作品タイトル不明
激突
騎士団達はライデルの策に見事引っかかり、囮の村へと襲撃をかけたようだ。
関所を通らず岩山を越えて……フィリップ達がばらまいた情報通りに進軍し、村に到着。
報告によると村人に扮したライデル達にしっかりと声をかけ、対価は払うから食料や家畜を譲ってくれと、一応は紳士的な態度を示していたそうだが……鎧を着込み武器を手にしながらそうした時点で襲撃と言ってしまって良いだろう。
当然ライデル達は拒否、すると騎士団達は無言で武器を構えて……すぐさまライデル達は逃走し、鎧を着込むために拠点へと駆け込んだ。
それから鎧を着込み武器を手にし……今、村で体を休めている騎士団達の下へと進軍している。
と、そんな情報を受けて俺は、すぐさま飛空艇を……我が伯爵領の旗艦となるピット号を発進させ、戦場となるだろう村の周辺……この日のために切り開いて戦いやすいようにしておいた平原へと向かわせた。
……この世界での飛空艇の評価は不当に低い。
空を飛んで物や人員を輸送出来るだけで、とんでもない価値があると思うのだけど……誰も、王族も学者も商人達もそれに気付いていなかった。
正確に言うのなら気付いていた者もいるにはいるが、コストや危険性の方を気にして手を出していなかった。
そういった面だけでなく、戦闘面においても飛空艇は役立たずとされていた。
前の世界ならまず間違いなく搭載されていただろう大砲がこちらには存在しない、バリスタなどならあるが、飛空艇に搭載して運用するには今ひとつ向いていない。
そうなると後は岩などを上空から落とすなどになるが、これは鎧などである程度の迎撃が出来てしまうので、飛空艇を運用してまでやる価値があるかは微妙。
残されたのは騎士達を乗せて大槍に魔法石を装填して攻撃させる、という攻撃法になるが……こちらの攻撃が届くということは、あちらからも届くという訳で、地上から散々に魔宝石による電撃やら炎やらを浴びせられることになり、そうなると飛空艇はあっさりと墜落してしまう。
墜落してしまえば乗員は当然大怪我をするか死ぬかする訳で……無駄にコストのかかる飛空艇と大事な戦力を同時にロストしてしまうというのは、確かに賢い方法とは言えないだろう。
それでも価値はあるはずだとあれこれと考えて、戦場で際に役立つようにと作られたこの旗艦の仕事は……戦場を俯瞰しての観察だ。
攻撃が届くはずもない遥か上空に陣取り、望遠鏡などで戦場の動きを把握し、味方の騎士達に指示を出し、情報的優位を保ったまま戦闘を進めるためのものだ。
なので武器を搭載していない、護衛の騎士も最低限、望遠鏡を持った見張りだけはこんなに大人数いらないだろう? って程の数を乗船させている。
奇襲や奇策を見逃さないように、情報的優位を失わないように、とにかく目を多くして情報を集め、その情報を受け取った分析官達が分析室中央の机に置かれた地図の上にチェスのコマのような、敵味方を判別しやすいよう白黒に色分けされたものを置いて動かすことで、その情報を整理していく。
そしてそれを見て分析官や俺がどう指示を出すかを決定し、決定された指示はヘリオグラフ、回光通信機にて戦場のライデル達に伝えられる。
魔法石の力でピカピカ光るだけのでかい電球、といった見た目のそれでモールス信号を真似る形で作らせた暗号を送り、それをライデル達の中にいる分析官が受け取って解読し、ライデル達に伝えるという感じだ。
それだけ? と言われてしまうとその通り。
戦闘中にそんな悠長なこと出来るの? もその通りなのだけども、今は大鎧巨砲主義、戦闘の動きはかなり緩慢なので、そういった形での指示でもしっかりとした効果が上がっている。
騎士達の全身を覆うこちらの世界の鎧は、魔法石を使った大槍の攻撃を防げるように設計され、強化されている。
当然大槍も鎧を砕けるように強化されていて……鎧はとにかく頑丈に、大槍はとにかく高火力にという改良が繰り返されていって……その結果の大鎧巨砲主義。
そのため槍も鎧も相応に重くなってしまっていて、騎士達の動きがかなり鈍重になっているのだが、それでも強いし勝てるので今のところ問題にはなっていない。
いつかはこれらを上回る何かが開発されて陳腐化してしまうのだろうが……今のところはこれが定番であり最強、簡単には打ち破れない軍事ユニットだ。
動きは鈍重で、やたらと高火力、近接戦を得意としているが……遠距離攻撃も可能。
メインウェポンとなる大槍に魔法石を装填したなら、決闘の際に俺がやったような遠距離攻撃が可能になる。
距離が離れると威力が落ちてしまう関係であまりダメージを与えられないが……複数人で一斉集中攻撃をしたなら近距離攻撃に勝る威力となる。
そのため複数対一の一方的な形で遠距離攻撃が最良で、それが可能な戦略、陣形、動きこそが理想的とされて……それを目指して前進、後退、あるいは展開、集合などなど指示を出すための旗艦がピット号、という感じになる。
(……こうして見ると、完全にシミュレーションRPGなんだよなぁ。
真上から俯瞰してユニットを操作して、遠距離なら反撃を受けにくいから出来るだけ遠距離で戦って、そのために味方を配置して相手の動きも見ながら指示を出していく……。
まぁ、ゲームに近い感覚で指示を出せるおかげで、前世でも今世でも実戦を知らない俺なんかでも、どうしたら良いかがなんとなく分かって、ちゃんとした指示が出せているんだけども……)
地図をじぃっと睨み、分析室に飛び交う報告の声を出来るだけ耳に入れて、コマの動きをも逃さないようにして……指示を出す中で、そんなことを思う。
前世の戦争の指揮所とかもこんな感じだったのだろうか? それともこちらの世界だけがこういう感じなのだろうか?
