軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

38. お見合いの参加者が多すぎる

アルベルトは、すでにその場に控えていた。

騎士団の正装に身を包み、背筋を伸ばして座る姿はさすが騎士団長。

すぐにレティシアに気付くと、扉まで迎えに来て、——はたと動きを止めた。

「……え?」

ドレス姿に驚いたのか、レティシアを見下ろしたまま、アルベルトが棒立ちしている。

それからすぐに気を取り直したように、美しい所作で頭を下げた。

「騎士団長、アルベルト・ノープスと申します」

「……レティシアでいい。座れ」

「はい」

向かい合って座ると、あまり饒舌な男ではないのだろう、沈黙が落ちた。

手持無沙汰になって、レティシアが紅茶を口にする。

アルベルトは飲まなかった。会話が続かない。レティシアがまた紅茶を飲んだ。

合同訓練で見た時は、流れるように配下へと指示を出し、騎士団を見事に統率していたのに。

まさかこれほど寡黙な男だったとは。

ロイドもそう話すほうではなかったが、また違うタイプの騎士だな。

そんなことを考えながら、また紅茶に口を付ける。

こちらが口火を切らねば、いつまで経っても話が進まなそうだ。

「アルベルト、騎士団に入って何年になる」

「ちょうど十年です。十七の時に入団しました」

「今の仕事について不満はないか?」

「ありません。この国と、魔法帝陛下に仕えることが誇りですので」

アルベルトは表情を変えず、粛々と答えてく。

「……? どうした、緊張しているのか?」

「はい。普段はもっと話せるのですが、その、さすがに魔法帝陛下を前にすると言葉がでなくなってしまいまして」

「何も緊張することはない。ディーンもお前と同じ齢だが、不敬なんてもんじゃないぞ? 魔法師団が迷惑をかけているかと思うが、何かあったら言ってくれ」

「はい、ありがとうございます」

なんか、部下の面接みたいだな……。

お見合いってこんなんだったっけ? とレティシアは首を捻る。

「では改めて。陛下は、剣もお使いになると伺いました」

「たしなみ程度だがな」

「以前、合同訓練でお見かけした時から、伺ってみたかったのです。魔法師として圧倒的な力をお持ちなのに、なぜ剣も学ぼうと思われたのかと」

落ち着いた声のトーンが、耳に心地良い。

「魔力が尽きた時のためだ。あらゆる状況を想定して、できることを増やしておく」

「なるほど……では、今度私と手合わせをしていただけますか。陛下の剣を、ぜひ拝見したい」

純粋に騎士として興味を持っている目。

そしてどうしたらレティシアが興味を惹かれるか、よく分かっている。

「今、ここで手合わせしていくか?」

「いえその、……申し訳ありません。ここでもいいですが、できれば会う口実にもしたいと思いまして」

口説くためというわけではないのですが、と言い訳しながらも、なぜかその耳がじわじわと赤くなっていく。

正直な男のようだ。思った以上に好感が持てる。

「……悪くない提案だな。少し考えてみよう」

アルベルトは居住まいを正し、小さく深呼吸をした。

それから、ようやく落ち着いた目でレティシアを見る。

何かを言いかけて、――二人の目の端を、何かが過ぎった。

レティシアはアルベルトとの会話を中断し、ちらりと視線を向ける。

「……?」

人影である。背が高く、見覚えのある立ち姿で、両手に何かを持っている。

「……少し失礼する」

レティシアは応接室のソファを降り、窓へと歩み寄って外を見た。

懐中時計を携えたディーンが、礼装に身を包み、大きな紙を持っている。

その紙にはでかでかと、こう書かれていた。

『レティシア様。次のご予定は私でございます』

「ッ!?」

レティシアはカーテンを閉めた。

陽が差し込まぬ部屋は薄暗く、未婚の男女が過ごすには少し心許ない。

「つかぬことを聞くがアルベルト。この後の予定などについて、何か聞いているか?」

「はい、四人のお見合い相手と席を設けられると、伺っております」

「ほう……? どういうことだ」

「今回のお見合いはエントリー制になっておりまして」

「エントリー? それは、時間制だったりするのか?」

「……そうですね。あ、もう気付いたらそんなお時間でしたか。失礼いたしました。では次の方に場所をお譲りしましょう」

