軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

108 耐える必要があるのです!

「シャーロット!」

(っ、オズヴァルトさま……!)

凄まじい力が渦巻くのを、シャーロットは強く感じていた。

(いただいた守護石が、守ってくれました……! 魔力暴走の魔術が、完全に発動する前に、引き剥がせましたが……)

それでも、完全に影響が無いとは言えないようだ。

(体の中で、神力が暴れ回っています!! 神力自体は、オズヴァルトさまに、封じられていますのに。その封印の下で渦を巻いて、濁流を作っているかのような……っ)

クライドから受けた魔術の力が、心臓を覆うように脈動している。恐らくは先ほど、オズヴァルトを苦しめた痛みと同じものだろう。

(……オズヴァルトさまと、お揃いの痛み……)

震える体を押し留め、シャーロットは虚勢の笑顔を作る。

(そう思うと、平気で我慢できますね……!!)

「……ロッティ……」

座り込んだクライドは、守護石の破片で血だらけだ。魔力も枯渇寸前となっており、その姿が痛ましい。

「ごめんなさい、クライドさま……」

「……どうして……あなたのその様子。俺が、あなたの魔力暴走を目論むことまで、予測していた?」

「そうせざるを、得ない場所に、あなたを誘い出してしまいました。ここで戦えば、あなたは私とオズヴァルトさま、それぞれの暴走を狙うしかなくなります……」

この広場は現在、強固な結界で覆われている。

外の攻撃から守るためではない。中に閉じ込めたクライドを、転移で外に出さないためだ。

こうしておけば、外にいる無関係の人々を巻き込んで、魔力暴走を起こさせることが出来なくなる。

「だが、ロッティ」

「うあ……っ!?」

体の中で暴れる苛烈な力に、シャーロットは自身の体を抱き締めた。

「暴走する魔力が無かったオズヴァルトと、君は、違う。封じられている神力が、その封印を押し破ってでも、暴れ出す」

「う、うー……っ!!」

「オズヴァルトは、君を危険に晒した……!! 君を犠牲に、こうやって」

「……いいえ!」

その言葉を明確に否定して、シャーロットは手を伸ばす。

「オズヴァルトさまは、託して下さっているのです……!」

「!?」

震える指を伸ばした先に、掴んでくれる人の手がある。

いまにもくず折れそうなシャーロットを、彼が強く抱き締めてくれたのだ。

「オズヴァルトさま……!」

「――シャーロット」

やさしい声が、名前を呼んだ。

そうしてシャーロットに口付けをくれる。

オズヴァルトにくちびるを開かされ、熱い舌が触れ合うキスと共に、シャーロットの中に透き通った力が溢れる。

「んん……っ」

封じられていた神力が、一気に解き放たれるのを感じた。

数ヶ月前と同じだ。新たな陣を刻む封印と違い、こうして陣を触れ合わせることでの封印解除や再封印は、オズヴァルトの魔力が足りていない状況でも行うことが出来る。

(神力が、満ちて……)

シャーロットの脳裏に、断片的な光景がいくつも過ぎる。

幼い頃、小さな男の子を治癒したこと。そのしばらくあとに戦争へ行って、知らない国に差し出されたこと。

銀色の髪を持つ少年と、その止血をするようにと命令する言葉。腕の無くなった肩口に治癒を捧げると、失われた指先までが無事に戻ったこと。

少年に、これまで誰かを治したことがあるかと尋ねられ、数日前に助けた男の子を思い出した。

やがて月日が経ち、腕を治した少年が青年になって、シャーロットに魔術をひとつ教えてくれる。

そんな光景が、ひとつずつシャーロットの前で再生されてゆく。

(頭が、割れそうです……!)

腰に回されたオズヴァルトの手が、シャーロットをぐっと支えてくれた。くちびる同士が離れた瞬間、クライドが叫ぶ。

「ロッティ、馬鹿なことを……!」

(……クライドさまは)

たったいま目の当たりにした光景が、シャーロットの眼前で重なった。

(小さな私が出会っていた、お友達だったのですね……)

それを忘れてしまっていたことを、心から申し訳なく感じた。謝罪の言葉を述べたかったが、体内の強い衝動によって阻まれる。

「う、あ……っ!」

「魔術が、不発に終わったとはいえ……! 神力は、暴走の兆しを見せている。その状況で、神力の封印を解除すればどうなるか……!」

「シャーロット」

抱き締めてくれるオズヴァルトの声が、あやすような甘さで囁いた。

「すまない。……君に、辛い思いをさせている」

「っ、いいえ……!」

必死に首を横に振る。この方法をオズヴァルトに提案したのは、他でもないシャーロットだ。

(魔力暴走の魔術を使うクライドさまから、聖都の方々を守って戦う方法。オズヴァルトさまも私も死なずに、クライドさまを退けるためには……)

シャーロットは短く息を吐き、治癒魔術のための祈りに集中する。石畳に座り込み、血を流すクライドが、その様子を見て悟ったようだ。

「聖女の治癒によって、神力の暴走を抑えるつもりか……!?」

(私がここで、小規模でも暴走を起こしてしまえば……)

神力解放のための口付けが終わっても、オズヴァルトはシャーロットを離さない。オズヴァルト自身も苦しいはずなのに、やさしく頭を撫でてくれる。

(抱き締めて下さっているオズヴァルトさまも、無事ではいられません。……絶対に、私自身への治癒を、成功させます……!)

きつく目を閉じ、オズヴァルトに縋り付いてシャーロットは祈る。けれども神力は荒れ狂い、ちっともシャーロットに従わない。

どくんと強く脈打って、心臓が軋む心地がした。

「っ、あ……!!」

強い衝動に押し潰されそうになったとき、やさしい声が聞こえてくる。

「……シャーロット」

(オズヴァルト、さま……)

シャーロットを信じてくれるオズヴァルトから、落ち着かせるように名前を呼ばれた。