軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

6話【起死回生の一撃】

――非常に不味い。

俺は今『死』という感覚を身近に感じている。

いつぞやの怒り狂ったブラッドオーガが発した威圧感を遥かに凌駕する圧力が、俺の気道を圧迫して呼吸を乱していく。

スキルLvが劣っているからという数値的なものだけで恐怖を感じているわけではない。

目に見えない何かが俺の身体を震わせるのだ。

『死』というのは、怖い。

死んだらまた転生できるだろう、なんて考えは正直微塵もない。

人間が死の淵に立たされた際に考えることは一つだけ。

『生きたい』

であるのだと、今激しく実感している。

これは至極原始的な……全ての生物の本能に植えつけられた感情なのかもしれない。

先ず考えたのは、逃げることだ。

が、眼前の相手は魔族であり、既に戦闘は避けられそうにない。

下手に背中を見せれば、後ろからどのような攻撃をされるか分からない。

スキル構成から判断するに、近距離、中距離、遠距離の全てに対応できると思われる。

俺と相手の距離はせいぜい数m……逃げれる可能性は皆無。

こいつのスキルLvは、俺が言うのもなんだが異常だ。

軒並みLv3の上に、モンスターテイムに至ってはLv4。

おそらく、というか原因は俺が持っている特殊《識者の心得》と同じく、相手の持っている特殊《大器早成》によるものだろう。

スキルの成長を促進させる……ね。

大器晩成なんかはよく聞くが、早くして大器を完成させるなんてのは、脅威だ。

それが魔族であればなおさらである。

《 従者への福音(サーヴァントリインフォース) 》――自らに従う者を強化する。Lvにより強化率は更に上昇する。

……別名が付いているので、これも多分レアスキルだろう。

モンスターテイムのスキルと組み合わせると、かなり有効だと思われる。

救いは沼地に墜落した騎獣が戦闘不能状態であることだ。

横目で窺う限り、生きてはいるようだが動く気配はない。

あれにまで襲ってこられたら、ちょっと泣く。

逃げるのが無理なら、あの騎獣を盾にして交渉するか……だが、相手があの騎獣をどこまで大切にしてるかも分からない。

いざとなれば一緒に蜂の巣にされる恐れもある。

「ああ、お前に一言だけ忠告してやろう」

突然、目の前の魔族が槍で勢いよく地面を打ち叩く。

「ルナの様子を窺っているようだが……」

ルナ……それがあの騎獣の名前か?

どうやら、わずかに視線を向けたことを察知されたようだ。

「もしルナに良からぬ事をしようと考えているのなら、やめておけ」

「……」

「そのようなことをすれば、私はお前を容赦なく殺す。加えてあの獣人の娘もだ。どこに逃げようともな。そしてお前と関わりがあった者も全て殺す。親、兄弟、知人を含む全てを全力で潰す」

……こいつがあの騎獣を大切にしてることは分かったが、盾にするという策は最も愚策であることが判明した。

だけどな……そんなに言うなら、こっちだって言わせてもらおうか。

「そうですか。じゃあ、あの騎獣には何もしませんよ。ですが……」

俺は後方にいるリムとルークを指差す。

「逆に、あいつらや俺の知人に手を出すって言うのなら、俺はあの騎獣を何があっても殺します。あんたに勝てるかはやってみないと分からないけど、例え身体が半分に千切れようと、あいつだけは道連れにしてやんよっ」

俺の言葉に、微かにだが魔族が笑みを浮かべた。

「……人間にしては良い度胸だ。いいだろう。お前を殺した後、私に向かってこずに逃げるというのなら、あいつらは放っておいてやるさ」

「――いいかっ、リム! 俺がやられた場合は街に戻れっ! 絶対こいつに挑むなよっ!」

それだけを全力で叫び、俺は覚悟を決めた。

死ぬ覚悟じゃない。

今度は、俺が生き延びる覚悟だ。

――どうすれば勝てるのか……?

