軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

犬死

不審な飛空艇が領内に侵入。

そう報告が来たことで、俺達はいよいよ来たかと察して動き始めた。

この国には航空に関連する法律がなく、飛空艇での他領への侵入行為は違法ではないのだが……だからと言ってスルー出来ることではないし、常に見張りを立てて対処するようにしている。

侵入があればすぐさま飛空艇を出して牽制し、出ていかないのであれば更に飛空艇を増やして取り囲む。

それから魔法石を使った拡声器でもって退去や着陸を促し、それに応じなければ体当たりをしてでも沈めるという覚悟だ。

武器や騎士を搭載していなかったとしても、飛空艇で我が屋敷に体当たりなんてことをされたら、とんでもない被害が出ることは確定で、不審な飛空艇を見逃すということはつまり、そういったテロ攻撃を許してしまうことに繋がってしまうからだ。

そういったことを踏まえて対処するなら、その不審な飛空艇もただちに取り囲むべきなのだが……今回は領内の奥地まで誘い込むことが目的なので、あえてそうはせず、見張りの継続と……バレない程度の距離を取りながらの飛空艇での追跡を命令してある。

最悪の場合、本当にテロ攻撃を仕掛けようとした場合にだけ体当たりを許可、最新型の飛空艇の全力の体当たりなら狙いを逸らすくらいは可能なはずで、それでもって被害を抑えようという訳だ。

……まぁ、恐らくテロ攻撃はしてこないだろう、あの手帳を確実に処分したいのならそんな雑な手は使わないはずだ。

屋敷は壊せましたが瓦礫に埋もれた手帳は無事俺達に回収されましたでは話にならない……少なくとも部下の手で直接始末させるはず。

……そう考えてはいるのだけどテロの可能性は否定出来ず、我が家の執務室でなんとも緊張感のある時間を過ごすことになる。

「……いざという時のために旗艦の出撃準備は出来ている、あちらの迎撃態勢は盤石、こちらにも騎士を配備していて問題はないはずだが、それでも緊張してしまうな」

執務室でいつもの椅子に腰掛けて、手紙を書き進めながらそんな声を上げると、本棚に寄りかかっていたフィリップが言葉を返してくる。

「いやまぁ、大丈夫でしょ。

旗艦からの支援がないとは言え、最新型の鎧に更に増えたドルイド騎士、ドルイド用の鎧も武器も改良が進んで、前回よりも強くなってる上に地の利がある。

一体誰なら勝てるんだって布陣になってるし、まず負けないでしょ。

……まぁ、おいらも敗戦後の相手の動きは心配してるっていうか気になってるけどね、自棄になって変なことやらかさないと良いけど」

「それもあるな……旗艦の出番がないと良いが……」

「んまぁ、ないと思うよ。

あるとしたらコーデリアさん達の武器の出番くらいじゃないかな。

……って言うかさ、何あれ、随分とまぁえげつないの作ったよね」

「ん? そうか? 基本的にはただの篭手だぞ?」

フィリップの言う武器とは、ドルイドの女性達のために作らせた……俺は防具だと思っている代物だ。

以前コーデリアさんから聞いた、鎧を着て鉱山を掘削しているとか岩を砕いたとかいう話を思い出し、全身鎧でなくともドルイドならば十分な防具として活かせるのではと思い至って作らせたもので……ざっくり説明すると肘くらいまでを覆う篭手となっている。

手の甲側を覆う盾のような防御板を貼り付けてあってそれで大体の攻撃を防げるのと、指の先端は尖っているのでひっかき攻撃をすることが出来て……篭手自体が硬いのでただ殴るだけでも結構な威力になる。

更に篭手には魔法石の装填が可能で、槍程の威力はでないがそれなりの魔法石攻撃も可能となっていて……それをドルイドの女性全員分を用意し、渡してある。

「あんなのあったら王都の騎士でも勝てないでしょ……」

と、フィリップ。

俺から見るとそこまでの代物ではないと思うのだがなぁ……。

あれを軽々振り回し、あの程度の防具で大岩を殴り壊せるドルイド族が凄いのであって、あの篭手自体はそこまで凄いものではない。

ただ硬いだけの防具、鎧に比べればオモチャレベルの作りになっていて……その分だけ量産も簡単で、あっという間に必要数が確保出来てしまっている。

鎧のように魔法石動力で全体を動かすだとか、中の人の動きに合わせて駆動して負担を減らすとか、そういう仕組が必要ないのだから本当に大したものではないのだ。

「まぁ、コーデリアさん達を戦場に出すことはないし、あれはあくまでただの保険だ。

戦力に数えたりはしないようにな」

俺がそう返すとフィリップは、呆れ半分といった表情で肩を竦めてきて……そんな会話のおかげで緊張が紛れていることに気付いた俺は、感謝の念を込めた視線をフィリップに送ってから、今はすべきことをしようと手元の手紙に向き合うのだった。

