軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

12話【飢えた凶犬】

一時休戦。

実際に戦っていたわけではないが、口論していたティアモと 夜鳴きの梟(ハウル・オウル) の団長は、一時的に共闘することに決めたようだ。後方から虚をついて現れた盗賊団は、ティアモが取り返した荷物を狙っているのだろう。

いや……ティアモの兄であるヴァンという人が本当にダメ人間であるならば、盗賊団を利用してティアモに危害を加えようとしている可能性も多いにあり得る。

「レンさんはお姉さんと一緒に、襲ってくる盗賊団の後方に回りこんでください。正面からの相手はわたし達に任せて、もし逃げようとする者がいれば捕らえるようお願いします」

「あいよ。オイラに任せといて、ティアモちゃん」

ドンッと強く胸を叩き、レンは軽くむせながら遠ざかっていく。

「セイジさん達は、ここでわたしの部隊と協力して盗賊団の掃討を手伝っていただけますか?」

「わかりました」

ティアモの指示に、俺とセシルさんは頷いて油断なく武器を構えた。

「俺らも気を引き締めるぞ。戦えない女子供は怪我しないように天幕の奥にでも引っ込んどけ」

夜鳴きの梟(ハウル・オウル) の団長も周りに指示を飛ばしている。戦闘要員ではない女子供と行動をともにしているため、実際に戦えるのは団員の半分程度といったところか。

ティアモの部下と足し合わせると、こちらの戦力は二十人足らず。

襲撃してくるであろう盗賊団の規模よりわずかに人数は少ないが、ここは量より質で勝負したいと思う。

ティアモが指示を伝え終わり、森で待機していた兵士達と合流して戦闘準備が整ったといえる段階になると、たくさんの騎獣が地面を踏み鳴らす振動をびりびりと肌で感じられるようになってきた。

――来る。

姿を現したのは、俺が当初にイメージしていた盗賊団を具現化した集団――すなわち粗暴な荒くれ者の集まりである。

身に着けている武器や防具はそれなりに質の良い物のようだが、手入れがずさんで赤黒い汚れが目立っている。しかも奪った物を適当に装備しているせいか、兵士などと違って統一性というものが見受けられない。

「……わたしはアモルファスの領主ティアモ・ルドワール。あなた達がどのような理由でこの森に足を踏み入れたのか、お聞かせ願えますか?」

おお、素晴らしい。

どのような相手であれ、まずは言葉で解決を図ろうという精神は尊敬に値する。

ティアモの言葉に、集団から一歩前に進み出た男が無言で彼女を睨みつけた。

「その顔は……手配書で見たことがありますね。たしか、ブレド領の山間部を根城としている盗賊団の長……だったかと。ならば理由はどうあれ、大人しく投降していただ――!?」

ティアモの言葉を無視して、前方から矢が射かけられる。

その軌道は正確に少女の頭を貫こうとするものだったが、到達する前にティアモの隣に控えていた副隊長の剣撃によって真っ二つとなり、ぽとりと地面に落ちた。

さすがは、ティアモを補佐する副隊長。地味に有能(※褒め言葉)だ。

「……交渉決裂、ですね」

残念そうに息を吐くティアモにまたしても二撃目の矢が迫るが、今度は矢が突風により勢いを失い、空中で発火して燃え尽きた。

風魔法と火魔法を連続して発動させたのか……どうやら元魔法を器用に扱っているようだ。

《 極限集中力(オーバーワーク) 》――極限まで高められた集中力により、自己保有スキルに様々な補助効果を与える。ただし非常に疲れるため、たまにはリラックスすることも忘れずに。

うむ。ティアモの所持しているレアスキルは、若いのに懸命に職務を果たそうとする彼女に相応しいもののようだ。

属性魔法は自己のイメージを具現化するため、意識を集中して精密な魔法イメージを頭の中に描く必要がある。集中力が高まれば、きっと魔法の精度や威力も向上するはずだ。

しかし、働きすぎのティアモが過労で倒れるのではないかという心配をさせてくれる一文が盛りこまれているのは見逃せない。ただでさえ魔法を使用すると身体が疲労してしまうため、長時間に渡る戦闘は控えるべきだろう。

