軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

あなたに捧げる愛はもうありません。

「……そう。マリエッタと結婚するかどうかは二人の問題よね。私が口を出すことではないわ」

「……え?」

ミラベルの言葉にリカルドが戸惑いの表情を浮かべた。

「さっきも言ったけれど、私には関係のないことだから二人の好きにすればいいと思うの」

「いや、関係なくはないだろう?」

「なぜ?」

ミラベルの当たり前の質問に対してリカルドは答えることができない。「また一緒に暮らすだろう?」とか「幼馴染じゃないか」とか、堂々巡りのようなことを呟いている。

「この際だからはっきりと言っておくわね。私はリカルドともう会うつもりはないの。今回みたいに連絡をされるのも迷惑だわ」

自己中心的なリカルドは子どもに言い聞かせるくらいわかりやすく伝えないとまた勝手な解釈をしそうだ。そう思って言ったミラベルの言葉は思いの外リカルドにショックを与えたようだった。

「……なッ!」

返す言葉を失ったリカルドをミラベルは冷静に見つめる。

自分が長い間恋焦がれた相手はこんな人だっただろうか?

そんなことを思ったが、それでもその時々でリカルドに救われたことは事実だった。それに彼もマリエッタに関わること以外であれば勝手なことを言うわけではなかった。

ふと、リカルドがこんな行動をしても許されると思い込んでいるのはミラベルが今まで許しすぎてしまったからなのかもしれない、と思う。

愛ゆえに、どんなことでも受け入れてきたから。

「リカルド」

だから、ミラベルは改めてリカルドに呼びかけた。項垂れるように俯いていたリカルドが顔を上げる。

「私はたしかにあなたのことを愛していたわ。……でも、あなたに捧げる愛はもうないの」

それが今のミラベルの答えだった。

「…………慰謝料はどうするんだ? 今後会わないとなったら渡せないだろう?」

長い沈黙の後、ここにきてやっとリカルドもミラベルから自分の望む答えが返ることはないと自覚したのだろうか。ポツリ、とそう言った。

「必要ないわ」

「そういうわけにはいかない」

それはリカルドなりの謝罪の気持ちだったのかもしれない。

「……直接会わないのなら受け取ってくれるか?」

「どういう意味?」

「ミラベルはアルバート商会にいるんだろう? 会いたくないのなら、商会宛に届けさせてくれ」

なぜそんなことを言い出したのかミラベルにはわからなかった。これっきり縁が切れるのは嫌だと、そう思ったのだろうか。

「……商会宛に届けられた物を拒むことはできないわね」

本当は受け取り拒否することもできる。しかしリカルドを見ているとそこまで拒むことはできなかった。

(お金に名前は書いていないものね)

慰謝料としてではなく寄付と思って事業に使おう、ミラベルはそう思うことにした。

「話が終わりならもう行くわ。リカルド、マリエッタとお幸せに」

それは別に嫌味ではない。

今後もう会うことがなかったとしても、幼馴染二人が幸せになるのであればそれでいいと思えるようになっていたから。

そしてミラベルはリカルドの隣に座っているルドヴィックに小さく目礼するとアルバートと共に個室を出た。

個室に入ってから出るまで、何を言うこともなくただ見守っていてくれたアルバートの存在がありがたかった。

「アルバート、ありがとう」

「俺は何もしていないさ。ミラベルは自分で決着をつけただけだろう?」

「……そういうことにしておくわね」

きっとどれだけお礼を言ってもアルバートがその言葉を受け取ることはない。だからミラベルもそれ以上言うのは止めた。

「さて、この後の仕事は何だったかしら?」

「予定管理は秘書の仕事だよな?」

馬車停めへと向かいながら気持ちを切り替えるように言ったミラベルにアルバートが軽く返事をする。

レストランの両開扉の向こう、快晴の空の下に馬車が停まっているのが見えた。まるでこれから先の未来を照らすかのように燦々と降り注ぐ太陽の光を感じる。

それはミラベルの本当の意味でのスタートを祝うかのようで。

「これで心置きなく口説けるな」

「……え?」

耳の近くで低く囁かれた言葉にミラベルは振り返った。

今までどこに隠していたのか、滴るような色気を湛えたアルバートが目に入る。無意識の内にほんのりと色づいた耳に手をやるミラベルにアルバートがその大きな手を差し出した。

手に手を添えて、ミラベルはアルバートに導かれるまま馬車に乗り込む。

そして二人が乗った馬車は静かに走り出した。