軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

208 冒険者ギルドにて

「……するって〜と、何か? お前はまず旅立って早々、いきなり盗賊団に襲われた、と?」

俺は王都に帰って来ると、まずは恐怖の空の旅を忘れる為にしっかり一晩寝て明かすと、翌朝、早くに訪れた冒険者ギルドでギルドマスターのおじさんに、雑談がてら今回の旅のあらましを報告していた。

もちろん、今回も思い返してみるだけでも大変な旅だったので、全部が全部を話すわけにもいかないと思い、ごく一部をかいつまんでになるのだが。

「ああ。入国直後だったから流石に驚いた。本当にいるんだな、盗賊というのは」

「──で。なんだ、その後。デカいエビ? みたいなのを倒して料理して食べたり、行った先の街を襲撃してきたゴーレムの集団に巻き込まれたりした、と?」

「ああ。他にも色々とあったが……思っていたよりずっと大変な旅だった」

「ま〜た、他所の国で当たり前のように厄介ごとに巻き込まれやがって……俺はお前がどっかで変な契約結ばされて、一生奴隷の身分になってやしないかってヒヤヒヤしてたんだが……まんざら、杞憂でもなかったみてえだな?」

「まあ、何度か危ない場面はあったな……でも、案外行き当たりばったりでもなんとかなってしまったな」

「そんなのでよく、命があったな? とにかく、無事で何よりだ……肝心なところが全然聞けてねェ気がするが」

「そうか? だいたいはかいつまんで話したつもりだが」

「確かに、俺はお前の『旅行』の手配をしただけだし、本来は関係ねェからこれ以上聞かねぇつもりだったんだが──『例のアレ』は、どうなったんだよ?」

「例のアレ?」

振られた話題の意味がわからず首を傾げる俺に、ギルドマスターのおじさんは真剣な表情になり、カウンターに身を乗り出した。

「おいおい……? お前、全財産持って意気揚々とここを出てったじゃねェか。あの金はどうした? お前の話に全く出てこなかったんだが?」

「ああ、それか。あの金は色々あってもう残ってないんだ」

「────は? あれ全部が? ない???」

「ああ。と言っても安心してくれ。盗まれたわけじゃない」

深刻そうな表情で話を聞いていたギルドマスターは少し考え込むと、慌ててカウンターに身を乗り出した。

「────ってことは。ま、まさか、ギャンブルとか……!?」

「ああ、そういうのもやったな。サイコロを使うゲームだった」

「お、おい。まさかお前。ソレに有金全部賭けちまった、なんて言わねえよな!?」

「いや。あの時はちょうどそれぐらいの掛け金が必要だったからな。成り行きで全部賭けてしまった」

俺がそう言うと、ギルドマスターのおじさんの顔色が一気に青くなった。

そしてしばらく深くゆっくりと息を吸うと、頭を抱えたままこれまで観たこともないぐらい大きなため息をついた。

「────まぁ、そうだよな。お前さんもまだ若いし、そういう刺激のある遊びに興味を持つのはおかしいことじゃねえ……でも、もうちょっと堅実な男だと思ってたんだがなぁ。そんな悲惨なことになっちまう前に、年長者の俺が、もうちょっとお節介焼いてやるべきだったのかもしれねぇなァ……?」

おじさんが何故か、遠い目でしんみりとしはじめた。

「いやいや。その勝負にはちゃんと勝ったんだ。その時点では金は減ってない」

「……はァ? あの金を全部賭けて、勝っただと!?」

「ああ」

「そ、それで!? そのあとは、どうなった!?」

「結果、俺は見たこともない大量の金を手にすることになってしまったんだが……その後、色々あって現地で知り合った友人に俺の代わりに使い道を考えてもらって、全部預けたんだ」