まず思いつくのは、スキルを奪って弱体化させることだ。

今日は午前中に二回盗賊の神技をスライムに使ってしまっている。

盗れた光魔法スキルの熟練度も微々たるもので、今さらだが温存しておくべきだったと思う。

残りは四回。確率は五割に満たない程度。

上手くいけば二つは奪える計算だ。

どれを対象とするかだが《 従者への福音(サーヴァントリインフォース) 》や《モンスターテイム》はこの戦闘中に視認できるとは思えない。

それに『勝つ』ためには、武芸スキルや魔法スキルを奪って弱体化を図るべきだ。

仮に、残り回数の全てが成功したとしても、まだ相手には攻撃手段が残ることになる。

俺のスキル枠だって空きは三つだ。

いや三つ盗れれば御の字だが、その先はどうなるのか。

もし破棄が可能なら、裏秘奥義――《 盗って捨てる(グラスパーエンド) 》が完成することになるが、四回成功するなんて偶然は起こり得ないだろう。

そもそも、相手に触れることが可能なのだろうか?

こればかりは実際に死合ってみなければ分からない。

練習中の表秘奥義だってぶちかましてやりたいが……まだ未完成だ。

心・技・体でいえば、技も体も負けている。

が、心だけはなんとか奮い立たせる。

身体に浸透していた恐怖心を、生への執着という本能に後押ししてもらうことで打ち払うことに成功した。

――悠然と構える相手へと攻撃を仕掛けたのは、俺の方だった。

「――フッ!」

浅く息を吐くことでそれを起爆剤にし、身体を弾けさせた。

手に持つ剣を、片手ではなく両手に持ち替えることで全力の攻撃を繰り出す。

Lvだけで考えるのなら、まともに対抗できるのはLv3に達している剣術だけだろう。

スキルを奪う機会を窺うとしても、まずは俺と相手の力量差を知りたい。

先程、リムへの攻撃を防いだ際はお互いが片手だった。

それで俺の方がやや押されたのだから、常に片手を空けておく余裕はあり得ない。

全力で攻撃しつつ、隙あらば片手に持ち替えて――盗る。

魔法も活用したいが、近接戦闘に向かないことは相手も理解しているのだろう。

相対する魔族も、槍で応対するつもりのようだ。

――繰り出す連撃が、いとも簡単に槍で防がれてしまった。

いや、簡単というのは俺の主観かもしれない。

ただLv3に上がった状態の剣技をこうも見事に止められたのが、初めてだったのである。

「今度はこちらからいくぞっ――」

相手が放ったのは――連続の突きだ。

線ではなく点による連続突きは、一度ベイスさんと試合をした経験があるとはいえ、そう慣れるものではない。

速さも更に上をいく。

それらをなんとか剣で捌くのだが、手数もわずかに相手が勝っているとなれば、当然捌ききれるものではない。

時折こちらへと抜けてくる凶撃を、俺は紙一重で――とはいかず、薄皮と薄肉を削られながらも必死に躱す。

こんの……野郎……っ!

