軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

切磋琢磨

今回のトラブルは、まぁ被害なしに終えることが出来たと言えて、面倒事や仕事が増えるようなことはなかった。

そのおかげ……という訳でもないが、ちょっとした余裕が生まれてくれて、それを使って俺はコーデリアさんとの時間を過ごすことにした。

あまり見に行けていないがコーデリアさんは母上の下での勉強とエリザベス嬢との社交に日々励んでいて……少し心配になるくらいの頑張りをしているとの報告を受けているので、それを労うためだ。

という訳で今日は二人……+護衛でピクニックに出かけていて、屋敷近くの丘へとやってきていた。

私有地となるここは、家族だけのプライベートなピクニックスポットとなっていて、頂上には屋根とテーブル、椅子に井戸と、必要なものが大体揃った休憩所があり、その側には日陰を作るための大木、そこから見下ろせる位置には花畑と、ピクニックのための空間が庭師などの手によって作り出されている。

ここまで人工的だと風情がないなぁ、なんて思うのは前世の影響なのか、春も半ばを過ぎて暖かくなってきたこともあってか、コーデリアさんはその景色と暖かな風をドレスを靡かせながら存分に楽しんでくれている。

白くふんわりとしたドレススカートに、大きなツバのドレスハットという格好で丘の上を元気に歩き……その後ろを歩く俺と周囲の景色を交互に見やっている。

気を使ってか護衛は少し離れた所にいるので二人での散歩をゆっくりと楽しみ……それが終わったら休憩所に向かって、向かい合う椅子に腰を下ろしての食事の時間となる。

今日はピクニックらしくサンドイッチを作らせてみた、まぁサンドイッチという言葉はなく、パン割りとかパン挟みとか呼ばれているのだけど、俺の中ではサンドイッチで良いだろう。

具材は、ハムチーズ野菜、ジャムなどなど。

特に今はベリーの季節で、屋敷の台所でも盛んにジャム作りが行われているので、それを使ったものが多くなる。

バスケットいっぱいに入ったサンドイッチと……それと道中コーデリアさんが収穫したルバーブが今日の昼食。

ルバーブはフキやセロリに似た植物で、苦そうに見えるが味はまさかの甘酸っぱい味。

フルーツかと思うような味と風味が特徴で、普通はこれをジャムやコンポートにしたりもするのだけど、コーデリアさんは洗ったものをそのまま齧るのがお気に入りらしい。

故郷でも春にはそうしていたんだとか……そこそこの渋さもあるのだけど、そこら辺は気にせず食べてしまうらしい、ドルイド族らしいと言うか何と言うか……。

という訳で井戸でもって二人でルバーブの茎を洗っておいた、葉は毒らしいので綺麗さっぱり切り落として茎だけにし……茎をナイフで切り分けるとほぼほぼセロリの輪切り。

輪切りにして皿に盛り付けたそれを一つ手にとって齧ったなら……うん、甘酢っぱ渋い。

俺がそうやって輪切りを少しずつ食べる中、コーデリアさんは「美味しいです!」なんてことを言いながら大きな茎ごと豪快にもしゃもしゃ食べていて……あっという間になくなってしまう。

……まぁ、うん、ルバーブは体に良いらしいし、問題はない……はずだ。

色は赤く多分ポリフェノールたっぷりで食物繊維の塊でもあり、これを毎年食べないと早く老いるなんて話もあるので、色々な健康効果があるのだろうなぁ。

……味は正直微妙で出来ればジャムで食べたいけども、満面の笑みで齧り続けるコーデリアさんに付き合って自分も輪切りを食べていく。

輪切りをある程度食べたらサンドイッチを食べ始めて……そうして一心地ついた所で、コーデリアさんが雑談を振ってくる。

「そう言えば、あの二人はどうですか? プルミアさんの下でちゃんと働いていますか?」

コーデリアさんの言う二人とはジェミィとロックのことに違いなく、俺は頷いてから口の中のものを飲み下し、言葉を返す。

「えぇ、しっかり働いてくれています。

……毎日貴族令嬢らしからぬ元気さを見せるプルミアに振り回されながら、どうにかプルミアを貴族令嬢らしくしようと奮闘しているようです」

なんともおかしな話ではある、元々あの二人は反貴族を掲げていたはずなのだが、あれから十日と少し……今ではすっかりとプルミアを嗜めてどうにか令嬢らしくしようとするバトラーらしいバトラーとなっている。

