軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

食事会

大司教様は大陸を北と南で隔てる大きな入江の奥の奥にある、この国に負けないくらいに大きな島の大教会で暮らし活動をしている。

父上達の拠点から見て南東、元々半島だった所が何かの間違いで大陸と分断されてしまった……と、そんな形と位置をしているその島は美食家が多いことで知られていて、恐らく大司教様もお付きの騎士達も例に漏れず美食家なのだろう。

大司教様は質素な食生活で知られているけども騎士達は違うはずで、そんな美食家が用意してくれた最初の一枚、前菜がサラダで驚かされた。

こちらの世界にはサラダという料理は存在しないと思っていた、野菜は火を通して当たり前で、生で食べるという習慣自体を見かけなかった。

糞尿を肥料にしている関係で生では色々と問題があるのだろう。

……だが出てきたのはサラダ、生野菜。

レタスっぽい葉物野菜に、スライスニンジンと玉ネギ、そして様々なフルーツを切り分けたものが乗せられていて、その上にドレッシングというか、味付けソースというかがかかっている。

よく洗っているのか、それとも肥料が違うのか。

野菜クズや落ち葉から作る肥料もあったはずだから、そういうものを使って育てているのかもしれないなぁ。

ひとくち食べてみると……凄まじく美味しい。

普段質素な食事を心がけていることもあって、ちょっとした豪勢さでも驚く程に美味しく感じる。

コーデリアさんも完璧なマナーで食べていて……食べ終えると、美味しい! もっと食べたい! と、内心を表情で露骨なまでに表現する。

それを見計らったかのように騎士達が次の料理を運んでくる。

その騎士達はなんと言うか、前世で一度だけ行った超高級レストランのウェイターといった様子になっていた。

腕に薄手のタオル……トーションと言うんだったか、それをかけて全員の側に静かに立っていて、誰かがこぼしたりしたらそれでもってすぐに対応してくれるのだろうなぁ。

皿が空になったらすぐに交換してくれて、これはどんな料理か? と聞いても対応してくれるようで、実際に大司教様が「今日はどんな果物を使ったのかね?」なんてことを聞いていて、聞かれた騎士は丁寧過ぎる程に丁寧な言葉使いで答えを返している。

そんな騎士達が前菜の次に持って来てくれたのは揚げ魚料理で、20cmくらいの大きさの魚に小麦粉を薄くまぶした上で揚げたようだ。

衣がとにかく薄いためフライと言うよりは揚げ魚、またはムニエルといった印象で、その薄い衣にたっぷりとソースを染み込ませて食べる料理であるようだ。

ソースはビネガーソース……多分砂糖と果汁とスパイスと塩も入っていると思う。

濃すぎないさっぱりとした味で、たっぷり染み込ませても塩分過多などにはならずに済みそうだ。

当然のように美味しい……魚は我が家でも当たり前のように食卓に上げるけども、これはまた別格の美味しさだなぁ。

「……これはとても新鮮なお魚ですね」

一口食べて口元を手で隠しながらコーデリアさんがそんな声を上げる。

ロブル国では魚介を食べない日はないというくらいに食べまくるらしいから、一口で新鮮かどうかも分かっちゃうらしい。

俺は……刺し身なら分かると思うけども、火が通っているともう新鮮かどうかは分からなくなるなぁ。

「ほっほっほ、今朝水揚げしたものを飛空艇でお持ちしましたからな、それはもう新鮮ですとも」

と、大司教様。

はいぃぃ? と、思わずそんな声を上げそうになってしまう。

飛空艇に乗ってきたの? 乗っちゃったの? 教会のNo2が??

俺はもう慣れているし、色々と対策と覚悟をした上で乗っているから良いんだけども、大司教様は万が一を考えると乗っちゃ駄目じゃないですかね?

というか寄付のタイミングからして、受け取ってすぐに飛空艇に乗っちゃってるよね? 試運転とか試乗とかすっ飛ばして、ぶっつけ本番でこっちに来ちゃってるね、これ。

てっきり鉄道と船で来たものとばかり思っていたけども、まさかの飛空艇には驚かされた。

まぁ、距離と大陸の状況を考えると鉄道も安全とは言い切れないし、それなら飛空艇でサクッと移動してしまう方が楽なんだろうけども……怖いことするなぁ。

三皿目はスープ料理、茶色のスープには具がなく、一緒に用意されたパンをちぎって沈めてからスプーンですくい上げて食べる料理らしい。

茶色のスープの味はほぼほぼビーフシチューで、前世の有名店で食べたものにも負けない味だ。

肉の風味も強く感じられるが肉の姿はなく、老体の大司教様を気遣ってのメニューなのかもしれない。

出汁だけ取ってあとは……若い騎士達の腹の中に入り込んだのかもしれないな。

次は茹で野菜、普通に茹で野菜だが独特な白いソースがかかっていて……マヨネーズに似ていなくもない味となっていた。

普通に美味しい、茹で野菜なら屋敷でも毎日のように食べているのだけど、それとは段違いに美味しい。

野菜が良いのか調理が良いのか……ソースなしでも美味しいのがなんとも反則だ。

そして最後にデザート、フルーツヨーグルトと言ったら良いのか、フルーツのヨーグルトソースかけと言ったら良いのか、そんな皿が出されて……それも美味しく楽しませてもらって、食事は終了。

