軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

歓待用に用意した夕食を、皆で楽しむための準備が進む中、俺は邪魔にならないよう、男爵と共に庭へと出て時間を過ごしていた。

「何をお話ししているのか、ほとんど分かりませんでしたが、子爵とのわだかまりを取り払って頂いたようでありがとうございます。

この恩を返すためこれからも頑張らせていただきます!」

なんてことを言う男爵に、

「まぁ、俺もよく分からない部分はあったよ……」

なんてことを返しつつ、庭の草木を見て回る。

今は春、庭は青く色づいていて、既に咲いている花や、これから咲くらしい蕾などを見かけることが出来る。

するとトコトコと庭を歩くハリネズミの姿が視界に入り……驚かさないように距離をとりつつ、その姿を眺めて楽しむ。

「追い出しますか?」

と、男爵。

……脳筋と言うか無粋と言うか……うぅん、まぁ言えば分かるのだから、しっかりと言葉にしておこう。

「ハリネズミは害虫を食べてくれる庭の大切な友人だ、見かけても無体をしないように。

近付けば怖がらせてしまうだろうから、距離感も大事にするように」

「はっ、了解です、お任せください!」

悪意なくてこれなんだもんなぁ……うぅん、悪い人ではないんだがなぁ。

と、そんなことを考えていると、女性達の元気な笑い声が響いてくる。

その声の主はコーデリアさんとプルミアに間違いなく、他にも何か甲高い……動物のような声も聞こえる。

「ああ、これは良い猟犬の声ですな。

元気そうだし、力がある……フォックスハウンドでしょうか」

と、男爵。

これって犬の声だったのか……そう言えば猟犬を買ってやると約束をしていたっけ、それをコーデリアさんと買ってきた、ということかな?

そしてフォックスハウンド……前世でもそこそこ見かけた犬種だ、妙な共通点のある前世と今世だが、どういう訳か犬種まで同じなんだよなぁ。

なんてこと考えつつ、門へと向かうと尻尾を振り回しながらキャンキャンと鳴く子犬を抱えたプルミアとコーデリアさんと、その様子を微笑ましげに見守る姉上の姿があり、どうやら一頭ではなく、二頭買ってきたようだ。

プルミアが抱えているのはフォックスハウンド、垂れ耳の短毛、白茶黒の三毛模様が独特だ。

コーデリアさんが抱えているのは長毛で、顔も毛深く眉毛のようなふさふさの毛もあって……どこかお爺さんを思わせる顔はシュナウザー犬を思い出すが、体が細く大きいように見えて、どうやら違うようだ。

「旦那様、ただいま戻りました。

見てください、この子……ゴウケアが送ってくれた子で、大昔からドルイドと仲良しのディアハウンドっていう猟犬なんです」

ああ、買ったのではなく送ってもらったのか、それに合わせてフォックスハウンドも買った、と。

確かに複数の犬を猟犬として躾けるなら、同時に飼い始めた方が楽なのかもしれない。

「凛々しい顔をしていますね、大きくなったら活躍してくれそうな顔だ」

と、そう言いながら近付き、コーデリアさんにこれでもかと甘えているディアハウンドの子を撫でてやると、目を細めながら尻尾を振って喜んでくれる。

海を渡って知らない土地にやってきて、知らない家に引き取られたなら怖がっても無理はないと思うのだけど、どうやら相当肝が据わった子犬であるようだ。

フォックスハウンドの方も……何というか呑気な顔をしていて、屋敷や庭の光景に興味津々といった様子だ。

「すぐに猟犬の世話係がやってくるだろうから、彼に世話と躾を任せると良いでしょう。

犬小屋など必要なものも彼が揃えてくれるはずです、躾の腕も一流なので、良い猟犬、良い番犬に仕上げてくれると思いますよ」

と、俺がそう言葉を続けるとコーデリアさんとプルミアは頷いてくれて、60歳の爺さん世話係がやってきたのを見て、子犬達をそっと手渡す。

すると子犬達はコーデリアさん達から離されたことが不満なのか、じたじたともがいて世話係の腕の中から脱出、それぞれコーデリアさんとプルミアの足元で鳴き声を上げながら立ち上がり、前足でスカートを引っかき抱っこをせがむ。

「こ、これ、お前達!」

オーバーオールにシャツにハンチングハットといった格好の世話係が大慌てとなって駆け寄ろうとするが、コーデリアさん達の顔がもうすっかりとやられてしまったのを見て、腕を上げてそれを制止、コーデリアさん達の好きなようにさせる。

すると二人は子犬を抱き上げて頬ずりをするなりして構い始め、子犬達も顔や手を舐めてそれに応える。

「まぁ、夕方まで遊べば子犬達も眠くなるでしょうから、世話係に任せるのはそれからでも良いでしょう。

……ところでプルミア、馬も買ったのか? 買ったなら馬の世話係に知らせておくが……」

そう言って庭師にもそれからの対応を頼んでいると、プルミアが目を丸くして言葉を返してくる。

「えーっと……買っちゃって良かったの?