前世の世界の偵察機とか、具体的にどんな仕事をしていたのか……『偵察』をしていたことは知っているけども、その詳細までは知らず、勉強をしておけば良かったと今更ながらの後悔をしながら、偵察をしてくれているこの旗艦の『目』へと視線をやる。
望遠鏡を構えた『目』こと見張りは、旗艦のあちらこちらにいる。
甲板の上にもいるし、分析室の窓の側にもいるし……分析室の真下にある、床の一部がガラス張りになっている見張り部屋の中にもいる。
あちらこちらから伝声管や伝令を使って出来るだけ早く情報を伝えさせ、分析官に情報の取捨選択をさせ、地図に反映される情報は整理されたものだけで……地図上のコマがどんどん動いていく。
現状、ライデル達は緩くではあるが、騎士団達を包囲している。
東西南北に分けて部隊を配置し、じわりじわりと前進し包囲を狭めようとしている。
その上で、それぞれの部隊がV字型……鶴翼の陣と言うんだったか? そんな陣形を取って、近付いてくる騎士団達を受け止めるような形で移動、行動し、それからの一斉遠距離攻撃を仕掛けようとしている。
騎士団達は罠にハマったと、包囲されていると気付いているようで、それなりに混乱しながらも一点突破での戦場離脱をしようとしているようだ。
我が領からの離脱も考えて東に向かっているが……当然こちらもそれを予測していたので東の陣形は分厚く、突破は容易ではない。
「伯爵、東から敵の増援です! 退路を確保させていた部隊かと思われます!」
と、その時、そんな報告が響き渡り、地図の東端……地図からはみ出すような位置で新たなコマが置かれる。
……まぁそうだよね、敵の領地に入り込むんだ、退路は確保させているよね。
「ノアブア達に連絡! 増援の対処を任せると伝えろ! 彼らに細かい指示は逆効果だ、全ての判断を任せるとしっかり伝えるんだ!」
すぐさまそう返す。
当然こちらもそれに備えている、この辺りに増援が来るだろうと予測し、潜ませていたドルイド部隊に連絡。
ノアブア率いる7人のドルイド達は、大鎧巨砲主義の原理の外側にいる存在だ。
動きが緩慢じゃない、その怪力で大鎧や大槍の重さをものともしない。
機敏に動き、駆け回り、鎧など着ていないかのような動きを見せてくる。
その分だけスタミナ切れが早いという欠点があるので長期戦は不得意で、基本的には奇襲、伏兵などでの短時間運用をしていくことになるのだろう。
光による通信が成功すると、すぐさまノアブア達が動き出したようで、地図にコマが追加される。
……あ、うん、動きが急激過ぎて報告と分析と地図への反映が間に合っていないようだ、分析官達が大慌てとなって情報を整理しきれず、混乱し始めている。
「落ち着け! ノアブア達にこれ以上指示は出さない! 結果だけ分かれば良い! 他に集中しろ!!」
と、そう声を上げてどうにか落ち着かせ……それから俺は地図をじぃっと睨み、見落としがないか判断ミスがないかなどを自分の中で見直していく。
体温は冷え切っているのに鼓動は激しくなっているという、今俺は人生初の……混乱なのか何なのか、とにかくそんな状態にある……さっきの言葉は自分にこそ投げかけたものだったかもしれない。
自分の判断で人が死ぬかもしれない、もう死んでいるかもしれない、あのライデルが殺されているかもしれない、ドルイド達を失ってコーデリアさんを悲しませるかもしれない。
相手を殺すこと、殺させることには何も思わないのだが、味方が死ぬのには相当な動揺をしてしまうようで……そんな心をどうにか落ち着かせながら地図を睨み続け、冷静を装っての指示を出し続けるのだった。
――――戦場の東部で、一進一退の攻防を続けながら ライデル
一方で、一番重要かつ危険な戦場となるであろう東部を任された部隊を率いているライデルは、戦場にあってとても静かな心を保っていた。
実勢経験豊富で、確かな自信があり、心の制御の仕方を学んでいたライデルだが、それ以上に上空のブライト……坊っちゃんのことを信頼しており、坊っちゃんが見てくれているのなら大丈夫だろうと、そう確信出来ているからだ。