「突撃ぃっ!!」

副隊長の号令により、ティアモの部隊が敵に突っ込んでいく。対する盗賊団も武器を手に、野太い声を重なり合わせてそれに応じた。

ティアモ自身は接近戦に適したスキルを所持していないため、魔法で後方から援護する役割を担うらしい。突進していく部隊の後方で小さな身体を弾ませている。

「……お前さんは、行かないのか?」

「え?」

振り向けば、横には団長の姿があった。戦闘の様子を俯瞰している俺に対してサボタージュの疑いがかかったようだ。

断っておくが、別に俺はボーッと立っているわけではない。訓練された兵士と違い、統率された動きができない俺とセシルさんは遊撃要員である。ティアモからはある程度自由に戦ってくれていいと言われているのだ。

「そっちこそ、戦わないんですか?」

夜鳴きの梟(ハウル・オウル) の面々はといえば、団長と副団長、それに獣人とヒューマンの数人らが武器を携えているが、まだ動く気配はない。

「と思っていたんだけどな……見たところ、あの嬢ちゃんの連れている兵士達の練度はなかなかに高い。数じゃあ負けてるが、この場は任せて俺達は念のために備えておこうと思ってな」

「それって――……」

こちらが尋ねようと口を開きかけたあたりで、

「ちょこまかと邪魔なんだよぉ! お前らぁぁ!」

一際大きい声が、空気を震わせた。

見れば、隊列を崩さずに盗賊団と対峙していた部隊に綻びが生じているではないか。前衛を担うのは重装備に身を包んだ兵士だったのだが、その一人が吹っ飛ばされたのだ。

「おらおら! 俺様は今、最っっっっ高に頭にキテんだからよ! 邪魔すんじゃねえ!」

声を荒げているのは、さっきティアモの言葉を無視した盗賊のボスである。

その風貌はゴリラが無理やりに人間の皮を被ったような毛むくじゃらの大男。野生的という言葉を通り越して、もはや人間よりも動物に近い存在ではないかと疑ってしまうほどだ。

「なんか……あの人、団長さんのこと睨んでない?」

セシルさんが、団長へと疑問の眼差しを向ける。

「まあ、獲物を横取りされたわけだしな。それに、前からあいつは俺のことを目の敵にしてやがる。まったく……困ったもんだよ」

普通の盗賊団からすれば、義賊なんていうのは気取った連中に映るのかもしれない。

「それは、団長の女癖が悪いからでしょう」

呆れたような声ですかさず言葉を差し込んできたのは、傍にいた副団長だ。

「あれは俺のせいじゃない。向こうが勝手に……」

……どうやら別に理由がありそうだが、今はそれについて言及している場合ではないだろう。

このままではティアモの部隊が危険だ。あの厄介なボスゴリラを黙らせないと。

「行こう! セシルさん」

「そうだね。ボクも身体を動かしたくてウズウズしてたところさ」

俺はルークの背に飛び乗り、白銀剣ブランシュと黒剣ノワールを両手に持って構える。

「クォォッ!」

短く咆哮を上げたルークは、勢いよく戦場の真っ只中へと突っこんでいく。集団戦闘というのは初めてだから、正直なところ勝手がよくわからない。好きなように動いていいと言ってくれたティアモには感謝すべきだろう。

とはいえ、いきなりルークのドラゴンブレスなんぞをぶちかませば、味方にまで被害が出てしまうことになる。

ここは――

「せああああぁぁぁぁぁぁぁっ!」

狙うは、ボスゴリラのみ。

戦っている兵士や盗賊の間をすり抜け、ルークは限界まで脚の筋力を収縮させると、重力の縛りをいとも簡単に振り払った。

高く舞い上がった上空から標的を正確に捉え、落下とともに振り下ろした剣は目標の大男へと届く。

「な!? っ……んだお前はぁぁぁぁぁぁ!」

が……さすがに盗賊団の頭をやっているだけのことはある。大型の斧で双剣は見事に受け止められ、弾かれてしまった。

「お、驚かせやがって。だが俺様の愛斧ヘルメスたんの前じゃあ、そんな細っこい剣なんぞポッキリといっちま――っ!?」

やはり白銀剣ブランシュは凄まじい切れ味のようで、鋼鉄の塊のような大斧を相手にしても刃こぼれなど一切せず、逆に斧の分厚い刃のほうが欠けている始末である。

「ば、馬鹿なぁっ! 俺様のヘルメスたんが、こんなガキの剣に打ち負けただと!?」

はっはっは。武器に名前を付けるとか恥ずかしくないのかね、君は。

それにヘルメスたんって…………ウチのブランシュたんとノワールたんのほうが断然カッコイイだろうがよ!!