「……現地で知り合った友人に……全部、預けた???」

「そうしたら、なんだかんだでちょっとずつ増えたりして」

「……ふ、増えたなら良いが。で!?」

「でも結局、とある男が急に大金が必要だと言い出して──」

「そっ、それで?」

「そいつに渡したら、全部なくなった。綺麗さっぱり、一枚残らず」

俺がところどころ要点をかいつまんで伝えると、ギルドマスターのおじさんの顔が期待に輝いたり、落胆に沈んだり。

人の金の話だというのに一喜一憂が激しかった。

「────なあ、ノール? ほんっとうに余計なお世話なんだがよ? 付き合いの長い友人の一人として一言だけ、いいか?」

「ああ」

「……そういう、人を信じやすいところがお前さんのいい所だとは常々思ってるけどな。もうちょっと人を疑うことを覚えた方がいいぞ? この世の中、知り合う誰も彼もがお前の味方ってワケじゃあねえんだぞ。『現地で知り合った友達』って……? ソイツ、本当にお前の友人か???」

「俺は一応、そう思ってるが」

俺の返答におじさんは再び頭を抱え、頭を掻いた。

「……ま、もちろん責めてる訳じゃねえんだけどよ……ていうか、むしろ今回は俺が悪かったんだよなぁ。お前さんにはまだちょっと早いと思って、何も説明しなかったんだ。今思えば下手に 冒険者ギルド(ウチ) の流儀なんかに縛られずに、まずあそこの存在を説明するべきだった」

「何か、あったのか?」

「ほら、アレだ。ウチの向かいの『投資銀行』って看板がある施設があるだろ」

「? ……ああ、あれか?」

指を差した先を見ると、ギルドの入り口から通りを挟んで向こう側に、こぢんまりとしてはいるがどこか風格のある石造の建物がある。

今まで用事がなかったので気にしたこともなかったが、そこには確かに銅らしき金属製の看板に上品な文字で『王立投資銀行』と彫られている。

「銀行は俺にもわかるが、『投資銀行』……?」

「細かい説明は省くがな。要は、あそこに金を預けておけば、王が国として雇ってる投資の専門家がお前の代わりに金を勝手に動かしてくれる、っていう所だな」

「よくわからないが……すごそうだな?」

「まあ、簡単に言えば預ける側に何の知識もなくとも安定した資産の運用ができちまう、ってハナシだな。もちろん、預けたからってそう都合よく必ず儲かるって訳でもねェし、そもそも、かなりの額を預けなきゃ大した利益は見込めねえ。ってなわけで、俺ら庶民には普段は全く用事のねェ、貴族だとか富裕層向けの施設なんだが」

「でも、使おうと思えば使える、ということか?」

「ああ、そうだ。別に預ける側に資格も何も要らねえはずだしな。建前上は誰からでも平等に銅貨一枚からでも預かってくれることになってる。あと、あそこはちょっと預け方が特殊でな? 預けた奴が自由に貸し手に利子を設定できるんだ」

「自由に……? それは一体どういう意味が……?」

「大雑把に言えば、高く設定すると当然借り手がいなくなるが、かといって低く設定するとそもそもの貸し主に利益がでねェ、って話だな。その分、市場に金が出回って王都の商売が勢いづくことになるとは思うが。そこは貸し主が好きに判断していいってことらしい。銀行はあくまでも金を預かって必要としてる奴に貸し直すだけって立場らしいが……ま、何にせよ、預ける額が大きければその分、利息も受け取りやすくなる」

「……? なるほど……?」

「だからな。もしあれだけの金があったら、お前さんみたいに慎ましやかな生活する奴なら一生安泰なはずだったんだよ。だとしたら、俺は力づくでも金をあそこに預けさせるべきだったのかもしれねぇな……ってな」

「なるほど、そういう話か」

「────ま。今となっちゃあ、全てが遅いが────な?」

そう言ってギルドのおじさんはまた遠い目になった。

どうやら俺の金のことなのにかなり気を落としてる様子だった。

見ているこっちが可哀想になるぐらいに。

「まあ、とは言っても。旅先で他に色々と楽しい思い出ができたし、俺としては向こうに持っていって良かったと思っている。だから、そんなに気を落とさないでくれ。金はまた稼げばいい」

「……何で、俺がお前に励まされてるんだろうなぁ……?」

結局、現金は俺の手元に残らなかった。

でも、ただ失ったわけじゃなく俺の手元には色々と残っている。

どこからどう説明していいかわからないので特に言っていないが、『時忘れの都』もまだ俺の所有ということになっているらしいし。

従業員たちに「すぐ戻る」と約束したこともあり、俺はあそこにはもう一度戻る必要があるが、リーンが早めに王都に戻る必要があるという話だったのと、俺も王都でとある人物に声をかけてからの方が良いと思ったので、あの便利な機鳥郵便というので「ちょっと遅れる」と連絡だけして、戻るのは後回しにした。

