軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

隣国

屋敷近くの駅までの飛空艇旅行の時間は短く、何も言わずにその時間を過ごしても良かったのだが、当主として聞かなければならないことがあり……ソファに深く腰を掛け、脚を組んでから、真剣な顔でもって母上に声をかける。

「……王城では何もありませんでしたか?」

それはつまり、王太子に何かされなかったか? 姉上は無事なのか? という問い掛けで、一瞬硬い顔をした母上は、すぐに表情を和らげ言葉を返す。

「プルミアが頑張ってくれたので、問題ありませんでしたよ。

そもそもわたくしも使用人達もついていたのですから、問題など起こさせるものですか」

無事なのは良かったが、なんでそこでプルミアの名前が? という驚きと違和感で何も言えなくなっていると、窓に頬を貼り付けて下の世界を眺めていたプルミアが、こちらに向き直り胸を張って力強い声を上げる。

「あの無礼な王太子は、さっき持ってた鞭でビシッと撃退しておきました!

お姉様が自分に惹かれているなんて思い込んで、気持ち悪いことばかり言ったりしたりする方でしたが、鞭で叩くとすぐに逃げるので問題はなかったです!」

「……王太子を叩いたのか? 乗馬鞭で?」

王族を殺そうとしている俺でも驚くことをするなぁと、冷や汗をかきながら言葉を返すとプルミアは鼻息荒く言葉を続けてくる。

「ビシビシ叩きました! でも何も言ってこなかったですよ。

閉じ込めて気持ち悪いことして、幼い女の子に叩かれて逃げましたなんて誰にも言えなかったみたいで、それはもう何度も何度も叩いて追い返しましたけど問題にはなってないですよ!」

