軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

20 討伐報告

あの後、すぐにリーンのお兄さんの部下だという男達が現れ、しばらくリーンと何かを話し込んでいた。

彼らに俺がゴブリンの額から引き抜いた赤紫色の石を見せたらとても驚いていたが、何か調べ物をするために必要だというので渡しておいた。

彼らは礼を言って去って行ったが、その頃にはもう、辺りは少し暗くなりかけていた。

俺たちは時が経つのも忘れ、相当にゴブリンとの戦闘に集中していたらしい。

暗くなると、夜の魔物が活動しだし、森はより危険になるという。

俺たちは急いで『魔獣の森』を後にし──

王都へと急ぎ、今、ようやく冒険者ギルドへと戻ってきた。

もちろん、「ゴブリン退治」の報告をするためだ。

「おじさん、帰ったぞ」

「なんだ、ノール。やけに上機嫌じゃねえか」

さすがに毎日のように顔を合わせているだけあって、冒険者ギルドのおじさんは俺の雰囲気の違いに気がついたようだ。

そう、確かに俺は今少しばかり浮かれている。

だが、無理もないだろう。

記念すべき、ゴブリンの初討伐。

世の冒険者にとっては小さなことかもしれないが、俺にとっては大きな一歩だ。

俺は倒すことができたのだ。

初心者の冒険の入り口と言われる、あの『ゴブリン』を。

自然と喜びが顔に出てしまう。

「ああ、なんとかゴブリンを倒せたからな」

「本当か? ……無茶はしてないだろうな?」

「ああ、そのつもりだったが……思ったよりずっと大変だった。

リーンに助けてもらって、なんとか倒せた、といったところだったな」

実際、かなり危ない戦いだった。

ゴブリンは俺一人では到底敵わなかった強敵だった──。

リーンが一緒にいてくれたからこそ、見つけられたし、倒すことができた。

彼女には感謝してもしきれない恩ができたな……。

「実際、ほとんどリーンにやってもらったようなものだ……やはり、銀級というのはすごいな。使えるスキルの数も桁違いだし、本当に助けられた。彼女がいなければ今ごろどうなっていたか、わからない」

「そ、そんな、私はただ、先生のお手伝いをしただけで……!!」

リーンはなんだか慌てた様子で赤くなっている。

そんなに謙遜しなくてもいいのに。

──だが、この子が本当にすごいのはそういうところなのだろう。

とんでもない能力を秘めているのに、驕らず、誰にでも謙虚に接する。

この歳でここまで人間ができているとは──俺も少しは見習いたいものだ。

「まあ、怪我もないようで何よりだ。ただのゴブリンとは言え、初心者にしてみれば脅威には違いねえ……いい経験になったんじゃねえか?」

「ああ、本当にその通りだ。何事も経験だな。実物を見るまで、ゴブリンがあんなものだとは思いもしなかったし、ゴブリンの額に石が埋まっていて、そこが弱点になっているなど考えもしなかったしな」

興奮冷めやらぬ俺の言葉に、おじさんは少しばかり変な顔をした。

「ん? 額に石……? なんだそれは……?」

「いや、赤紫色をした、綺麗な石のことなのだが……」

「ああ、魔石のことか。だが、ゴブリンの体内に生成される魔石は大抵、心臓の近くとか、喉元とか、体の中心近辺に埋まってるもんなんだが……?」

「……そうなのか?」

おじさんはしばらく考え込むようにあご髭を撫で、胡散臭そうな目で俺を見つめた。

「……なあ、それ本当にゴブリンだったのか?」

「確かにゴブリンだったと思うぞ……そうだな、リーン?」

「はい、先生がそうおっしゃるなら……あれはゴブリンです。誰がなんと言おうと」

なんだか随分語気を強めているが……どういう意味だ?

まあ、彼女もゴブリンだと言っているし、きっとそうなのだろう。

おじさんはリーンの言葉を聞いてまだ妙な顔をしていたが、一応納得はしてくれたらしい。

「そうか、疑って悪かったな。ゴブリンにも色々種類があるもんでな。確認しとこうと思ってな」

「……普通、ゴブリンの頭に石はないのか?」

「まあ、普通はそうだな。だが必ずそうだと決まってるわけじゃねえ……頭のあたりに埋まってたって話も聞かねえわけじゃねえしな。もしかしたら、額に埋まってるやつもいるかもしれねえ。お前が倒したのはそういう、珍しい個体だったのかもな」

「なるほど、ゴブリンの個体差か──そういうのもあるのか。面白いな」

やはり体験に勝るものはない。

だが、もう一度奴と戦っても、確実に勝てるという自信はない。

リーンがいたから、なんとか倒せたが、不測の事態が起こらないとも限らない。

たまたま出くわしたのが一匹だったから良かったようなものの、あれ程の巨体が何匹も出てきて、囲まれたらきっと危なかっただろう。

「だが、ゴブリンはとても危険な生き物だということもよくわかった。今回は運が良く相手が一匹だったから勝てたが、二匹、三匹となると……厳しいだろうな」

「ああ、油断した初心者が背後から襲われてやられるってパターンは腐る程ある。たまたま、数が少ない時期でよかったな」

「当分、ゴブリン退治はやめておこうと思う。今回のことで自分の実力不足を思い知ったしな……あまり、自分を過信して危険なことはしないほうがいいだろう」

次に挑戦するときには、もう少し鍛えて強くなってからにしようと思う。

それに、あの重たい黒い剣の扱いにも早く慣れた方がいい。

ゴブリンに大木を一斉に撒かれた時には、対処に困ってしまった。

あんな風に、いざという時うまく振れないようでは困るからな。

「自信がないならそれが賢明だ。無茶だけはするなよ。一つしかない命だからな」

「ああ、自分の実力は自分が一番わかっているつもりだ。無理はしない」

だがそもそも、ゴブリン退治は俺には向いていないかもしれないな。

人の形をしているものを倒すというのは、あまり気分のいいものではない。

倒す間際に、ゴブリンが可哀想になってしまった。

次は、他の魔物の討伐依頼を紹介してもらうことにするか。

「それじゃ、討伐証明部位を出してくれ。換金するから」

「ん?」

討伐証明部位?