――――防御陣地の中で ライデル

背後の屋敷の周囲には臨時の防衛塔が複数建てられていて、その上には騎士の姿がある。

その騎士の目的は飛空艇を迎撃することで……それを察したのだろう突然現れた不審な飛空艇は動きを止めて屋敷に近付こうとはせずに、じわじわと慎重に高度を下げている。

高度を下げた所を狙われての攻撃を警戒しているようで……安全な降下が可能かつ攻撃されないギリギリの高度を見極めようともしているようだ。

今回ライデル達の目的はあくまで迎撃で、飛空艇を狙う意図はない。

一見チャンスのように見える降下の瞬間も、下手をすると降下してきた敵に包囲されてしまうことがあり……そこで変な冒険をするくらいなら築き上げた陣地で待ち構えた方がマシで、ライデルは待機との指示を出したまま動こうとはしない。

屋敷の前にはライデルが考え築いた……演習用ということになっている陣地が構築されている。

いくつもの土嚢を積み上げて盾とし、相手の進軍ルートを制御し、屋敷前の落とし穴に向かうよう誘導もしている。

土嚢の中には鋼鉄材や岩なんかが仕込んであって、簡単に壊せるだろうと迂闊に槍で突けば折れてしまうようになっていて……更にはブライトから聞いた塹壕というものも狭い範囲ではあるが構築してある。

ブライトは騎士同士の戦いで役に立つかは分からないと言っていた塹壕だが、一時的な撤退先や魔法石補充のための場としては悪くなく、きっと役に立ってくれるはずだ。

いや、ブライト様が考え出したものなのだから絶対に役に立つはずだと、そんなことを考えながらライデルはしっかりと大槍を握り構える。

既に十分な報酬をくれているのに、更に家族を聖都に連れていけとまで言ってくれたライデルの主。

正直な所ライデルは、ブライトの下から離れるという時点で嬉しくなく、聖都にもあまり興味がないのだが……ライデルのためを思ってくれていることは確かで、その気持ちが嬉しかった。

嬉しく誇り高く、忠節を尽くしたいと胸が熱くなり……これが騎士道なのかと確信を得る。

詩人達が高らかに歌うそれはなんとも不明瞭で胡散臭いものだった、物語にあっても中々理解しきれないものだった。

だが今は違う、しっかりと理解出来るし確信出来る、今こそその在り方を示す時なのだと限界なく力が湧いて出てくる。

そうやってライデルが燃えていると、不審飛空艇から次々に騎士が降下を始め……戦闘が開始となる……のだが、すぐに違和感を覚えたライデルは戦闘よりも飛空艇の動きへと視線をやる。

今回やってきた飛空艇はかなりの大型だ、上手く紋章を削り取っているが王家が用意したものに違いなく、実用性を無視しているのかと思う程に無駄に大きく、豪華な作りにもなっている。

ほとんどが廃棄されたという王家の飛空艇には騎士が100~200騎乗るとも言われていて……それにしては降下してきた騎士の数が少な過ぎる。

ざっと数えて見て50騎いけば良い方で……その程度の戦力で何をする気なのだろうか?

(まぁ、それ以上の数で来られると苦戦しそうで困るんだが……それにしても不気味だ)

