軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第42話 超巨大要塞へのトランスフォーム

ゴゴゴゴゴォォォォ……!!

数万の魔獣の足音が、死のカウントダウンのように響く。

「総員、防御陣形! 結界符を重ねろ!」

特務監査官である 東雲霞(しののめかすみ) の悲痛な叫びも虚しく、エリート部隊の魔力シールドは次々と限界を迎え、ひび割れていく。

目前には、ビルほどもあるSランク魔獣『タイタン・ボア』の巨大な牙。

(ああ……ここまでなのね……)

霞が死を覚悟し、目を閉じた瞬間。

『――よし、安全装置セーフティ解除。可動式・防衛シェルターモード、展開開始』

上空のドローンのスピーカーから聞こえた、ケントの気の抜けた声と共に。

ズガァァァァァァンッッ!!!

アビスの固い岩盤が爆発的な音を立てて隆起した。

「えっ……きゃあっ!?」

地震とは違う。規則正しく、かつ圧倒的な質量が押し上げてくる暴力的な振動。霞が目を開けると、そこには信じられない光景が広がっていた。

背後にあった平和な「ログハウス」と「家庭菜園」が、地響きと共に真っ二つに割れたのだ。

いや、割れたのではない。地下に敷設された免震用の巨大スライドレールの上を、凄まじいトルクを生み出す歯車機構と超巨大油圧ジャッキが唸りを上げ、数千トンの居住ブロックをシームレスに移動させているのだ。

ガシャァァァン! ズシンッ!

壁面からは分厚いアダマンタイトの追加装甲が展開し、無数の防空レーザー砲塔がせり出してくる。ものの十数秒。そこに現れたのは、温もりある木造建築ではなく、極限まで物理演算された『超巨大・重装甲要塞』だった。

「な、何これ……ロボットアニメ……!?」

呆然とする霞たちの足元が、突如としてパカッと開いた。

「わあっ!?」

悲鳴を上げる間もなく、霞と護衛部隊は『キャタピラ式無限泥落としマット』のベルトコンベア機構によって、要塞の内部へと強制的に吸い込まれていく。

その直後。霞たちがつい数秒前まで立っていた場所に、Sランク魔獣タイタン・ボアが激突した。

――ガゴォォォォンッ!!!

要塞の超重装甲に激突したタイタン・ボアは、そのまま熟れたトマトのようにベチャッと潰れ、光の粒子となって消滅した。

超巨大要塞は、傷一つどころか揺れすらしない。圧倒的、かつ絶対的な防御力である。

***

「いってて……」

「皆、無事ですか!?」

霞たちが放り出されたのは、無数の魔力モニターと計器が並ぶ、まるで巨大プラントの制御室のような空間だった。

そこでは信じられないことに、銀髪の 美少女(ルミナ) と羽の生えた妖精(コア公)が、ソファでくつろぎながら優雅にジェラートを食べていた。

「ああ、無事みたいだな。新規の作業員たち」

振り返ると、無数のモニター群の前に、場違いなほどリラックスした格好の男が立っていた。頭には『安全第一』と書かれた黄色いヘルメット。

ルミナの配信で何度も見た、あの異常なDIY建築士――ケントだ。

「あ、あなたがケントさん……! いや、じゃなくて!」

霞は立ち上がり、ヘルメット姿の男に詰め寄った。先ほどまでの死の恐怖は、規格外の技術を目の当たりにした「技術オタク」としての発狂に完全に上書きされていた。

「なんなのよこの 変形機構(トランスフォーム) は! 魔導回路の配線が物理的な歯車と連動してるなんて、現代の魔導工学の常識じゃありえないわ! だいたい、一級建築士の公的資格しか持ってないはずのあなたが、どうしてこんなオーパーツみたいな要塞を個人で建造できるのよ!!」

肩で息をしながら絶叫する国賓級のエリート研究員。

しかし、ケントは霞の怒涛のツッコミを、涼しい顔でスルーした。

「一級建築士を甘く見るなよ。家ってのは『巨大な生活維持装置』だ。外敵から命を守るシェルター機能(要塞化)くらい、基礎中の基礎だろ」

「どこの世界に、トランスフォームする基礎があるのよッ!」

『エリートちゃん、ツッコミのキレが良いww』

『わかるぞ、俺たちも最初からずっとその気持ちだった』

『おっさんの「建築」の概念はバグってるから諦めろww』

空中に浮かぶタブレット画面には、ルミナの配信枠のコメントが滝のように流れている。

ケントは霞の頭に、ポンッと予備の黄色いヘルメットを被せた。

「詳しい技術の話は後だ。モニターを見てみろ」

ケントが指さした外部カメラの映像には、要塞を包囲するように押し寄せる数万の魔獣の波が映っていた。普通なら絶望の光景だ。

しかしケントの目は、まるで「大量の荷物」を見るような業務的な色をしていた。

「急な大口の納品ラッシュでな。資材(魔物)が多すぎて、受け入れレーンが詰まりそうなんだ。エリート君たちには、日雇いとしてライン作業を手伝ってもらうぞ」

「……はい?」

「ボーッとしない! これだけの大口(数万の魔獣)を全自動でさばくには、メインプラントの電力だけじゃピーク時を乗り切れん! そこの特務部隊の筋肉どもは、バックアップの予備電源(自転車漕ぎ)を回せ! エリート君はドロップアイテムの仕分け作業だ! さあ、安全第一で突貫工事を始めるぞ!」

死の軍勢たる 大氾濫(スタンピード) は、狂った鬼の現場監督によって、ただの 大規模解体現場(ボーナスタイム) へと強制的に書き換えられようとしていた。