軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

33.助けたいと願った全員の想いが、奇跡をつないだ

張り詰めた沈黙が教室を覆っていた。

女子生徒の必死の声は、空気を震わせ、誰の耳にも強く残っている。

レオニールは赤い瞳を揺らし、言葉を失っていた。

──その時。

「あの……」

おずおずとした声が背後から上がった。

振り向けば、ミアが胸の前で手を組み、勇気を奮い立たせるように一歩踏み出していた。

「私なら……少しだけ、この子の魔力を落ち着かせるお手伝いができるかもしれません」

小さな声だったが、その響きは教室全体に届いた。

驚きとざわめきが広がり、皆が彼女を見つめる。

ミアは俯きかけた顔を上げ、真剣な眼差しで言葉を重ねた。

「でも……これはお二人の力を注がれた子です。お二人の魔力に一番反応するはず。私の力は、その補助にすぎません」

か細くとも揺らがぬ声。

聖属性の光を宿す少女の決意は、場の空気を変えていった。

ミアの言葉に、レオニールは一瞬、息を呑んだ。

その赤い瞳が揺らぎ、女子生徒とミアを交互に見やる。

「……そんなことが、本当にできるのか……?」

掠れた声。

諦めと恐れに縛られていた彼に、女子生徒がすぐさま頷いた。

「できます! この子は、きっと応えてくれます!」

その必死な声に押されるように、レオニールは奥歯を噛み、掌の炎を消した。

「……分かった。僕も……試してみる」

ミアがそっと一歩前へ進む。

淡い光が彼女の手のひらに宿り、揺らぐシュプラウトへと差し伸べられた。

ふわり──と、教室の空気が変わった。

荒れ狂っていた光がわずかに揺らぎを弱め、鉢を叩きつけていた枝葉の動きが、戸惑うように止まる。

乱れていた脈動も、かすかに落ち着きを取り戻し始めた。

暴れるように見えていた姿が、ほんの一瞬、安らぎを求める子どものように見えた。

教室に張り詰めていた空気がわずかに緩み、生徒たちから小さな息が漏れる。

「大丈夫です。私が少し、魔力の流れを整えます。その間に……お二人で、この子に語りかけてあげてください」

ミアの言葉に、レオニールと女子生徒は向き合い、同時に鉢へ両手をかざした。

赤と青、二つの魔力がぶつかり合うように溢れ、しかし次第にミアの聖なる光に導かれ、ゆるやかな循環を描き始める。

「……落ち着け……僕たちの声が聞こえるだろう……」

レオニールの声が震えていた。

女子生徒も涙を浮かべながら、必死に呼びかける。

「大丈夫……あなたは独りじゃない。私たちが一緒だから……!」

暴れ狂っていた脈動が、ほんの少しずつ収まっていく。

荒々しかった光も弱まり、枝葉の震えが止み、鉢の中がしんと静まり返った。

──静けさが戻った。

けれど、その静けさは安らぎではなく、最期の眠りを思わせた。

膨れすぎていた胴は急速にしぼみ、しおれた蔓が鉢の縁を垂れ下がっていく。

あまりに小さく、弱々しくなった姿は、呼吸のような動きすら途絶えたように見えた。

教室を覆うのは、ひときわ深い沈黙。

誰もが声を飲み込み、ただ重苦しい空気の中で立ち尽くしていた。

「……助けられなかった……?」

女子生徒の瞳から、堰を切ったように涙がこぼれた。

震える手で鉢を抱きしめ、嗚咽を洩らす。

「私がもっと、しっかりしていれば……」

かすかな独白は、聞く者の胸を締めつけた。

その横で、レオニールが血の気を失った顔で立ち尽くしていた。

赤い瞳は揺れ、肩はかすかに震えている。

やがて奥歯を噛みしめ、掠れた声を押し出した。

「……僕の、せいだ」

強がり続けてきた彼が、初めて弱さをにじませた瞬間だった。

その声は教室の隅々まで響き、誰もが息を呑む。

──その時。

かすかに、鉢の中から淡い光が瞬いた。

しおれきったはずのシュプラウトが、微かに脈動を刻んでいたのだ。

「……生きて……る?」

女子生徒が息を呑み、涙で濡れた瞳を大きく見開く。

萎んでしまったけれど、まだ消えてはいなかった。

「……生きていてくれて……ありがとう……」

震える声で紡がれた言葉と同時に、彼女の目から新たな涙があふれた。

それは悲嘆の涙ではない。胸の奥を温め、溢れ出した喜びの涙だった。

一滴がぽとり、と鉢の中へ滴る。

その雫に応えるように、シュプラウトはふっと光を強め、また静かに瞬いた。

その光を目にしたレオニールが、はっと息を呑む。

赤い瞳が大きく見開かれ、驚きとともに揺らいでいた。

「……まだ……生きているのか……」

低く漏れた声は、安堵と戸惑いが入り交じっていた。

強く結ばれていた拳がほどけ、肩がかすかに震える。

「……ありがとう……本当に……」

掠れた声で吐き出されたその一言は、誰に向けたものか。

女子生徒にか、シュプラウトにか、それとも両方にか──。

だが、その響きは確かに、これまでの彼とは違って聞こえた。

私はその横顔を見つめながら、胸の奥で小さなざわめきを覚えていた。

傲慢で強引にしか見えなかった彼が、こんな表情を見せるなんて。

地雷としか思えなかった攻略対象にも、確かに変化の兆しがある。

──紅魔病に似た異変と、そこから得られた気づき。

そして、彼自身の心にも芽生え始めた何か。

そのすべてが、これから先へ続く道を示しているように思えた。