小まめに出される指示に従って進んだり後退したり……そうやって前後をし続け何も攻撃せずに10分、20分と時間が経つこともあり、端から見れば何をやっているんだと言われそうなことを繰り返していると、ふとした瞬間に敵が突出したり動きが鈍ったり、転んだりなどで崩れて隙が出来て、一方的に攻撃が出来る大きなチャンスがやってくる。
「崩れた所に集中攻撃ぃ!!」
すぐさまそう声を上げると、自分と部下達の大槍からそれぞれの属性攻撃が放たれて、隙を見せた敵の鎧が爆発し炎上し冷やされ砕けて、戦闘不能に陥る。
攻撃したなら命令がなくとも全員がすぐに後退、それから魔法石の再装填や大槍の冷却など、それぞれ再攻撃のための行動を行い……また上からの命令を待つ。
理想的な戦闘だった、指示を出す上が常にどういう位置でどういう向きで、どう動けば良いかが分かっているから指示に迷いがなく、それを信じる現場は混乱が起きず混戦にはならず、当たり前のことをしているだけで勝利が転がり込んできてくれる。
坊っちゃんは以前、領内の工場の視察の際に、工場での作業はマニュアル化された誰にでも可能な……誰がやっても再現出来るものが理想だと、そんなことを言っていたが……こと戦争に於いてもそれは同じことなのかもしれないと、ライデルはそんなことを考える。
「連中、なんだってすぐに転ぶんですかね! まだ戦闘開始して1時間も経ってねぇってのに!」
敵の行動を待つ、ちょっとした隙間の時間に率いる部隊の一人からそんな声が上がる。
「そんなもの鍛錬不足だろう! 疲労で足が震えて鎧を支えきれてないんだ!
坊っちゃんのように鍛錬用の鎧を用意してくれる所なんて稀だからな、誰もが俺達みたいな鍛錬が出来ているものと思うんじゃないぞ!」
そう返すと納得したのか、それ以上返ってくる声はなく、ライデルは息を整えながら意識を前方の敵に向けて、大槍を構え直す。
全身を包むこの鎧は、様々な理屈が合わさって出来上がり、動いているものだ。
ライデルの学では全てを理解しきれないが、魔法石の力と精霊銀の力、それと電気やら熱やら様々な理屈が合わさって今のような動きが可能になっているらしい。
そんな鎧は動かす度に摩耗をしていく、装甲も関節も魔法石も精霊銀も、ただ歩くだけでも摩耗し劣化し、いつかは使えなくなってしまう。
戦闘も鍛錬も摩耗度合いはほぼ一緒、毎日鍛錬をするということは毎日戦闘を繰り返すのと同じくらいに鎧を劣化させてしまい……早ければ一ヶ月で使用不能になってしまう。
それを聞いて坊っちゃんはどうしたか……領内の騎士全員に定期的に、鍛錬用の鎧を受領出来る機会を用意した。
その際に受けるか受け取らないかは騎士の自由だが、全く受け取らなかったら評価は下がるし、受け取ったとしてしっかり使用不能まで使い込まなければ評価が下がる。
逆に毎月使用不能になるまで鍛錬をしていると評価が上がるだけでなく、結構な金額の臨時報酬が支払われる。
他の領主の下なら、無駄遣いだとか予算を食いすぎだと叱責を受けるらしいが、ここでは真逆……とんでもない予算をぶちこんで騎士達に鍛錬をさせていた。
これもまたライデルにはよく分からない理屈だったが、坊っちゃんが言うにはその方が結果的に儲かるらしい。
鎧をたくさん作って作りまくることで工場での生産が活発化し、活発化することで様々なことが洗練されて、鎧の品質が上がるし価格が下がるし、その技術で他の品などにも良い影響が出る……らしい。
『今は過渡期だろうから、技術が頭打ちになるまでは、とにかく作って作って、経験と情報を蓄積するんだ』
とかなんとか言いながら、どんどん予算を回し、その分だけ自分は質素な食生活をし贅沢はせず、家族には少しの贅沢をさせて……予算が少しでも余ったらまた別のどこかに回す。
