軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

事後報告

「あっはっは!」

屋敷の執務室に戻り、ライデルやアレス男爵と共にフィリップからの報告を受けての俺の反応は、そんな笑いだった。

先手を打つために何かをやらかそうとしている連中を強襲、しかし傷つけることも奪うこともせず、中々効果的な手を打った上に多くの人を現場に誘導して撹乱。

状況的には我が家の仕業かもと疑われるだろうが、それを証明するのは難しい。

何しろ南領領主と王女、どっちを狙ったかがはっきりしない上に、南領領主は詐欺紛いのことを各地でやらかして恨みを買いまくっている。

他の誰かがやった可能性も十分あり、その辺りを突っ込まれる可能性を考えると被害があったと声を上げるかどうかも怪しい所だ。

王女にしてもそうだ、ここで騒げば騒ぐほど自分の名誉が傷つく可能性があり、余計な噂を広めてしまうことになるかもしれない。

そもそもとして南領領主の家で寝入ったことが迂闊と言えて、それ自体が余計な疑惑を招く行為だ、下手には騒げないだろう。

……なんだって宿に泊まらなかったのか、あちらには結構な数の高級宿があったはずなんだがなぁ。

ともあれビフ達の行動は悪くはない手だった、相手が何をするつもりだったのか分からないままなのが残念ではあるが、良い牽制と警告にはなっただろう。

「……まぁ、一言二言叱るくらいで良いだろう。

そして未然に相手の謀略を防いだことを評価したい、参加した者達を後で連れてきてくれ。

全員に報酬を出そう……次からは事前に相談をして欲しいが、まぁフィリップやライデルの許可さえあれば動いて良いという権限も与えよう。

……あとはしっかりと情報を精査するようにも言っておくか。

結局連中の狙いは何だったんだかなぁ……何をするつもりだったやら、そこだけは気になるな」

俺のそんな言葉に特に異論は出てこない、ライデルとアレス男爵はただ頷き、フィリップはどこか嬉しそうで、ビフ達に報酬を出すという部分には特に喜んでくれた。

……と、そこでノック。返事をするとバトラーと、ビフとボガーがやってくる。

背筋を伸ばして堂々と、どこか自信ありげに。

そして俺の机の前に立ち、バトラーが報告をしてくれる。

「あれから休むことなくビフとボガーの二人が領内の調査を行っていたようで、領内に残った残党を捕縛したとのことです。

南領から流れて来た噂を聞いて分かりやすく動揺している所を捕らえたそうで、その男から何を目的としていたか、情報を聞き出すことにも成功してくれました。

目的は二つ……一つはコーデリア様の名誉を傷つけること、もう一つはその座を奪うこと。

どうやら南領領主はコーデリア様の名誉を傷つけたかった様子です。

そうやってドルイド族との和解を邪魔し、自分がそこに乗り込んで話を上手く運び、ブライト様の立ち位置に成り代わるつもりだったと。

自分こそがドルイド族との交易の窓口に相応しい、戦力を利用するに相応しい。そのための仕掛け、という訳です」

そんな報告に執務室の空気が一気に冷え込む、特にライデルとフィリップからとんでもない殺気が漂ってくる……が、そちらに構うよりもまずは報告だとバトラーに続きを促す。

「そして王女の狙いは似たようなもので、コーデリア様の座を奪うこと。

つまりはブライト様との婚姻を狙っていたようです、婿入りという形で婚姻し、ウィルバートフォース家との和解を成立させるだけでなく、直轄領として領地を接収。

飛空挺や交易網なども奪って、その功績での立太子が最終目標だったようです。

そのために屋敷に忍び込み、傷物にされたと騒ぐつもりだった様子。

……つまり二人は同時のその目標を達成しようと結託し、準備を進めて人員を送り込み、結婚式前日……他の貴族がいる前での一番印象的な日取りで実行予定だったようです。

現状の警備で十分防げたとは思いますが、余計な混乱を発生させなかったという意味でビフ達の働きは中々のものだったのではと思います」

こちらには特に空気は冷え込まない。

いやまぁ、分かるんだけどもね……コーデリアさんの方が心配なのは俺も同じだから。

そしてそんな計画を見事に潰したのがビフとボガー、ルイスを始めとする緑の兄弟達を名乗る一団で……相応の褒美は出すべきなんだろうなぁ。

「そうか、よくやった……ビフ、ボガー、どんな褒美が欲しい?