彼らの主義を考えるのなら、むしろプルミアには今のままいてもらった方が色々と都合が良いはずなのだが……根っこの部分の善性が、危なっかしいプルミアを放っておけないと思わせているようだ。

「働きぶりはどうなんでしょうか? 平民の生まれで今まで全く貴族の暮らしに触れてこなかったのでしょう? 問題があったりしませんか?」

「えぇ、彼らの学習能力は俺が会ってきた中でも間違いなくトップクラスで、あっという間に色々なことを吸収しています。

……もし彼らが平民の生まれでなかったならどうなっていたかと思う程です、幼い頃から様々なことを学んでいたなら、俺がこうしていることも出来なかったかもしれません」

「……旦那様が増やそうとしている学校は、そのための場所なんですね。

平民でもその才能を磨けるように教育を受けさせたいと……そういうことなんですね。

でも、その場合は彼らが強敵として立ち向かってきていたことになりますが……」

「それならそれで構わないんですよ。

切磋琢磨……より強力な相手とやり合う程にこちらも成長出来ますから。

閉じた世界で勝てる相手とばかりやり合っていては、世界に置いていかれることでしょう。

この国と家族を守るために世界を先んじたいのなら、貴族平民問わず切磋琢磨し、成長していく必要があるのだと思います」

「分かる気がします、あたしもあの島を出て、外の世界に触れて大きく成長することが出来ました。

……と、同時に世界の広さと凄さを知ることになりました、この程度の成長じゃまだまだで……もっともっと大きい女にならないといけないんですね」

「……まぁ、俺とコーデリアさんの場合はお互い支え合っていくという手がありますから、焦らず二人で頑張っていけば、きっと良い結果になると思いますよ」

俺がそう言うとコーデリアさんは静かに微笑んでくれる。

それに微笑み返して……お互い静かな時間を過ごしていると、丘から見下ろした先の花畑を駆け抜けていく一団の放つ騒がしい音が耳に入り込んでくる。

元気な女の子の笑い声と犬の声と、それを追いかける男の声。

……プルミア、アーサー、ランス、ジェミィ、ロック。

……全く何をしに来たやらなぁ。

ジェミィとロックはそんな風にプルミアに振り回される日々を過ごしている。

本気で嫌ならば逃げるなり、別の処遇をと交渉するなりする能力があるはずなのだが、あえてあの状況を受け入れている。

その真意は問いかけても教えてはもらえず……なんらかの思惑があるらしい。

そして彼らの部下……というか仲間は、全員騎士見習いとして雇ってやることになった。

と、言っても特別扱いはしない、見習いとしての訓練と食い扶持を稼ぐ仕事、どちらも両立してもらいながらの厳しい処遇となる。

どれくらい厳しいかと言うとライデルが顔色を悪くする程で……まぁ、犯罪者ではあるのだから、そのくらいは受け入れてもらわないとなぁ。

それを乗り越えて騎士になれたなら罰は免除し、途中でなんらかの形で脱落したなら罪人として裁かれることになり、それまでの頑張りは考慮するが、厳しい結果にはなるだろう。

これに関してはジェミィとロックも同じ扱いだ。

プルミアのバトラーとして成長できないのなら、その仕事を全う出来ないのなら、裁かれることになり、指導者だったのだからより厳しい罰が待っている。

だけどまぁー……出来る限りはそうしたくない。

だってなぁ、あの二人……本当に天才なんだもんなぁ。

天才という言葉では片付けられない常識外の存在と言っても良い、彼らは元々一カ国語しか読み書き出来なかったが、今は五ヶ国語を問題ないレベルで習得している。

誰かに教わったとかでなく、執務室の本棚を読んで良いと許可を与えた結果がそれだ。

辞書や教本を自分で読んで自分で学んでお互いに教え合って……本当にあっという間だった。

今もまだまだ知らない単語があるはずで、完璧に読み書き会話をすることなど不可能なはずなのだが……知らなかったら知らなかったで前後の文脈や単語の成り立ち、使われている文字などからそれが何かを正確に推理してしまうだろうから、全く問題がないということらしい。

