軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

74 安らかな眠りが遠いです!

(あああああああっ、オズヴァルトさまの寝顔が……っ!!)

何処か無防備な表情が目に入り、シャーロットの心臓が凄まじい音を立て始める。

一晩かけて必死に耐え、至近距離での直視を避け続けてきたにもかかわらず、ここに来てついに直視してしまった。シャーロットは自らの顔を両手で覆い、オズヴァルトの過剰摂取から身を守る。

(大変です有り得ません由々しいです!! オズヴァルトさまと、おんなじ寝台で寝るというこの状況……!!)

シャーロットはオズヴァルトと夫婦だが、屋敷ではお互いの部屋は別だ。

おやすみなさいの挨拶をしたあとは、それぞれの部屋に戻って眠る。もちろんオズヴァルトと同じ寝台で眠ったことなど、シャーロットはこれまでに一度もない。

シャーロットがこの危機に直面することになったのは、つい昨晩のことだった。

オズヴァルトと外に出掛けて夕食を摂り、夜の聖都を少しお散歩して、宿に帰って来たまではよかったのだ。

別室にあるお風呂の支度は宿付きのメイドたちが行なってくれて、オズヴァルトとシャーロットのそれぞれが就寝の準備を終えた。

そうしてほかほかで戻ってきたシャーロットは、改めて寝室を覗いた際に、寝台がひとつしかないことにようやく気が付いたのである。

『何卒オズヴァルトさまがこの寝台をお使いください、何卒……!!』

『……君な……』

湯上がりのオズヴァルトは髪がまだ濡れていて、前髪が邪魔なのか後ろに掻き上げている。本来ならその姿を両目に焼き付けたいところなのだが、この緊急事態の解決が先だった。

『だとしたら、君は一体何処で寝るつもりだ?』

『私は立派な長椅子がありますので、というか床で十分です!!』

『やめろ! 君はどうして積極的に床を椅子や寝具として活用する!?』

『オズヴァルトさまと同じ空間で眠る幸運は、床の硬さと冷たさで相殺しませんと……!!』

『なんとなく分かったぞ。さては君』

あわあわと懇願するシャーロットを前に、オズヴァルトは溜め息をつく。

『俺と同じ寝台で眠るのが、怖いんだな?』

『ぎくう……!』

本心を華麗に見抜かれてしまい、身を震わせた。

『どどどどど、どうしてそれがお分かりに!?』

『俺は君の夫だぞ、誰よりも君の様子に詳しくなくてどうする』

『うわあん、オズヴァルトさまが理知的で格好良い……!! ですがお分かりでしたらお許しください、一緒に寝るのは絶対に駄目です!!』

『何故だ?』

シャーロットがはっきりとした拒絶を向けた所為で、オズヴァルトは少々拗ねたように目を細める。

『……ちゃんとまだ、キスしかしていない』

(『まだ』とは!?)

言い回しに意識が持っていかれそうになるものの、シャーロットは誤解を与えていたことに気が付いた。

『オズヴァルトさま、違います! 私が恐れているのは私自身、自分の愚かさと浅ましさについてです……!』

『君の?』

『健康的な人間が一晩に寝返りを打つ回数は二十回から四十回、キングサイズの寝台の横幅はおよそ二メートル、そしてこの大陸の女性の平均的な腕の長さは七十センチほどです! 就寝中という自分では制御できない無意識下において、寝返りをした私の手がオズヴァルトさまに誤って触れてしまう可能性は非常に高く!!』

『すごいな君。記憶喪失なのにさり気ない豆知識がすらすらと出てきているが』

『寝ている間のオズヴァルトさまに触れてしまうようなことなど、絶対にあってはなりません……!!』

万が一にもそんな事故が起きてしまえば、シャーロットは自分を許せない。オズヴァルトの眠りが安寧であればいいと思うのに、それを脅かす存在になる訳にはいかなかった。

『どうしても一緒に寝ないなら、君が寝台で俺が長椅子だ』

『!?』

オズヴァルトのとんでもない発言に、シャーロットは目を丸くする。けれどもオズヴァルトの表情を見れば、彼が決して譲る気が無いのは明白だった。

『うあ……ううあ、うあ……!!』

『しっかりしろ、壊れるんじゃない。――俺を長椅子で寝かせるか、君も一緒に寝台を使うかの二択だ』

『うわあああああん!!』

そんな選択肢を突きつけられては、シャーロットが拒めるはずもないのだった。

『うっ、うう……!! オズヴァルトさまお願いです、寝台のこの辺りに結界を張ってくださいませ……! オズヴァルトさまを、オズヴァルトさまを私からお守りせねば……!』

『待て落ち着け、妻に対する結界を張りながら眠らせるな。それに、君は……』

ぷるぷる震えていたシャーロットは、オズヴァルトが何かを言い掛けてやめたことに気が付いて、顔を上げる。

『……オズヴァルトさま……?』

『…………それに、明日はあのお方の所に行くんだ。もう休もう』

恐らくは意図して話を変えたオズヴァルトに、シャーロットは頷いたのである。