軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

13話【転がる一粒の砂糖菓子】

メルベイルからは、大きく分けて四つの街道が伸びている。

そのため東西南北の四箇所に門が設けられており、北の街道をずっと進むと王都イリスに至る。

そして西は港町パスクム、東はベルニカ城塞都市、南はワイド城塞都市へとそれぞれ続いている。これら四つの街道には途中で分岐が存在し、やや幅の狭い街道を奥へ進むと小さな街や村へと辿り着くのだ。

南にあるワイド城塞都市は、魔族の侵攻を阻止するよう建設された砦へと物資を補給する役割も兼ねているリシェイル王国南部で最も大きな街だ。

メルベイルよりワイドへと伸びる街道の途中で西に分岐する道をしばらく進むと、人口二百人ほどの村――ラナ村が存在している。

ラナ村ではサトウキビの栽培が盛んに行われており、精製した砂糖の売却、それを用いた菓子も販売していたりするのだった。

気候と土壌が生育に適しているため、植え付け時期をずらせば一年を通して収穫を期待できる。

ラナ村にて――

「――ミニィっ、そろそろ日も暮れる頃だから皆を集めてちょうだい。それと、収穫したサトウキビはいつもの場所に積んでおくのよ」

そう呼びかけたのは、二十代後半の女性――エレノアだ。

決して高価な衣服を着ているわけではないのだが、清潔感溢れるサッパリとした印象を受ける。

「うん、みんなに伝えてくるね」

対して返事をした少女はまだ七、八歳といったところだが、幼さからくる甘えというものを感じさせない。

エレノアはミニィの返事を受けて頷き、来た道を戻っていった。

ミニィはサトウキビ畑の中を小さな手足を動かして駆け回り、他の子供達へと作業を終えるように伝えていく。

「そっか。お疲れミニィ。じゃあ収穫したサトウキビはおれたちで積んでおくから、おじさんに報告しといてくれるか?」

「うん」

ミニィと同じぐらいの年の少年――ロイがそう言ってサトウキビの束を持ちあげた。

この少年少女達は、ラナ村の外れにある孤児院に住まう子供達である。

魔物や病気、もしくは魔族によって親を亡くした――彼らはそうやって孤児となった身の上だ。

多くの街や村にはそういった孤児を受け入れる孤児院が建てられているのだが、生活していくお金は自分達で稼がなければならない。

まだ幼いながらもサトウキビ収穫の手伝いをすることで農家からわずかばかりの謝礼を受け取り、それを生活費に充てていた。

「――お帰りなさい。汚れた服はそっちの籠の中に入れてね。それともうすぐ晩御飯だからテーブルの上を綺麗にしといてもらえる?」

子供達の帰宅を労うエレノアが、てきぱきと指示を出す。

「エレノアさん。これ」

ミニィが握りしめていた硬貨をエレノアへ手渡すと「ミニィは良い子だね」と褒めながら頭を撫でられた。

「……よしっ! 皆、頑張ったご褒美に美味しいシチューをいっぱい食べなさい」

慎ましいながらも、子供達が笑い合う喧騒に包まれた平和な日常。

そんな光景にエレノアは満足しつつ、ふと昔を思い出した。

エレノア自身、幼い頃はこの孤児院で暮らしていた経験を持っており、今では子供達の面倒をみる立場となっている。

あの頃に一緒に暮らしていた皆はそれぞれの道を歩んでいることだろう。

しかし、自分よりも少し年上で姉のような存在だった彼女が、まさかあのような幸運に恵まれるとは思ってもみなかった。

二度と会うことのできない存在となってしまった今、果たしてそれが恵まれていたのか疑問ではあるが。

「亡くなった理由は発表されず……か」

「……どうかしたの? エレノアさん?」

囁くように呟いたエレノアを見上げるようにして、シチューを胃袋に注ぎ込んでいくロイが尋ねた。

「ううん、何でもないのよ。それよりも今日のシチューはどう?」

