軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

23.のんびりランチに忍び寄る、唐揚げ泥棒

育成三週目に入ったシュプラウトたちは、目に見えて姿を変え始めていた。

鉢の中の芽はただ真っ直ぐに伸びているだけではない。

中心の茎が太くなり、まるで体幹のように軸を形づくっている。そこから分かれる枝は短いけれど、手足の原型のように広がっている。

私とグレンの鉢も同じだ。

淡い緑の光をまといながら、息をするかのように脈動している。茎の側面に小さな突起が伸びていて、それは指のようにも見えた。

……まだ人型と呼ぶには早い。

けれど、このまま育てばやがてそうなっていくのだろうと、確かな予感が胸に走った。

「観察記録は必ずつけるように。書き方は各自で工夫しなさい」

そう言いながら、教師は頭をかき回した。

「……とはいえ、日記のように感想ばかりでは比較にならんのですよ。困ったな」

教壇で小さくぼやく声が聞こえてくる。

この育成課程は今年から始まった新しい取り組みで、記録の雛形も存在しない。

だからこそ、皆がそれぞれ思いついたことを好きなように書き連ねているのが現状だった。

教師自身も、どう指導すればよいか苦心しているのが見て取れる。

「ノエリアさま、こちらを……」

その中で、グレンの記録は際立っていた。

彼が差し出してきた今日の観察記録は、魔力の注入量、芽の脈動、葉の色や形の変化が項目ごとにきちんと分けられ、一目で状況がわかる。

教師が手にしてもすぐ理解できそうなほど整理されている。

「……ずいぶん丁寧にまとめてあるのね」

思わず声が漏れた。

私自身も記録はつけていたが、こうまで見やすく整理はできていなかった。

グレンは一瞬、肩をびくりと揺らし、それからすぐに視線を伏せた。

「い、いえ……色々と試しつつ、この形になっただけです。ただ……記録が雑だと後で見返すときに困ると思って……」

淡々と答えてはいるが、どこかぎこちなさが残っていた。

「なるほど。確かに参考になるわ。ありがとう、グレン」

そう言えば、彼は小さく会釈した。

それ以上の反応はなく、表情も変わらない。

大分仲良くなってきたと思っていたけれど、まだ私を怖がっているのかしら。

褒められても固くなるなんて、困った人ね。

……ただ、前髪の隙間から見えた耳が赤いのは気になった。

熱でもあるのかしら。無理をしていなければいいけれど。

授業が終わり、ローレンスが教室から出て行くのを確認すると、私はミアへと声をかけた。

「ミア、よかったら一緒にお昼を食べないかしら?」

「えっ……わ、私なんかが……」

慌てて両手を振るミアに、私は小さく笑ってみせる。

遠慮するのはわかっていた。だから、あらかじめ用意していた口実を口にする。

「実はね、少し作りすぎてしまったの。味見をしてもらえると助かるわ」

「……ノエリアさまの手作り、ですか?」

恐る恐る問うその声に、私は軽くうなずいた。

「ええ。サンドイッチと、唐揚げにフライドポテトもあるわ」

バスケットの中身をちらりと見せる。

……この世界、見た目は中世ヨーロッパ風なのに、こういう料理が普通に存在しているのは、やっぱり乙女ゲーム仕様だからよね。

すると、ミアの瞳がきらきらと輝いた。

「ぜひ……ぜひ、ご一緒させてください!」

彼女の嬉しそうな顔に、私もほっと胸をなで下ろした。

二人で中庭に向かう。

芝生の上にシートを広げ、私は横に置いたバスケットの留め具を外した。

ふわりと布をめくると、きゅうっと詰め込まれたサンドイッチに、からりと揚がった唐揚げ、香ばしいポテトが顔をのぞかせる。

添えた色鮮やかなピクルスや小さな果物まで、陽の光を浴びて一層おいしそうに見える。

「わぁ……」

ミアが小さな声をもらし、ぱっと瞳を輝かせた。

それを見て、私もつい笑みをこぼす。

子どもたちに人気の定番メニュー。ミアも好きじゃないかと思っていたけれど──やっぱりだった。

「どうぞ、召し上がって」

勧めると、ミアはサンドイッチを恐る恐る手に取り、ぱくりとかじる。

「……おいしいですっ!」

その頬がほんのり赤くなり、嬉しそうに胸に手を当てる。

「本当に……ノエリアさまって、なんでもできてしまうんですね。学園でも優秀で、美しくて……お料理までこんなに」

「……そんなに褒めても、何も出ないわよ?」

苦笑しながら返すけれど、彼女の声に嘘がないことはよくわかる。

ただ、前世で散々作ってきた定番のお弁当が、こうしてまた人を笑顔にできるのだと思うと、不思議と胸がじんわりとした。

そのとき。

「おや、いい匂いがすると思ったら──やっぱり姉さまのお弁当か!」

ひょいっと顔を出したのは、我が義弟エミリオだった。

次の瞬間、彼は素早く手を伸ばし、唐揚げをひとつさらって口に放り込む。

「姉さまが料理まで得意だとは知らなかったな! おいしいよ!」

「ちょっと、エミリオ!」

私が声を上げる間もなく、彼は満足げに親指を立て、そのまま逃げるように駆けていってしまった。

「もう……」

私は思わずため息をつく。

けれど隣では、ミアがくすくすと笑っていた。

「エミリオさまって……本当に自由なんですね」

「ええ。あの無責任さには手を焼いているのだけれど……」

私は肩をすくめ、ふっと笑う。

「……でも、あなたには、あのくらいの気楽さを見習ってもらってもいいかもしれないわね」

そう言えば、ミアは目を瞬かせて──それから、少し恥ずかしそうに笑った。

中庭の芝生に、のんびりとした風が吹き抜けていく。

唐揚げの香ばしさと、まだ温もりを残したパンの匂い。

そのどれもが、学園の昼休みの一幕を優しく彩っていた。

──こうして笑い合える時間が、何より大切だと改めて思う。