軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

52話 神殿で

大森さんに買ってきてもらった、薄切り肉がたっぷりと挟まったパンをリビングで食べながら、神殿の帰りに買い物をしてこようと話をした。

この家の2階の4部屋は造り付けで簡単なベッドと棚だけはあった。

一階の2部屋は二階より若干広めでベッドと棚は造り付けではなく置いてあり、動かせるようだ。

リビングには今ランチをしている大きなテーブルと椅子が8脚、台所には鍋がいくつか残されているだけだった。

生活をするのに最小限の物は揃えないとならない。毛布、シーツ、タオル、食器、食材、着替えなど‥。残りわずかな資金で足りるかな?

明日は狩りに行くか、ギルドの依頼を受けてお金を稼いだ方がいいだろうか。

ちなみに部屋割りは、一階の西側の部屋(リビングの左側)を俺、二階の西側のふた部屋に中松さんと大森さんがそれぞれ入る事にした。

さて、食後の休憩も済んだので神殿へ行く。エリアテレポートを試すのでふたりに俺の近くに寄ってもらった。

ゲームではパソコンの画面のひとマス(何セル?)に集まったメンバーが一緒にテレポート出来るシステムだった。

ゲームでのひとマスがこの世界でどのくらいの広さかわからん‥‥。とりあえず俺に触れてもらった。

「エリアテレポート!」

魔法名を叫ぶと目の前にステータスボードのブックマーク先画面が現れた。

一覧から"神殿裏門"を選んで、指でクリックした。

目の前が真っ白になった次の瞬間にはもう俺達3人は神殿の裏門の中、木の陰に立っていた。

「うわ〜うわ〜! テレポートすごいです〜〜」

大森さんが顔を紅潮させてキョロキョロと周りを見回していた。うんうん、わかるぞ、その気持ち。

「すごい! 瞬間移動! 鹿野さん、これ日本で使えてたらメッチャ便利でしたね、通勤楽々ー」

「ホントなー、通勤片道2時間とか!俺の人生返せって感じだよ。さてと、俺はここで待ってるから、ふたりは部長に報告しておいで」

ふたりを神殿の中に送り出し、俺は神殿の奥の中庭あたりをぶらぶらとしながら時間をつぶしていた。

とそこにパーティ念話が入った。

『鹿野さーん、聞こえますかー』

『鹿野さん、まさか念話もマナーモードにしてないですよね!』

『聞こえてる、聞こえてるよ』

てか、マナーモードないからね。それと、“も"ってなんだよ、"念話も"って……。

『あ、よかった。通じた』

『どうした?』

『えっと、ちょっとこっちに来てもらっていいですか?』

『ん? いいけど何で?』

『部長がー、鹿野さんを置いて来ちゃった事気にしててむかえに行くって話が出てて』

『鹿野さんの安否をどこまで話していいのかわからないですー』

『ああ、そっか。わかった、そっち行く』

事務フロアに置き去りにされた時の島係長の態度に頭にきて、ふたりには俺の安否は不明にしてもらっていたんだった。あと島係長とのフレ登録も削除したしね。

俺はまだ森の中の事務フロアにいると思われているのかな。

マップの2つの青い点を捜しながら神殿の中を移動してふたりの元に向かった。

神殿の中の広い部屋に中松さんたちがいた。

そこは太い石の柱で囲まれたガランと広い石造りの部屋で、木製の長椅子がいくつも並んでいた。

正面の奥に女神像のような石像も立っていた。テレビの旅行番組でヨーロッパの築何百年以上のなんとか礼拝堂とか、なんちゃら教会とかにある石像に似た雰囲気のやつ。

その部屋の奥の方に中松さんと大森さん、部長とあと男性がふたり、立ち話をしていた。

よくみると部屋の壁沿いの床には転がって寝ている人達がいた。

薄汚れているがスーツを着ている人もいたから、日本人、こっちに残った"やまと"の社員さんたちだろうと思う。

部長のそばにいた男性は、ひとりは4係の係長の織田祐介さん。もうひとりは5係の係長の石原良伸さん、どちらも30代で妻子持ちの社員さんだ。

働かない社員が多い中、4係5係それぞれを支えていた、うちの部では苦労人の社員さんだ。

ちなみに二人のフルネームを知っているのは俺が総務の仕事もしていたからだ。

部内では「総務の仕事は3係」というのは表向き、総務の仕事はほぼ俺に流れてきていた。

部内の座席表とか緊急連絡表とか年末調整とか、いろいろ作成していたのでフルネームを覚えていた。

部内の社員さんのフルネームもだいたい覚えている。(1係の50名のおばさん達は名前と顔が一致しないが)

もちろん自分がいる6係の仕事もほぼほぼやっていたけどね。

「鹿野さん?!」

俺に気がついた石原さんが大きな声をあげた。

「え?鹿野さん? 良かった、無事だったんですね」

織田さんも心からホッとしたような顔をした。

「鹿野くん? 良かったぁぁぁ。大丈夫か? 置いていったと聞いて焦ったよ。本当に申し訳ない事をしたね」

本当に申し訳そうに安堵した顔をして山川部長が近づいてきた。

「周りがコソコソ話してるのを聞いて鹿野くんを置いてきた事を知って、仰天して島くんに聞いてもハッキリ言わないし、ここに残った人らに聞いてようやく事態を把握したんだ。これから3人で捜しに行くとこだったよ」

部長は俺の無事を案じてくれていたようだった。

俺はやまと商事に派遣されて10年、山川部長は一年前に異動をしてきたばかりで、部長とはほとんど口をきいた事がなかった。

社員が100人以上いる部署で、あんなにたくさんの問題児を抱えていたから、たかがいち派遣の事なんて眼中にないと思っていた。

そもそも顔も名前も覚えもらえるとは思っていなかった。

だから、ビックリした。まさか心配されているとは!今更ながらだがちょっと嬉しい。

「ご心配をおかけして申し訳ありませんでした」

石原さんと織田さんもごくごくたま〜に仕事で関わる程度だったので、ふたりが俺を探してくれようとしていた事にも驚いた。

ふたりにも頭を下げた。

6係の島係長がこの場にいないのは驚かなかった。アイツはもともとそういう人だし、やっぱりなという感じだ。アイツなら真っ先に開拓村に行くだろう。島係長はいつも部下より自分を優先していた。

でも4係5係の係長と部長が俺を案じてくれていたのは本当に驚きだった。

「みんなに遅れながら、後ろからずっと追いかけて街に入ったんです

連絡が遅くなってすみませんでした。グズっ」

違う!泣いてないからね。ちょっと鼻水が出ただけだから。

田舎を出て苦節20年間、初めて人の暖かみを知って感動してる、とかじゃないからね。

中松さん、なんで頭をなでるの。