そう考えてライデルは屋敷の中で活動をしている見張りや情報分析官に向けて回光通信機で『警戒せよ』との暗号を発する。

あれで終わりではないはず、何か仕掛けてくるはず。

そう考えながらライデルは次に前方の戦場に向けて『それぞれの判断で動け』との暗号を発する。

相手は50騎、こちらも50騎、騎士の戦いは特に防衛が有利とされているので、まず負ける戦いではない。

ならば細かい指示を出すよりもそれぞれの判断に任せた方が良いはずで……ライデルは戦場の後方に控えて警戒を続ける。

飛空艇を睨み、飛空艇の周囲に視線を巡らせ……戦力を温存して何をしようとしているのかを探っていく。

そうしていると前線で動きがあり……無謀にも陣地に突撃してきた騎士と前線に構えていた騎士達との衝突が始まる。

しかしそれは一方的なものだった。

こちらの騎士達は体力を使うことなくただ待ち構えているだけでよく、敵が射程内に入り次第に攻撃が出来て、向こうから攻撃されても土嚢が防いでくれる。

しかも陣地の形状で相手の移動を制限することが出来ていて、相手が有利になれることはない。

陣地を壊そうにも中には罠が仕組んであって簡単ではなく、敵が破壊ばかりに意識を向けているなら、陣地を出てこちらから攻撃を仕掛けても良い。

装備も練度もこちらが上で、まず負けることはなく……早速敵の騎士が3騎討ち取られる。

……と、それを見た瞬間負けを悟ったのか飛空艇が高度を上げながら前進を始めるという動きを見せる。

無駄に大きいせいか緩慢な動きだが、段々と速度を上げながら前進……そのまま屋敷の方へと向かっていく。

すぐさまライデルは対空迎撃の指示を出し、防衛塔の上の騎士達は特別大きな大槍、持ち歩くには向かない拠点防衛用の槍を構えて狙いを定める。

そうして屋敷の近くまでやってきた所で迎撃が始まると、飛空艇はまさかの手を打ってくる。

「嘘だろ……!?」

思わずライデルがそう声を上げる、迎撃として放たれた攻撃に対し飛空艇は、装甲板や甲板にいたらしい騎士を盾代わりに落下させるという手を打ってきた。

意味が分からない、理解が出来ない。

挙げ句落下中の騎士は槍を構えての攻撃を仕掛けてきて……死を前にしてよくそんな行動が取れるものだと驚いてしまう。

今の飛空艇の高度はかなりの高さだ、安全な降下が可能な高度とは言えない。

仮に降下出来る高度だとして降下中に攻撃を受けてしまえばバランスを崩しての落下となってしまうのは明白で……落下しながら懸命に攻撃を繰り出していた騎士は予想通り、大きくバランスを崩して地面に激突し動かなくなってしまう。

そんな有り様でも騎士の攻撃は成功してしまい、いくつかの防衛塔を崩すことに成功し、なんとも言えない方法で攻撃をしのいだ飛空艇は高度と速度を上げていって……これ以上の攻撃を諦めたのか、この場から離れていく。

一体全体何のために屋敷に近付いてきたのか、そして何故あっさりと諦めたのか……。

失敗を悟って逃げたという感じには見えなかった、それよりあの動きはまるで……。

(偵察をされていた……? 防衛の本気度を探っていたのか? そして手帳がここにはないと悟っての撤退? いや、目標変更か?

滅茶苦茶で冷酷、かつ理不尽、だけども冷静……一体何者だ?)

50騎の騎士と落下させた騎士、それだけの戦力を偵察のために使い捨てて、ここが本丸でないと気付くとあっさりと目標変更……。

普通の思考なら出来ることではない、人命と鎧の無駄遣い……この損害だけでそこらの貴族の財産を食い尽くしてしまうことだろう。

(……いや、最初からここではないと思っていたのか? だが念の為の確認をしようとした。

……それとここを攻撃することで防衛戦力を誘導しようとしたのかもしれないな。

ここに戦力を集めさせた上で別を狙う……つまりあの飛空艇はブライト様達を狙っているのか?)

この屋敷で社交界を開いた元侯爵は、来賓に件の手帳をわざと見せつけていた、この手帳はこの屋敷にあると、分かりやすいまでにアピールをしていた。

そこまでされたせいでこの屋敷は罠だと、本命は別だと察するまでは分かるが、大した確認もせずここを離れられるものなのか? と疑問に思ってしまう。

実際手帳はここにはなく、別の場所にあるのだが……今回の敵は随分と自信がある人物であるようだ。

自分の判断を信じることが出来ている、すぐさま行動に移すことが出来ている。

……かなり賢く、無茶苦茶なことを平気でやれて、冷静かつ自信家で、己の判断を疑っていない。

(……真逆ながらブライト様に似ている部分もある、あれ程の人物が他にもいたとは)

誰も試したことのない、何の確証も保証もない全く新しい手法で次々と成功を重ね、未来を切り開き続ける主ブライト。

それとどこか似たものを感じたライデルは、すぐさま部下に狼煙を上げよとの指示を出し……ブライト達に向けて、最大限に警戒すべき脅威が向かっていると示すための狼煙を上げさせるのだった。