「ちぇっ。セー君に先を越されちゃったか。それじゃあ、ボクは兵士さんを援護するほうに回るから、もし交代するんだったら言ってよね」

セシルさんは悔しそうにつぶやいた後、すぐさま周囲の盗賊達へとターゲットを切り替えたようだ。いつから早い者勝ちとなったのかは知らないが、彼女には崩れた前衛の代わりをしていただくとしようか。

「セイジさん! その人の相手は一人では危険です。他の兵士と協力して対処してください」

後方からティアモの叫ぶ声が聞こえたが、複数で一人を囲んで戦うといった経験があまりない俺にとっては、一対一のほうがやりやすい。

「ルーク、お前も兵士のほうに加勢をしにいってくれ。こいつは俺一人でやる」

「一人で……だと? この俺様の相手を、お前みたいなガキが?」

青筋をピクピクさせる大男は、それを挑発と受け取ったらしい。

「それじゃあ冒険者ランクCの実力、いっちょ見せてやりますか」

「雑魚がぁっ! 調子に乗ってんじゃ、ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

こちらの頭をかち割ろうとする強撃を、二本の剣を交差させて防ぎきった。軋むような感覚は俺の身体の内から発せられるもので、予想以上に重たい。

なんだか、ハンマーで地面に打ちつけられる杭になったような気分だ。

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名前:ドルフォイ・ギブス

種族:ヒューマン

年齢:36

職業:盗賊団『 飢えた狂犬(マッドガルム) 』団長

特殊: 天候察知(ウェザースカウト)

スキル

・斧術Lv3(13/150)

・身体能力強化Lv2(44/50)

・農作業Lv2(36/50)

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さて……色々とツッコミたいところはあるが、一番興味をそそられるのは身体能力強化のスキルだろう。

しかし、何気に農作業のスキルLvが高いな。所持している特殊能力なんかは農夫として天性の才能とでもいうべきものだろう。いったいどこで道を踏み外してしまったのか。

現在、俺のスキル枠の空きは二つ。今ここで畑を耕すのを視認できるとは思えないので、奪うとすれば残りの二つに決定だろう。

身体能力強化のLvは俺のほうが上だが、ドルフォイの身体はゴリラにヒューマンスキンコーティングを施したような筋肉塊のため、力勝負はやめておいたほうがいい。

風魔法で身体を補助し、傍にあった木の枝へと飛び移ると、俺は思いっきり枝をしならせた。

周囲を巻き込むような強力な魔法剣は控え、確実に獲物だけを仕留めてやる。

「せぃ!」

「たぁ!」

「はっ!」

「やぁっ!」

一撃を加え、反撃を受ける前にすぐさま別の枝へと移動する――ヒットアンドアウェイ戦法。

広いとはいえない森の中では有効だろう。

とはいえ、一撃ごとに込められている力は相当なもので、並の相手なら初撃で決着がついていたはずである。

「ちょこまかとっ! この山猿がぁぁ!」

なんとか攻撃を耐えていたドルフォイだが、厄介な攻撃を元から断とうと、俺ではなく木々を伐採しようと斧を振るったのだった。

バキバキと木の幹が悲鳴を上げ、ズズンッと地面へと倒れ込んでいく。

「どうだ! 飛び移る足場がなくなっちまえば、大人しくヘルメスたんの餌食になるしかねえだろうがよ!」

「……危ないなぁ。そんな乱暴なことをしたら、あなたの仲間が倒れた木の下敷きになっちゃうかもしれませんよ」

「――――――は?」

ドルフォイの武器である斧は、ごつごつとした硬そうな皮膚に覆われた手でしっかりと握られており、俺はそんな相手の手にそっと触れるようにして忠告をしてあげた。

……………………

…………

……くっくっく。あーっはっはっとはっはっはっはっはっはっは!

あ、いけない。これじゃあ俺が悪者みたいじゃないか。

「てめぇ……何がそんなにおかしい!」

心の中での喜びが外部に漏れ出てしまったのか、わずかに笑みを浮かべていた俺に腹を立てたドルフォイが声を張り上げる。

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名前:セイジ・アガツマ

種族:ヒューマン

年齢:18

職業:冒険者(ランクC)

特殊: 盗賊の眼(ライオットアイズ)

スキル

・ 盗賊の神技(ライオットグラスパー) Lv3(42/150)

・剣術Lv3(141/150)

・体術Lv3(15/150)

・斧術Lv3(13/150)

・元魔法Lv2(33/150)

・身体能力強化Lv3(128/150)

・状態異常耐性Lv3(45/150)