「すごくうまいよっ。なにより肉がいっぱいだしね。もしかして、またナゾの寄付でもあったの?」

「う~ん、実はそうなのよね。一体誰が送ってくれるんだろ?」

ラナ村には砂糖を求めて商人が訪れることも多いが……『頼まれた』という伝言とともに寄付金が届けられることが時折あるのだった。

もしや孤児院出身者の誰かが……とエレノアも考えたのだが、名前を伏せる意味が分からない。

硬貨の袋に一緒に入っている一輪の花はどこかで見た記憶はあるのだが……

「まあ、有難く使わせてもらうことにしましょう。皆の将来のために貯蓄も必要だし」

――エレノアが思考に区切りをつけたところで、孤児院の扉を叩く音が響いた。

ここは村の外れに位置しているため、村人が訪問してくるというのは珍しい。それも日暮れ後のこんな時間ともなれば尚更である。

「……誰かしら? こんな時間に」

エレノアは子供達に食事を続けるように言って席を立ち、扉へと向かう。

「はい、どなた――」

言いかけて、エレノアはすぐさま異変を察知した。

黒ずくめのマントに身を包み、覆面を被っているために顔すら確認できない――明らかに村とは異質な集団。

「あ、あなた達、一体――」

「動くな……騒げば殺す。こちらの指示にだけ従え。そうすれば死ぬこともない。従わない場合は後ろにいるガキ共も含めて全員が死ぬことになる」

「な……にを――」

喉元にナイフを突き付けられたエレノアが、訳が分からないといった声を漏らす。

「余計なことは喋るな。従うのなら、一度だけ返事をしろ」

「……は……い」

「よし……全員、中に入るぞ」

孤児院の中の平和な光景が、一瞬で殺伐とした空気に押し潰された。

事態を把握できない子供のうち何人かは、エレノアの強張った表情と異質な集団を見て泣き出す始末である。

「泣いているガキを黙らせろ。それと、全員にいつも通り行動するよう伝えろ」

覆面の下から響く男の声は、淡々と命令を続ける。

他の村人に知られぬように、普段通りの生活を続けろということらしい。

日中に働きに出ている子供は明日もいつも通りに、但し余計なことを漏らしたらエレノアも含めた全員が死ぬことになる、と。

「――理解したか? まあ、漏らせばすぐにその村人も殺すがな。常に見張られていることを忘れるな」

「え……エレノアさんを……はなせっ」

「ろ、ロイ……」

そう叫んだロイが黒づくめの男を睨みつける。

男はうんざりしたように溜息をつき、隣にいる部下へと顎で何かを指示した。

「了解です」

覆面越しにくぐもった女性の声が響き、マントの下から取り出されたのは――鞭。

女がわずかに手元を動かしたと思った瞬間――ロイは身体が宙に浮く感覚を味わった。

足に巻き付いた鞭がロイの身体を強引に男の前へと引き寄せたのだ。

床に打ちつけられた衝撃に苦しんでいることなど構わず、男はロイの腹部へと蹴りを放つ。

「ぎ……ぁ……っ」

「当然ながら、余計なことを言えばこうなる。さて……反抗的なガキのお仕置きにはどういったことが適当か……」

男がエレノアの喉元のナイフを少しばかり動かすと、赤い滴が肌を伝ってポトリと床に落ちた。

「や、やめ……ごめん、なさい」

「それとも……仲の良いガキが殺された方が物分かりが良くなるか?」

耳元で囁かれたロイが思わず視線を向けてしまった先には――

「や……こわ……いよ……」

震えながら目に涙を浮かべるミニィの姿があった。

「もう、しません……だからミニィには……」

「――二度目はないぞ」

大人しくなった子供達を寝室へ移動させ終えた後、集団の一人が声を上げた。

殺伐とした空間にそぐわない緊張感の無い声である。

「しかし隊長~、これで上手くいきますかね?」

「問題ない。奴のことは俺が一番知っているからな……『何事も効率良く』というのは、奴から教わった言葉だったか……」