突きの合間に薙ぎ払いの一撃も加えられたが、それも直撃はせぬように受け流し、相手への距離をゆっくりと縮めていく。

身体中から血は流れているが、こんなのは生命力強化ですぐに治る。

致命傷を受けなければそれでいい。

力量差は明確だ。

今の俺ではこいつに勝てない。

盗る機会は、強引に作りださなければ永遠に訪れないだろう。

一歩、また一歩と傷つきながらも足を前に踏み出す。

焦れてきたのか、相手が少しばかり身体を引き、大きな動作で突きを繰り出してきた。

「お……らぁぁっ!」

その一撃を剣の腹で滑らせるように軌道をずらし、耳元を掠ませるに留め、俺は更に前進する。

……これで届くっ。

両手に持っていた剣を片手に持ち替え、一気に相手の懐にまで距離を詰めた。

――まずは、その槍術をっ……

「……ぐ……うぶぇっ」

だが、俺の手が相手の身体に触れることはなかった。

一瞬、何が起こったのか理解できなかったが、思考の空白は刹那で済んだ。

……俺の痛覚がまともに働いてくれたからだ。

俺の手は空を掴んだが、相手のひざ蹴りは見事に俺の腹に突き刺さっていた。

刺さるというのが比喩ではないほどに、俺の身体にめり込んでいる。

「少しばかり不自然な動きだったのでな。警戒もするさ……私に触れると何か面白いことでもあったのか?」

だ、めだ……こいつ、強すぎ……る。

相手は俺から脚を引き抜き、ゆらりと構えたかと思うと――寸分違わぬ位置に雷光のような横蹴りを放った。

俺は衝撃を和らげる動作を取ることもできず、無様に地面を転がっていく。

「ぁ……が……ぐ」

呼吸が、できない。苦しい……死ぬ。

ひ、光魔法で回復を……

「……ふぅ……ハァ……ぐ」

俺はゆっくりと身体を起こしながら、依然として反抗の意思を宿した視線を向ける。

後はトドメを刺すだけとこちらに向かってきていた相手が、微かに驚きの表情を浮かべて歩みを止めた。

「ほう。本当に治癒魔法を扱うことができるのだな。なかなか見事な剣術を披露してくれたので、魔法を扱えるというのはてっきり嘘だと思ったのだが……」

「こ、これで本当だと分かったでしょう。あの騎獣の治療をすれば、大人しく帰る気になりましたか……?」

「ふむ……」

意外にも、何か考えるような素振りで黙りこんだ。

が、そこに隙など一切ない。

「一つ、提案があるのだが」

「なんです?」

「施しは受けないと言ったが、お前が私に飼われるというのなら命を助けてやってもいい。力の差は理解しただろう」

「飼わ……れる?」

「お前は随分と若い。その若さでそこまで強い人間というのも珍しいからな。飼ってみるのも一興だろう」

「飼うって……あの騎獣みたいに?」

「あれは友達だ。飼っているのではない」

「じゃあ、あれ以下の扱いってわけですか」

「ペットになら、友を治療させてやっても良いと言っている」

魔族のペット……笑える話だ。

扱いはあの騎獣よりも下。

泣かせるじゃないか。

「お前は、あの獣人の娘を大事にしている風だったな。ペットになる気があるのなら、あの娘を殺して見せろ」

「は……」

「どうだ?」

いやいや、ホントに。

人間、誰だって死にたくはない。

「えーと……ですね。言いたいことが、二つあります」

「……言ってみろ」

「まず一つ目ですが、俺はこれでも18歳です。あなたとあまり変わりませんよ」

「随分と若く見えるものだ。秘訣を教えてほしいぐらいにな」

つっても、童顔なだけなんだが。

「二つ目は……さっきの返事です」

「……」

「――お前が俺のペットになれ」

「く……あはっははははっ! 本当に面白い人間だな。いいだろう、笑わせてもらった礼に先程の約束は守ってやるとも。あの娘にはこちらから手を出すことはしない。安心して――死ぬがいい」

