軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

75話 内戦勃発

「俺とあっちゃんのアイテムボックスとか魔法やゲームの事、あいつらに話した?」

「いや、話してねぇぞ」

「うん、何も話してないです」

「よかった、そのまま話さないでおいてくれ」

もしもあいつらに俺やあっちゃんのアイテムボックスや魔法の事を知られたら、この先付きまとわれてどんなに振り回されるかわかったもんじゃない。

そんなのはゴメンだ。

「実はしばらくの間ゴブリン討伐の依頼を受けちまってて泊まりがけになりそうなんだ。それが終わったら依頼の達成金が結構入るはずだから、そしたら引っ越そう。それまではあいつらに絶対バレないようにしてくれ。ヨッシー達は今まで通り街中で仕事して、あっちゃん達は自分達の分だけの家事をしてあいつらを何とかやり過ごして」

「自分達の分って?」

「自分達の洗濯とかね。どうせ引っ越すから掃除はしなくていいよ」

それから俺のアイテムボックスから防災用の水で作るおこわと乾パン、それと2リットルの水、鯖缶、ツナ缶を適当に出して渡した。

「あっちゃん、これあっちゃんのアイテムボックスに収納しておいて」

あっちゃんに預け、メンバーは必ずこの部屋で食事をする様にお願いした。

ゴミは捨てずにアイテムボックスに入れておくようにも言っておいた。

あいつらひとの部屋でも勝手に入って家捜しするくらいだから念には念を入れておく。ゴミひとつでも食いついてきそうだからな。

「ダン、アリサ、少しの間不便をかけるけど出て行かないでほしい」

ふたりの頭を撫でながらみんなの事を頼んだ。

「あ、それから、各自の荷物はそれぞれまとめて、あっちゃんのボックスに預けておいた方がいい。次の住まいが見つかったらすぐに動けるように。それとあいつら勝手に入ってきて何でも持っていきそうだから、荷物はまとめておいて」

ドアの開く音が階下から聞こえた。

ガヤガヤと大勢が入ってくる騒がしい話し声が下の階からしてくる。

「皆さんのオカエリだ」

俺はニヤリと黒く笑い、眠りかけていたマルクをあっちゃんのベッドに寝かせて部屋を出た。

「久しぶりに身体洗えたー」

「気持ちよかったねー」

「焼肉とスープのセット美味しかったわね」

「それは良かったな。だけどお金は返してもらえるのかな?」

土屋達は俺の声に一瞬驚いて、マズイという顔になったがすぐに開き直った。

「湯冷めしないうちに寝ましょう」

俺を無視して土屋を先頭に5人の女性が俺の横を通りすぎた。

「おい、金は返してもらえるんだろうな?」

5人のうち社員の立山さんだけはオロオロとしていた。

「聞こえないのか? ドロボーおばさん」

「49のアンタにおばさんとか言われたくないんだけど!」

俺のおばさん発言に反射的に振り向いたのは3係で一番若いパートの神島だ。

確かに日本での俺の年齢は49歳だ。49歳のおじさんにおばさん呼ばわりはされたくないだろうが、何で俺が49歳って知ってるんだ?

俺の個人情報ダダ漏れなのか?

5人のうちのひとりが俺に引っかかったせいで他の人もそのまま行く事が出来なくなった。

「ドロボー呼ばわりとか失礼ね、ちょっと借りただけじゃない」

土屋がヌケヌケと言い放った。

「借りたって事は返してもらえるんだろうな?」

「うるさわね! これだからハケンは!」

「ハケンのくせに生意気なのよ! アンタが出ていきなさいよ!」

「大山さん達(6係の男性)もみんな言ってるわよぉ。ハケンが図々しくて生意気で最低の人間だってぇ」

「島係長だってアンタが死んだって聞いた時飛び上がった喜んでたわよ」

「そうよ、何で生きてるのよ。図太いわね」

「今ここはうちら3係が8人いるし6係と5係だってうちらと同意見なんだからね」

「中松さん達は社員だからいいけどアンタはただのハケンなんだからここには不要なのよ。出ていきなさいよ」

「そうよ! 出て行きなさいよ!」

こいつら一対一だと太刀打ち出来ないくせに数さえいれば勝てるとでも思ってるのか?

バカなの?アホなの?

そもそもここは地球じゃないし、日本でもないし、「やまと」という名で守られていた会社ももうない。

俺が職場でどんなにひどい事を言われてもハイハイと聞いていたのは、どんなに仕事を押し付けられてもハイハイと受けていたのは、陰口どころか正面で悪口を言われても黙って聞き流していたのは、派遣という不安定な立場の“職”を失いたくなかったからだ。

でもここにはもうその不安定な足場などない。

そして俺はゲームキャラを持っていたおかげで、少なくともこいつらよりはしっかりとした足場の上にいるつもりだ。アイテムボックスがあったり魔法が使えたりと。

でも、こいつらは逆に「やまと」という足場を失った。

「やまと」という日本では大手企業だった会社の加護はこの世界にはもうないのだ。

自分達を守ってくれていたものが無くなった事にまだ気がついていないのか?

定年までの安定した生活なんてない。もう誰も面倒みてくれないぞ?病気になっても誰も何とかしてくれないぞ?

今つるんでる仲間?が面倒見てくれると思ったら大間違い。この異世界に「やまと商事」はもうないんだよ。

あるのは自分だけ。自分を守れるのは自分だけ。

『大丈夫ですか?加勢に入りましょうか?』

ユースケからパーティ念話が入った。二階にいたみんなが心配をしたようだ。

『大丈夫、わざと怒らせているから。数日後に自然と出ていけるような下地づくりだから』

『こえーよー、カオるん』

ヨッシーがブルブルと弱々しい声音で念話に入ってきた。

『いやぁ本当に、やまとの社員としてすみませんでしたーって土下座に行こうかと思いましたよ』

いやいや、ユースケ、俺そんなに怖いこといってないよね?

「ちょっとぉ! 聞こえないの!」

念話に気を取られていたせいで、宙を見つめて黙っていたら土屋が調子づいて怒鳴ってきた。

「ね、もうやめようよ」

立山さんがパート達を止めようとした。この人も部長と一緒で苦労しているんだろうな。ちょっとだけ同情した。ちょっとだけだけどな。

「出て行けって言ってるけど、この家借りるのに金出したのは俺達初期メンバーなんだけど?何度も言うけど、アンタらは、一銭も、金出していないよな?」

「お金お金ってうるさいわね! これだから貧乏ハケンは!」

「貧乏ハケンでスミマセーン。で、あんたらその貧乏ハケンが働いて貯めた金で、今、飲み食いしてきたんだよな?」

「だから! 借りただけだし。アンタの金じゃなくて石原さん達のお金を借りたんだから」

「あ、そう。わかった。じゃあ今夜からこっちとは生活費は別だ!使った分は後日返してもらうが、今後こっちはこっちで稼いだ金で生活する。そっちも好きにしろ」

「な、な、なによ」

土屋達は一瞬ヤバイという顔になった。

今度こそ自分たちで稼がないと飯も食べられないからだ。ガンバってくれ。

とりあえずこいつらとはキッチリ線を引いて、さっさと次の家を探そう。

いや、その前にゴブリン討伐で金を稼がねば。