男は嗤いを堪えるように身体を揺らす。

「あんたは何も考えずに隊長に従っていればいいのよ。それこそさっきの子供達みたいに」

「ひっでぇ~、レイ姉の言葉はいちいち胸に刺さるんだって」

「……あまり無駄口を叩くな。明日、お前らは俺についてこい。他の者はここで待機。妙な素振りをする奴がいれば子供でも容赦はするな」

「「はっ!」」

「ま……せいぜい自国の王とその弟を恨むんだな」

男は、床に座り込んで茫然としているエレノアに向かってそんな言葉を吐いたのだった。

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐◆◆◆

意識が暗い闇の底へと沈み、身体の感覚はどこか希薄に思える不思議な空間に……立っている。

――ああ、これは夢だ。

そんなことを自覚しながらも、男は黙って目の前で繰り広げられる光景を見続ける。

「――あなた達は何故こんなことをするの?」

「それが与えられた任務だ」

男の口からは意思とは無関係にそんな言葉が吐き出された。

これはもう起こってしまったことだ。この夢はただ記憶通りにそれを再生しているだけに過ぎない。

過去の自分へと、無理やり意識を埋め込まれたような違和感。

「貴族のお姫様は難しいことを考えず、無事に帰れることを祈っていればいい」

「貴族……か。そっか。そうよねー……でも私はそんな実感まだないのよ」

「……」

「信じられないかもしれないけど、私って孤児院出身なの。夫に求婚された時はそりゃもう誰が驚いたって、私が一番驚いたわ。こんな平民の娘にこの人は何を考えてるんだーって」

「……そうか」

「ねえ、ただジッとしてるのも暇なんだから何かお話してよ。人質を退屈で殺す気? あなたはどんな風に育ってこんな非人道的なことをする人間になったのかしら?」

「よく喋るな……少し黙っていてくれ」

途端――ぶつ切りの記憶を適当に繋げたかのように、場面が切り替わる。

「――ねぇ、こんなことをして、そちらとリシェイルが戦争にでもなったらどうする気なの? そうなったらあなた達も困るんじゃない?」

「ならない。軍事力は圧倒的にこちらが上だ。もしレーべ山脈を越えてリシェイルの兵が侵攻してくれば全滅するだろうさ。そんなことは当然相手も知っている」

但し……と男はさらに言葉を続ける。

「こちらがリシェイル王国を攻めるのも困難なのは確かだ。ベルニカ城塞都市はレーべ山脈という自然を利用した天然の要塞だからな。それで無理に争わずに仲良くやりましょうという関係が保たれている」

「私の今の状態を考えると『仲良く』とはとても思えないのだけど?」

「二つの国があれば対等には成り得ない。自国に有利な関係を築こうとするものだろう」

「その方法がコレって……私は反対だなぁ」

「――フィリアの花って知ってる? 綺麗な白い花なんだけど」

「確か……リシェイル王国に群生する花ではないだろう」

「あ、やっぱりあなたは私の問いに反応してくれるのね。ここ数日、見張っている人の中でまともに返事をしてくれるのってあなただけなんだもの」

「……」

「その花ね、子供の頃に行商人が村に来た際に一度だけ目にしたことがあったの。同じ名前だなぁってなんだか嬉しい気分になっちゃって」

「……そうか」

「こないだ館の庭園に種を蒔いてみたわ。育つといいんだけど」

「あれは西方の植物だ。雨量が少ない気候に適しているため、水を与え過ぎると逆に枯れてしまうらしい」

「へぇ……物知りなのね」

「仕事の関係上、様々な教養を身につけておくと便利なだけだ」

「――あなたって家族はいるの?」

「……いない」

「まあ私も親なんていないんだけど、全然寂しくはなかったわ。だって孤児院で過ごした皆が家族みたいなものだったもの。特に、少し年下の女の子なんて本当の妹みたいで――」