そんなプルミアに対し姉上はどこか誇らしそうな目を向けて、母上は呆れ半分の目を向ける。

……そして当主として俺は、言葉で褒めるのは拙かろうと何も言わずに、そっと頭を撫でることで、その頑張りを労うことにする。

これは飛空艇も買ってやらないと駄目かもしれないなぁと、そう思いながら撫でていると駅に到着したようで、飛空艇が速度を落とし着陸のための動きを始める。

着陸したなら俺が三人をエスコートして下船、バトラーが気を利かせて用意してくれた馬車に三人を送り込み、槍を持っていかなければならない俺とライデルは徒歩で屋敷へ。

すると屋敷の前でお祖父様が待ってくれていて……まず母上、それから姉上、プルミアの順でハグを交わしていく。

そこに俺が到着すると、必要もないだろうに俺にもハグをしてくれて、それから皆で屋敷に戻る。

すると母上と仲の良かったメイド達が並んで母上達を出迎えて…‥そのまま母上達はメイド達と共にそれぞれの自室へ。

今日はもうそのまま休むに違いなく、メイド達に全てを任せて……俺はお祖父様と話をすべくお祖父様と俺と、バトラーとお祖父様の家臣達とで執務室に足を向ける。

執務室には休憩用のソファもあるので、そちらに座り……小さなテーブルを挟んで向かい合うように座ったお祖父様に、何があったのかの報告をする。

報告を終えるとお祖父様はまず、我が家のバトラーに指示を出す。

「司教様に使いを出しておくように、正式に屋敷に招いて歓待と話をする必要があるだろう。

歓待については相手が司教様だ、配慮をしたものにするように、どうすべきか判断に迷う場合は近隣の教会に相談をすると良い。

ディース家の者達の様子は密偵に見張らせたい所だが……ブライトよ、手の者はいるのか?」

「一応いるにはいるのですが……同じことを繰り返さぬよう姉上達の護衛に回そうと思っているので、手が足りていません」

「分かった、ならばこちらで手を打っておこう」

と、そう言ってお祖父様は、側に控えていた自分の家臣にも指示を出す。

他家のお祖父様がうちのバトラーに指示を出すのは問題ではあるが……内容は的確で問題もないので、俺の方からもバトラーにお祖父様に従うようにと指示を出す。

そうやってバトラーと家臣達が動き出し、俺とお祖父様の二人きりとなった所で、お祖父様が真っ直ぐにこちらを見つめてきて、いつもよりも重く力強い声をかけてくる。

「ブライトよ、家族は取り戻した、領の経営も順調。

……このままでいれば豊かで平和な未来が待っておるだろう、それでも王族の首を望むか?」

「はい、望みます。

あれだけのことをされて、今でも大公やディース家を使っての侮辱が繰り返され、このまま放置などありえない話です。

しかもその先に待つのは、あの王太子が次の王になる未来、どんな悲劇が待っているやら、分かったものではありません。

母上達が無事に帰ってきてくれたことはとても喜んでもいますが、それで手を緩めることはないでしょう。

……むしろ姉上から王太子の話を聞いたことにより、殺意はより強固なものとなりましたよ」

王族は絶対ぶっ殺す、特に王太子はひどい目に遭わせた上でぶっ殺す。

そんな想いを力強く込めて、まっすぐに視線と言葉を返すと、お祖父様は満足そうな笑みを浮かべて頷く。

「それでこそ儂の孫というものよ。

……それで、仮に王族全てを殺したとして、その後の国をどうするつもりだ?

まさかお前が次の王朝を築くつもりなのか?」

「いえ、王朝交代はさせるでしょうが、自分や親戚をそこに押し込むつもりはありません。

……ありませんが、政治には口を出すつもりです、王権を弱めて議会制を採用し、これから始まるだろう新たな時代に対応出来る政府を構築するつもりです」

「議会……と言うと、古代帝国のアレか?

それが新たな時代に適応していると?」

お祖父様の言う古代帝国とは、こちらの歴史に残っている巨大帝国のことで……あちらの世界で言う所の共和政ローマのことで、その帝国の共和政治のことを言っているのだろう。

「いえ、アレとはまた違うものとなるでしょう。

貴族、聖職者、市民、それぞれから代表を選び議員とし、議員の多数決でもって方針を定め、王はそれを承認するのみ。

王権を完全に廃し、また間接的にですが貴族の力も削ぎます。

貴族の中には王族にも負けない愚か者がこびりついていて……逆に市民の中には貴族に負けない才能が眠っています。

余分なものを排除し、必要なものを拾い上げられる制度にしなければ、いつか他国に追いやられる日がやってくるでしょう。

飛空艇が普及したなら世界は縮まり、全くの別大陸からの侵略者がやってくる可能性すらあります、そうなってから改革したでは手遅れです。

余裕のある今だからこそ改革が必要だと考えます……貴族もふるいにかけられる時が来たのです。

そうなりたくなければ力を示し……その力でもって国の役に立ってもらわねばなりません」

「……なるほど、お前のことだから王族憎しだけではないだろうと思ってはおったが、そこまで考えを回しているとはな。

……確か今、お前の父が戦っている国も改革だ、革命だと騒いで荒れていたのだったな。

そこに王太子が介入しての戦争だというのに尻拭いはお前達に押し付け……結果が、こんなにも立派で輝く才能の開花という訳だ。

……お前の父がどうにか生き残っているのもまたブライト、お前のおかげなのだろう?」

「飛空艇を上手く使って物資と人員を融通しているだけで、戦略などには口出ししていませんよ。

……流石に戦争に関してまでは学べていません、統治と王族の抹殺のことで精一杯です」

父上と兄上が戦っているのは海の向こう、大陸での話。

王家からのろくな支援もなく、物資は現地調達のみで当初はかなりの苦戦を強いられていたようだが……俺が飛空艇での支援を開始してからはどうにか大陸の『両勢力』と渡り合っているようだ。

両勢力というのは王党派と革命派のことで……王太子は王党派を支援したかったようだが、王太子に色々とやらかされている父上はそんなつもりは一切なく、むしろ革命派の味方をしていたようだ。

が……革命派が色々とやらかしたのもあり、豊富な物資と人員で余裕が出来たのもあり、両者に難癖をつけた上で両者を相手に大暴れ、勝手に大陸に支配地域まで築き上げようとしているらしい。