活躍に応じた金銭は支払うが更に要望があれば応えよう。

まだ訓練は完了していない、活動も許可していない、今後は事前に相談してもらう必要があるが、今回に限ってはそういった不手際も目を瞑ろう。

望むものを言ってみると良い」

との俺の言葉を受けてバトラーの後ろでずっと黙って背筋を伸ばしていたビフとボガーが順番に声を上げる。

「孤児院をもっと暮らしやすくしてやりてぇんで、金貨がほしいです」

「孤児院の皆に学問を教えてあげたいんで……そのための予算として金貨が欲しいです」

「……分かった、孤児院のためということなら多めに出してやろう。

ルイス達の分も同様に扱う、他に特に報告がなければ……一応の罰ということで、ノアブア達から厳しい訓練を受けてくると良い。

正式に雇い入れる時までは研鑽を積むように」

俺がそう返すと二人は胸に手を当てての一礼をし、バトラーと共に執務室を後にする。

それを見送って……姿が見えなくなると同時にフィリップがため息交じりの声を上げる。

「まーた勝手に動いてるんだもんなぁ、結果は出してるんだけどさぁ。

うーん……他の子が真似しないよう、後でしっかりと言っておかないとだよねぇ。

相手の馬鹿な考えを潰したのは良かったんだけどねぇ……ま、そういうのに対処する人員を用意出来てなかったからの結果かな。

おいらの方でそこら辺きっちり出来るよう、進めておくよ。

表はライデルさん、実戦はアレス男爵、裏はおいら達でなんとかまとめ上げないとね。

ところで兄貴、来賓ってもう皆帰ったの? 帰ってないならおいら達でフォローしておく?」

「ああ、大体は帰ったかな。

帰っていないのはドルイドの王族とお祖父様の関係者、それとグレイ侯爵の関係者だ。

ドルイドの王族はシアイア達が案内してくれていて、お祖父様の関係者はお祖父様の方で対処してくれるそうだ。

グレイ侯爵は……俺が対処すべきなんだろうが、向こうからお断りがあってな、様子を見ている状態だ。

何か思惑があるなら既に行動していそうではあるし、領内の見学が主な目的だろうと思っている。

……まぁ、来賓に無礼な真似をしては名誉が傷つくことになるからな、向こうから何かをしてこない限りは放置で良いだろう」

「ふーん……グレイ侯爵か、こっちでも気をつけておくよ。

兄貴の言う通り無礼をする訳にはいかないから、近付いたりはしないけどね。

ドルイド族の王族は、ちらっと見かけたけど観光に来たみたいな感じで楽しんでただけだったから問題ないかな。

工房とかの見学でもほんと観光客みたいな感じで……いかにも姉貴の家族って感じだったね」

コーデリアさんの父であるロブル王は相応に裏があって謀略なども得意としていそうなのだけど、他の家族親類はなんとも純朴な感じで、警戒心が薄い。

工房や飛空挺の関連施設など、ドルイド族だけ特別に色々と見学させているのだけど、報告によると感嘆の声を上げて大口を開けてばかりのようで……技術を盗もうだとか技術者を引き抜こうだとか、そういった所までは考えが至っていないようだ。

まぁ、せっかくの友好的な相手を怒らせたくないというのがあるのだろうけど、それでも普通は欲が湧き出てくるもの、そこで一切そういった感情を出さずに素直に感情を表現出来る所は、ドルイド族の美点と言える部分だろうなぁ。

