軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

作戦

遠回りをしながら帰還したのなら飛空艇や鎧は証拠隠滅のため分解してパーツ取りにしてもらうことにし、資料は屋敷の馬車を総動員して全て屋敷に運び込み、それから湯を浴びて汚れを落とし、再度の着替えを済ませ……執務室へ向かう途中、廊下で後ろからやってきたコーデリアさんに捕まってしまう。

後ろから抱き上げられて足が地面から離れて……抱っこ人形状態で執務室へ運ばれてしまう。

「……戦場に出るなんて、危ないことをしたのでお仕置きです。

無事に帰ってきたらそれで良いって話じゃないんですよ、もう駄目ですからね」

いつになく重い声でそう言ってコーデリアさんは、俺を執務室まで運び……ライデル達が待機しているのにも構わず、そのままコーデリアさん用のソファに腰掛ける、俺を抱っこしたまま。

「……あー、深くは気にしないでくれ、会議を始めよう」

と、俺がそう言うと参加者のライデル、フィリップ、フィリップの弟、アレス男爵、バトラーはそれぞれに声を上げる。

「当然の措置です」

「少しは反省した方が良いよ」

「仲が良いんだねー」

「主家が仲睦まじいのは何よりですな」

「ブライト様の舵取りが出来るよう、コーデリア様には励んでいただきませんと」

……好き勝手言われているが、戦場に出た俺が悪いので言い返せない。

言い返さないが、とにかく今話すべきことを話していくとしよう。

「資料の精査はこれからだが、あの手帳だけでもかなりの情報が得られたと思う。

精査を進めたと仮定して手に入った情報をどう扱うか……誰か考えはあるか?」

と、俺がそう問いかけると一同は顔を見合わせ……フィリップだけが言葉を返してくる。

「考えって言われてもね、それで脅迫するとか?

でも……脅迫するっていうのも立派な犯罪だし、リスクがあるよね?

すごい情報なのは確かだけど、使い方が難しいっていうか……下手をしたら被害の方が大きくなっちゃう可能性もあるよね」

「そうだな、脅迫するとなると余計な問題が生まれる可能性がある。

だが脅迫する相手を選べば効果的に使えるかもしれない……が、それはそれで危険性もある。

……どうあれこういった情報を扱う以上は危険性はある。なんらかの覚悟はすることになるだろうな」

「……それならさ、ヤバい情報ぜーんぶ新聞社に渡しちゃえば良いんじゃない?

