軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

詩的

本日、いよいよお祖父様がやってくるとなって……少しだけコーデリアさんが不安定になっていることに気付いた。

お祖父様はコーデリアさんとの婚約の立会人であり、その後の外交工作もしてくれていて、出かけたのもその一環で、俺達の婚約には賛成してくれている立場だ。

だけどもあくまで側室と考えているし……コーデリアさんという人物を認めた訳ではない。

隣国王女という立場を利用しているだけで、ドルイド族への認識も……恐らくは良いものではない。

それはもう仕方のないことだった、長年そうしてきていたのだから、急に考えを変えられる程柔軟ではないのだろう。

お祖父様に変えてもらうのではなく、こちらから変えさせると言うか認めさせると言うか……これからの俺とコーデリアさんの努力が大事なんだと思う。

そういう訳でコーデリアさんは、ちゃんとお祖父様に認めてもらえるか、不安になっているらしい。

その不安をそのままにする訳にはいかないので朝食を終えての時間に、俺は仕事も程々にしてコーデリアさんとの時間を作ることにした。

今日は特に天気が良いので庭に出て、良いお茶と茶菓子を用意して……二人きりで。

姉上やプルミアの護衛は、男爵やノアブア達がいるのでなんとかなるはずで……とにかく今は二人だけの時間が必要だろう。

まずはお茶を一口、それからテーブルの上に手をおいて、茶菓子へと手を伸ばしてきたコーデリアさんの手を取って、握り合って真っ直ぐ見て言葉をかける。

「大丈夫ですよ、お祖父様は古い方かもしれませんが、間違いなく俺達の味方です。

ですから絶対に分かってくれます。

それに母上も一緒に帰ってきますから……きっと母上が力になってくれますよ」

……本当の所はなんとも言えない。

お祖父様は俺のことを愛してくれている、それはハグから分かる。

しかし母上や姉上、プルミアをどの程度愛しているかは……なんとも言えない。

客観的に自分のハグの様子を見ることは出来ない、だが明らかにお祖父様は母上達とのハグの際に手を抜いている。

愛をそこまで込めていない、しっかりとハグをしていない……相手が女性だから遠慮しているのか、それとも他に理由があるのか……。

嫡男となる男の俺だけに特別な愛情を注いでいるという可能性もなくはない……が、グレン侯爵家とブライトフォース家は全く別の家、親戚であり協力関係ではあるが嫡流どうこうを気にする関係ではない。

……果たしてお祖父様の真意がどこにあるのかは不明だが、少しだけの不安が残るというのも事実だった。

……だけども俺とコーデリアさんなら乗り越えられるだろうとも思っていて、そういった気持を込めての視線にコーデリアさんは、柔らかに微笑んでくれる。

「はい……まだ不安ですけど、頑張ります。

頑張ってお祖父様にも喜んでもらいます……!