高いから駄目なんだと思ってた、買って良いなら明日買ってくるけど」

「……まぁ、確かに高い買い物ではあるが、構わないだろう。

これから競馬を流行らせていくつもりだ、乗馬用とは言え価格に影響があるかもしれない。

今のうちに良い馬を選んでおくと良い、目利きに自信がないなら世話係に相談してみなさい」

「うん! わかった!」

と、プルミアの良い返事。

馬車だの何だのと、馬はまだまだ欠かすことの出来ない存在で、我が家の厩舎にもそれなりの数の馬が揃っている。

匂いの関係で少し離れた場所にあり、普段は見かけることはないが……行けば厩舎から顔を出して歓迎してくれる可愛い馬達だ。

猟犬も一応数頭飼っている。

……が、猟に行くことがないので番犬としての仕事が主となっている。

猟がなぁ、中々面倒なんだよな……銃がないので基本は弓での狩猟となり、最近はクロスボウを使うようになったが、それでも面倒かつ難しく……忙しい身でやれるような趣味ではない。

父や兄は結構楽しんでいたようだが……俺には縁遠いだろうなぁ。

猟場もしっかり所有していて、猟場の管理人も雇っている。

行けば狐や鳥、鹿なんかも狩れるはずだが……管理人への挨拶と労い以外で行くことはなさそうだなぁ。

「馬も犬達も、猟場に連れていけば好きなだけ駆け回れるだろうから、育ってきたら連れていくと良い。

……もちろん猟をしても良いが、その時は騎士を連れていって、彼らの言葉に従うように」

俺がそう返すとプルミア……ではなくコーデリアさんが声を上げてくる。

「わぁ、猟場もあるんですね!

ならこの子が大人になったら連れていきます! ディアハウンドは鹿くらいだったら簡単に狩っちゃうんですよ! もっと大きなやつでもいけます!

群れだとすっごく効率良く狩るんで、そのうち数を増やして群れにしてあげたいですね」

……犬が狩れちゃうの? 鹿を?

ど、どれくらいまで成長するんだろうか? 大型犬は確実で、その中でもかなり大きい方だよなぁ……。

その大型犬を群れにした上で狩りをさせるのか、ドルイド族は凄いなぁ……。

……って、そうか、ドルイド族からすると多少大きくても問題じゃないのか、俺達の言う中型犬くらいの認識なのか……。

「し、鹿肉が手に入れば喜ぶ者も多いですから、その時はコーデリアさんとその子にお願いします。

……そう言えば名前はつけたのですか? 躾のためにも名前は早く決めてあげた方が良いですよ」

との俺の言葉に、二人はほぼ同時に応えてくれる。

「はい! この子はアーサーです!」

「うん、この子はランス! ランスロット!」

……ディアハウンドがアーサー、フォックスハウンドがランスロット。

……何だろうなぁ、この不穏な感じ。

いやまぁ、二人とも他意はないんだろうけど。

……やろうとしていることを考えると、ある意味縁起が良いのか……?

そもそもこっちの世界にはアーサー王伝説が存在していないからなぁ、ただの偶然……なはずだ。

「よろしく、アーサー、ランス。

これからこの家と皆を守ってやってくれ……そしたら腹いっぱい食わせてやるからな」

と、そう言って改めてアーサーとランスを撫でてやる。

ランスロットとは呼ばない、この子の名前はランスなんだと、そう思い込むことにする。

撫でられてアーサーとランスは嬉しそうに目を細め……それからコーデリアさん達がそっと地面に下ろしてやると、アーサー達はぴょんぴょんと跳ねるように駆け出し、跳ねているお互いのことが面白いのか構い合い、一つの塊となって庭の中を転げ回っていく。

コーデリアさん達はそれを追いかけていき……世話係もまたそれを追いかけていき、それを見送っていると、ずっと黙っていた男爵が声をかけてくる。

「……相変わらず仲睦まじいようで、羨ましい限りです」

「ん? まぁ、コーデリアさんは良い人だからな、仲が悪くなるような理由もないだろう。

……と、言うかだ、男爵こそどうなんだ? 近くに家を用意してやったから奥方を呼ぶことも出来るだろう?

呼んで一緒に暮らしてはどうだ? 必要なら多少の手当は用意してやるぞ」

俺がそう返すと男爵は、頭を掻きながら照れた様子で言葉を返してくる。

「ああ、うちは離縁しましたのでお気になさらず。

彼女は王城貴族の生まれですから王都を離れての暮らしは辛いはずで、手紙にてこれで離縁だと伝えておきました。

もう娘も息子もいますし、騎士として自分の世話くらいは問題なく出来ます、一人でも問題はありません」

「い、いや、あるだろう!?

仮にも男爵が一人って……いや、そもそも手紙で離縁とは何事だ!? 他所の家庭のことに無礼だとは思うが言わせてもらう、離縁するのであればせめて顔を合わせて話し合え!

