軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

106 入浴券

俺がいつもの訓練場所を訪れると、森の中に一人、見慣れた金色の槍を持った人物が立っているのが見えた。

「ギルバート」

「よう、遅かったじゃねえか」

「ああ、ちょっと用事が長引いてな。悪い」

「少しぐらい、構わねえがな。じゃあ、早速始めるか」

「ああ」

ギルバートは俺がミスラから帰ってきてからも数日に一度程度、一緒に訓練に付き合ってくれていた。

俺は飛んできた攻撃を 弾く(パリイする) しか能のない人間だが、彼としては自分の槍を受けられる人間は王都にはそんなにいないらしく、今の俺は練習相手として都合がいいんだそうだ。

俺としても非常に助かるので、こうして一緒に訓練を続けている。

「じゃあ、いくぜ」

ギルバートが黄金の槍を空中で軽く回し、構えると、一瞬にして辺りの空気が重く沈んだ。

一斉に森の中の鳥が飛び立つ気配。

────直後、槍と共に彼の姿が消えた。

「 竜滅極閃衝(ドラググレイヴ) 」

「パリイ」

雷よりも疾く身体を貫こうとする槍を俺は『黒い剣』で受け止め、弾く。

すると森の中に小気味良い金属音と火花が散った。

「ちっ……防いだか」

だが一突き目を防いで安心する間も無く、槍の連撃が続く。

「パリイ」

打ち払うたび、彼の槍の切っ先は鋭く速くうねる。

それに俺も目を慣らして対応していく。

その繰り返し。

「 竜滅極閃衝(ドラググレイヴ) 」

「パリイ」

俺たちが訓練を繰り返す場所の地面には無数の亀裂が入り、ろくに草も生えなくなってしまった。

この森には少し可哀想な気もするが、ギルバートの槍はそんなことを気にしながら避けられる甘い攻撃ではない。

ギルバートの繰り出す槍は日に日に速くなっていく。俺も成長したつもりではいるが、未だに彼に追いつける気はしない。

「しかし……お前、よくこれだけ余裕で俺の槍を受けられるよな?」

「いや、そこまで余裕でとはいかないが……でも、『スケルトン』の攻撃もこれぐらい速かったしな。慣れたんだと思う」

「……なあそれ、前も聞いたけど、本当にスケルトンか……?」

言葉を交わしながら、俺たちの間に激しい火花が散る。

最初は彼の槍が鋭すぎて対応するだけで精一杯だったのが、今では槍を弾きながら会話できるまでになった。ギルバートを相手にしているとあまり実感が湧かないが、やはり俺も前より強くなってはいるのだろうと思う。

とはいえ、あまりに油断しているとうっかり喉元を貫かれそうになるが。

「 竜滅極閃衝(ドラググレイヴ) 」

「パリイ」

俺の首に向かってまっすぐ伸びた槍を打ち払うと、森の中に大きな火花が散り、手にかなりの衝撃を感じた。

だが槍は折れずにしなり、再び生き物のようにうねりながら再び俺の首を狙う。

「パリイ」

そこで俺は向かってくる槍の勢いに逆らわず、薙ぐように黒い剣を押し当て、切っ先の軌道を変えた。

俺は最近、こういうやり方も学んだ。

力任せに打ち払うよりも、こちらの方が弾いた後の隙が少ないのだ。

相手の次の出方をうかがう余裕が少しある。

するとギルバートはもう攻め込んでくることなく、俺と距離をとった。

「……今日はこれくらいにしておくか」

「そうか? 俺はまだ大丈夫だぞ」

「そっちが良くてもこっちがもうダメだ。見ろよ……あと一撃で確実に折れちまう」

ギルバートが俺に見せてきた黄金の槍にはかなり大きな亀裂が入っていた。

彼の槍は『迷宮』で発掘された特別なものらしく、どんな傷も放っておくと勝手に治るという驚きの便利機能が付いていて、小さな傷なら雑談でもしているうちにふさがってしまうのだが。

あそこまで大きなヒビが入ってしまうと、丸一日は放っておかないといけないらしい。

残念だが、今日はもうあの槍を使っての訓練は諦めるしかない。

「そうだな。つい力が入ってしまった。すまない」

「まあ、いつものことだし、いいけどよ……なんで、 王類金属(オリハルコン) がこんなに簡単に折れるんだよ……本当になんなんだ、その剣」

最初の頃は俺も『黒い剣』の扱いに慣れずにギルバートの槍をへし折ってしまい、その度に訓練を中止していた。

だが、最近は滅多にそんなことはなくなった……と思っていたのだが。

そうでもなかったらしい。

仕方なくその日の訓練はそこで切り上げることにした。

「じゃあ、ギルバート。これは今日の礼だ。もらっておいてくれ」

「礼? 珍しいな……いや、礼とかいらねえけどな? まあ、くれるっていうんならもらっておくが……って、なんだこれ?」

ギルバートは俺が渡した小さな紙切れを受け取ると、まじまじと見つめた。

「王都に新規開店する『大衆浴場』の入浴券だそうだ」

「入浴券?」

「ああ。復旧した水路の開通記念だとかで、街中で配っていてな。大量にもらってしまって、余ってるんだ」

「……そうか。まあ、もらっとく。使うかもしれないからな」

「そうしてくれ」

ギルバートは大きなヒビの入った槍を肩に担ぎ、王都市街の方へと向かった。

「……じゃあな。次こそは折らせねえぞ」

「ああ、次は俺も気をつける。またな」

そうして一人になった俺は他の訓練メニューを終わらせると、今日はいつもより早めに一日の汗を流すことにした。