軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

思惑

今回のために特別に用意した盾で攻撃を見事に防いだアレス男爵は、すぐさま大槍の下に回り込み、死角から盾を突き上げて大槍を破壊しようとし始める。

一撃目で火花が散り、二撃目で破滅的な音が響き、三撃目で変形が起こり、四撃目はさせまいと騎士達が男爵に群がる。

しかしそれも予測済みと言うかそれを誘っていたのかもしれない、男爵はすぐさま盾を振り回して群がる騎士達を薙ぎ払い、その勢いのまま騎士達に襲いかかる。

男爵にしか出来ない戦い方、男爵だけの暴力……男爵以上の力を持つドルイド族では大柄過ぎて、あそこまで器用には動けないはずで、こういう状況においては誰よりも頼りになる存在なのかもしれないなぁ。

そんな戦いの様子を見守っていると、俺の前に進み出て覗き込むようにして戦況を見ていたフィリップが問いを投げかけてくる。

「……今、攻撃を防げたのはなんで? おいらの勘じゃ盾なんかじゃ受けられない一撃だったと思うんだけど……」

「あれは博士に頼んで作ってもらった試作品だ、魔法石を込めて瞬間的にその力を発生させる仕掛けがあって……魔法石による攻撃を、魔法石による力で相殺しようって意図で作られたものだな。

俺もしっかりと理解しきれている訳ではないが、魔法石の力同士をぶつけると相殺されたり、流れが変わったりするようで……今の攻撃を見た感じ、流れを変えて受け流した、というのが正しいのだろうな。

アレス男爵が上手くやってくれたようだ」

「……なんでまたそんな盾を作ろうと思ったの?」

「目の前の……まぁ、戦車で良いか。

戦車の話を聞いて、騎士による槍での攻撃をどう対処しているのかが疑問でな、その答えを探っているうちに、そういう装甲があるのかもしれないと思いついたんだ。

既に実戦で戦果を上げているということは、騎士達に勝ったということ。

しかしだ、ただの鉄板装甲で槍の攻撃を完璧に防ぐのは難しい。

ということは何か、攻撃を防げるような仕掛けがあるはずだと考えて、そこから発想したという感じだな。

簡単な実験を経て、可能だろうという結論となって後は博士任せにしたんだが、悪くない出来になっているようだな」

「はぁ……なるほど。

ついでに質問、あの叔父さんの目的は? いきなり攻撃してきて何考えてんのアレ?