ほったらかしにしてしまっている獣人の集落の様子も見てみたかったし、もうちょっとちゃんと時間を作ってから一緒に回ろう、という約束になったのだ。

思えば、今回の旅で俺は色々な人と知り合いになれた。

当初、楽しみにしていた海は見られなかったが、代わりに色々と珍しいものが見れたし、行く前に思っていたより人々はずっと親切だった。なので、もうちょっと色々と落ち着いたら改めて、今回行けなかった場所を訪ねるのもいいと思っている。

今回の旅はとにかく慌ただしかったし、もっといい場所も見つかりそうな気がしているからだ。

次こそは、のんびりと色々な場所を観て回りたい。

そんなことを考えて感傷に浸っていると、急に辺りが騒がしくなる。

「マ、マスター! ノールさんは!?」

ギルドの外から何やら大勢がいるような物音がして、受付嬢の女の子が慌てて掛けてきた。

「ああ、ノールならここだが……なんの騒ぎだ?」

「先ほど、ノールさんに用事があるという方がギルドを訪ねていらして。そ、それでどうしてもご本人に会いたいと」

「何だぁ? ウチは紹介屋じゃねえんだぞ。そいつの要件はなんだ?」

「……そ、それが。本人以外には絶対に言えないと、いくら聞いても教えてもらえなくて。そ、それに今、外では大量のゴーレム馬車と武装した男の人たちがたくさん、ギルドの周りを取り囲んでいて……」

「……ゴーレム馬車? 武装した男?」

「そ、その代表の方が今……ひ、ひぃっ!?」

怯える受付嬢の背後から、いかにも山賊か盗賊かという風体の男がぬらり、と顔を出した。

どうやらその男が俺を探しているという人物らしいが。

「貴方がノール様でお間違いないでしょうか」

「ああ、確かにノールは俺だが?」

確かに受付嬢の彼女が怯えるのも頷ける人相の悪い男だったが、とても丁寧な言葉遣いで俺がノールか、と訊いてきた。

どこかで見た覚えのある人物のような気がしたが、彼は確か、リゲルに雇われていた運送屋の男だったと思う。

俺が肯定の返事をすると男はにっこりと笑顔を見せ、こう言った。

「 私(わたくし) 、『ハンス』商会のハンスと申します。この度はノール様宛に大事なお荷物をお届けに参りました」

「届け物? 誰から」

「今回の配達は貴方の『ご友人』という方より匿名でのご依頼をいただきました。先方よりお手紙も預かっておりますので、どうぞご確認を」

「手紙、か」

そう言って男は見た目に似合わない慇懃な態度で俺に手紙を差し出した。

受け取って封を切り、中身を読んでみるとそこには見覚えのある筆跡でこう書いてあった。

──────────

やあ。

僕の今の立場上、念のため匿名ということで手紙を送らせてもらうけど。

君のおかげで長年仲違いしていた親戚とやっと仲直りできてね。

彼らに「とても世話になった友人に心ばかりのお礼がしたい」と言ったら、喜んでこれを供出してくれた。

そういうわけで、これは君のものだ。

全然怪しくないお金だからどうか気軽に受け取って。

PS.

先日は仲人ありがとう。

君のおかげで盛り上がった。

また何かあればよろしく。

謎の成金より

──────────

受け取った手紙を読んだ俺とギルドマスターは互いに目を見合わせた。

「……お前に届け物って。どこのどいつだよ?」

「多分、例の友人だと思う」

「するって〜と? 例のサレンツァでたまたま知り合った奴?」

「ああ。中身は怪しくない金だそうだが……」

「あ、怪しくない金だと……?」

「もし、お客様がお受け取りにご異存ないようでしたら、早速、お荷物の受け渡しを行いたいのですが……お渡しはこの場でも?」

「ああ。俺は構わないが」

「かしこまりました。では、失礼して────おいッ、てめェらァ!! お客様が、お荷物のお受け取りだァ!! とっとと運び込みやがれェ!!」

「「「「はいッ!! 喜んでェ!!!」」」」

人相の悪い男が突然野太い声で号令を出すと、どこからか大量の屈強な男たちが現れ、一人一人が何やら中身がパンパンに詰まった重そうな皮袋をギルドの入り口に運び込んできた。