急な離縁となれば教会にだって連絡しなければならないだろうし……すぐさま奥方に連絡を取って、事情を話すように!」

「はっ……そうせよとあればそうしますが、自分はもう王都には帰れない身です。

宰相に見つかる訳にもいかないでしょうし……かと言って妻だけでここに来てもらうというのも問題な気が……」

と、そんなことを言い合っていた時だった、いつの間にか側を離れていたらしいバトラーがやってきて……門の方へと視線をやりながら声をかけてくる。

「ブライト様、お客人です。

……その、ちょうど今話題に上げられていた、アレス男爵の奥方のようです」

そう言われて門の向こうへと視線をやると、赤混じりの茶髪を編み込んだ質素なドレス姿の女性が……門の格子を両手で引っ掴んで、男爵のことを睨みつけている。

「……男爵、今すぐ奥方と話し合うように。

我が家に仕えるのだとしても離縁をする必要はない、自分達がどうしたいのか、お互いの気持ちを大事に冷静に話し合うように」

「そうだよ! 話し合いなさいよ! この馬鹿旦那!!」

男爵が返事するよりも早く奥方が返事をしてきてしまう。

ここから門まで結構離れているのだが……うぅん、地獄耳。

「伯爵がそうせよと言うのであれば、その通りに!」

そう言って男爵は門へと駆けていき……気を使ったのかバトラーも駆けていって門を開き、二人を屋敷の中へ……恐らく客間へと連れていく。

それを見送った俺は……どうしたものかなぁと手持ち無沙汰となり、とりあえずテーブルのある花壇の中央まで移動し、そこにある椅子に腰を下ろす。

するとすぐに屋敷の中から怒声が響いてきて……さっそくやり合っているようだ。

細かい内容を聞き取ることは出来ないが奥方が優勢……と、言うか男爵は恐らく、はいはいと言葉に従っているだけなのだろうなぁ。

うーむ……あの態度もどうにか改善すべきなのだろうか? 俺が世話になった家庭教師に見てもらうとか?

……武働きで出世したということは、そう言う経験がないのかもしれないしなぁ、後でその辺りも確認しておこう。

そうやって静かに時間を過ごしていると、姉上が静かにやってきて、テーブルを挟んで向かい合う椅子へと腰を下ろす。

……そう言えばずっといたんだっけ、姉上は大人しい上に自己主張しないものだから、たまに見失ってしまうなぁ。

「……ブライト、私は誰と結婚したら良いのかしら?

ウィルバートフォース家にとって良い相手を貴方に選んでもらえたら安心なのだけど……」

と、姉上はそんなことを言ってきて……俺は頭を抱えたくなりながらも冷静に言葉を返す。

「姉上、今の我が家は政略結婚をしなければならないような家ではありませんよ。

結婚は姉上の自由にしてくださって問題ありません、今好きな相手がいないのだとしたら、好きな相手が出来てからで良いですし……結婚をしないで何か好きなことをやって頂いても問題はありません。

今まで不自由な暮らしを強いられていたのですから、どうか自由な暮らしを堪能してください」

「……それで良いの? 私はブライトが決めた相手なら問題ないのよ?

その方が安心だし……全てブライトの言う通りにしても良いの、いえ、そうじゃないわね、ブライトの言う通りにしたいの、そう生きたいの。

……だって貴方は間違わないから」

おぉっとぉ……? なんか凄いこと言い出したなぁ。

俺だって間違うし判断に迷うし、絶対正しいなんてことはないんだが……うぅん。

まぁ、長期の監禁生活をしていたんだからなぁ、どこか不安定になってしまっていても仕方ないのかもしれない。

こういう時、どう言葉をかけるべきなのか……。

「姉上、姉上達がこれから不安に思うことがないよう、幸せに暮らしていけるよう、私は尽力していくつもりです。

ですから姉上、好きなようになさってください、毎日元気に好きなことをしてくださったらそれが一番私にとっても嬉しいことなのです。

好きなことが思い当たらないようでしたら、プルミアやコーデリアさんと一緒に遊ぶとか、街に出て何かを探してみるとかしてみては如何でしょうか?」

「……そう、好きにしたら貴方が喜んでくれるのね?

ならそうしてみる……私、森の風景が好きで、苔むした木とかが気になるの、だから苔の研究でもしてみようと思うわ。

それと改めて飛空艇の方もお願い、研究資金を自分で稼ぎたいの」

「ああ、良いですね、苔や菌類の研究は、将来とても大きな成果となってこの領に多くのものをもたらしてくれるでしょう。

姉上がその草分けとなってくださるのなら、私としても喜ばしいですし、誇らしいことです。

私に出来ることがあれば遠慮なく言ってください、協力は惜しみません、飛空艇についても分かりました。

姉上のためのものを用意させましょう」

と、俺が返すと姉上は、目を細めて……どうにも薄暗いものを感じる笑みを浮かべてくる。

これで正解だったのか、素直に喜んで良いのか……全く分からないままだが、とにかく姉上は笑ってくれて、それから立ち上がり……研究のためなのか屋敷の、書庫のある方へと一人、歩いていくのだった。