軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

46話 閑話 ある騎士の証言② 騎士B

<騎士B 憤りの奮闘記>

ここは死の森の手前の草原。

「おい、中隊長らが森に入って6刻は経つぞ」

「まずいな……太陽が真上を越えて2刻か」

「ああ、そろそろ危険な刻に突入するはず」

「どうする? 中隊長らを追って森に入るか?」

「おい! 誰か走ってくる! 森から出てくるぞ!」

森を覗き込んでいた隊員の大きな声が耳に入った。

見ると森の奥からこちらに向かって走ってくる人影が見えた。樹々で薄暗く見えにくいが、その後ろにも数人続いているようだ。

小隊長と隊員3名と一緒に、見たことのない服を着た黒髪黒目の女性が数名、森から走りでてきた。

森の樹々が途切れた草の上に、バタバタと座り込んだ。

稀人か?

しかも3人も?

稀人が3名いた事に驚いたのも束の間、森からさらに黒髪の女性が出てきた。次々と。あ、男性も出てきた。どんどん出てくる。

え?稀人って何人落ちてきたんだ?ざっと数えて20人くらい出てきたぞ?そう思っていたら、ちょっと間が空き、まだ出てくる。

どんどん出てくる。

えええええ?おい、おい、おい、おい。

隊員も含め次々と森から出てきて、最後に中隊長が出てきた。

黒髪黒目の稀人さまは、なんと、101人もいらっしゃった。

そして中隊長以下11名がものすごく疲労しているように草の上に倒れ込んだ。

やはり“死の森”。魔物が半端のない強さだったのだろう。これでアンデッドの時間に突入していたらどうなっていた事か。

無事に森を抜ける事が出来て良かった。

と、安堵したのも束の間、中隊長らの疲労の本当の原因は魔物ではなかった!

「疲れた疲れた疲れた疲れた!」

「もう動けない! 動きたくないんですが!」

「もうヤダ! ここどこよ!」

「水くれー」

「喉渇いた」

「お腹すいたー」

「足いたあああい」

「ストッキング伝線しまくり!」

「マメ出来たあ、もう歩けないー」

「ちょっとここどこなのよ」

「知らんー、喉渇いた! コーヒー飲みたい」

「帰りたい! 帰りたいー、グス、グス、うええん」

「ヒック、ワダジもガエリたい、ヒク、ヒク」

ま、稀人さま???

何だコイツら……

まれびと、とはいったい?

自分が想像していた『稀人さま』はもっとこう、高尚な存在だったのだが?

ああ、女性達が泣き出した。女性というかおばちゃん・・・だな。いや、婆ちゃんくらいもかなりいるぞ?男性もおっさんが多いな。

小隊長が草の上に座り込んでいた中隊長のもとに向かった。今後の指示を仰ぐのだろう。

何しろ、おひとりと思っていた稀人さまが101人。馬や食料も全く足りない。

本来はここで休憩を一刻お取りして、その後、馬にて街に向かい夕刻には街に入れるはずだった。

だがこの人数だ。馬が全く足りない。ここから街まで徒歩、しかも、この状態で徒歩。

……途中、野営になりそうだ。だとすると、水も食料もたりない。

中隊長から指示をもらった小隊長が戻ってきた。

「一刻の休憩後、街道方面に向かい出発する。が、途中野営になる事が予想されるので、うちの隊から3名、騎馬にて街へ至急往復してもらう。百名規模の水と食料を荷馬車にて運んできてくれ」

「ですが、今から街に戻り準備しますと日没になり門がしまりますが」

「ああ、戻りは明日の早朝で構わない。稀人の皆さまには今夜の食事は我慢をしていただくしかないだろう」

小隊長からの指示で騎馬に自信のある3名が街へ向かった。

俺は残ったのだが、残った事をすぐに後悔した。

一刻の休憩後、中隊長が出発の掛け声をかけたのだが、稀人さまがたは一向に立ち上がらなかった。

「無理。もう歩けないから」

「疲れた。無理」

「・・・・・無理」

「ほら! 出発するぞ! 2係から出発して」

稀人の長的な方が声をかけても誰も立ち上がらない。

「ぶちょお、お手洗いに行きたいんですけど」

「あ、私も行きたい」

「私も行きたい」

「私もトイレ行きたい」

出発時刻に小用の声が次から次に上がった。休憩中にしておけよ。

中隊長はしかたなく出発を遅らせる旨を稀人の長に伝えていた。

もちろん草原の真っ只中に便所はない。男性は背の高い草むらの中へ小用を足しに行ったが、女性からの不満がすごかった。

「草むらでなんてできない!!!」

「近くにトイレないの!」

「戻ろうよ! やまとビルまで」

「もう我慢できない! どうにかして!」

いや、どうにもできないだろ。

ぎゃーぎゃー言いながら男性陣とは別の方向の草むらへ、女性らがほぼ全員入って行った。

「ちょっと! 近すぎ!」

「ここ、私だから! あっち行って、」

「ちょっと! あっち行け!」

「誰か! 紙ちょーだい!」

「紙ない! ヤバ!」

「紙持ってる人!」

「ティッシュなんて持ち歩かないよー」

「紙ちょーだい! 紙、紙」

「臭っ! 誰かウンチしたでしょ、くっさぁ〜」

いや、ホント、うるせーな。稀人。街往復の騎馬に名乗り出ればよかった。

稀人さまらの小用が済み、街道目指して草原を歩き始めた。が、稀人さまの足の遅い事。

ダラダラと足を引きずり、スライムより遅い進みだ。足は遅いが不平不満は止む事がない。

聞かされている方はジワジワと体力を削られていく。

喉が渇いたという声に、全員分はないが隊員が持っていた水の皮袋を渡して回し飲みをしてもらおうとした。

「コップないの?」

「え? これ、直に口のみ?」

「ヤダー、誰が飲んだかわからないものに口つけれない!」

「拭いて飲む? あ、タオルない」

「ビル出る時何も持ってこれなかった! 急かすからあ!」

「うわ! クサっ!」

「皮臭くて飲めない」

皮袋だからな!

腹が減って歩けないと言ったやつに自分の携帯食を渡した。

「え? ポケットに直入れ?」

「えーキタナー」

「くんくん、なにこれ、食べれるの?」

「やめなよ、お腹壊すよ」

コイツらぁ……。

あ、小隊長の目が遠くを見ている。

わかります!気持ちわかります!

死の森に迎えに入った第一小隊のやつらも死んだ魚の目で全員遠くを見ている。

稀人、恐るべし。