それが出来たなら領土化して、大陸への橋頭堡にするおつもりのようで……王太子はそんな父上達に文句を言っていたらしいが、物資も人員も寄越さずに文句だけ寄越すのかと激怒した父上に、使者の首の塩漬けを送りつけられてからは放置を決め込んでいるようだ。

放置して状況が改善するとは思えないのだが……王太子にはそういった難事を見ないふりをして放置するという悪癖があるようだ。

……そんなのが王権を握るなぞ、冗談じゃぁない。

前世の世界でも近代化と同時に議会制が成立していった訳だし、そろそろ頃合いのはず、議会を作りつつ国にとって害にしかならない王族と無能貴族達を廃し、その流れの中で自分達はより強固な権力と財力を握る。

……という俺の思惑にお祖父様はしっかりと気付いてくれていて、なんとも悪い笑みを浮かべながら自分達はどう動くか、どう権力を増させるかと、そんな悪巧みをしている様子だ。

「全く、本当に出来た孫だ。

……儂はただ父から侯爵を継いだだけの身、それ以上など望めないと思ってこれまでを生きてきたが、出来孫のおかげでそれ以上を望めそうではないか? えぇ?」

と、お祖父様、顔は緩んで声は弾んで、本当に嬉しそうだ。

「お祖父様が長生きしてくださったら、議長を頼むこともあるかもしれません。

……ただし議長が相手でも私は言うことを言いますし、議長と縁深いものであっても無能は潰します。

もちろん私と縁深いものであっても容赦はしません、王族を殺したからには、それが正しいことだったと見せるための公平性が必要でしょうから」

王族はぶっ殺したいが、その先も人生は続く訳で、家族のことも考えれば、世間から必要以上に悪く見られないようにする必要はあるだろう。

そのための工作や準備も進めているが……その後のこともしっかりと考えておく必要があり、そのためには公平……に見える態度というのは重要だと思う。

「本当に、本当に出来た孫だが……そこまでするのであれば、まだ足りんな。

幼く経験も浅い、人脈も十分とは言えず、大義名分も足りん。

ゆえに今後はその辺りを揃えていくことになるだろう、王族の首まではまだまだ遠いな。

……しかしそうなると婚約者をどうしたものか、大義に賛同してくれる上で、役に立つ女を選ぶ必要があるなぁ。

……ブライト、お前に当てはないのか? そのくらいのことを考えられるのなら、候補くらいはおるのだろう?」

「……一応はまぁ、考えてはいますが、難しい相手だとも思っています。

隣国の、西の島の王女なら都合が良いかなと……飛空艇の通り道でもある関係で、なんらかの条約を結びたいと思ってもいるので」

俺がそう返すと、瞬間お祖父様は、

「だーーーーはっはっはっは!!」

と、大口を開けての大爆笑をする。

初めて見るような爆笑っぷりで、しばらくそれを眺めていた俺は、お祖父様が仕草でもって考えを説明しろと伝えていることに気付き、説明を始める。

隣国の西の島、それは父上の戦場となる東の国の真逆、海を越えての西側に位置する国のことで、この国の数倍の大きさの領土を所有しながら、文明の発展が遅れた蛮族の住まう蛮地だと考えられている。

大昔にいざこざがあった関係から、そんな蛮族を蔑み迫害することは国是にもなっていて……昔から我が国は西の島に対して様々な嫌がらせを行ってきた。

それだけのせいではないがその影響は大きく、西の島の文明発展は大きく遅れて本当に蛮族のような生活をすることになってしまっていて……彼らは理不尽な歴史と身勝手な国是の被害者であり、個人的に大いに同情する部分があった。

