷静になって、自分たちの非をきちんと認められる奴らだったのだ。

「……頭、上げてくれよ」

俺がそう言うと、四人はおそるおそる顔を上げた。

「こっちこそ、ごめん。凛を守るためだったとはいえ、いくらなんでもやりすぎた。……手首、大丈夫か?」

俺が湿布に視線を向けて気遣うと、男は気まずそうに自分の手首をさすった。

「ああ、痛みはもう全然ないから大丈夫。でも、まだ指の跡が残っててさ。……お前、本当に力強いんだな」

「そうか。痛みがないならよかった。ごめんな」

俺が改めて謝ると、男は慌てて首を横に振った。

「いや、元々はこっちが悪かったし、あれは正当な防衛だったと思う。だから、気にしないでくれ。……とにかく、本当に悪かった。俺たち、もう冬月さんにちょっかい出したりしないからさ」

彼らはしっかりと反省しているようだった。

「凜の方には行ったのか?」

「いや、先生に近づくなって言われてて、行けてないんだ。」

「……あのさ。これじゃ全然罪滅ぼしにならないかもしれないけど、もし学校で何か困ったことがあったら、遠慮なく言ってくれ。少しは力になるからな」

男は最後にそう言って少しだけ表情を緩めると、「じゃあな」と三人を引き連れて帰っていった。

彼らの背中が完全に見えなくなったのを確認し、俺は柱の陰に向かって声をかけた。

「おい、もう出てきていいぞ」

すると、柱の裏から凛がタタタッと小走りで駆け寄ってきた。

会話は聞こえていなかったはずなので、彼女の顔には不安がいっぱい広がっている。

「朝陽くん! 大丈夫だった!? また何か酷いこと言われてない!?」

凛は俺の顔を下から覗き込みながら、涙目で心配してくる。

「落ち着け、大丈夫だって。……あいつら、ちゃんと謝ってくれたよ。心にもないこと言って悪かったって。俺も腕のこと謝って、仲直りしたから」

「……そっか。本当によかった……」

俺がそう報告すると、凛は体の底から安堵したように息を吐き出し、へにゃっと眉を下げて微笑んだ。

「心配かけてごめんな。もう何もないから、帰ろうか」

「うんっ」

俺は凛の右手をそっと取り、指を絡めてしっかりと繋いだ。

夕日に照らされた帰り道。

学校でのわだかまりも完全に消え去り、俺の心はこれ以上ないくらいに晴れやかな気分だった。

金曜日の遊園地に向けて、もう何の障害もない。

俺たちは、今までで一番穏やかな気持ちで、月曜日の帰路についた。