あんな短気じゃ、勝てるものも勝てないでしょ」

「……多分だが勝つ気がないのだろう。

いや、勝てるものなら勝ちたいが、関所の堅牢具合や司教様の存在、味方の士気の低さを鑑みて勝てないと踏んで……しかしただ降参したでは得るものがない。

そこで最低でも一撃を当てようと考えた……のかもしれない。

……攻撃が失敗し完敗となっても別の手があるしな、つまりは勝っても負けてもどちらでも良いのだろうなぁ」

「……別の手って?」

「この攻撃を俺への貸しだと主張する手だ。

王族の命令による攻撃を叔父上が仕掛けさせた、これによって俺は王族に対して抗議するなり訴訟を起こすなりの切り札を得ることになる。

今までの全てはそのためだった、この戦闘すら俺に切り札を与えるためだった、叔父上の言動は全て『俺のためだった』と主張するという訳だ。

実際はそんなことは全くないんだろうが、叔父上はその口の上手さでなんとか出来ると思っているんだろう……俺は一応身内だしな。

他にも恐らくだが、今アレス男爵にボコボコにされている騎士達、アレらにもなんらかの貸しを押し付けているんだろうなぁ。

誰もやりたがらない指揮官になって皆を率いてやるからなんらかの形で借りを返せとかなんとか。

そうやって俺と騎士達を売り手に売れるだけのもんを売って、王都には任務失敗したと素直に報告する。

失敗は痛手ではあるが、それでも最終的には得になると踏んでいるんだろうな」

「……あ~……なるほどね。

つまりアレだ、いつどんな時でも自分の損得しか見てない感じかな、そういう人なんだね、あの叔父さんは」

「他人に配慮する時もあるが、その時でも常に自分の損得を考える。

まぁ、それ自体は悪いことではないし誰でもやることではあるんだが、叔父上の場合は特に露骨だな。

しかしただの欲まみれの人物とも言えない、欲を満たすためなら他の仕事でも良い訳だからなぁ、わざわざ危険な仕事に就いてしかも今回みたいな作戦にも従事する覚悟もある。

貴族としての誇りを未だに大切にしていると言うか、出来ることなら名誉を守りたいとも考えている、その上で立身出世出来たら良いとも思っている。

……そして有能でもある、まだ何かやらかしてくるかもしれないな」

「うーん、どだろね、指揮官がいくら有能でも他がなぁ。

……士気が低いし長旅の疲れも抜けていない、そもそも鎧も槍も旧式、あの戦車以外に見どころはなからなぁ。

……しかしそっか、アレまだもう一台あったよね」

と、そんな会話をしている中もアレス男爵は暴れていて、中々の戦果を上げている。

男爵が着込んだ鎧は、男爵専用に仕上げたものだ、体格はもちろん力の強さなども考慮に入れて設計されていて、更には男爵が得意としている戦い方をサポート出来るようにもなっている。

男爵はしっかりとした騎士としての教育を受けていて、武器を使っての戦いも得意としているが、武器無しの素手というか籠手での戦いも得意としていて、盾の中の魔法石を使い切ってしまったのか放り投げて、相手の騎士の鎧を引っ掴み、強引に引き剥がして装備と戦意を失わせるという、強引過ぎる戦い方を披露している。

装備を引き剥がされた側は、元々士気が低い所にそんなことをされてはもう戦いどころではなく、心折れたのかその場にへたりこんでしまっている。

そんな中で叔父上は後方に控えてアゴヒゲを撫でながら様子を見守っていて……相変わらずのヘラヘラとした表情を浮かべている。

……絶対ロクなこと考えていないなぁと分かる顔で、俺の視線に気付くとウィンクなんてものをしてきて、最高に腹立つ決め顔を向けてくる。

それから叔父上は視線をセリーナ司教様へと向けて、またも決め顔。

……偽物扱いしたことも計算の上だったのか、なんらかの根回しをしておいたのか。

あるいは教会関係者と既に接触していて、なんらかの弱みのようなものを握っているとかだろうか。

……あの自信満々の顔、絶対に何かあるなと思わせてくる。

と、そこで叔父上がかなり大げさな表情でもって口を開き、何かを喋り始める。

ひどく大げさで、滑稽な程に口を動かして……しかし近くに立っている副官? は、戦場の様子に夢中で叔父上のそんな様子に気付いていない。

……もしかして声は出していないのか?

