軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第209話:誕生日と、恋人たちの朝

静かなリビングに、チリンという小さな鈴の音が優しく響く。

猫耳姿でイタズラを仕掛けてこようとした凛を、俺が軽くからかいつつも優しく抱きしめていた。

俺たちの新しい関係の始まりを祝うような、特別で幸せなハロウィンの夜が、ゆっくりと更けていく。

しばらくの間、俺たちはソファに並んで座り、お互いの肩を寄せ合いながら温かいお茶を飲んで余韻に浸っていた。

「……なぁ、凛」

「ん?」

俺が声をかけると、凛はコテンと俺の肩に頭を預けたまま、上目遣いでこちらを見上げてきた。

「明日って、凛の誕生日だろ」

「うん。……覚えててくれたの?」

「もちろん。当たり前だろ。」

俺がサラリと言うと、凛は嬉しそうに目を細めて「えへへ」と笑った。

だが、俺は少しだけ申し訳なさそうに眉尻を下げて、本題を切り出した。

「それで、明日のことなんだけどさ……。実は俺、誕生日プレゼント、まだ何も用意できてないんだ」

俺がそう打ち明けると、凛は少しだけ不思議そうに小首を傾げた。

「え? プレゼントなら、もうもらったけど?」

「……え? 俺、なんかあげたっけ?」

俺が記憶を探って首を捻ると、凛は俺の肩に頭をすり寄せるようにして、悪戯っぽく微笑んだ。

「私は昨日、朝陽くんをもらったよ」

「────」

一、二、三、四、五。

その言葉の意味を脳が完全に理解するまでに、たっぷり五秒はかかった。

「……あっ、そういう、ことか……」

俺の顔がボンッと音を立てて爆発するように熱くなるのを見て、凛は「ふふっ」と嬉しそうに笑った。

「朝陽くんからの告白、私にとって何よりのプレゼントだったから。だから、何も用意してなくても全然気にしてないよ」

満面の笑みでそう言ってくれる凛。

だが、彼氏としての矜持というか、俺自身の気持ちがそれでは収まらなかった。

「いや、でもさ。……昨日に関しては、俺も凛をもらったんだから、それはチャラじゃないか?」

「えっ?」

「だから……ちゃんと、凛の誕生日に何かプレゼントをあげたいんだよ」

俺の言葉に、凛は目をパチパチと瞬かせた後、耳の先まで真っ赤にして「……そっか。チャラ、だね」と嬉しそうに呟いた。

凛の優しい言葉に救われつつ、俺は彼女の目を見て、自分が考えていたプランを提案した。

「今まで、凛にはずっと窮屈な思いをさせてきただろ? 俺、それがずっと心苦しかったんだ」

アパートの部屋の中だけでしか、共有できなかった時間。

でも、もう隠れる必要はない。

「だから明日は、二人で凛の欲しいものを一緒に選んで、お昼は美味しいものを食べて……帰りにスーパーで晩御飯の材料とケーキを買って、一緒に帰ってきたいんだ。……どうかな」

俺がそう提案すると、凛の大きな瞳から、パァッと星屑のような光が溢れた。

「……うんっ!」

凛は俺の腕にギュッと抱きつき、満面の笑みを浮かべた。

「私、朝陽くんと一緒に歩いて、私の欲しいものを一緒に選んで、一緒に買うっていうのが、すごく好き。だから、明日は一緒にお出かけしようね」

「ああ。約束だ」

俺が彼女の頭を優しく撫でると、凛は気持ちよさそうに目を細めた。

「それじゃあ、今日はもう遅いし、そろそろお開きにするか。……明日、俺が起こしに行くからな」

「うんっ。おやすみなさい、朝陽くん」

「おやすみ、凛」

玄関先で少しだけ名残惜しそうに手を振り合い、俺たちはそれぞれの部屋で、幸せな眠りについたのだった。

翌朝、11月1日、日曜日。

窓から差し込む明るい朝日で目を覚ました俺は、顔を洗って身支度を整えると、ポケットから一つの鍵を取り出した。

以前、凛から預かっていた合鍵だ。

ガチャリ、と鍵を開けて隣の部屋に入る。

静かな部屋の中、寝室の方へ足音を忍ばせて向かうと、ベッドの上には布団にすっぽりと包まった凛の姿があった。

「凛、朝だぞー……」

俺が小声で呼びかけながらベッドを覗き込むと。

「……あ」

「……」

布団の隙間から、パッチリと開いた大きな瞳とバッチリ目が合った。

「……起きてたのか?」

「うん。……朝陽くんが来てくれるの、待ってたの」

布団から顔だけを出して、凛がえへへと照れくさそうに笑う。

目を開けたまま、俺が起こしに来るのをワクワクしながら待っていたのかと思うと、その健気さがたまらなく愛おしい。

「そっか。……おはよう、凛。そして、誕生日おめでとう」

「おはよう、朝陽くん。……ありがとう」

「はい、おいで…!」

俺はベッドの端に腰を下ろし、布団から身を起こした凛の体を、そのまま優しく腕の中に包み込んだ。

「……っ、ふふ、ぎゅーっ」

付き合って初めて迎える朝。

少しひんやりとした部屋の中で、お互いの体温を確かめ合うように、ゆっくりと、強く抱きしめ合う。

パジャマ越しに伝わる彼女の柔らかい感触と、寝起きの少し甘えたような声。朝からこんな幸せを味わえるなんて、彼氏という特権は本当に最高すぎる。

「さてと。それじゃあ、俺は朝ごはんを作るから。凛は顔を洗って着替えたら、201号室においで」

「はーい! すぐ行くね!」

俺が頭をポンと撫でて立ち上がると、凛は元気よく返事をしてベッドから抜け出した。

十分後。

俺の部屋のダイニングテーブルには、こんがりと焼けたトーストに、目玉焼きとベーコン、それに温かいコーンスープとサラダという、休日の定番朝ごはんが並んでいた。

「いただきまーす!」

「いただきます」

向かい合って座り、朝ごはんを食べながら、俺たちは今日の一日の予定について話し合いを始めた。

「服とかアクセサリーなら、やっぱり大型ショッピングモールがいいかな」

「うん! あそこなら、いろんなお店が入ってるもんね。……あ、朝陽くん、お昼は何が食べたい?」

「俺は凛が食べたいものでいいよ。主役は凛なんだからさ」

俺がそう言うと、凛は嬉しそうに微笑みながら「じゃあ、あそこに入ってるイタリアンのお店に行きたいな。パスタが美味しいって陽菜が言ってたの」と提案してくれた。

「よし、じゃあお昼はそこにしよう。帰りはスーパーに寄って、晩御飯の材料とケーキを買って……」

「今日の晩御飯、何にしようか? 私、朝陽くんと一緒にお料理したいな」

「いいよ。スーパーに着いたら、二人で食べたいものを決めよう」

昨日までは、こんな風にこれからの予定を楽しく話し合うことすら、どこか遠慮があった。

でも今は違う。俺たちは「恋人」として、堂々とこれからの未来を一緒に決めることができるのだ。

「ごちそうさまでした。すっごく美味しかった!」

「お粗末さま。よし、じゃあ準備して……十時半くらいに出発しようか」

「うんっ! 私、とびっきり可愛くしていくから、待っててね!」

凛は空になった食器を片付けるのを手伝ってくれると、嬉しそうに自分の部屋へと戻っていった。

俺もクローゼットを開け、今日という特別な日に相応しい服を選び始める。

今日から始まる、恋人としての初めてのデート。

胸の奥で高鳴る鼓動を感じながら、俺は待ち遠しい気持ちで出発の準備を進めた。