「本当に……よく喋る」

「でもね。やっぱり本当の家族も素晴らしいと思う。優しい夫に愛らしい娘……幸せだったなぁ。娘はまだ一歳にも満たないけど、将来は絶対可愛い子に育つと思うのに……」

「向こうが要求を呑めば、無事に解放してやるさ」

「そう……ね」

「――どうやら、向こうはこちらの要求を呑む動きをみせている。もうすぐ解放だ」

「あの人、とても優しい人だから……あなた達が私を標的にしたのは効果的だったと思うわ」

ところで――と言葉が続けられる。

「夫が求婚してくれた際、私になんて言ったと思う?」

突然の質問に、男は相手の続く言葉を黙って待った。

「――リシェイル王国をもっと豊かで平和な国にしたい。一生かけても達成できないかもしれないが、君が支えてくれたら嬉しい――だったかしら」

「いきなり何を言いだ……――っ!?」

女が駆けだし、勢いよく窓にその身を乗り出す。

しかし、この距離であれば瞬時に詰め寄って阻止することは可能だ。

が、振り返った女と目が合った瞬間――わずかに男の身体が硬直する。

「今の私にとって、支えることができるとすればこれぐらいでしょう。人質が死ねば夫もあなた達の言いなりにならなくて済むもの」

人は……そう簡単に死を選択できるものではない。

にも関わらず、女の瞳はどこまでも真っすぐだった。

「最後に一つだけお願いがあるわ。もう私の家族を――こんなことに巻き込まないで」

「まっ――!!」

伸ばした手は、何も掴むことなどできない。

そんなことはもう分かっている。知っている。もう終わってしまったことだ。

「――カハッ……は……ふ……ハァ」

男は夢から覚醒して数分、目を瞑ったまま動かなかった。

大きな呼吸を荒く繰り返し、身体の内側から激しくノックする心臓を落ち着かせるように努める。

「……結局、私は自己満足に浸っているだけなのでしょうね」

男の呟くような声は、時を告げる鐘の音にかき消されたのだった。

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐◆◆◆

――七月二週、火の日。曇り。

ランクC以上の依頼がメルベイルでは少なくなってくるので、とりあえずここしばらくは状態異常耐性をLv3に上げようと努めていた。

今日は休日としているため、六時の鐘の音をなんとかやり過ごして二度寝を楽しんでいるところである。

昨晩は遅くまで考え事をしていたため、余計に眠い。

考えていたこととは……アルバへの願い事だ。

別に焦る必要はないのだが、このまま放っておいたら俺の方が忘れてしまいそうになる。

とはいっても魔族に何かしてもらうことなんて、なかなか思い浮かばない。

いっそのこと本当にペットに……なんてことをすれば街中で大変な騒ぎになること間違いなしである。

先日図書館で『魔族解体新書(※憶測含む)』というものを読んだ。

身体的特徴は角が生えていたり翼があったりと様々らしいが、総じて紅眼であるため魔族だと一目でバレるだろう。

アルバはほぼヒューマンと変わらぬ姿であったにも関わらず、リムが魔族だと認識して攻撃したのもそのせいだろうと思う。

七時の鐘が鳴る前に、扉がトントンと叩かれる音で目を覚ました俺はベッドから這い出すことに成功し、来訪者に顔をみせる。

「リムか……どしたん?」

「セイジが今日は休みって言ってたから……マリータのところに一緒にいかない?」

――あの日以後、俺とリムは更に一回マリータへと会いに行っている。ちらりと顔を見せる程度ではあるが、リムが予想以上にマリータと気が合ったことが大きい。

「ん、あれ……? リムの髪にあるのって……?」

猫耳がちょこんと鎮座している栗色の髪に、小さな金の髪飾りが光っているのを俺は見逃さなかった。

「その、マリータにあたしも少しぐらい女の子らしい物を着けてみたらって言われて……この前買ったの。どう……かな?」

「そうだな、似合ってると思うよ」

「ぅんっ……ありがとう」

「それじゃ、ちょっと着替えるし。朝飯食べたら呼びにいくから」

……扉を閉めた後、俺はベッドの上に四回ほど頭を叩きつける。

煩っ、悩っ、退っ、散っ!

――頭がクリアになったところで改めて領主館へ。衛兵へと挨拶することでロギンスさんが同じく出迎えてくれる。

領主のアルベルトさんにはマリータが話を通してくれているらしいのだが、挨拶しようにも多忙のために会えず仕舞いだ。

それにしても、マリータはかなり父親を尊敬しているようである。

「争わずに王位をハーディン叔父様に譲ったのは良いことだと思うけど、父様だって王としての器を……」などと言うぐらいだ。

ま、そこは色々あるんじゃないでしょうかね。

さて、リムとマリータは館に囲まれるかたちとなっている庭園で遊んでいるため、現在俺とロギンスさんは部屋で二人きりの状態である。

何をするでもなく二人の少女が遊ぶ姿を眺めて和む……というのはさすがにどうかと思うので、メイドさんが紅茶のお代わりを持ってきたタイミングで会話を試みた。

「ロギンスさんって、確かもう十年ぐらいここで働いてるんでしたよね……?」

「はい。もう随分と長くお世話になっております」

「じゃあ、家族とかもメルベイルに?」

「いえ、私には妻や子供がおりませんもので」

「――実は、私達メイドの間ではロギンスさんに憧れている人が多いんですよ」

にこりと微笑みながら話に割り込んできたのは、意外なことにメイドさんである。

なるほど。未婚の渋いおじ様、腕も立って仕事もできる……とくれば年の離れた若いメイドにも人気が出るってもんだろう。

ってかこの人、しっかり『私』達ってアピールしたな……。

「フィリア様のようにメイドも幸せを掴むチャンスがあるんだと、希望を持ってこの仕事に励んでいきたいと――」

「ゔ、ん……私など、ただの貧乏な老いぼれですよ」

いやいや、未婚で働き続けてるってことはかなり……ねぇ?