・生命力強化Lv2(36/50)

・モンスターテイムLv2(17/50)

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戦いの最中に気を緩めるのはいただけないが、ちょっとぐらい喜んだっていいだろう。

現在、俺の《 盗賊の神技(ライオットグラスパー) 》は約五割程度の成功率だが……まさか両方ともいただけるとは思っていなかった。斧術のほうはそれほど必要でもないが、これで剣術に続いて身体能力強化のスキルもLv4目前となったのだ。

身体中の細胞が活性化したような高揚感。脳からの運動指令で筋肉を収縮させる一連の流れが精密にコントロールされ、かつ爆発的な筋力を生み出せる状態にあるのが感じられる。

ここまで身体能力が強化されれば、剣術を先にLv4に到達させても身体にそれほど負担はかからないだろう。

「こんのっ……?! う、動かね……ぇ」

相手の拳に添えていた掌に、押さえつけるようにして力を込めた。

ピクリとも動かない状況に、ドルフォイは汗を浮かべながら苦悶の表情となる。

「ぐ、ぬぁ……くそ!」

押さえつけていた力を緩めてやると、後ろにのけぞるようにして二、三歩後退していく。

「俺様がヘルメスたんを重く感じる……だと? そんなことが、あってたまるかぁぁぁぁぁ!」

大斧が高く持ち上げられたが、それが振り下ろされるより速く、瞬時に間合いを詰める。

「……よくよく考えれば、その名前も悪くはなかったと思います」

素直な感想を述べてから、ドルフォイの身体に正面から拳を突き入れた。

鎧ごと砕き割る一撃は、衝撃で巨体をくの字に折り曲げさせる。

「ぐぼぁっ!」

両刃剣に変形させていた双剣を分解して鞘へとしまい、身体を折り曲げたドルフォイの腹へと下方向から突き上げるように蹴りを放つ。

「ぐ……がぁ!」

空中へと浮かび上がった巨体を追いかけるようにして跳躍した俺は、両拳を組むようにして身体を弓なりにギリギリと引き伸ばし、ドルフォイの背部を強打して地面へと叩きつけた。

「がっ……ハ、ぐ」

二メートル以上もあるゴリラ男を力任せに殴りつけてねじ伏せる。

そんな光景に、争っていた盗賊や兵士達が一瞬だけ手を止めた。

「お、おい。ドルフォイさんがやられちまったぞ」

「う、嘘だろ?」

「おいおい、どうすんだよ!?」

盗賊達の中で少なからず混乱が生じ始める。

「……大人しく降伏しなさい。そうすれば命を奪うことはいたしません」

これを好機とみたのか、すかさず降伏勧告を行なうティアモは状況判断に優れた将だと思う。

「じょ、冗談じゃねえや。俺は逃げるぞ」

「つ、捕まってたまるかよ」

「待ってくれよぉ!」

しかしまあ、盗賊がそんな勧告を素直に受け入れるはずもなく、統率を失った盗賊達は蜘蛛の子を散らすように逃げていくではないか。

一人、……二人、……か。

逃げようとする盗賊を捕らえるのは、レイとレンの双子姉弟の仕事だったわけだが、少しばかり俺も手伝うことにしよう。

ちなみに今数えていたのは、逃げていく盗賊の中でも目当てのスキルを所持している者の数だ。

さあ――狩りを始めよう。

◆◆◆

「――――ひ、ぁ。おま……え、は。た、頼む! 命だけは!」

怯えた表情を隠すことなく、こちらへと懇願の声を上げる盗賊の男。これではまるで俺が追い剥ぎでもしているみたいじゃないか。

「大人しく降伏すれば、危害を加えるような真似はしませんよ」

「ほ、本当か?」

「ええ、もちろんです。いやはや、それにしても三回連続成功というのはさすがに無理がありましたね。あなたには……期待してますよ」

「な、なにを言って」

「わからなくていいです。とりあえず、そこで 剣(・) を軽く振ってみてください」

盗賊の男は、怯えながらも言われたままに鞘から抜いた剣を振り下ろした。

「……うん。良い構えですね。とてもいい」

俺は興奮を抑えきることができず、拳を強く握り締める。

――Lv4。

達人の域に届くかもしれない高揚感が身体を支配していく。

下手をすれば、掴んだ物体を握り潰してしまうかもしれない。

「な、なにを、するつもりだ。お、お前は命を助けてくれるって……」

嘘など吐いていない。命を奪うつもりなんて、俺にはないのだから。

――奪うのは……

「や、やめ……なにを、するつもりだ! やめ、ああああああああああああああああああああああああママぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

