軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

75 リーンとティレンス

「やはり来てくれたね、リーン。

君がこうして僕の部屋に来てくれるのを、どれだけ待ち望んでいたか」

廊下にいた警備の騎士達を全て倒し、扉を開け彼の部屋へと入った私をティレンス皇子は笑顔で出迎えた。

私は剣を手にしたまま、無言で彼の顔を睨んでいた。

彼はそれにも動じず、相変わらず笑顔のままだ。

「君がここに来たということは、廊下の外にいた僕の護衛の者はどうしたのかな?」

「みなさん、今は仲良く廊下で眠ってらっしゃいます」

「へえ、そうかい。それは良かった」

私は少し違和感を感じた。

彼の身を守る騎士達は全滅している。

それなのに、皇子は余裕にも見える笑みを浮かべていた。

「観念してください。

周囲にもう貴方の味方はいません。

貴方には少し、聞きたいことが────」

「あはは、本当に良かったよ! まさか、こんなにも上手くいくとは!」

私が兄に指示された通り、彼から必要な情報を聞き出そうとすると、皇子は可笑しそうに笑い出した。

「あはは、本当にすごいね、君は!

苦労してミスラに呼び込んだ甲斐があったというものだ。

はは、本当にすごいよ、リーン!」

呆気にとられる私の前で、彼は目に涙を浮かべながら声をあげて笑っていた。

それは私が今まで見たことのない皇子の姿だった。

「一体、何がそんなに可笑しいのですか────?」

「いや、ははは……悪いね。一人で盛り上がっちゃって。

でも、本当に廊下の騎士全員を倒してくれたのかい?

はは、やっぱりすごいねリーンは────予想以上だ。

本当に助かったよ。一人残らず、 僕の障害を(・・・・・) 倒してくれてありがとう。

これでどうにか動ける状態にはなったと思う」

皇子は武器を手にした目の前の存在に臆する様子もなく、満面の笑みを浮かべて私に向き直った。

「────障害?」

「そう、障害さ。

彼らのおかげで、だいぶ事がやりづらかったんだ。

────まだ、わからないかい?

僕はどうしても、君一人でここに来て欲しかったんだよ。

まあ、あくまでそれは僕の予定であって、希望でしかなかったんだけどね。

……本当に実現するとは、驚きだ」

ティレンス皇子はまた少し笑い、怪訝な顔で彼を見つめているだろう私の前で涙を拭くと、一つ大きく息をついた。

「……いや、本当にすまない。取り乱してしまった。

嬉しくってね。つい。

唐突に思えるかもしれないけど、君には是非、僕に協力して欲しいと思っているんだ。

他に、頼れる人がいなくてね。

……そうそう、先に言っておいたほうがいいと思うんだけど、今、ここの会話は 誰も(・・) 聞いていない(・・・・・・) 。

そういう仕掛けを僕がこっそり施しているからね。

誰にも気付かれずに作るのは苦労したんだよ?」

「協力?」

「いや、それよりもまず、謝らなければいけないね。

君をここに連れてきたかったのは二人だけで話をしたかったからなんだけど……。

なかなか、難しくてね。

色々考えたんだけど、お母様もかなり君を気に入っていたみたいだったし、『僕が女の子に惚れていて、部屋に連れ込もうとしている』で通せば、周囲への違和感は少ないかなぁって。おかげで君には嫌われちゃったみたいだけど、自然な方法はあれしか思いつかなくてね。

正直、かなり強引な誘い方になってしまったと思う。……本当に悪かった」

「…………はい。私を部屋に呼びたいというのなら逆効果でしたよ」

「うん。

途中から失策には気がついてたんだけど、いきなりやめるわけにもいかなくてね。君が僕のサインに気がついてくれるのも期待してたんだけど……流石にヒントが少なすぎたと思う。

だから、逆に怒らせれば来てもらえるかなぁって、煽ってみたんだ。

ここに来た君の目的は違ったみたいだけどね。

……本当にすまなかったと思っている。

演技とはいえ君にはとても不快な思いをさせてしまった。

反省してるよ、もっと上手くできたんじゃないかって」

「…………演技?

ということは、今までのことは全部が嘘だったのですか……?」

「あれ、疑わないのかい?」

「……元々、おかしな話だとは思っていましたから。

一応の辻褄は合うということです。

……それで。話とは?」

「話を聞いてくれるのかい?」

「……全てを信用するとは限りませんが」

「ああ、もちろんそれでいいよ。

信じるかどうかは全てを聞いてから判断してもらって構わない。

なにせ本当に信じ難い話だからね?

僕でさえ、信じられないし……とても、信じたくないぐらいの話だ」

皇子は何かを考え込むように俯いた。

「……すみませんが、あまり時間がありません。

手短にお願いします」

「ああ、そうだったね。

結局のところ、僕が君に頼みたいことは一つ。

お母様を殺すのを手伝って欲しいんだ。

────ああ、大丈夫だよ。

もちろん罪は全部、僕が被るから、さ」

いつものように屈託のない笑みを浮かべながら、何でもないことのように肉親を殺すと宣言した彼に、私は一瞬、言葉を失った。

「……貴方が、猊下を?」

思わず聞き返した私に皇子は何も答えず────彼が部屋に敷かれた大きな絨毯を床から剥ぎ取ると、青い光を放つ転移の魔法陣が現れた。

「これは地下の『嘆きの迷宮』に繋がっている。

確かにもう、 時間がない(・・・・・) 。

この先は歩きながら話すことにしよう」