ところでさっき話にあったフィリア様……って確か、マリータの母親の名前じゃなかったっけ? メイド?

「あの、フィリアさんって……メイドだったんですか?」

「ええ、私はここで働かせていただいてまだ四年なので聞いた話になりますけど、元々フィリア様はこの館で働くメイドだったそうです。それがアルベルト様に見初められてご結婚されたとか」

確かに、メイドにとっては夢溢れる話だな。

「貴族がメイドに遊びで手を出すことは結構あるようですが、アルベルト様はフィリア様亡き後も再婚の意思を示されない……きっとフィリア様を真剣に愛しておられたのでしょうね」

うっとりした瞳で恋を語るメイドさん。

その瞳の先にはロギンスさんがロックオンされているのだろう。

「それは確かに間違いのないことだと思います。ところで、私は……きちんと自分の仕事をこなす女性が素晴らしいと思うのですが」

「……っ! それでは私はこれで失礼しますね。まだまだお仕事がたくさんあるので、きっと私がいないと回らないと思うんです。それではっ」

瞬時に部屋を退出していくメイドさん。

俺……ああいう人好きかもしれない。

人間的に。

「――ふむ。マリータが過保護なまでに大事にされてるのはフィリアさんの分までってことかもな」

領主館からの帰り道――俺が頷いている横で、リムは手に持った白い花を眺めて嬉しそうにしている。

「それは?」

「フィリアの花っていうらしいよ。マリータのお母さんと同じ名前……綺麗な花だって言ったらくれたの。ダリオさんが良ければ宿に飾ろうと思って」

確かに、食堂に飾れば空間が華やぐような気がする。

――って!

「リムっ、前!」

「……ぇ? あっ――」

――人同士がぶつかり合う音。

と同時に、リムがぶつかった相手の持っていた何かが地面へと転がり落ちた。

俺はすぐさまそれを拾い上げて謝ろうとしたのだが……

「おいおい、何ぶつかってんだよ。レイ姉は怖いぞ~。たっぷりと慰謝料を払わないと――って痛いっ!」

「……あんた。なに目立つようなことしてんのよ。殴るわよっ」

いや、もう殴ってるし。

古典的なコントを披露しているのは、リムがぶつかった女性とその横にいた男性である。

どちらも黒髪に黒眼で、浅黒い肌……アジアンチックな印象を受ける二人だ。

というか顔がそっくりだな……双子か? 同じ端正な顔とはいっても女性ならば癒されるもの、男性ならば嫉妬できるものだと思い知らされる。

……などと観察してる場合ではなく、まず謝らないと。

「すいません」

「ごめんなさい」

俺達の謝罪の言葉を受け、女性の方が片手を上げてそれを制する。

「いえ、別にいいです。ちょっと気に入っていたお菓子を落としただけですから。別になんとも思っていませんよ。別に弁償しろとか言いません」

「レイ姉、砂を払えばまだ食えるかもしれないよ?」

「黙りな。ならあんたが食いなさいよ」

遠くから、男性が誰かを呼ぶような声が聞こえた。

「あ……ワタシ達は用があるので、それでは」

そうして、双子(※たぶん)は足早に人混みに紛れて見えなくなってしまった。

「しっかり前見ないと危ないぞ」

「うん……ごめん」

ションボリしながらも、フィリアの花は落とさずにしっかりと持っている。

「まあ、その花は無事で良かったな…………ん?」

「どうしたの?」

俺は双子の女性の方が落としたお菓子とやらを拾い上げた。

これ、どこかで見たような……?

ああっ、確かこの前ドーレさんから貰った砂糖菓子と同じものだ。

どこかの村の特産品とか言っていたっけ。

結構美味しかったけど、砂まみれでさすがにこれを食うとかはあり得ないか。悪いことしたな。

勿体無いが、俺は掌に意識を集中させて火魔法を発動させる。

ゴミになってもあれだから――焼却処分しておこう。

砂糖菓子は小さな火の球の中でグニャリと変形した後、蒸発するように溶けて消えた。

「帰ろっか。リム」

「うん」