これが報道されたら参加者全員が痛手を負う訳で、王家の威信とかも揺らぐだろうし、あくまで主犯は新聞社ってことになって、無関係な兄貴の一人勝ちになりそうだよね」

「それも手ではあるな。

……後は資料の精査が進んでからの話にはなるが、あえて我が家がこれらの資料を修道院を襲撃した盗賊から入手したとか、そういう噂を流すという手もある」

俺がそう言うと一同はぎょっとした顔になる。

なんでわざわざそんなことを? と、そう言いたげで……俺は説明するために言葉を続ける。

「他の参加者はともかくこの手帳の持ち主はなんとしてでも手帳を処分するなりしようとするだろう。

交渉をしてくるか力尽くで来るか、どちらにせよなんらかの接触があるはずで、それを迎え撃つ。

あえて我が家に手帳があると晒すことで、こちらが有利となる戦場に引っ張り出すという訳だ。

資料の精査で持ち主が特定出来ればそれで良いんだが、出来ない場合の荒業みたいなものだな。

他の参加者にしてもなんとか穏便に済ませようとしてくるはずで……そこでなんらかの譲歩を引き出せれば王家とやり合う時に有利になる可能性もある」

「あー……準備万端の領内なら負ける訳ないってことか。

……今ならアレス男爵にドルイドの皆もいるから、確かに力尽くには負けないだろうけども……危ないこと考えるよなぁ。

全員が手を組んで一斉に襲いかかってきたらどうするのさ? そうじゃなくても手を組んで嫌がらせしてくるかもしれないし」

と、フィリップ。

呆れ半分といった顔だが……どこか楽しそうでもあり、悪徳貴族の鼻を明かせるかもと、そう考えてもいるようだ。

「不利になりそうだとか、ヤバそうな手を使われた瞬間、新聞社に全てぶちまけてしまえば良い。

そうされる可能性がある以上、普通に楽しんでいただけの連中は変な手出しはしてこないはずだ。

それでも手出しをせざるを得ないのはこの手帳の主や似たようなことをしていた連中だけ……どう考えてもこの内容は群を抜いているからな、リスクを負ってでも証拠の隠滅を図るはずだ。

最終的な決断は精査が終わってからになるが……一つの手として考えておいてくれ。

他にも何か思いついたことがあれば、その都度連絡をしてくれ。

情報の精査については俺とフィリップで進める、他の者は話題にすることも触れることも禁止だ。

信用していないという訳ではなく、危険だったり厄介だったりする情報が多いからな、あれらに触れる人間は少ない方が良いだろう。

……コーデリアさんも精査中は近づかないようにお願いします」

俺のその言葉に一同は頷き、コーデリアさんはぎゅっと抱きしめることで応えてくる。

どこか不満そうではあるが、邪険にしようとしている訳ではないと理解しているのだろう、何も言うことなく静かにただ抱きしめてくる。

「……お前はまだまだ甘いな、ブライト」

そこにお祖父様の声、いつの間にドアを開けたのか執務室の中に入ってきていて……ドアを締めてからこちらにやってきて言葉を続ける。

「精査の方法もなっておらんが、何よりも情報の使い方がなっておらん。

今この状況なら一番良い手は、この儂を使うことだろう。

腕を失った儂がそれを恨みに思って行動を起こし、あの修道院から情報を手に入れた。

その情報を使って腕を奪ったと思われる連中に復讐しようとしておると、そう噂を流すが良い。

これであれば失敗したとして、この隠居爺の名が潰れるだけで済む話、もう失脚しようがない状況となっておるのだから、存分に利用せんか。

情報の精査も儂が中心になってやろう、長い間貴族社会にいた儂の目でしか見えんものもあるはずだ。

ブライトとそこの小僧は腕のない儂の補佐をしろ、それが終わったらどこかの屋敷に儂を押し込んで噂を流し、その屋敷に近付くものを片っ端から捕らえるが良い」

自らが囮になるというお祖父様のその言葉に、何と返したら良いか困ってしまう。

言われてみると確かに、俺が中心になるよりはお祖父様に中心になってもらった方が成功の可能性が高くなり、リスクが小さくなる。

色々とよくない噂のあるお祖父様ならとんでもないことをやりかねないと思わせることが出来るだろうし……この屋敷を防衛するよりは、どこか防衛しやすい屋敷を利用した方があらゆる面でメリットがある。

「……それでよろしいのですか?」

お祖父様のことだけを思うのなら賛成出来ない意見だが、ウィルバートフォース家の主としては賛成するしかなく、せめてもの言葉を投げかけるとお祖父様は少しだけ不満そうにカイゼル髭を揺らしてから、

「良い」

とだけ返してくる。

貴族の当主であるならばそんな確認をせずに即決をしろと、そう言いたげで……お祖父様のその覚悟には、お祖父様を嫌っている節があり小僧呼ばわりまでされたフィリップでも敬意を示さずにはいられないのだろう、だらけた態度を改めて居住まいを正す。

それだけの覇気が今のお祖父様にはあり……悪事も行ってきたのだろうけども、北側の厳しい環境の領地を富ませて領民を慰撫してきたことは事実で、侯爵位に相応しい人物なのだと示してくれる。