「フィリップ、読唇術はいけるか?」

「は? え? いや、前に兄貴からそんな話を聞いて練習したりはしたけど、アレってそんな簡単に習得できるものじゃぁ……」

突然の俺の問いかけにそう返してきたフィリップは、俺の視線を追いかけて俺が何を見ているかに気付いて、そして吹き出しそうになる自分の口を慌てて両手で押し込む。

それ程に叔父上の顔は滑稽だったが、それでもどうにか笑いを堪えてフィリップは、未熟な読唇術を披露してくれる。

「えーと……2かな、数字の2。

2の車……ああ、二台目の戦車か、その中に……中? 中になんだろ」

叔父上はフィリップが読唇術をしていると気付いているのだろう、そしてどこまで読み取れているかも態度などから分かっているらしい。

フィリップがしっかり読み取れるまで何度もその部分を繰り返してくれて……伝えたいことをこちらに伝えようとしてきている。

「中に人……人がいる。

いや、そりゃそうでしょ、運転手がいるでしょ、そりゃぁ。

……いや、違うか、運転手以外の人かな……なんか重要な人がいるみたいだね。

二人……多分二人いる、兄貴にとって重要な人が二人、二台目の中にいるからなんとかしてみろってことかな。

えーっと、誰がいるんだ? 誰? えーっと、王太子と男爵?? 何馬鹿言ってんのさ」

王太子本人がいるなんてことは絶対にないだろう、あり得ないなんてレベルじゃない。

仮に王太子本人がこの場にいたらもっと他の何かをしでかしていただろうし、叔父上も別の動きをしていたはずだ。

つまりは王太子に関連する誰かが乗り込んでいるのだろう、誰か……仲間か家族か、あるいは王太子に伝手がある人物だろうか。

そうなると男爵はアレス男爵ではなくクロスビー男爵家の誰かということになるのか。

……いや、流石に捕縛命令が出ている家の者をそうはしないだろうから、関係者とかになるのか。

どちらにせよ確保は必須となる訳で、二台目の戦車には慎重に対応する必要がありそうだ。

「ぬぉぉぉぉぉぉ!!」

と、そんな事を考えているとアレス男爵の雄叫びが響き渡る。

慌てて戦場に視線を戻すと、戦車周囲の騎士全てを薙ぎ払った上で戦車の後部の動力部に取り付き……それすらも手でもって引き剥がそうとしているようだ。

そんな馬鹿なと思うが、全てではないにせよ一部のパーツが見事に引き剥がれていて、それにより破損……動力を失った一台目の戦車は動きを完全に停止させる。

大槍も動力も破損、そうなるとただの棺桶でしかなく、アレス男爵は一台目から興味を失い、その奥……叔父上の側で動力を唸らせながら待機している二台目に向けてのっしのっしと歩いていく。

盾もなしに。

流石にそれはまずいと他の騎士達が大慌てでアレス男爵に続いて窓から降下、一部は戦意喪失した騎士の確保、一部は戦車の確保、そして残りが盾や槍を持って男爵の下に駆けつける。

と、そこで動きがある。二台目の戦車が動き出し……叔父上も部下に用意させたらしい鎧に乗り込んで、槍を手にして前進をし始める。

しっかりと槍を構え、周囲に視線をやって味方の状況を把握し、しっかりと指示を出しながら男爵の下へと向かい……あ、これ、叔父上、本気だな?

ここが見せ場だからって本気出そうとしているな? この騒動の後に自分を高値で売りつけるために本気の実力っていうのを周囲に見せつけようとしているな??

「男爵! 手加減はするな!! 本気でやれ!!」

大慌てで声を張り上げる。

言ってしまうとアレス男爵と叔父上ならば男爵の方が腕は上だ、余裕を残して勝てるくらいの差はあると思う。

……が、叔父上も雑魚ではない、相応の抵抗をしそれなりのダメージだって与えられるはずだ。

指揮能力は高く視野が広く、戦車と上手く連携をしたならアレス男爵にも勝ててしまうかもしれない。

そして普段はヘラヘラとしている指揮官本人が、妙に真剣になって勝つ気満々で前に出たことで、他の騎士達も勝機を見たのか、いくらかの士気を取り戻し動きが鋭くなっていく。

ただ自分の価値を高く売り込みたいだけとは知らずに、それすらも計算通りなのだろう、叔父上の目論見通りに男爵に迫っていく。

流石にそうなると男爵だけに任せてはいられないと、ライデル他、我が領自慢の騎士達も前に進み出て……戦車の確保はドルイドの騎士達に任される。

ドルイド達は今回は様子見……いざという時のための防衛に回るようだ。

騎士同士盛り上がっているからというのもあるんだろうなぁ。

我が領にやってきて騎士としての修練に励むようになったドルイド達は、騎士道物語も嗜むようになっていて……そういう騎士道的なあれこれを好むようになってきている。

つまりは騎士同士の正々堂々たる戦いを見たいと考えているのだろう。

これもまた異文化交流か、なんてことを考えながら戦場全体を見守り、特に叔父上の動きに視線をやる。

真っ当に戦うだけなら良いが、何かやらかされるのは困る……油断せずに目を見開いて、そうしてこれから始まる決着に全神経を集中させるのだった。