「ああ、ドルイド族も問題はない。

お祖父様の方も任せておけば問題ないだろうし……とりあえず結婚式前後のゴタゴタはこれで片付いたと言えそうだ。

もうそろそろ春も終わり夏になる、そうなればこちらでも氷の需要が増えてくるから稼ぎ時となって忙しくなるから、その前に大体のことを片付けられたのは幸運だった。

北は関所を閉鎖、西と東は友好を結んで、南も今後関所閉鎖などの対処をしていくことになる。

……つまりは地盤は固められたと思っている。

稼ぎ時の夏にしっかりと準備を整えながら、秋になったらある程度の行動を開始したい所だ」

「ある程度と言いますと?」

そうライデルに問われて俺は、具体的なことを言わずに今の考えを説明していく。

「こちらから打って出る、いつまでも受け身のままというのも良くないからな。

あちら周辺で行動を開始する頃合いだろうと思う。

とは言えいきなり最奥を攻める気はない、その周囲から……向こうにつく派閥の力を削いでいきたい所だな。

それと父上達の支援をより強固にしていきたい、報告によると街の支配と拠点化はほぼ完了したらしい。

元々あった港も軍事用に使えるよう改造したようだし、街の中央にある広場に暫定として作っていた飛空挺の発着所も改良をし、本格的なものとなっているそうだ。

……あとは一体全体どういう理屈なのか、その街と周囲の農地の歴史的所有権も取得したそうなんだ。

……つまり古来より、そこの土地はウィルバートフォース家の所有地であるということを言い出し、その意見を押し通したらしい。

海を越えた外国で何をどうしたらそんな真似が出来るのかは、想像も出来ないがとにかく出来てしまったようだ。

……なので、その土地をウィルバートフォース家当主として守る必要が出てきた、しっかりと行動をしていく必要がある」

「……流石先代様」

と、ライデル。

「流石ですな、まさか海外にまで影響力をお持ちだったとは!」

と、事情を理解しきれていないらしいアレス男爵。

「……うわぁ、絶対またろくでもないことやったんだよ。

何したかは知らないけど……絶対ろくでもないよ。

……まぁ、でも、それも全部兄貴の土地になるっていうなら、頑張る価値はあるかもね」

と、フィリップ。

俺としてもまぁ思う所はあるし、簡単な手紙一枚でそんな重要な連絡を済まされたことに色々言いたくはあるが……土地が増えること自体は悪いことではないので、良しとしたい所だ。

当主として守って支配をより強固かつ確実なものとし……その上で恐らくだが、兄上を分家の主として認める形となって、その土地を譲るということになるのだろう。

そうすることでより所有権が強まるというか、先祖代々我が家の土地だったという印象を深めることが出来るはずだ。

……実際は全く縁も何もない土地なのだけども、理屈としては出来てしまう。

「……とりあえず方針としてはそんな所だ。

何かまた各地に動きがあれば話し合うとしよう、それぞれしっかり動くなり備えるなりして欲しい。

では今日の所は―――」

と、俺がそんな解散宣言をしようとしている時だった。先程バトラーが閉め忘れたのか、小さな隙間を作り出していた執務室のドアがきぃっと開き、二頭の犬が尻尾を振り回しながら駆け込んでくる。

アーサーとランス、絶賛躾け中の二頭は、ときたまそんな風に屋敷の中を駆け回っている。

他の家では屋敷の中に入れるなど言語道断ということらしいが、我が家では足を綺麗に拭きさえしたら良しとしていて……それが閉まりきっていないドアに目をつけた、ということなのだろう。

仕方無しに立ち上がって撫で回してと対応をしてやっていると、アーサー達を追いかけてか、室内用のドレス姿のコーデリアさんが駆けてくる。

「アーサー、ランス! 旦那様の邪魔はダメですよ!」

引きこもっていたからか薄化粧で、ドレスも質素。

だけどもいつものように可愛らしくて……そんな顔が恥ずかしさからか赤く染まると、なんとも魅力的だ。

そんなコーデリアさんを見つめる俺を見てなのか、ライデルとアレス男爵、フィリップは無言で執務室を出ていく。

そうして犬達とコーデリアさんだけが中に残る形となって……それから俺とコーデリアさんはしばらくの間、犬の世話をしながらの談笑を楽しむのだった。