「……ではお祖父様、まずこの手帳の精査をお願いします。

その間、俺とフィリップは無関係と思われる本を念の為確認し、資料から除外していきます。

除外されなかった物のうち、優先度が高そうなものをお祖父様に渡していきますので、手帳が終わったらそれらの精査をお願いします。

ライデルはお祖父様に滞在してもらう屋敷の選定、アレス男爵はその屋敷の防衛計画、バトラーはその屋敷でお祖父様が心安らかに暮らせるよう手配を頼む。

……コーデリアさん、ドルイド族でこちらに来たがっている方がいないか確認をお願いしても良いですか? 男性も女性も手を借りたいと思いますので、無理のない範囲でお願いします。

……それと、フィリップの弟の……名前は何と言ったか?」

「ルイスだよ、兄貴」

俺が問いかけるとフィリップの弟、ルイスがそう返してきて……お前も兄貴と呼ぶのかと小さく驚きながら指示を出す。

「ルイスはフィリップの代わりに各地の情報収集を頼む。

あの騎士を送って来たのは誰なのか、我が家をどれだけ疑っているのか……中年男が情報源である以上、確実にこちらを疑ってはいるのだろうが、襲撃犯とまで疑っているのかその辺りのことを確認したい」

「任せて、孤児仲間を使って上手くやるよ。もちろん報酬は貰えるんだよね?」

「ああ、経費含めてたっぷり用意してやる、遠慮はするな」

そう俺が言葉を返す間、フィリップは自重しろとルイスに肘打ちをし、ルイスは小さく笑いながらそれを受ける。

なんだかんだと仲が良い兄弟であるようだ、よく似ているし……これからも仲良く頑張ってもらいたいものだ。

「では皆、頼む」

最後に俺がそう言うと、皆それぞれ動き出してくれて……コーデリアさんだけは俺をぎゅっと抱きしめたまま動かない。

「えっと……コーデリアさん?

俺も資料の精査をしたいのですが……」

「フィリップさんに任せておいてください、旦那様は今日一日お仕置きです。

このままゆっくり休んでください。

手紙とか書類の確認とか必要なお仕事は良いですけど、それ以外は駄目です。

……ところで旦那様、あたし達の結婚はいつになりますか?」

それは突然の言葉ではあったけども、気にして当然の内容でもあり……ちゃんと真剣に考えながら言葉を返す。

「そう……ですね。

個人的にはいつしても良いとは思っています、ドルイド族への偏見はまだまだ強いですが、それが自然に無くなることはありませんし、待つのではなくあえて前に進むことで偏見を無くしていけるかもしれません。

……ただ、まずは今回の件を片付けるのが先でしょう。

それからコーデリアさんのご家族にも挨拶に行く必要があると思います。

大事なお姫様を頂戴する以上はしっかりと挨拶をする必要があるでしょうから」

「わ……ぁ、えっと思ったより早くなるんですね。

い、いや嬉しいんですけど、ちょっとだけ驚いちゃいました。

挨拶に行ってくださるのも嬉しいです……でもあの、そうするとドルイド族には結納って文化があるのですけど、そちらは平気ですか?」

抱きかかえられているのでその表情を見ることは出来ないが、声が震えて抱きかかえる手が緊張し、ちょっとした動揺をしているようだ。

「ああ、結納文化があるんですね。

分かりました、相応の品を用意しておきますよ、こういった物があると縁起が良いなどもあれば教えてください。

出来るだけ用意させます、それと……金銭もしっかり用意しておきます、今後こちらと付き合っていくなら欠かせないものでしょうから」

「こ、こちらには結納文化がないって聞いていたんで……本当に理解をしてくれているみたいで嬉しいです。

縁起の良いものって言いますか、自分達はこういう家なんだよって紹介をする品があると良いとされています。

なのでこちらの名産品とか……家の興りに関わってくる品物とか、そういうのがあれば良いと思います。

金銭もその、ありがたいですが、無理はなさらないようお願いします」

「あー……まぁ、そうですね。

言ってしまうと我が家の財政はかなりの余裕がある状態でして、そういった心配の必要はありませんよ。

むしろどう使ったら良いのか困っているくらいでして……。

国外での取引は金銀で行うことが多いのですが、予想以上の金銀が集まっている状態でして、それらを国内で使い過ぎてしまうと、経済のバランスが崩れる可能性があるんですよ。

