軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

70 十二使聖

「……なんなんだ、ここは……? やけに暗い場所だな」

俺が兵士たちに連れてこられたのは、どこか地下にある場所らしかった。

あちこち行ったり来たりして、更にあの青く光る床にも何度も乗ったので、位置関係はよく分からなくなってしまったのだが……結局、俺はとても広い洞窟のような空間に連れてこられた。

辺りは薄暗く、上階から差し込むうっすらとした陽の光で辛うじて遠くの壁が見える程度だ。

「────ここはかつて『嘆きの迷宮』と言われた迷宮の入り口だった場所だ」

辺りを見回す俺に、鎧の兵士の一人が教えてくれた。

「……迷宮? ミスラにも迷宮があったのか?」

「そんなことも知らんのか────俗物め。

我がミスラ教国の首都は、教皇アスティラ様がその昔『嘆きの迷宮』をお一人で踏破され、その上に建造された都だ。ここは由緒ある歴史の地────足を踏み入れられるだけでも、光栄に思え」

確かに言われてみればそんな感じがするな。

迷宮自体、まともに入ったことがないから分からなかったが。

全体的に古びていて、上の方では見なかったような作りになっている。

「……貴様。随分、気楽そうにしているが……自分の置かれた立場のことを分かっているのか?」

「……立場……?」

確か、もてなしてくれると聞いてここに来たのだが。

……違うのだろうか。

「────よせ。あそこまで不敬を働く輩にまともな問答は通用せん」

「まったく、クレイス王国の犬どもは、何を考えてこれをよこしたのか。

せめて、もう少し常識をわきまえた者を従者とすれば良いものを」

「然り────流石に、あれは行き過ぎだ。神聖なる我が国に入国を許しただけでも許し難い」

「そうですよ……すぐに、済ませましょう。異教の者と長く交れば、それだけ信心が鈍ります」

「ええ、早くこんな野蛮な男のそばから離れたいわ…………姉様、すぐに消してしまっても宜しいのでは」

「……駄目だ。猊下からは 捕らえて(・・・・) 献上(・・) せよとのお達しだ」

「────ならば、すぐに取り掛かろう」

彼らは何か小声で何かを囁きあっている。

奇抜な兜というか面のようなもので顔が見えないが、どうやら、何人か女性が混じっているようだった。

一人の兵士が俺に片手を向け、何かを口走った。

「────悪いが、これが我らの役割なのでな」

突然、兵士の指先が輝き────稲妻のような青白い光が飛んだ。

その青白い光は俺の身体めがけて飛来し、生き物のようにまとわりついた。

その光を体に受けた途端、体の自由が効かなくなった。

「────なんだ──身体が────?」

何故か全身の力が抜けていくような感覚がある。

────これは一体?

「ふふ、動けないか?

これは深淵の魔物「ミノタウロス』をも捕獲した結界だ。

いかに皇国との戦争で活躍したらしい貴様といえども、指ひとつ────」

「いや、動けないほどではないぞ」

俺が少し力を入れると、青い光は弾け飛んだ。

「──────な!?」

表情が見えなくてよくわからないが、俺をここに連れてきた兵士たちはどうやら驚いているようだ。

「……なんだったんだ、今のは?」

俺は体を確かめてみるが、何ともない。

「…………なんだ、あの男は。何故、捕縛結界が効かない」

「いや、聖具の故障かもしれない。俺がやる」

彼らはまた、同じような青白い光を飛ばしてきた。

前より少し明るい光が俺の体を覆う────が、やはり別に痛くも痒くもない。

多少窮屈で力が抜ける感じがするだけだ。

……よく分からない。

これが彼らのいう、もてなしなのだろうか。

「…………すまないが、これにはどういった意味があるんだ?」

正直、困惑している。

……折角連れてきてもらったはいいものの、俺はここで何をすればいいのだろう。

また、少し力を入れると青白い光は飛び散ってしまった。

彼らはまた、それに驚いている様子だが……もしかして、あのままにしておく方が良かったのだろうか?