◆◆◆

「それにしても、驚きました」

「なにがですか?」

捕らえた盗賊を縛り上げて一箇所に集める作業を手伝っていた俺へと、ティアモが話しかけてきた。

「まさか、これほど被害を抑えて盗賊団を撃退できるとは思っていなかったですから」

ドルフォイに吹っ飛ばされた兵士は重傷だが、幸いなことに兵士側に死者は出ていない。

「セイジさんがこの男を真っ先に倒してくれたおかげですね」

「くっそぉ……俺様がこんなガキに」

悪態を吐いているのは、縄でぐるぐる巻きにされているドルフォイである。

「まったく、俺も驚いたぜ。こいつは頭のほうはアレだが、戦うとなるとそこそこ厄介な相手だったんだがな」

俺とティアモが喋っているところへと寄ってきたのは、 夜鳴きの梟(ハウル・オウル) の団長と副団長だ。

「てめぇ! コラ! 一発殴らせろ!」

ドルフォイと顔見知りだったという団長は、縛られた状態で怒鳴る大男を華麗にスルーして話を続ける。

「ところでティアモ嬢ちゃん。早くここを離れたほうがいい。こんだけ派手に暴れちまったんだ。すぐさま魔物がやって来るかもしれないからな」

「ええ。わかっています。負傷した兵士の手当てが終わればすぐにでも――」

――ヒュンッ!

空気を裂くような音とともに飛来したのは、人間を穿つのに十分な質量を有する太く尖った枝だった。

「……え?」

「危ない!」

ティアモの細い身体に風穴を空ける軌道で迫った凶器を、俺は鞘から引き抜いた双剣で粉微塵に斬り飛ばした。

パラパラと飛び散った木片が、ぺちんと少女の頬を撫でていく。

「きゃっ、な……なに?」

突然の出来事に、さすがのティアモも驚きを隠せずにいた。

「ちっ……やっぱり来やがったか」

舌打ちした団長は辺りを警戒するように見回す。俺も耳をすませてみたが、木々をなぎ倒すような物騒な音は聞こえてこない。

しかし、変だな。

念のため、双子姉弟に周囲を警戒するようにお願いしていたはずなのに……なんの報告もなく、いきなり攻撃を受けるだなんて。

「――おいでなすったぞ」

団長が言葉を向けた先に目をやると、森の奥からぬぅっと姿を現した魔物が視界に入った。

顔は醜悪な猿のような面をしているが、身体は虎縞模様が目立つ獣のものであり、尻尾はウネウネと意思を持った蛇のようにうごめいている。

「雷獣……ヌエ」

ティアモがつぶやくと、さらにもう一匹が森の暗がりから顔をのぞかせた。

な、――――!?

新たに姿を見せた魔物が、両腕に持っていた物体をゆっくりと地面へと放り投げる。

「あ……ぐ。ご、ごめんセーちゃん。この魔物の相手はそっちにお願いしてもいいかな。オイラには無理だった」

「ワタシも……ちょっと疲れたわ」

地面に横たわったのは、額から血を流しているレンに、衣服がところどころ焦げてしまっているレイだ。息はあるようだが、怪我の程度はすぐには判断できない。

「ちっ! ミラ、お前はあの二人を回収して手当てしとけ」

「わかりました。ですが、団長は……?」

ミラと呼ばれた副団長の問いに、団長はすぐさま返事をする。

「なんのためにさっきの戦いで力を温存してたと思ってるんだ。あいつらを片づけるに決まってるだろう。ティアモ嬢ちゃんの部隊はかなり疲労しちまってるからな」

なるほど。やはり団長が言っていた『念のために備える』というのは、魔物が襲ってくると予想してのことだったのか。

だけど……な。

「おい。無闇に近づくな! 危ないぞ!」

魔物に近づこうとする俺へと、団長が叫んだ。

眼前の魔物は、猿面を嗤うかのように歪ませている。

……まあ、今のうちに嗤ってればいいさ。

鞘から引き抜いた双剣は、次元の異なる領域へと到達した感動を体現してくれることだろう。

「たしかに、縄張りを荒らしたのは悪かったけどさ……」

レンとレイについては、まだ完全に信頼して心を許したわけではない。

それでも、手の届く範囲であれば助けてあげたいと思うのは、甘いのだろうか?

「俺の手が届く範囲っていうのは――――俺の縄張りなんだよ」