礼儀作法とかはまだ駄目な部分はありますけど、それもいつかなんとかしますし、他のことでも成果を上げてみせます!」

そう言ってコーデリアさんはぎゅっと握る手に力を込めてきて、俺も込め返す。

そうしてそのまま時を過ごしていると……控えるように言っておいたバトラーが駆けてくる。

……お祖父様と母上が到着したのか……それならまぁ、二人の時間に割り込んできても仕方ないか。

「ブライト様、貴族の来訪です、マケライ男爵家ご当主が北東関所にて、この屋敷まで通させろと騒いでいるようです。

如何いたしましょうか……?」

「先触れは!?」

分かっていても思わず声を上げてしまう。

せっかく……せっかく先触れを寄越す貴族がやってきてくれたのに、また逆戻りするのか。

いやまぁ、ただの偶然と言うか、それぞれ全く別の家だから関連はないんだろうけど、それでも声を上げたくなってしまう。

「いえ、ありませんでした。

……もしであれば追い返しますが……」

と、バトラー。

「……いや、お祖父様の休養のためにも騒ぎを起こす訳にもいかないだろう、私が対処する」

「分かりました。

……それとマケライ男爵家に同行している一人に見覚えがありました。

北のエリアン公爵家に仕えていた者で……今も仕えていたはずですが、何故か男爵家に同行しているようです」

「あぁー……なるほどな。今度はあそこか……エリアンの手回しか」

エリアン公爵家、北の隣領だが……その領土は極端に狭い。

かつて大陸の国との戦争の際に、当主だった夫を殺された夫人が激発し、当主の代わりに報復戦を指揮……結果、敵地である大陸の中央低地で、敵軍をそれはもうボッコボコにしての大勝利をしたらしい。

その功績を受けて公爵位に陞爵したのだが……その後は没落の一途を突き進むことになる。

自分達は武門の魁だと武力をひけらかし周囲を威圧、あっちこっちに喧嘩を売るようになってしまう。

だけどもあくまで凄かったのはその夫人であり、以降の公爵は才に恵まれず、あらゆる部分で連敗を続けた。

経済でも外交でも交渉でも、兵を揃えての戦争までしてしまったこともあるそうだが負け続けた。

それでも救国の公爵家だからと周囲は相応に気を使って対応をしてくれていたのだが……それが逆に公爵家を調子付かせたようで、ついには周囲に領地と名誉を賭けての決闘を挑むようになってしまう。

何が彼らをそうさせたのか……それは公爵だからと見合わぬ豪遊をし続け、しっかり領地を開発しなかったがために発展せず税収が上がらず、貧乏公爵と揶揄されるようになってしまい……どうしてもそこから脱却したかったからと言われている。

それを利用したのが当時のウィルバートフォース伯、領地を賭けての決闘に応じ、勝って領地を奪って……返して欲しいのならと煽って再戦、また奪った。

そうやって価値のある土地の大半を奪っていって……今のウィルバートフォース伯爵領がある。

……ご先祖様も無茶苦茶やるなぁと思うが、そもそも賭けを始めたのはエリアン公爵家なので同情はしていない。

……で、今のエリアン公爵家は、本物の名ばかり公爵だ。

広さはアレス男爵の領地と同じ程度、我が領と同じく海に面しているので飢えることはなく、塩漬けの魚を各地に売ることでどうにか経営が出来ているが……それ以外に目立った産業もない。

塩魚に関しても、こちらが遠慮して良い漁場を譲っているからなんとかやっていけるというだけで、魚が気まぐれに回遊コースを変えたりすると途端に破産の二文字が見えてくる。

貴族としての破産は、その家の臨終の時とされている。

理由は爵位を相続する際に発生する税で……この国には爵位の相続税があるのだ。

一定の財力を示さなければ……納税能力を示さなければ爵位に値しないというもので、地方貴族が力を持ちすぎないように牽制するような意味合いもあり、俺が継承する際にもそれをしっかりと払っている。

……が、現エリアン公爵はそれが支払えず、危うく爵位を没収されてしまうという所で、俺がしっかりと借用書を交わした上での貸し付けをしてやり、どうにかそれを免れたという事情があったりもする。

しかし公爵はそれに感謝をすることはなかった、自分は公爵なのだから当然という態度だった、返済をしなくても良いとまで思っている様子だ。

……漁場のことなどもあるというのになんだその態度と、カチンと来てしまった俺は、以降は最低限の手紙を送る以外に交流せず、関所も閉じたまま……断交とまではいっていないが交流お断り、といった関係となっていた。

借用書がある以上、借金を返さないなんて真似は許されず、何かあった際にはそのカードを使おうと思っていたのだけども、その前に向こうから何かを仕掛けてきているという訳か。

……うぅーむ。

「旦那様、公爵家っていうのは……あの漁師一族のことですか?