相手は、持っていた槍を地面へと突き立てる。

何をするのかと思えば、片手を上空に向けた。

掌の上で発生した火の塊は、瞬時にその体積を増していく。

……でかいな。

そしてやばいな。

俺が作り出す《 火球(ファイヤーボール) 》なんか目じゃない。

人間大ほどもある巨大な火球は、俺を焼き殺すぐらいわけないものだ。

火球の周りの空気が激しく揺らぐ。

かなりの高熱……まともに喰らえば骨も残るまい。

「――終わりだ」

そんな言葉とともに、躊躇うことなく、大火球が俺へと放たれ――……

大爆発を引き起こした。

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

超高温の炎が湿地帯の地面を焼き尽くした。

水分は瞬時に蒸発し、もうもうと舞い上がる蒸気によって視界が遮られる。

視界が晴れた頃には、爆発跡地に何も残ってはいなかった。

「……死んだか」

魔族はそんな言葉だけ吐いた後、リムとルークには興味がないとばかりに、傷を負っている自分の騎獣に向かって歩いていく。

リムは賢い子だ。

確かに感情に任せて動くところはあるが、身を張って守ってもらった命を無駄にするほど幼くはない。

唇を震わせながら、泣きそうになりながらも、魔族に襲いかかるような真似はしなかった。

睨むだけに留めている。

強く……生きるんだぞ……

――なんてことを誰が思っているのか? 俺である。

というか、普通に生きてる。

相手が大火球を練り上げていく段階で、俺は気付かれないよう水魔法を発動寸前の状態で用意していたのだ。

大火球が放たれると同時に《 水の盾(ウォーターシールド) 》を発動させたのである。

基本的に、属性魔法には相反する属性が存在する。

火と水、風と土、闇と光だ。

故に俺は水魔法を用いたのだが、別に火に対して水が有利というわけではない。

打ち消し合いはするが、威力が違えば押し負ける。

事実、俺が作り出した水の壁は、わずかだけ俺に逃げる時間をくれて消し飛んだ。

ちなみに同属性の魔法で対抗することもできるが、その場合は押し負けた方に二人分のエネルギーが集中することになる。

俺の《 火球(ファイヤーボール) 》では勝てるわけもないので、水魔法の出番だったわけだ。

大火球の魔の手から逃れた俺は、蒸気と爆発の煙に紛れて身を隠したのである。

身を隠す――というのは、比喩ではなく……

今、俺は絶賛《 光学迷彩(ライトハイド) 》中だ。

但し、動くとボロが出るので完全静止状態である。

この状態はかなりの集中が必要なので、他に魔法とかも使えない。

不意打ちだなんてことはせず、魔族が大人しくこの場を去るまでひたすら待つつもりだ。

リムは魔族を睨んでいるが、そろそろ言い付け通りに街へ戻るだろう。

俺はのんびり歩いて帰ることにしようかな。

まあ、暇なので自分がとった行動と今後の予定を思い浮かべていたわけだが――つまりは死んだフリだ。

あんな大口叩いといて死んだフリは格好悪いってか?

大口叩いて死ぬ方が格好悪い。

命は大事だ。

自殺行為ダメ、ぜったい。

これで皆助かるなら、それがいい。

――ところが、だ。

魔族が看ている騎獣が……弱っているくせに鳴き声を上げた。

俺の方を凝視して、ひどく警戒するように鳴いている。

……確か、鳥って滅茶苦茶視力が良いんだっけか。

でも消えてるのに……なんでバレたんだ?

…………

……

――つくづく、運がない。

魔族の女が不審に思ったのか、油断なく構えてこちらへ近づいてくる。

忠実なお友達ですね。本当に。

「どうも」

俺は光学迷彩を解除して、間の抜けたような挨拶を述べた。

遠くから、リムが俺の名前を呼ぶ声が届く。

再会は、もうちょっと後でも良かったなぁ……

「……生きていたのか。それも魔法の一種か? 随分と面白いことを考えつくものだな」

「色々と便利なんですよ……悪用はしませんがね」

「それで、どうする気だ?」

「その言葉をそのままお返しします」

「……決まっているだろう」

俺は瞬時にバックステップすることで距離を空ける。

正直、この場をなんとかできる策はもうない。

近距離でも打ち負け、そして中距離では魔法で押し負ける。

相手は、鬼ごっこをするつもりはないという風な顔で槍を地面へと突き立て、大型の弓を背中から下ろした。

腰にある矢筒から取り出した矢をつがえ、ギリリと引き絞り……風切り音とともに矢がこちらへと放たれる。

それは正確に俺の眉間を貫く……軌道だったが、距離があるために割と余裕を持って剣で打ち落とすことができた。

そんな攻防を何度か繰り返していると、やがて相手の矢筒の中身が空になったのか、攻撃の手が止む。

元々あまり矢が残っていなかったんだろう。

決して事態は好転していないが、俺は呼吸を整えることに努めた。

……ん? なに、を……してるんだ。

相手は、矢を持っていないにもかかわらず、何かをつがえるように構えて弓をこちらに向ける。

次の瞬間、強い風を感じた。

正面ではなく、背中にだ。

いや、違う。

風が後ろから吹いているのではなく、正しくは俺の眼前にいる魔族に風が集まっている……?

「や……べ――」

発動までにやや時間がかかるようだが、あいつの本当の矢は――これかっ!

何もなかったはずの空間に、まるで風が渦を巻いて圧縮されていくようだ。

極限まで圧縮された空気が形を成し、淡く輝くような翡翠色の矢が姿を現した。

大型の弓によってそれは引き絞られ――――

俺は急いで土魔法《 土の盾(アースシールド) 》を発動させようと念じる。

……弓と風魔法の一体化、か。

似たようなことを考える奴もいたもんだ。

――――放たれた。

空気を引き裂くような耳触りな音とともに、魔法の矢が一直線にこちらとの距離を喰らいつくしてくる。

途中、土の壁を出現させることは間に合ったのだが……

ガゴンッ! と嫌な音を立てて撃ち砕かれてしまった。

「くっそっ」

それでも、ほんのちょっとだけ矢の速度を落とすことはできたようだ。

これなら――躱せるっ!