王都の文化も俺には分かりづらいものが多かったが、ミスラの文化はさらによく分からない。

「…………どうした、なぜ捕縛結界が効かない」

「まさか、王国の者共も結界抵抗の聖具を開発していたのか?」

「…………有り得るな。あちらには【魔聖】オーケンがいる」

「────仕方ない。直接、取り押さえるしかない」

「最初から、そうすれば良いのですよ」

「では────配置につけ」

彼らはまた何か静かに会話をしながら、武器を手にして俺を取り囲んだ。

何故だか、彼らが持つ雰囲気が、少し鋭くなったような印象を受けた。

────瞬間。

薄暗い空間の中、小さな矢が数本飛んでくるのが見えた。

それは俺の眉間と目と喉、更に体の急所を正確に狙っているのが分かった。

「パリイ」

俺は咄嗟に剣で矢を弾いた。

それほど疾い矢ではなかったので、難なく落とせたが、同時に二人の鎧の兵士が俺の目前に飛び込み、それぞれ、手にした長剣と双剣を振るって来る。

俺がそれに気がついて身を躱すと、今度は彼らの背後から魔法攻撃が幾つも飛んできた。

────ものすごい 連携(コンビネーション) だ。

後ろで誰かが魔法を放ったのが、全く見えなかった。

見惚れるほどに洗練された動作に俺が感心していると、今度はいつの間にか背後に回っていた奇抜な鎧の兵士が、二人同時に手にした槍を繰り出して来る。

これも、疾い。うっかりしていると刺されるかもしれない。

俺がなんとか攻撃をしのぐと、今度は四人同時に畳み掛けてくる。

本当にすごい連携だ。

その上、彼らの動きは更に鋭く速くなる。

ただ、確かに疾いが────

────ギルバート程では、ない。

「パリイ」

俺は剣を薙ぎ、彼らの攻撃を全て弾いた。

俺の剣を受けた四人は体ごと弾かれて宙を舞い、少し距離がある場所へと着地した。

「────思ったより、やるな」

「……嘘でしょう、今のを凌ぎきるなんて」

「あの間抜けな男が勇士というのは、丸きりの噂ではないということか」

彼らに怯んだ様子はない。

再び、後方の二人が魔法攻撃を仕掛けてくる。

同時にタイミングを合わせ残りの四人が一気に距離を詰めてくる。

────六方向からの、休む間もない連撃。

俺はひたすら彼らの激しい攻撃を防いではいるのだが、一体、なんでこんな状況になっているんだろう。

さっぱり、わからない。

だが、こうして彼らに見事な技を披露してもらえるのは中々面白いし、飽きない。そして、こんな風に執拗に一斉に襲ってこられると、だんだん、体が温まってきて────

────少し、楽しくなってきた。

「なるほど────そういうことか」

その瞬間、俺は理解した。

彼らの言う「もてなし」とはつまり、こういうことだったのだ。

場所が変われば文化も変わる。

これが、彼らミスラの人々なりの客人のもてなし方なのだ。

そうして────ようやく納得した。

リーンから成人式なのに危険がある、と聞いたときはさっぱりわけがわからなかったが────こういうことか。

確かに一歩加減を間違えば、大怪我をするようなもてなし方だろう。

だが、これはこれで────俺は結構、好きかもしれない。

「…………すまないな、そちらの趣向に気がつくのが遅れた。

俺はこの国の文化には慣れていなくてな。

これがお前たちの言っていた『もてなし』だったのか」

「────ああ、そういうことだ。

まさか、お前のような輩を茶でも淹れてもてなすとでも?」

「いや、俺にはこちらの方がずっと合っているからな。これでいい」

「教皇猊下のご配慮だ────感謝するがいい」

教皇か。

そういえば、リーンはこの国の会話は全て聞かれている、と言っていた。

もしかして、舞踏会というよく分からない場所に行くのを不安そうにしていた俺の会話を聞き取り、気遣ってくれたのだろうか?

────そうか、そうとしか思えない。

やはり、教皇というのはとても立派な人物なのだろう。

リーンのおまけでついてきたような人間にも気を遣い、ここまで手の込んだもてなしをしてくれるとは。国民の皆から尊敬されるというのも頷ける。

俺はそんな人のことをあまり自覚なく、老婆だとか、大事にしているという絵を不気味なガイコツだとか言ってしまい、そういうのもきっと聞こえていたのだと思うが…………それも、とっくに許してくれているのかもしれない。

「ああ、感謝する。最初は驚いたが────こういうのも中々、面白い」

きっとあの妙な青白い光も、これの開始の合図か何かだったのだろう。

俺はすぐに六人に向かい、剣を構えた。

彼らの心遣いを、無駄にしてはいけない。

「────続きをやろう。

ここからは、俺も全力で相手をする。

そちらはまた六人一緒に来るのか?

別にそれでも構わないが」

さっきの感じであれば、さほど身の危険は感じないし、彼らも客のもてなしだということを弁えている。

一緒に来てもらっても何の心配もないだろう。

「────いっぱしに我らと決闘を気取るか、俗物め」

「ふふ、面白い。上ではイベントの最中だ。こちらも少し、楽しもうではないか。久々に手応えのある獲物だ」

「シギル、それは悪い癖だぞ」

「だが、やることは一緒だろう」

「そうだな。だが、あちらがその気なのだ。合わせてやるのも一興だろう」

「……俺は名乗るぞ、折角の余興だ。

────【刹那】のシギル、参る」

「────【天剣】のライ」

「────【聖典】の、ミランダ」

「────【偽典】の……ペトラ」

「────【死突】のリューク」

「……【豪槍】のゲルグナインだ」

双剣を手にした男が、呟くように名前を告げると他の人物も口々に名を名乗った。

だが────多すぎて、名前が覚えきれない。

「我ら神聖ミスラ教国、十二使聖が片翼────『右舷の衆』がお相手する。

────覚悟は、いいな?」

彼ら全員の空気が前より一層、張り詰めた。

自己紹介をしただけだというのに、すごい迫力だ。

そうか、ここではああいう感じで名乗るのが、礼儀なのかもしれない。

俺にも何か、そういうのがあるだろうか。

そういう、誰かに名乗る時に使えそうな二つ名みたいなものは────?

────そういえば。

一つあったな。

前から一度、使ってみたいと思っていた名前が。

そうだ。折角だし、あれを使おう。

そして俺は彼らの真似をして、少し迫力が出るように────

手にした黒い剣を力いっぱいに振り下ろし、自己紹介をした。

「俺はクレイス王国の一般市民────【杭打ち】のノールだ」

少し力み過ぎたせいで辺りの地面が揺れ、割れてしまったが。

「────よろしく頼む」

名乗ると、また少し楽しくなってきた。

────なるほど。

こういうもてなし方もあるのだな。

これは確かに、楽しい。

まだまだ世界には、俺の知らないものが沢山あるようだ。

そうだ、そもそもこれは成人式のお祝いの場で、お祭りなのだ。

ここは楽しまなければ損というやつだろう。

「……さあ、誰からくる?

さっきのように皆で掛かってきてくれても俺は全然、構わない。

────そちらの方が、ずっと楽しめそうだからな」

俺は全身全霊で黒い剣を握り締め────俺をこれからもてなしてくれるという六人に向けて剣を構えた。