理想的な上司だ、貴族らしくはないが信じることが出来る、信頼と言うより盲信に近い想いを抱くことが出来る、僅かな不安を抱くこともなく……だからこそライデルは、どこまでも冷静に戦うことが出来ていた。
「あそこだ、集中攻撃ぃぃぃ!」
一騎一騎、着実に討っていく、少しずつで良いからとにかく数を減らしていく、全滅はまだまだ遠いが、確実に有利になっているのだから焦る必要はない。
「後方に敵増援との報告です!」
そんな報告があっても心は揺れないし、部下達に動揺が起きることもない。変わらずに冷静に行動し続け、意識が前方から外れることはない。
そんな態度を見て逆に、敵の方に動揺が広がっていく、増援が現れ挟み撃ちにしたのに、何故混乱しないのだと足を止め攻撃の手を止め、呆然としている者までいるようだ。
背後から音がし気配がし、どんどんこちらに迫って来ているのを感じるが問題はない、上から坊っちゃんが見てくれているのだから問題ないと、ライデルは確信をしていた。
その直後、凄まじい衝撃音が後方から響いてくる。
坊っちゃんが乗っている飛空艇が墜落してきたかと思う程の轟音、周囲を支配する衝撃、そして雄叫び。
『ウォォォォォォォォオオオオオオオ!!』
絶対に人のものではない、物語に出てくるドラゴンのものに違いないと、そう思えてしまう程の雄叫びで……直後、激しい戦闘音が背後から聞こえてくる。
そこでようやく雄叫びの主が何者であるかに気付いたライデルは、今回の戦闘で初めて動揺してしまったことを恥じながら、それを振り払うように大声を張り上げ……部隊への引き締めを行い立て直し、改めて前方の敵へと意識を向けるのだった。
――――前方で起きている惨劇を眺めながら ドルイド族に合流した情報官
今彼の目の前で起きようとしている戦いは目算で約100対7の戦い。
数の上では圧倒的な不利なはずなのだが、負ける気が全くしない。
ノタノタと動く小柄な鉄の塊に対し、機敏かつ力強く動く大柄な鉄の塊では、見るからに勝負にならないからだ。
小柄な鉄の塊は大槍を構えて懸命に遠距離攻撃での迎撃を行おうとしているが……大柄な鉄の塊、ドルイド族の部隊は全く意に介さず、防御も回避も時間の無駄でしかないと言わんばかりに猛然と突撃をしていく。
武器は大槍ではなく、メイス……急遽有り合わせで作った鉄塊のようなそれを、ドルイド達は良い武器だと評し、大喜びで受け取ったそれを彼らは軽々と、まるで子供が道端で見つけた棒切のように振り回し……そしてたったの一撃で敵の鎧を粉砕していく。
あちらの鎧は旧型で、ウィルバートフォース領の最新型とは全く別物と言って良いような性能をしていて、強度もまたかなり劣っているものなのだが、それにしてもたったの一撃とは驚かされる……。
7人で襲いかかってそれぞれ一撃ずつ、すぐさま振り上げもう一度別の敵に振り下ろしてまた一撃、ほんの数秒で14人の騎士が粉砕されて……相手は狂乱状態となるが、どうにもならない。
逃げようにも相手の方が素早く、降参したとしても未来はない……盗賊に待っているのは縛り首だけ、騎士であるならば本来あるはずの人質交渉は行われるはずもなく、確実な死しかない。
ならば一瞬で死ねるだろう粉砕の方がマシか? いや、粉砕されているのはあくまで鎧、中の人間が即死出来ているとは限らない。
そこからは7の倍数順に粉砕された数が増えていって……56、63と来た所で、7人の動きが明確に鈍る、走ることが出来なくなってしまっている。
……まさかもうスタミナ切れ? まだ敵はかなりの数が残っているのに、これはまずいぞ!? と、ヘリオグラフを構えた情報官は、旗艦へ連絡を送ろうとする。
客人に危機、救援を。
そう送るための暗号コードを頭の中で組み立て、焦りながらもミスをしないよう慎重に誤操作しないよう意識を集中させていると……また雄叫び。
流石にそちらに意識を持ってかれてしまい、視線を移すとどういう訳かドルイド族達が両手を振り上げて勝利したぞとの主張をしている。
残りの敵は??