その上、迫害を命令し推進しているのは王族で、俺からあれやこれやと奪った以後も厚顔無恥にも迫害などをしろと命令してきていて……当然俺は反発することになる。

父上がやってきた様々な西の島に対する政策を廃止し、王家にバレないように規模は抑えつつではあるが、西の島に対して様々な支援を行ってきた。

食糧支援、技術支援、最新型の漁船も何隻か送り、あちらの国土のどこかに魔法石鉱山がないかと調査隊を派遣、早速見つかった鉱山の開発まで請け負っている。

その程度のことでは長年苦しめられた恨みは消えないだろうが、飛空艇の航路として上空を使って良いと許可を得られる程度には関係は改善していて……そこから王女を頂戴出来たなら、立派な大義名分が得られることだろう。

新聞が発達したおかげか、市民の意識はかなり変わってきていて……人権意識とでも言うのだろうか、最近はそういったものが根付きつつある。

そんな市民の意識の変化から変更を余儀なくされた法もいくつかあって……西の島の惨状を新聞を通して伝えたなら、市民の同情を得られることは確実で、王族への非難は増すことだろう。

まぁ、貴族が蛮族と呼ばれているような国から妻を娶るということ自体がリスキーで大問題でもあるのだが……しかし王族を殺すことに主眼を置くなら、悪くない手だとも思っている。

と、そんな俺の考えを爆笑しながら聞いていたお祖父様は、引きつる腹をどうにか押さえ込みながら言葉を返してくる。

「……はぁ、まったく、こんなに笑ったのはいつ以来になるのか。

……悪くはない、悪くはないがそれだけでは駄目だろうな、側室でなら良いが、正室は駄目だ、まだそこまでの変化は受け入れられん。

……しかしまぁ、可愛い孫がそんな大胆なことを考えているんだ、祖父として応援してやらねばならんだろうなぁ。

一層難しくなった婚約者選びだが……任せておけ、この儂がなんとか蛮族の側室すら呑み込む良縁を見つけてきてやろうではないか。

だからブライトよ、隣国との交渉をまとめ上げてみせろ、結婚とはこちらの想いだけで成せるものではないのだからな」

と、お祖父様がそう言ったその時だった、執務室のドアがノックされ、俺が「入れ」と返すとバトラーが姿を見せて、報告を上げてくる。

「西から使者が参りました、鉱山開発の礼がしたいとのことです」

……噂をすればなんとやら。なんというタイミングで来てくれたのだと目を丸くしていると、

「これこそが天運よ! 我が愛孫は持っておるなぁ!!」

と、お祖父様がそんな声を上げて……自分も使者と会うつもりなのか立ち上がり、さっさとお前も立てと、俺の背中を力いっぱいに叩いてくるのだった。

――――王城のとある部屋で、ある令嬢が発見したメモ書き

ウィルバートフォース伯爵 軍事10 統治4 外交7

軍事力に優れた武門の家、特に当主である伯爵の武勇は国内随一で、指揮を取っても超一流。

領地経営は苦手としているが、その武力でもって強引に全てを解決していた。

長男もまたその血を引き継いで武勇に優れていたが(軍事9 統治6 外交6)次男は優れた面を一切引き継がず、悪辣な伯爵の性格だけを引き継いだ。

父親と祖父の溺愛によってその性格は更に悪化、―――でも稀に見る悪役に。

流行り病で伯爵と長男が病死すると、その次男が台頭する。

次男、次期伯爵 軍事3 統治2 外交4

その能力の低さと悪辣さから領の経営が一気に悪化、没落寸前となり、学園でのいざこざを経て主人公である王太子を逆恨みするようになり、最終的に飢えて困窮した西方蛮族を奴隷兵として運用しての反乱を引き起こす。

次男の指揮能力は全くの論外だったが、蛮族奴隷兵の強さが尋常ではなく、鎧との好相性もあって王城目前まで戦線を押し込まれるが、主人公と――――の愛の力で討伐し、ハッピー――――――へ。

悪役として設定が悪い方向に作り込まれているため、次男が成功したり勝利したりする―――は存在しない、ノーマル―――、バッド―――でも次男は奴隷兵の反乱などで自滅する。

そのはずだが次男が妙な動きを始めたため、本来よりも早く没落してもらうことに。

父親と長男さえいなければ勝手に自滅するはずだ、だから――――