姉上の報告書を読むことで菌関連の研究を、ルムルアからの報告書で薬学を、あっという間に習得してしまって……それで食っていけるレベルまで成長してしまっている。

流石に我が領自慢の二博士の研究にはついていけないようだが……ついていけないというだけで大枠を掴むことは出来てしまっていて、本物の天才というやつを見せつけられた気分だ。

確実にあの二人は今後のこの国を担う人材となるだろう、俺が作ろうとしている三部会の市民議長になってしまうことは明白だ。

そんな俺の構想を聞いた二人は、そんな自分達の役目を一瞬で理解したようで……大人しく我が家のバトラーをやっているのは、俺の構想や自らの役目に納得がいったからなのだろう。

……プルミアに大人しく従っているのは、プルミアを気に入ったのか放っておけないのか、それとも彼らなりの狙いがあるかは分からないが……まぁ、悪意は感じられないので問題はないと思う。

……アーサーとランスと一塊となって転げているプルミアを見て、大口を開けて笑っているので本当に問題はないのだと思う。

あんな風に屈託なく笑っている所を見ると普通の青年なんだがなぁ。

……いやまぁ、転げる女主人を見て笑っているようでは困るのだけど、まぁ本当に悪意はないようだから見逃してやるとするか。

「……後で躾けますか?」

と、コーデリアさん、椅子に座ったまま拳を振るって空を切る音を炸裂させてくる。

少し前には見なかった姿だけども、母上かエリザベス嬢の影響なんだろうなぁ。

「それはプルミアの仕事ですから。

プルミアを叱って、プルミアの責任で行わせますよ」

彼らの主はプルミアで、その教育もプルミアの仕事であり責任で……俺のそんな言葉に納得したのかコーデリアさんは、拳をテーブルの上にそっと置く。

「……彼らがおかしなことをしたのも、王族のせいなんでしょうか。

……旦那様と同じで、王族に苦しめられてあんなことをしていたのなら、王族って何なんでしょうか……?」

……それを王族であるコーデリアさんが言うのか。

まぁ、ドルイドとこちらの王族は色々と違う部分があるのだけども……。

「王族という言葉だけで定義するのは難しいでしょうね。

その国の歴史や文化も影響することですし……国によって役目も違いますから。

そして一定の形がないということは、どうとでも定義出来るということでもあり……だからこそ俺は、この国の王族を全く新しい形に定義するつもりです。

それをもって新しい時代とし、今後の世界情勢を乗り切っていく……そのために彼らのような若い才能が必要ということですね」

「……なるほど。

……うん、分かりました。あたしももっと頑張ります。

そしてあたしらしい王族の在り方を見つけてみせます、そうしたらそれを故郷の皆に教えます。

あっちも絶対に変わらなければいけないんです、旦那様のおかげで豊かになって少しずつ色々なことが変わってますけど、それだけじゃ駄目で……もっともっと頑張らないと。

旦那様やあの二人のような人材がどこかにいるはずなんですから、それを見つけて育てられるような国にしないと。

学校とか、皆が活躍できる制度とか……そういうのを根付かせて増やして、旦那様みたいに国を変えてみたいんです」

……いやまぁ、まだ俺は国を変えてはいないというか、過剰評価な気もするけども、その意気は良し。

凄く良い考えだと思うし、コーデリアさんがそうしたいと言うのなら応援するのが俺の役目なのだろう。

「……応援します、出来る限りの協力もします。

コーデリアさんが思う良い国に変えていってください。

ロブル国がそうやって大きくなれば、国同士切磋琢磨して成長出来るはずです。

……もっと前にそう出来ていれば王族連中も違った形になっていたはずですしねぇ……。

お互いの未来のために必要な大事なことだと思いますよ」

と、俺がそう返すとコーデリアさんは、俺に認められたのが嬉しいのか、顔を真っ赤に染めて……そうして感極まってしまったのか立ち上がり、いつかのように全力で……本気で手加減を忘れた状態でもって俺のことを抱きしめようとし、そこでそのままではいけないと気付いたのか切り替えて、抱きかかえての全力のキスでもってその想いを伝えてくるのだった。