アルベルトは立ち上がり、軽く衣服を整えた。

「レティシア様。先ほどの手合わせの件、お返事お待ちしております」

「……うん、悪くない提案だと言った。考えておこう」

「ありがとうございます! では、ご連絡をお待ちしております」

ほんのりと耳を赤くしたまま、アルベルトは礼儀正しくお辞儀をして、応接室を出ていく。

レティシアはしばらく扉を見つめ、それから次なるお見合い相手に対峙した。

◇◇◇

「レティシア様! お待ちしておりました!」

「なぜお前がお見合い会場にいる?」

「本日の第二候補として、参りました」

「ちがう。お前が候補に入った理由を聞いている」

「……エントリーしました。溜まっている仕事が終わったら、参加していいと」

それで最近やけに大人しかったのか……もう立ち話で良さそうだ。

「誰の許可で?」

「……愛の力で」

どうしよう、話にならない。

だがレティシアは思い出した。ターナー卿の昨日の言葉を。

『もしアルベルトが気に入らなくても、候補は数人おりますので』

お見合い相手は計四人。あと二人も会わなければならないのだ。

「よし、分かった。……次だ」

「えっ」

ディーンの声が珍しく素に戻り、玄関の扉を閉められないよう手で押さえた。

「レティシア様、もう少しだけ――」

「次だ」

「……レティシア様、一つだけ、聞いてもらえますか」

ディーンの声のトーンが変わり、途端に真剣な顔になる。

「貴女の傍にいたいんです。あの、ずっと傍に」

「? もういるじゃないか」

ディーンが固まるが、レティシアはキョトンとしたまま続ける。

「まぁクロニクルもだが、やっぱりお前といた時間が一番長いな。うるさい奴だが、お前が静かだと落ち着かない。これからもずっと私の傍に居ろ」

ディーンはしばらく何も言えず、だがその目が潤んでいく。

「よし、じゃあ次だ!」

「レティシア様が……ずっと傍に居ろと……」

思いも寄らぬ言葉をもらい、ディーンはふわふわとした足取りで、その場を後にした。

「……あれ?」

感動で胸が高鳴り、だがしばらくしてふと立ち止まる。

もう一度さっきのやり取りを反芻したのか、首を傾げている。

「これ……部下として言われた……?」

まさかの、一ミリも進展していない……!?

ディーンはその場にしゃがみ込む。

夕暮れの道に、慟哭がこだました。

◇◇◇

サクサクとクッキーを食べる音が応接室に響き渡る。

三人目のお見合い相手を前に、レティシアはだらけきった態度で、その音の主を眺めていた。

「で、お前はなぜここにいる?」

《菓子を食わせてやるから、スケジュールに入れてほしいと頼まれて》

「誰に?」

「……それは言えないな」

レティシアは眉間を押さえた。

お見合い相手に、まさかの聖獣。

完全なる人数合わせだとしか思えない。

「そこにある焼き菓子はすべて持って行っていい。 ――次を呼んで来い」

◇◇◇

そして最後の一人が現れた。

これまでの流れからそんな気はしていたが、やはり最後はクロニクルだった。

「レティシア様、本日はお時間をいただきありがとうございます」

「……なぜお前が?」

「もともと四枠ございまして、それはすごい倍率だったのですが」

それだけ告げて、クロニクルは持っていたバスケットの蓋を開けた。

「ただでさえお疲れのところ、馴染みのない者が来たら気持ちが塞いでしまうかもしれません。なんとか二枠を押さえました。聖獣様とお見合いをされたのは、魔法国広しといえどレティシア様くらいですよ」

それに今回の件をターナー卿に報告したのは自分なので、責任の一端があります、とクロニクルは言い添える。

「無毒化魔法をかけますか?」

「いや、不要だ。……サンドイッチか?」

「はい、部下のお手製で恐縮ですが」

「……私の好きなタマゴサンドだ」

「今日はドレスアップなどで、朝から何も召し上がっていないでしょう? わたしのことは気にせず、お召し上がりください」

食べやすいサイズに切られたサンドイッチを口に運ぶと、香ばしいパンの香りが鼻腔を吐く。

「焼き立てです」

「……お前は何でも器用にこなすな」

ロイドも忙しい合間を縫っては、レティシアのために料理をしてくれた。

「困った、どうも私は、家庭的な男に弱いらしい」

「……それは光栄です」

ふんわりと、卵の優しい味がする。

仕事は進まなかったが、なかなか悪くない時間だった。