それぞれの量は少なく、副菜とかもなく、順番とかも前世のフルコースとは全然違ったものとなっていて……だけども確かな満足感があって、美味しかったと言える料理だった。

騎士達がこっそりバレない程度にコーデリアさんの皿だけ量を多めにしてくれていたので、コーデリアさんも満足そうで、セリーナ司教様と大司教様はこれで満腹大満足といった様子で……そして王はどこか不満げだった。

そりゃまぁ、王城で食べるような料理に比べたら質素なんだろうけども、大司教様の立場と年齢を思えばこれでも贅沢なはずで、そんな顔をするだけ損とは……気付けないんだろうなぁ。

むしろ大司教様の来歴のことを考えるとかなーりの贅沢さとなる訳で、俺と王のためにそうしてくれた訳で……その思いやりに感謝するのは筋なんだけどなぁ。

「とても美味しかったです、素敵な料理をありがとうございます。

心ゆくまで楽しめました」

「本当に美味しかったです、故郷の皆にも教えてあげたくなる程の美味しさでした。

故郷で暮らしていた頃は、故郷の魚料理が世界で一番美味しい魚料理だと思っていたのですけど、これを食べてしまうと、もうそんなことは思えなくなってしまいますね」

まず俺がお礼の言葉を口にすると、コーデリアさんがそう続く。

「楽しんでいただけたのなら幸いでした、拙に合わせて大人しめの料理になってしまったようですが、それでも腕によりをかけた料理にしてくれたようですな。

お役目柄遠出することが多く、食には困ることもあるのですが、彼らが世話をしてくれるおかげで辛く思ったことはありません。

質素な食生活で知られる拙ですが、それも全ては彼らのおかげ、という訳ですな」

質素な食生活と不味い食事はイコールではなく、可能な限り美味しく楽しめるよう、周囲の騎士や従者が支えてくれていた、ということなんだろうなぁ。

そんな彼らを誇りに思っているのだろう、彼らの自慢話をする時が一番楽しそうってくらいに大司教様の表情は緩んでいて……そんな中でも王は不満そうな顔のまま。

……不貞腐れたガキじゃないんだからなぁ、仮にも王族ならもうちょっとマシな外面を取り繕えよと思ってしまうが……逆なのかな? 王族だからと周囲が甘やかした結果がこれなのかな?

だとしたらロクでもない話だけども……。

なんてことを考えていると、不満顔のままの王が何かを言おうとし……それを遮るように大司教様が手を叩く。

「茶の用意を」

それは騎士達への指示だったようだが……これまでの間にそうした形で指示を出したことは一度もなく、明らかに王の言葉を遮るのが目的だった。

不満顔への意趣返しか……まぁ、しかしそうされても文句は言えないだろう。

外交としては最悪な態度だ、仮に美味しくない料理が出てきたとしても美味しい美味しいと食べる必要があるのが外交だ。

特に大司教様が用意した席ともなれば、泥団子が出てきたって美味しいと食べなければならないだろう。

茶が出て来るまでは大司教様の雑談が続き、出てきたら静かにそれを楽しみ、また雑談。

そしてそのまま解散という空気になってきて……俺は特に逆らわずそれを受け入れる。

とりあえず俺の目的は達せられている。

ここで王を討つつもりがない現状では満点以上の結果を得られたと思うし、コーデリアさんとの楽しい旅行も堪能出来ているし、王族が来た? という情報に対しての威力偵察も完了している。

ここで解散、帰宅となっても全く困らない、むしろ下手に長居すると何かよからぬ思いつきに巻き込まれそうなので、さっさと帰ってしまいたくもある。

そんな空気を察したのか王はなんとか割り込んでの発言をしようとするが、大司教様と司教様がタッグを組んでそれを防ぎ、騎士達にまでおかわり確認や片付け確認といった援護射撃をされたなら、もうどうしようもなかった。

そうして解散の流れとなり……俺達は素直に、大司教様に促されるまま立ち上がって店を後にする。

と、店を出た所で数人の記者が待ち構えていた。

ハンチング帽にベスト、紙束に鉛筆といかにも記者でございますといった格好……なんだけども、服も靴も帽子も高級品、かなり出来が良さそうな懐中時計を懐に潜ませていて、鉛筆も恐らく一級品。

明らかに普通の記者ではなく一流の……恐らく大司教様付きの記者達が緊急取材だとあれこれと質問を投げかけてくる。

王とその従者は無礼にも程があると憤慨していたが、俺とコーデリアさんと大司教様達は笑顔で応えることになり……その場で先程の食事会でどんな会話があったかの暴露が行われる。

教会と王が認めた蛮族の姫との結婚。

いや、もう蛮族とは呼べないという流れになり、記者もノリノリ。

明らかに仕込みだけどもあえてその流れに乗ることにして……そうしてこの日のことは数日後の新聞にその全てが事細かく書き記されることになり、王へのちょっとした意趣返しが大成功という結果になってくれるのだった。