軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

マリエッタとの再会

マリエッタとの再会の時はすぐにやってきた。

リカルドから離婚を告げられた二日後、二台分の馬車に荷物を詰めたマリエッタがヒュラス家の門を潜った。

前日に告げられてはいたものの、ミラベルは動揺した。リカルドとマリエッタに気づかれないように笑顔を浮かべるのでさえ精一杯だった。

しかしそんなことは気にする必要すらなかったのだろう。二人はミラベルのことなど忘れたかのように再会を喜んでいる。

「一ヶ月ぶりね。離婚の時にはお世話になったわ」

そう言って笑うマリエッタに対してリカルドも笑顔を返す。

(一ヶ月ぶり? 離婚の時に世話になった?)

どちらもミラベルの知らないことだ。

つまり、リカルドはマリエッタの相談に乗ってルドヴィックとの離婚手続きに協力したということだろう。

(私の知らないところで二人で会っていたのね)

その事実はミラベルの心の中に冷たい塊を落としていく。

「ミラベル! 久しぶりだわ。元気だったかしら?」

「ええ。元気よ。この度はその……何と言えばいいのか……」

「ああ、気にしないで。ルドヴィックとはもうずっと上手くいっていなかったの。だから離婚は仕方ないと思ってるわ」

言葉を選ぶミラベルに対してマリエッタはあっさりとしたものだった。

そんなに簡単に言ってしまえることなのか、その事実に衝撃を受ける。

「二人とも、ここで込み入った話はしない方がいい。応接室にお茶を用意してあるからまずは中に入ってゆっくりしよう」

衝撃に固まるミラベルと、自身の言った言葉を気にもしないマリエッタをリカルドが促した。

たしかにここは邸宅の玄関。使用人たちが見守る前でする話ではない。

ふとミラベルが目の前を見ればリカルドが自然にマリエッタをエスコートしている。連れ立って歩く二人の後ろをミラベルは静かについて行った。

昼を越えた太陽の光は、玄関から入った正面、階段の途中にある踊り場に設えられたガラス窓からふんだんに降り注いでいる。

その光をリカルドの金に輝く髪の毛が弾いていた。隣に立つマリエッタのピンクゴールドの髪も同様にキラキラと光を振りまいているように思う。

対して自分の髪はどうだろうか。

ミラベルは視界の端に映る自身の髪を見る。栗色とも言える茶色い髪の毛は華やかさとは無縁だ。

思えば金の髪に深いエメラルド色の瞳を持つリカルドとピンクゴールドの髪に明るいガーネット色の瞳のマリエッタはどちらも人の目を惹く。

ミラベルは瞳の色こそライラック色と明るいが、やはり全体的には落ち着いていた。

別に容姿がすべてとは思わないけれど。

それでも、久しぶりに見るマリエッタの圧倒的な華やかさに気後れしているのはたしかだった。

その上彼女は表情豊かで人の気持ちを惹きつける魅力に溢れているのだ。

いつかも感じたマリエッタへの劣等感が再び頭をもたげそうで、ミラベルは無理矢理にでも自身の気持ちを切り替える。

応接室にはすでにお茶の用意がされていた。

ティーポットから香るのか、辺りにはキーマンの甘い香りがほのかに漂っている。

(お義姉さまの好きな紅茶ね。ああ……そういえばもう義姉ではないのだわ)

マリエッタはルドヴィックと離婚し、ミラベルもまたリカルドと別れた。

そうなればミラベルとマリエッタの関係はただの幼馴染でしかない。

応接テーブルの上にはアフタヌーンティースタンドが置かれ、サンドイッチにジャムとクロテッドクリームが添えられたスコーン、そしてスイーツが用意されていた。

テーブルの両サイドには二人がけのソファが置かれており、誕生日席に当たる場所にはそれぞれ一人がけのソファがある。

リカルドにエスコートされたマリエッタは二人がけのソファに腰を下ろした。そしてその隣にリカルドが座る。あまりにも当たり前な二人の様子に何も言うことができず、ミラベルは二人の正面にあるソファに着席した。

「ミラベル、直接会うのはどれくらいぶりかしら?」

立場としては客であるマリエッタをもてなすためにミラベルはカップに紅茶を注いでいく。

本来ならこういった用意は使用人が行うことではあるが、リカルドが応接室に誰も入れたがらなかったためにやる者がいなかった。

「お義兄さまとお義姉さまの結婚五周年をお祝いする時にお会いしたっきりだから……半年ぶりくらいかしら?」

「いやあね。もう私は義姉ではないわ。昔のように名前で呼んで」

離婚したマリエッタに対して結婚していた時のお祝いの話をしたためか、リカルドの表情が険しい。

貴族の離婚はたいてい簡単には済まないものだ。

ミラベルとリカルドの場合はミラベルがあきらめからあっさりと届出に署名をしたからそれほど時間がかかっていないが、たいていは財産分与や子の養育に関してなど決めることが多く。準備から離婚に至るまでにそれなりの時間を必要とする。

ルドヴィックとマリエッタの間に子どもはいなかったが、今日マリエッタが持ち込んだ品々は馬車二台分はあったようだしおそらく彼らの離婚には時間がかかったことだろう。

(もしかすると半年前にはもう離婚の話が進んでいたのかもしれないわね)

たとえそうであっても対外的には夫婦仲を悟らせるようなことはしないから、これまで通りにお祝いしていたのだと思えた。

「そういえば、あなたたちも離婚したと聞いたわ。ミラベルもいることだし、リカルドの元でお世話になるのは気が引けたのだけど、離婚したから問題ないって言われたのよ」

「そう……」

(離婚したのはたった二日前よ。それもリカルドが提示する内容をすべて受け入れたからすぐに成立しただけ)

マリエッタがどこまでこちらの内情を知っているのかはわからないけれど、少なくともリカルドは自分に都合の良いように伝えていたのだろう。

ちらりとリカルドに視線を向ければ彼はどことなくばつの悪そうな顔をしている。

ミラベルは何か一言言ってやりたい気持ちになったが、結局何を言ったところで今の状況に変わりはないのだと思ったら言う気も失せていった。

「マリエッタ、この前も言ったが私とミラベルの結婚はミラベルが不本意な相手との縁組を持ち込まれないために結んだものだ。だからその……つまり、白い結婚だったということだよ」

夫の、いや、元夫の言葉にミラベルは目を見開いた。

夫婦のとてもプライベートなことをなぜ今ここで言うのか。

そしてその言葉は、結婚式を終えて初夜を迎えた時の自身の絶望を一瞬で思い起こさせた。