だからと言って使わないでいるのもおかしい話ですし、あまり溜め込んでしまうと良からぬ輩を呼び込んだり、身内の欲を刺激してしまう可能性もありますからねぇ。

なので国外……西の島に少しでも回せるのならありがたいなと思っています。

今回の事態が落ち着いたら挨拶と結納のためにコーデリアさんの実家に向かいましょう。

ご家族にしっかり挨拶をして了承を得られたなら、司教様にお願いして結婚式を挙げることにしましょう」

……と、そこまで言ってあれ? ちゃんとプロポーズした方が良いのか? という考えが浮かんでくる。

こちらの国にはプロポーズ文化があって婚約指輪などがあるが……うぅん、用意は全然していなかったな。

コーデリアさんの指輪となると特注品になるし……うん、今のうちに注文を済ませておこう、プロポーズは指輪が出来上がってからだな。

と、そんな事を考えているとコーデリアさんはぎゅっと抱きしめる力を強めて……顔を近づけて囁いてくる。

「とても嬉しいです……」

たったそれだけの言葉だったけども、万感の想いが込められているようで……とりあえず喜んでもらえているようで良かったと安堵した俺は、そのままコーデリアさんが満足するまでの間、大人しく抱っこ人形役を続けるのだった。

――――侯爵家の寝室で グレイ侯爵

「ふむ、派遣した騎士達は帰ってこなかったか。

……先を越されたな、ウィルバートフォース伯爵か?」

そう呟く少年の手には血で汚れた紙束があり……天蓋のある異様に立派なベッドに寝転がったパジャマ姿の侯爵は、そんな独り言を口にしながらその紙束をめくっていく。

「予言書……予言か、恐らく王太子もこれを得たのだろうなぁ、そして盲信して失敗した。

予言も外れるということ、既に予言とは違う未来になっているとは考えることが出来ないのだなぁ。

……伯爵は得たのか得ていないのかはっきりしないな、予言と全く違う動きをしているのは気になるが、予言を知っているにしては迂闊な部分が多い。

……伯爵に関しての予言は一つも当たっていないというのはなんとも面白い」

その予言書は、ある時に侯爵が手に入れたものだった。

侯爵になる前、まだまだ子供の頃に気まぐれに殺した商家の息子が持っていたもので、最初は内容を信じておらず小説を読むような感覚で楽しんでいたが、いくつか当てはまる事実があると知ってからは常に懐に潜ませ、彼の趣味のために役に立てていた。

殺してはいけない人物、殺して良い人物の見極めや、国の安定に重要な人物の見極め……物心ついて以来、これといった夢も目標もなく、なんとなくで生きてきた侯爵にとって予言書は、面白いオモチャであった。

どこをどう崩したら未来が変わるのか、既に変わってしまっている未来をコントロールするにはどうしたら良いのか……とにかく混乱と混沌を求めていた侯爵は、予言書にあった隠しダンジョンとやらを攻略出来なかったことを苦々しく思う。

そこにあるアイテムとやらを手に入れたなら隠しシナリオが始まり、本来味方であるはずの人物が敵となって大きな戦争に発展するという。

「手に入れたかったものだなぁ……。

どうにか権力を掌握して、それからすぐに騎士を編成して派遣……出来る限り早く手を回したが……間に合わなかったなぁ」

と、そんなことを呟いた侯爵は血まみれの予言書を抱きしめ……その白い髪を振り回し金の目を爛々と光らせ、次は何をしてやるかと頭を悩ませるのだった。