軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

17 これを噛み締めて生きていきます!

「オズヴァルトさま!!」

その夜、ハイデマリーの屋敷から帰されたシャーロットは、帰宅したオズヴァルトに再び出会えた喜びに打ち震えていた。

「お帰りなさいませオズヴァルトさま……!! お仕事お疲れさまでした! ご無事のお戻り何よりでした! 毎日お勤めをこなされて素敵です!」

「……」

「寒くはありませんでしたか? ご飯はお召し上がりになりましたか!? 私、オズヴァルトさまが帰って来てくださって、すごくすごく嬉しいです!」

「っ、分かった!! 分かったから、人の周りをぐるぐる回るんじゃない!!」

「はい!」

そう言われ、ぴたっと止まって姿勢を正す。

先ほどこの部屋を訪れたオズヴァルトは、青色の外套を纏ったままだ。

帰宅の際に玄関を経由せず、転移の陣を使って、直接この部屋の前に来たのかもしれない。

恐らくは監視、あるいは確認のためだろうが、仕事が終わってすぐに会いに来てくれたのだと思うと天にも昇る気持ちだった。

(はああ、今夜のオズヴァルトさまも格好良いです……! こちらの青い外套、お仕事の制服だというのに、オズヴァルトさまのために誂えたかのようなお似合い具合……。過去の私とは気が合いませんが、日記帳に挟んであった肖像画が外套姿なのは、素晴らしい判断でした……!)

仕事帰りということもあってか、オズヴァルトはほんの少しの疲労感を纏っていて、それが独特の色香を放っている。

彼は、不審者を見る目をシャーロットに向けつつ、こう尋ねてきた。

「……作法教育の結果は?」

「あ! ハイデマリー先生から、お手紙を預かって来ているのです!」

シャーロットは机まで駆けて行くと、預かったものを取りに行ってからオズヴァルトの元に戻った。そして、勢いよく頭を下げながら封筒を差し出す。

「お納めくださいオズヴァルトさま!!」

「いいから普通に渡して来い。――どれ」

(わわあ!! オズヴァルトさまが、私の方にその美しい御手を……!!)

直視しては倒れてしまいそうなので、ぎゅっと目を瞑る。オズヴァルトは手紙を受け取り、封筒を開けて、中身に目を通し始めたようだ。

しばらくのあいだ、寝室には静寂が訪れた。

頭を下げた姿勢のまま、シャーロットがちらりと顔を上げれば、オズヴァルトは苦い顔でぽつりと呟く。

「――『勝算は、ゼロではない』と書いてある」

「褒められていますか!?」

信じられない言葉をもらい、シャーロットは思わず両手を上に掲げた。

「……まあ、あの方が仰るのならそうなんだろう。お前にはなんと?」

「はい! 『あなたが今持っている社交界での武器は、他人の悪意がどう頑張っても刺さらない点――つまりは圧倒的な空気の読めなさです』と言っていただけました!!」

「いや、それは褒められているのか……?」

それはシャーロットには分からない。だが、オズヴァルトへの手紙にそう書いてくれたのであれば、多少は頑張れるということなのかもしれなかった。

「もしも私が、夜会で少しでも戦えるということなのであれば、本当によかったです」

心からほっとして、胸を撫で下ろす。

「私には、オズヴァルトさまを好きなこと以外、取り柄はありませんから」

「…………」

すると、オズヴァルトは眉根を寄せた。

「……オズヴァルトさま?」

「なんでもない。……第一それは、取り柄と言えるのか?」

「え! では、長所と呼ぶべきでしょうか!?」

「違う気がする」

オズヴァルトはそう言うが、シャーロットにとっては誇るべき点だ。なので、いまのところは長所あるいは取り柄としておきたい。

「ところで、オズヴァルトさま」

シャーロットは、じっとオズヴァルトを見つめてみた。

「……なんだ、その子犬のような潤んだ目は……」

「今夜のご報告は、オズヴァルトさまにとって少しでも良い結果になりましたか? あのう、もしもそうであれば……」

勇気を出し、思い切って発言をしてみる。

「もし、万が一、仮に、奇跡的に!! オズヴァルトさまからも、『偉かったな』とお褒めいただけたら、その嬉しさで一生頑張れてしまうのですが……!!」

「は……?」

オズヴァルトはやっぱり苦い顔だ。だが、その顰めっ面も美しい。

「オズヴァルトさまが存在して下さるだけで幸せです。こうしてご尊顔を拝見し、お言葉を交わし、私の存在を認識して下さるだけで喜びに満ち溢れます!! ですがどうやら、どんどん欲深くなってしまうようでっ、どうかどうか何卒……!!」

「…………」

「オズヴァルトさま……」

「………………」

じいっと見つめ続けると、やがてこれ以上ないほどの渋面を作ったオズヴァルトが、地を這うように低い声で口にした。

「……………………エラカッタナ」

「わああああああっ、ああーーーーーー!!!」

シャーロットはどしゃりと床に膝をつき、両手で顔を覆って打ち震える。

「うわああっ、あっ、あああ……!!」

「おい、正気を保て。熱湯を顔に浴びた魔物か? 君は」

「大丈夫です、生きています……!! いえ、ギリギリですが、ギリギリなんとか……!! ありがとうございます、ありがとうございますううう……」