操船が下手でたまに漁師が西の実家に流れ着くことがあって、何度か騒動があったって聞いてます。

助けようとしているのに蛮族が尊い血筋に触れるなって騒ぐんだそうです」

と、コーデリアさん。

そうか、コーデリアさん達にとっても真北にあるエリアン公爵家はお隣さんか。

「ああ、そちらにも迷惑をかけていたんですねぇ。

……って、んん? え? 公爵家が直々に漁に出ているんですか? その言い方だとそうなりますよね??」

「あ、はい、そうみたいです。

……えっと、漁の指揮を執ってるとかで、結構見かけるそうですよ。

……こっち側の漁場まで入ってくることも、たまにですけどあったみたいです」

「……そ、それはご迷惑をおかけしました。

漁場を定める条約がないとは言え、恥知らずな……本当にあの家は……」

今のエリアン公爵家を一言で評するならろくでなし、または無能。

ただ完全な無能という訳ではなく、芸術など……特に音楽や詩作などでは国内トップクラスの才能があるようだ。

だったらそっち方面で活躍したら良いだろうと思うのだけど、武門公爵家だという誇りが捨てられずにこだわり続けている。

一人の騎士もいない武門なんて、何をしようとしても鼻で笑われるだけなんだがなぁ。

聞いた所によると父上達が大陸に出兵すると聞いて、同行しようとしていたそうだ。

騎士無しの同行、つまりは自分を指揮官にしろ、父上達に下に入れという形で。

しかし彼らは武力方面においても無能だとされている。

過去の栄光にすがっているのか今の戦い方が出来ず、新型の鎧を持たないまま戦場に出ようとする。

旧式の、いわゆる騎士鎧での戦闘技術も必要な場合があるし、それを鍛え競う場もちゃんとある。

剣術競技会やジョストと呼ばれるような騎乗トーナメントなどなど、特に競技会は王城主催のものもあり、それに出て活躍したなら名誉が得られる上に結構な賞金も手に入るのだが……何故だか実戦にこだわり続けている。

今の騎士の戦いを知らないのに指揮など執れるはずもなく、迷惑極まりないのだが歴史ある公爵家なせいで、邪険にしすぎる訳にもいかないという厄介な家。

ご先祖様が土地を削り取っていなかったらどうなっていたのか……活かさず殺さずギリギリの所まで押し込んでくれたことに本当に感謝したいと思う。

……まぁ、恐らくは当時であっても迷惑な無能で、そうせざるを得なかったのだろうなぁ。

どう対応するかなぁ、目的は恐らくくだらないことで、相手するだけ損なのだが……無視してしまって良いものか、どうか。

下手をして味方になるとか言い出されたら最悪で、どれだけの面倒と被害が広がるか分かったものではない。

無視するのも下手に相手するのもどう転ぶかが分からずに怖い、都合の良い方向に誘導してやったほうが無難そうな……誘導、誘導か。

「ああ、そうか、王太子側につくように誘導してやれば良いのか。

北側が敵地になったとして困るようなことはないし、王太子に面倒を押し付けられる訳だし……変にやり合うよりもその方が面倒がなくて良いな」

なんてことを考えて、それをそのまま口にすると、

「うわっ……」

と、バトラー。

とんでもないこと考えるなと、その声と渋い表情でもって語りかけてくる。

「誘導ですかー……あたしには全然想像つかないですけど、どんな方法でなさるのですか?」

そしてコーデリアさん。

「特に奇策は必要ないでしょう、正直にこちらの目的を話しますよ。

何にしてもまず相手の話と要件を聞いてからですけど、伝統の破壊と改革が目的だと言えば、伝統に固執するあちらとしてはなんらかの動きを見せるはず。

更に父上達が大陸で勢力を築こうとしていると聞けば、こちらに恨みのある公爵家としては黙ってはいられないはずですし……後は借金というカードも上手く使って王太子に接触するよう仕向けたいですね。

……ああ、王太子を恐れているとか、そういう様子を見せてやっても良いかもしれません。

私が恐れていると知れば、その相手と組もうと考えるのは自然なこと……借金を帳消しに出来るかもなんて話になれば単純な彼らのことです、きっと引っかかってくれますよ」

もちろん油断をするつもりはないが……必要以上に策を練るような相手でもないと思う。

……それでエリアン公爵家はなんとかなるはず……。

後は男爵家か、えぇっと確か、まけ……マケライか、マケライ男爵家? 付き合いがない家のようだが……。

「マケライ男爵家というのは、領地はどこなんだ? それとも領地なしの名誉貴族か?

