軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

59.時計

ユウナさんの店を出た私たちは、無事ウェイド辺境伯の家に戻ってきていた。間違いなくユウナさんには、私が転生者であることはバレてしまっている。

まあ、別にそれほど悲観するようなことではないだろう。

転生転移者なんてバレてしまったら、お互いの身が危なくなるのは確かだ。向こうも向こうで商売もしているし、そんなバカなことはしないのは理解している。

それよりも、同じ故郷を持つ人間として仲良くしたいところだ。向こうも恐らくはそのつもりて聞いてきているだろうし。

けれども……やっぱりデジタルの目覚まし時計はこの世界には合わないな。今もウェイド辺境伯が興味深そうに見ているが、あまりにも中世ヨーロッパの貴族が持っているものとは思えない。

「シセ……この時計はどうなっているんだ? 秒針があるわけでもないし、なんだろうこの見え方は?」

案の定疑問に思っているようである。だけど、これに関して言えば私も上手い説明の仕方が分からない。デジタル時計の仕組みなんて、考えたこともなかったからだ。

「魔法で動いているんじゃないですかね」

「魔法、か。これほどまでの魔法は見たことがないな」

「すごい魔法なんでしょう……」

我ながら語彙力なんて皆無の説明ではあるが、ウェイド辺境伯はどこか納得が行っている様子である。よかった、これでなんとかなって。

ウェイド辺境伯は私に時計を手渡した後、ふむと顎に手を当てる。

「しかしギルドマスターも待機と言ったが、こればかりは俺たちのメンタルもなかなかに削られそうだな」

「そうですね。まあ、私たちができることは魔族側から動きがあるまで待機することしかできません」

居場所を探るにも、万が一私たちの動きが王家側にバレた時が怖い。何かしら疑いをかけられる立場にあるのは間違いないし、最善の策は大人しくしておくくらいしかないだろう。

「そうだな。とりあえず、今はこの時計を眺めておくくらいが一番メンタルにもいいだろうしね」

ずっとウェイド辺境伯がこの時計を眺めているのも、なかなかシュールな光景である。ともあれ、実際問題そっちの方がメンタルにいいのは確かだ。

ただ……そろそろ私も一度眠りについた方がいい時間である。ウェイド辺境伯には申し訳ないが、このデジタル時計は回収することにしよう。

なんと言っても、少しばかり私もデジタル時計を使うのが楽しみになってしまっているのだ。日本でいた頃も、デジタル時計をよく愛用していた。

スマホももちろんあったが、寝る前は別の部屋に置いていたこともあって、とにかくこういうタイプの時計を愛用していたのだ。

私がそわそわしていると、ウェイド辺境伯はそれに気がついてくすりと笑う。

「あ、そろそろ時間か。起きたらまた感想を教えてくれよ、シセ」

「もちろんです。完璧に教えます」

私はそう言って、ウェイド辺境伯におやすみを伝える。自室までの廊下にて、時計を持って少しばかりドキドキとしてしまっていた。