男たちのあまりの勢いに、俺とギルドマスターはテキパキと積み上げられていく巨大な革袋の山をただただ見上げるばかりだったのだが。

ちょっと眺めている間に、それなりに広いはずのギルドの入り口のスペースがほとんど革袋で埋め尽くされていく。

「お、おい。ちょっと待て。こ、これが全部、カネだってのか……!?」

「そうらしい」

何だか既視感のある光景だった。

しかし……中身は「全然怪しくないお金」、か。

そう言われると、ラシードに色々と毟り取られていたガレンの何とも言えない表情を思い出す。

「以上で、先方からお預かりした積荷は全てとなります。よろしければ、こちらにお受け取りのサインを」

「ああ、ありがとう」

俺が差し出された紙に言われるがままにサインをすると、男は人相の悪い顔に満面の笑みを浮かべ、丁寧に礼をした。

「これにて、お届け物のご依頼は完了となります。お客様から他に何かご用命は?」

「いや、俺からは特にない」

「それでは、私どもはここで失礼致しますが……どうぞ、今後とも『信用と積荷の安全が第一』のハンス商会をご贔屓にお願いしたく存じます」

「ああ。覚えておく」

俺がそう返事をすると男はニヤリと笑い、振り返る。

「ってことで、てめえらァ!! 我が商会の、初めての『大量現金移送依頼』、完了だァ!!!」

「「「「っしゃああああああ!!!」」」」

「ククク……! それだけじゃねえぞ。ついにこの王都すら俺らの 配達可能範囲(ナワバリ) になったってことだからなァ……? これからは国境越えてバンバン営業かけてくからなァ!!! 覚悟しておけよォ!!!」

「「「「ヒャッハァアアアアア!!!!」」」」

よく日に焼けた武装した男たちは王都に雄叫びを響かせながら、その風体に似合わないゆったり運行でゴーレム馬車で街道を駆けて行った。

そうして一時的な喧騒は去ったが、残された俺たちは荷物の山に困惑するばかりだった。

しっかり綺麗に積んであるので簡単には崩れそうにはないものの、ギルドの入り口をだいぶ狭めてしまっている。

「参ったな。ここで受け取ったのはまずかったかもしれない」

「おいおい。本当にどうすんだよ、コレ。俺も呆気に取られすぎて置かせちまったけど、流石にこのままにされると困るぞ?」

「中身が金だとすると、俺の手にも余るしな……早速、教えてもらったそこの銀行に預けてこようと思うんだが」

「お、おお……! その手があった! 今回こそはそれがいい!」

「ちなみに。利子は自由だと言っていたが、いらなければ別に受け取らなくてもいいんだよな?」

「ああ。そのはずだ。自分の大事な金を何の利益もなしに他人に預けようなんて馬鹿、聞いたこともねえがな────って。ちょっと待て、ノール」

「なんだ?」

ギルドマスターのおじさんはギルドから出て行こうとした俺の背中を呼び止めると、俺の目をじっと確かめた。

「お前さん、まさかとは思うが……この有り金全部、 利子なしで(・・・・・) 預けちまおう(・・・・・・) 、なんて思っちゃいねえよな?」

「……まずいのか?」

俺の返答にギルドマスターのおじさんは再び、悩ましそうに頭を抱えた。

「……いや、まずかねえ。この王都にとっちゃあ、何一つまずかねえがよ……! お前さんは本当にそれでいいと思って……いや。もう、好きにしてくれ。お前はこうと決めたら俺が何言っても聞かねえし、そもそも、お前の金の使い途なんて俺が口出しするような道理もねえしな。だが……なぁ? 流石にちょっとぐらい、今後の備えとか老後の為に────」

「ありがとう。今回も色々と助かった」

俺はとりあえず、まだ文句が色々とありそうなギルドマスターのおじさんの話を断ち切り礼を言うと、不意に俺の元に舞い込んだ大量の金を預ける為、教えてもらったばかりの施設へと向かった。