聞き覚えのない名前だが……」

「……確たることは言えませんが、確か去年、詩作で賞を取った方がマケライ家の方だったような……」

俺の疑問にバトラーがそう返し……俺はすぐさまコーデリアさんとバトラーを連れて執務室に向かう。

執務室に入ったなら、過去の新聞記事をまとめてある木箱を引っ張り出し……箱の前にしゃがみ込み、記事の束を引っ張り出し……去年の文化芸術の記事をまとめた束から該当の記事を見つけ出す。

「……あった、マケライ男爵家が詩作の競技会で入賞。

……王太子から特別賞を授与……領地はなく名誉貴族で、初代も詩を認められ貴族位を授かったのか。

なるほど……既に王太子との繋がりがあるのならより誘導しやすくなったな。

それがどうしてエリアン公爵と繋がったかは……公爵も詩作を得意としていたからその関係か。

……詩作、詩作なぁ、こればっかりはどうにも苦手だからなぁ、仲良くはなれないだろうなぁ」

新聞記事を持つ手を、木箱の縁に置いてなんとなく天井を眺めながらそう言うと、コーデリアさんが思わずといった様子で呟いてくる。

「旦那様にも苦手なことがあったんですね……なんでも出来る方なのかと……」

「苦手なことの方が多いくらいですよ。その中でも特に詩作は苦手ですね」

もちろん詩作についても貴族として学んではいる、学んではいるので形だけ整えることは出来るし、名作を真似てそれっぽいものを仕上げることも出来る。

……が、完全なオリジナルとなると、どうにもならない。

そもそも詩作に興味がない上に、こちらの人々とは情緒の根底にある価値観のようなものが違うので、まともな詩になってくれないのだ。

たとえばこちらではトンボが忌み嫌われ、恐れられている。

トンボを見たら目や耳を切り裂かれるから追い払え、みたいなことを言われているくらいだ。

俺の価値観としては田園風景や田舎の風景の象徴で、トンボを見かけると和むのだが……こちらでそう思うのは少数派。

他にも様々な物や風景に対しての想いが違うので、俺なりに上手く出来た詩作も他人が見るとひどいものになっていて……良い詩を作ることがどうしても出来ない。

価値観の違いを意識して作っていると、情緒的な部分が失われ、誤魔化しの出来になるし、意識しないとデタラメな出来になるし……そういう訳で何度かの挑戦を経て諦めたのが詩作だ。

詩作だけに時間を使う訳にもいかないし……恐らくは死ぬ時まで苦手としていくのだろうなぁ。

「でもきっと旦那様なら、良い愛の詩を生み出すことが出来ると思いますよ」

と、コーデリアさん。

それは慰めなのか、それとも……と、考えているとバトラーがこほんと咳払い。

……そうだった、まずは男爵の相手か。

「フィリップとアレス男爵を呼んでくれ、それから飛空艇の準備も。

俺の準備が出来次第出発し、関所にてマケライ男爵に対応する」

まずはバトラーにそう指示を出す。

「コーデリアさんは屋敷の取り仕切りと姉上とプルミアのことをお願いします。

もしお祖父様がいらっしゃったならその応対も……不安でしょうが、お願いします。

コーデリアさんなら絶対に大丈夫ですし、母上に頼る事もできます、私もすぐに帰ってきます。

……帰ったらまたお話をしましょう」

それからコーデリアさんにそうお願いをする。

すると二人は頷いてくれて……そして動き出したのを見て俺も、北東関所に向かうための支度を整えていくのだった。