軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第215話:いつもの呼び出しと、彼女の誇り

水曜日。

午前中の授業が終わり、俺と大輝、寺田さんの三人は、いつもの中庭の隅で弁当を広げていた。

「おーい、お疲れー」

そこへ、凛の親友である佐藤さんが歩いてきた。

しかし、その隣にいるはずの姿がない。

「あれ、陽菜ちゃん。凛は?」

俺が尋ねると、陽菜は自分の弁当箱を開けながら、あっけらかんと言った。

「なんか、他のクラスの男子に呼び出されてどっか行っちゃった。多分、いつものあれだと思うけど」

「いつものって……告白!?」

俺が思わず立ち上がりかけると、すかさず大輝が俺の肩を掴んで座らせた。

「おい落ち着け、朝陽。お前が今行っても、話がややこしくなるだけだぞ」

「そうそう。凛の性格上、ちゃんと自分の口で断っておかないと気が済まないタイプだから今行ってるんじゃないかな。彼氏ならドンと構えて、信じて待ってなよ」

大輝と佐藤さんにそう言われ、俺は渋々ベンチに座り直した。

頭では分かっている。

それでも、大好きな彼女が今まさに別の男から愛を告白されていると思うと、気が気じゃなかった。

【凛視点】

今日の朝、登校して自分の席に着くと、机の中に一枚のメモが入っていた。

『昼休みに体育館裏で待っています。〇組の〇〇』

名前には見覚えがなかったけれど、こういう呼び出しの要件は一つしかない。

以前の私なら、こういう呼び出しは「断るのが心苦しいし、面倒だな」と憂鬱な気持ちになっていた。

でも、今は違う。

今の私には、朝陽くんという世界で一番大好きな彼氏がいる。

だからこそ、変な期待を持たせたり誤解を与えたりしないように、ちゃんとはっきりと断らなければいけない。

そう決意して向かった体育館裏には、少し緊張した面持ちの爽やかな男子生徒が立っていた。

「あの、冬月さん。……ずっと好きでした。僕と付き合ってください!」

真っ直ぐに頭を下げる彼に対し、私は一つ深呼吸をして、誠実に、けれどはっきりと告げた。

「ごめんなさい。私、今お付き合いしている方がいるので、あなたとお付き合いすることはできません。申し訳ありません」

私の言葉に、彼はバチッと顔を上げ、目を丸くした。

「えっ、マジで!? 彼氏いるの? こないだの情報だと、まだ片思い中だって……」

「……はい。その恋が、実ったので」

驚く彼に小さく微笑んで一礼し、私は足早にその場を後にした。

早く、朝陽くんの待つ中庭へ行きたかった。

【朝陽視点】

「ごめん、お待たせ!」

中庭で落ち着かない時間を過ごしていると、凛が小走りでこちらへやってきた。

手には、俺が今朝作ったお弁当を持っている。

彼女が俺の隣にちょこんと座ると、陽菜がニヤニヤしながら口を開いた。

「おかえり。またいつものあれでしょ? ちゃんと断ってきたんでしょうね」

「うん、もちろん」

凛が当たり前のように頷く。俺は心配でたまらなくて、彼女の顔を覗き込んだ。

「大丈夫だったか? なんか変なこと言われなかった?」

「もちろん大丈夫だよ。いつものことだし。……でも、一つだけ」

凛は俺のお手製ハンバーグを箸でつまみながら、さらりと言った。

「『彼氏ができたので』って、はっきり言っちゃった」

「ブーッ!!」

俺は飲んでいたお茶を派手に吹き出した。

向かいに座っていた大輝が「うおっ!?」と間一髪で避ける。

「ゲホッ、ゴホッ……! い、言っちゃったの!?」

「うん。だって、そう言わないとこれからもずっと告白来ちゃうもん……」

凛が少しすねたように言いながら、ハンカチを出してくれた。

それを見て、寺田さんが優しくフォローを入れた。

「まあ、凛ちゃんの言う通りだよね。変に隠して期待させるより、きっぱり言った方が虫除けになるし」

「それは確かにな。……月曜日に五人で集まった時、『周りをびっくりさせないように少しずつゆっくり慣らしていこう』って方針決めたばっかだったのにな…。」

大輝が苦笑いしながら話すと、陽菜も肩をすくめた。

「まあ、状況が状況だけにね。告白なんてされちゃったら、ゆっくりなんて悠長なこと言ってられなくなったってことでしょ」

「……確かにそうか。ちょっと騒ぎになりそうだけど、しょうがないね」

俺がそう納得して頷くと、凛は「ごめんね?」と少し申し訳なさそうに、でもどこか嬉しそうに微笑んだ。

【凛視点】

その日の放課後。

帰りのホームルームが終わり、自分の教室で帰り支度をしている時のことだった。

「ねえねえ冬月さん!」

不意に声をかけられ振り返ると、陽菜ほど付き合いは長くないけれど、クラスでよく話す女子の友人二人組が、ものすごい勢いで駆け寄ってきた。

「ちょっと、聞いたよ! なんかお昼に、他クラスの男子の告白を『彼氏できたから』って断ったって噂聞いたんだけど……」

「それって本当!? あの冬月さんに、ついに彼氏が!?」

興奮気味に詰め寄ってくる二人を見て、私は思わず引きつった笑いを浮かべた。

(……えっ、いくらなんでも噂が広まるの早すぎない!?)

まだお昼休みから数時間しか経っていない。

「氷の令嬢」なんていう大げさな二つ名のせいか、私の噂が回るスピードは、私の想像を遥かに超えていたようだ。