「ば……かな」

回避できたと、思った、のに――

――横腹に走る激痛。

魔法の矢は俺の横を通り抜ける軌道だった――が、空中で軌道が変化したのだ。

カーブするようにグイッと曲がり、俺の横腹を抉るように蹂躙した後、最後には空気へ溶けるように消えていった。

「マジ……か」

俺は横腹を押さえながら、ドチャリと地面へと崩れ落ちる。

全力で《 治癒光(ライトヒーリング) 》を傷口にかけるが、さすがにすぐには治らない。

剣を杖代わりにしてなんとか立ち上がったが、かなりヤバい。

当然ながら、そんな状態を相手が見逃してくれるわけもなく――俺から少し離れた位置まで歩いてきた魔族が、言う。

「もう一度訊こう。飼われるつもりはあるか?」

「……俺はね、Noと言える……ヒューマンなんです」

「そうか」

今度こそ、トドメの火球が練り上げられていく。

同じ手は、通用しそうにない。

死にたく、ないなぁ……

せめてあの必殺技を完成させておけば――

死の間際――頭に浮かんだのは南の森での練習風景。

考えた必殺技の内容は、そう難しいものではない。

パウダル湿地帯に出現したプリズムスライムの六色に煌めく身体を見て思いついたものだ。

要は六属性全てのエネルギーを融合させる。

火と水

風と土

闇と光

相反する属性を対消滅させたエネルギーを全て融合させ、剣と一体化させることで相手へと放つ……そんなイメージだ。

だが、反属性の魔法を融合させていくことが非常に難しく、完成に至らなかった。

――ああ、こんなことを考えている間にも、俺を燃やすであろう火の球はゆっくりと大きくなっていく。

にしても、プリズムスライムって凄いな。他のどんなスライムとも合体できるんだもんな。

核玉だってどんどん大きくなっていくし――

核玉……か。

あれって、確かマナの結晶体ってシエーナさんが言ってたっけ。

マナの結晶体――

魔法の源――

素の状態――

魔法として具現化する一歩手前――

ぶつぶつと、うわ言のように呟やきながら、俺は掌に意識を集中させていく。

正直、自分でも何をしようとしてるのか分からない。

火魔法を具現化させる一歩手前で止め……次は水魔法……風魔法――全ての属性魔法を具現化させる直前の状態でストップさせていく感覚……イメージ。

その状態で、一気にマナを魔法へと昇華させる。

イメージするのは、六色に煌めく虹のような魔法球体だ。

「――うそ、だ。こんな簡単に……」

俺が時間をかけて練習していた苦労は何だったのか。

――――掌には、六色が混ざり合うことで幻想的ともいえる輝きを放つ魔法球がフワフワと浮かんでいた。

「なんだっ……それは!?」

初めて、目の前にいる魔族の顔に焦燥の色が浮かぶ。

「さて……なんでしょうね?」

傷口からの流血は止まらず、耳鳴りのようなザーザーとした不快音が頭に響く。

だが、六色の魔法球から優しき音色が聞こえたような気がした。

おそらくは、錯覚だろう。

力強き火の音色。

静かなる水の音色。

優しき風の音色。

広大なる土の音色。

暗き闇の音色。

明るき光の音色。

なんか……心地良い響きだ。

俺は魔法球を、撫でるように愛剣へと纏わせていく。

武器と魔法の一体化。

「……消し飛べっ!!」

魔族の手から、ふたたび大火球が放たれた。

俺は剣を大上段に構え、やや身体を斜めにする。

振りかぶった際、横腹からブチブチと嫌な感触が伝わってきたが、それら一切を全て無視する。

俺は――構えた位置から――

もう、死ぬのは嫌だ。

この世界で……皆と一緒に……生きていたいんだよっ。

――全力で――

技と体で打ち勝てないなら……心で打ち勝て。

スキルLvだけで全部が決まるわけじゃ、ない。

イメージしろ。

全てを断ち切れっ。

――――剣を、打ち下ろした。

表秘奥義――

「―――― 多重属性(シンフォニック) ―― 極剣波(レイヴ) っ!」