作品タイトル不明
105 これがひとつの対策です!
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(なんとか上手くいきました、よかった……!)
聖堂の前に佇むシャーロットは、祈りが通じたことを悟ってほっとした。
大神殿の階段から見下ろす広場では、オズヴァルトがクライドに対峙している。
クライドがオズヴァルトの首を掴み、魔力暴走の陣を発動させた瞬間は、恐ろしくて泣きそうだった。
(事前にこの方法を思い付いていて、幸いでした。……すっごく勇気がいりましたけれど……)
シャーロットが脳裏に浮かべたのは、エミールの執務室で『事前に準備をしておきたいことが』とオズヴァルトに告げ、ふたりで宿に転移したときのことだ。
『私にキスをしてくださいませ、オズヴァルトさま……!!』
『…………』
我ながら必死に懇願した直後、言い方を間違えたとシャーロットは悟った。
隣に座ったオズヴァルトは、一瞬だけぽかんとした顔をする。けれども深く事情を聞かず、すぐさま実行に移そうとしたのだ。
『――分かった』
『わあっ、わああああーーーーっ!? 違いますオズヴァルトさま、違うのです! いえ、していただきたいこと自体は何も違わないのですが……!!』
長椅子に押し倒されながら、シャーロットは必死に訴える。オズヴァルトはもちろんぴたりと止まり、シャーロットの言葉に耳を傾けてくれた。
『行なっていただきたいのは、封印を……! 私の神力の再封印を、していただきたく!』
『再封印?』
『はい……! た、ただし今回お願いしたいのは、互いの陣を触れさせるだけのものではなく……』
シャーロットは真っ赤になったまま『れっ』と小さく舌を出して、上目遣いにオズヴァルトを見上げる。
『こ、ここに、新ひい陣を刻んでいただひたひゅ……』
『……封印の陣を新しく刻む……つまり、いまの君に対してもう一度、封印魔術を新たに使えと』
『仰る通りです……! 前に行ったような、キスによって封印状態を切り替えるものではなく……』
シャーロットの神力はオズヴァルトに封じられており、封印時に陣が刻まれた互いの舌を触れさせると、神力解除の状態となる。
解除中に再び舌同士を触れさせれば、また封印状態に変わる仕組みだ。その切り替えに、オズヴァルトの魔力は必要としない。
しかしシャーロットが提案したのは、その切り替えを行うことではなく、回復しつつある神力を『新たに封印する』というものだった。
『何故、今になって君の神力を新たに封印するんだ? 回復しつつある神力は、封印状態の切り替えを行うだけでも、封印初期値の数値まで抑えられるが』
『主な目的は、私の神力を封じることそのものではなく、オズヴァルトさまの魔力を消耗することの方なのです! け、けけけけけ決して、キスをするのが目的ではなく!!』
『俺の魔力を……』
シャーロットが目を閉じてこくこく頷く中、オズヴァルトは察したようだ。
『……あのクライドという男の、魔力暴走への対策か』
『クライドさまが魔力暴走を狙う場合、もっとも標的になると危険なのは、オズヴァルトさまです……!』
魔力暴走において脅威となるのは、持ち主の膨大な魔力が暴れるからだ。
オズヴァルトの母が亡くなったのも、オズヴァルトの魔力暴走によるものだと聞いている。クライドはその事実を知らないだろうが、利用してくるのは間違いないだろう。
『数ヶ月前、オズヴァルトさまは国王陛下のご命令によって、私と結婚して神力を封印なさいました。その際に、オズヴァルトさまの魔力は枯渇寸前に陥ったのですよね?』
『……ああ。それも時間が経ち、随分と回復してきている』
『クライドさまと再会してしまう前に、オズヴァルトさまの魔力残量を減らすべきだと思うのです』
もちろん魔力を消費した状態にすることは、オズヴァルトにとって困難を招くだろう。
それでも、彼の魔力が暴走させられて、命の危険が生じるよりはずっと良い。
『クライドさまが魔力暴走を引き起こそうとしても、暴走する魔力が存在しなければ、オズヴァルトさまの命に関わることはなくなるかと……』
『…………』
『私の神力も、数ヶ月の間にまた回復しつつあります。以前、もう一度封印し直していただきたいとお願いした際、オズヴァルトさまはそれを行わなくて良いと言って下さいましたが……!』
あのときシャーロットが封印を願ったのは、自分の神力をゼロに近い状態へ戻すためだった。
けれども今回の懇願は、神力の封印が目的ではない。
『私の神力を封じる行為で、オズヴァルトさまの魔力残量を大きく削れますよね……?』
『……確かに』
恐る恐る尋ねたことに、オズヴァルトが同意してくれて安堵する。オズヴァルトの言葉はシャーロットにとって、世界で何よりも安心できるものだ。
『君の中に溜まりつつある神力は、もちろん最盛期より少ない。その分だけを改めて封印するなら、俺の魔力消費量も致命的ではないはずだ』
『いまある封印の上に、また封印を重ねる形になりますか?』
『そうだな。俺たちの舌に刻まれる封印の陣も、異なるものを二重に重ねる形になる』
『舌……!』
封印に必要な行為を意識してしまい、もじもじした。しかし、シャーロットの中に浮かんだこの考えは、オズヴァルトにも同意してもらえそうだ。