なんだったか、それは。

「ん、じゃねえよ……言っただろ? ゴブリンの討伐証明部位は右耳だから、忘れずに持って帰ってこいって」

「……そういえば、燃やしてしまったな」

ゴブリンは丸ごと、リーンのスキルで燃やしてしまった。

倒すのに必死で、そんなところまで頭が回らなかったな。

「おいおい、証明部位を持ってこないと報奨金は出せねえんだぞ。まあ、一匹程度じゃたかが知れてるが……ったく、仕方ねえな」

おじさんは文句を言いながら、俺の手元に銀色の硬貨を一枚投げた。

「これは?」

「俺からの「ゴブリン初討伐祝い」だ、持ってけ。今日の稼ぎはほとんどねえだろ? 風呂代ぐらいにはなる」

「……いいのか? 気を遣わせてしまって悪いな。では、有難くもらっておく」

確かに、工事現場がお休みだったせいで今日の稼ぎはほとんどない。

手伝ってもらったリーンには申し訳ないし、あとでこれでも渡しておこう。

風呂に入る分ぐらいは今までの蓄えがあることだし、全く問題ないしな。

「今日も色々助かった。今日はもう帰ることにする、また明日よろしく頼む」

俺はおじさんに別れを告げ、冒険者ギルドを出ることにする。

本当に、今日は大変な日だった。

いつもの「土運び」とは比べ物にならないぐらい良い運動をしたと思う。

やはり、魔物退治というのは大変な仕事だったな。

随分と体も汚れてしまったし、帰りに浴場に寄って汗を流すとしよう。

……まさか、リーンはそこまではついてこないよな?

もういい時間だし、さすがに家に帰ってもらおう……そうしよう。

「では、私もこれで家に帰らせていただきます……よろしいでしょうか、ノール先生」

……良かった。

素直に帰ってくれるらしい。

いや、そんなことで喜んではいけない。

彼女には今日は本当に世話になった。

礼ぐらい、言っておくべきだろう。

「もちろんだ。今日は本当に助かった。また機会があれば、頼むかもしれないが、いいか?」

「はい、こんな私でよろしければ。必ず、何かのお役に立ってみせますので」

そう言ってリーンは微笑みながら胸に手を当て、静かに礼をした。

毎回それをやるのか……律儀なものだ。

そんなに俺に対して畏まることはないと思うのだが。

「では、ギルドマスター。私はこれで失礼します」

「ああ、またな、リーン」

俺たちは揃ってリーンに手を振り、彼女がギルドの入り口へと歩いていくのを見送った。

おじさんは俺と一緒にリーンの背中を眺めながら、低い声で話しかけてきた。

「で、ノール……お前さん、いつまでこんなこと続ける気だ?」

「こんなこと、とは?」

「まあ、こういう話をするのは何度目かも分からねえから、わかってると思うけどよ……

今日なんか建築ギルドの親方から「あいつは是非ともうちに欲しいからお前から説得してくれ」って、頼み込まれちまったんだよ。

随分と気に入られてるみたいじゃねえか?

あの頑固親父が人をあんなに褒めちぎるなんて、滅多にあることじゃねえぞ?

話じゃ、給料もべらぼうにいい。ゴブリン退治の比じゃねえぞ?

あそこは王都でも指折りの優良な商会を幾つも抱えてるし、あの親父のところに行けば、一生食いっぱぐれねえ。それは俺が保証してやる。

お前さんも結構いい歳なんだし、いい加減、所帯持つ心構えをだな──」

「いくら言われても、俺の気持ちは変わらないが」

「そりゃあ、知ってるけどよ、でもなあ──」

おじさんのいつもの長い話が始まりそうだったので、俺は途中で断って冒険者ギルドを出て行こうとしたのだが──

ふと、ギルドの入り口に勢いよく入ってくる人物を見つけた。

あれは確か──

「リーン。ノール殿はここか」

「お兄様?」

その人物とギルドの入り口ですれ違うような形で顔を合わせたリーンは、少し驚いていた。

そう、彼はリーンのお兄さんだ。

彼は俺を見つけると、まっすぐに歩いてきた。

俺とギルドマスターのおじさんは顔を見合わせた。

「おいおい、今日はどうなってるんだ? リンネブルグ様だけじゃなく、レイン様までお前さんに用があるらしいが……本当に、何かやらかしたんじゃないだろうな?」

「いや、俺は何もしていない」

……と、思う。多分。

おじさんには俺が王都に来たばかりで常識もよく分からなかった頃、色々迷惑をかけたり世話になった手前、あまり強くは言えないのだが……。

俺たちが少し戸惑っていると、

リーンのお兄さんはまっすぐ俺のところに近づいてきて──

──とても険しい表情でこう言った。

「ノール殿。すまないが……明朝、リーンと山岳地帯の街へと向かってくれないか。馬車と、護衛を一人つける。悪いが、今すぐには詳細をお伝えはできないのだが──協力してくれ」