そんな疑問を抱きながら目をこすって見直すと、ドルイド族達の前には膝を突いて崩れ落ちる鎧の姿があり……その一部の鎧は開放状態となっていて、中から這い出てきた騎士達が涙や吐瀉物に濡れながら、もうやめてくれとドルイド族へと懇願しているようだった。
……なるほど、ドルイド族が動けなくなるまで後少しだったろうに、それよりも先に心が折れたか。
状況をそう分析した情報官は頭の中の暗号コードを組み直し……敵全員降伏との情報と、旗艦へと送るのだった。
――――突進してくる騎士を待ち構えながら ライデル
後方から響いてきた凄まじい雄叫び、二度目のそれの響き方から、なんとなしに勝利の雄叫びだろうか? と、そんなことを思うライデル。
前方の騎士団達もそれを察しているようで……何人かが諦めて武器を捨てる中で、一団を率いていた特別豪華な鎧を着ていた一騎だけが、ライデル達の方へと前進してくる。
普通ではあり得ない速度で、駆けているとは言えないがそれに近い速度で、相当な無理をしてでもこちらに迫ってきていて……それを見てライデルは声を張り上げる。
「広がれ! 俺が受ける!!」
周囲を巻き込まないためにそう声を上げ、大槍を構えていつでも攻撃出来るようにし……言葉の通り、先制攻撃ではなくまずは攻撃を受けることにする。
ああいう手合いと乱戦になると大抵は碌でもない結果に繋がる。
自分の犠牲お構い無しに密着状態で大槍を起動しての自爆のような真似をされかねないからだ。
だからまず遠距離での攻撃をさせる、そしてそれを受ける。
一度ある程度の力を使えば大槍は、再装填なり冷却が必要で……少なくとも自爆は不可能になるし、やったとして威力は半端なものとなって耐えきることが可能だろう。
そう誘導するためにライデルが動いていると敵はまんまとそれに引っかかり、移動しながら大槍を構えてきて……視界全てが真っ赤に染まる程の爆炎を放ってくる。
爆炎それ自体で鎧を破壊することは難しいが、中の人間を蒸し焼きにすることは出来る。
蒸し焼きまで行かずとも、それなりに熱したなら運動能力を奪うなり気を失わせることが可能で、敵の狙いはどうやらそれのようだ。
炎から脱しようとライデルが前進すると、それに合わせて後退し、そうしながら炎を放ち続ける。
自棄になってはいるが雑魚ではないようで、着実な戦法でじわりじわりとライデルを苦しめてくる。
とにかく熱い、暖炉の中に立っているかのような熱さで呼吸まで苦しくなって、汗が目に流れてきて染みて……敵はそんなライデルの苦痛を理解しているのか、心を折ろうとしているのか、あえて一旦攻撃を止めて挑発するような仕草を見せてくる。
十分な距離がある、だからこんなことをしても余裕だとばかりに片腕を振り上げ……その油断を見てライデルは、そうするだろうと思っていたと熱さも苦しさも忘れて全力で駆け出す。
ドルイド族にしか出来ないと言われるそれを、ライデルは技術と力で無理矢理に行う、体が悲鳴を上げて骨がきしんで、どこかの骨が折れたような気もするが構わずに行い、一気に敵に迫り、大慌てで爆炎を吐き出してきた大槍を打ち払う。
打ち払ったことで炎が消え去り、敵は反射的に後退し、距離を取りながらの再装填を試みようとして槍のチェンバーを開放し―――その瞬間、ライデルは大槍を発動させ、主と同じ電撃でもってチェンバーを狙いうち大槍を大爆発させる。
その爆発の衝撃を受けて、中で頭をぶつけでもしたのだろう……その敵は、恐らく騎士団長と思われるそれは、よろけて崩れて動かなくなり……それを見てか他の騎士達も動きを止める。
両手を上げて、鎧を開放して、もう戦えないと声や態度で示してきて……。
そうして戦いは決着となって……鎧の内部にある開放スイッチを思いっきり踏み込んだライデルは、鎧が開放された瞬間に流れ込んでくる新鮮な空気を思いっきりに吸い込み……どうにか信頼に応えることが出来たと心を震わせながら、上空に浮かぶ旗艦、ピット号へと視線をやるのだった。