軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

16話【武技練磨】

「ブギィィィィィィッ!!」

けたたましい威嚇の声を響かせているのは、 豚頭(オーク) の親玉であるオークキングである。

帝都の北部で、やや寒さが厳しくなってきたせいか、オークたちはせっせと冬を越すための巣作りをしていたらしい。

巣作りといえば可愛く聞こえるかもしれないが、実態は備蓄食糧を近隣の村から略奪したり、ときには村人の女性なんかを巣に持ち帰る悪辣行為だ。

「ライム、変形を頼む!」

困った村人は帝都に救援要請をしたわけだが、早急な対応がなされず、冒険者ギルドにお鉢が回ってきたところを俺たちが引き受けたわけである。

俺の声に瞬時に反応したライムは、プルンとした球状の身体を細く弓なりに変形させていき、洗練された美しいフォルムへと姿を変えた。

その姿は、まさに弓そのものである。

俺が慣れた手つきで矢をつがえる動作を取ると、何もない空間に高熱の炎の矢が瞬時に形成された。

……これは、アルバさんと戦ったときの経験を参考にさせてもらったのである。

あの人は風魔法で矢を生み出し、見事に俺を射抜いてくれたのだから。

硬質化しつつも、弦のしなやかさを見事に再現したライムの身体を引き絞り、一射、二射と連続で炎の矢を撃ち放った。

魔法というのは、大気中にあるマナを術者が取り込んで体内で変換し、形ある事象へと具現化させるものである。

すなわち、どれだけ鮮明に実行する魔法をイメージできるか、というのが大切となってくる。

ただ魔法の矢を放つよりも、こうして弓につがえて敵を射るほうがイメージしやすいのは明らかであり、加えて弓術スキルまで取得した今となっては、弓からの射出によって威力が飛躍的に増すのは実証済みだった。

剣による近距離攻撃、魔法剣や魔法による中距離攻撃、魔法弓による遠距離攻撃と、そこそこ多彩な攻撃方法が可能となったのは、実質的にスキル枠を増やしてくれたスキルオーブのおかげだろう。

着弾するまでに空気を呑み込み、さらに炎の勢いを強くした矢は、オークキングの両膝を鋭く貫いた。

ジュウゥ、と肉と脂肪が焼け焦げる音とともに響いたのは、射抜かれた相手の悲鳴。

射抜いた後も、矢は消滅することなく敵を地面に縛り付けている。

「おおおおおぉぉぉぉぉぉっ!」

その隙にオークキングまでの距離を一気に詰めた俺は、人間の背丈よりも遥かに大きい相手の顔めがけて跳躍した。

人間を一瞬でミンチに変えられるであろう、先端が大きな鉄塊となっている棍棒が振り下ろされようとしたが、それよりも俺がオークキングの顔面を鷲掴みにするほうが早い。

掌に意識を集中させ、相手が所持しているスキルを奪い取るべく《 盗賊の神技(ライオットグラスパー) 》を発動させた。

このオークキングが所持しているのは、

《身体能力強化》

《生命力強化》

の二つ。

どちらも有用なスキルであり、しかもキングだけあってLv3まで鍛え上げられている。

俺にとっては、金貨の山に匹敵するお宝といってもいい。

掌から暖かいものが身体に流れ込む、なんともいえない充足感。

俺は狼狽えるオークキングの顔面を掴んだまま、地面へと引き落とすように叩きつけた。

巨体が地面を震動させ、倒れ込む。

「よし……やったぞ」

自分の身体から発せられる力が、能力の位階が、はっきりとわかるほどに変化した。

「ブフゥ……ブ、ブォ!?」

自身の身体に普段のような力が入らないこと、炎の矢で貫かれた両膝が癒えないこと、おそらく戸惑っているのはその両方だろう。

今のスキル構成だと、相手から奪える確率は……六割といったところか。

二つとも奪えたのは、幸運だったな。

「リム、もういいぞ。やれ!」

こちらの掛け声を合図に、むくりと立ち上がった敵へと突撃していく獣人の少女。

リムの渾身の一撃――すなわち《 魔喰武装闘衣(フィアフルロンド) 》を使用して周囲のマナを喰らいつくし、攻撃力を爆発的に高めた一撃が相手へと襲いかかる。

最初に近くでアレをやられると、俺の魔法弓による攻撃も不可能となるので、こういった合図とともに使用してもらうのが望ましい。

ドパァァァァァン!!

――という豪快な音が残響となり、豚頭たちの王たる魔物のどてっ腹に、大砲でも命中したかのような大穴が穿たれた。

……相変わらず、一撃の攻撃力が半端ないな。

ビチャビチャと血飛沫が舞い、即座に絶命してもおかしくない一撃を受けてなお、オークキングは両足を踏ん張ってみせる。

「ブフッ……ブギィィ……」

これは、王の挟持というものなのだろうか。

だが、生命力強化を失った今、これは完全に致命傷といえる。

俺はスキルオーブを握りしめ、瞬時に弓術と剣術のスキルを入れ替える。

「ブ……ギッッッ」

腰にある白銀剣をすらりと抜き放ち、分厚い肉に覆われたオークキングの首を断ち切った。

ごろごろと転がった首は、ギルドに討伐証明として提出する必要がある。

「ふう……さすがにちょっと疲れたな」

一段落して、俺は小さく息を吐いた。

ここはオークの巣であり、当然ながらキングと戦うまでに大量のオークを一掃する必要があったのだ。今も周囲には無数のオークの死骸が散らばっており、俺とリム、そしてライムとルークを加えたパーティでも、かなり疲労したのは否めない。

「さすがに、今日すぐには帝都へ戻れないな」

「うん、捕まっていた女の人たちも村に送ってあげなくちゃいけないし」

リムの言うように、今日のところは依頼を出した村で休ませてもらうのがいいだろう。

オークの巣に監禁されていた女性たちをルークの背に乗せてあげ、俺たちは村まで徒歩で向かうことにした。

「……なんだかセイジ、楽しそうだね」

村までの道中、身体能力がさらに強化されたことで、自分の身体に羽根が生えたかのような感覚をこっそり満喫していたのだが、リムはそれを感じ取ったようだ。

「ああ、あいつからたっぷりといただいたからな」

リムが極大スキルを宿してから、互いに自分の能力の情報は共有している。

そのおかげで、可能な場合は敵を即撲殺せず、スキルを奪うまで待ってくれたりもするのだ。

正直、すごくありがたい。

自分の能力を隠さずに行動できるというのは、まさに枷が外れたようなやりやすさである。

ちなみに、今日の戦闘で使用した弓術スキルは、《 堕落した妖精(フォールンフェアリー) 》という魔物を討伐したときに奪ったもので、かなり有効利用している。

現在の自分のステータスに意識を集中してみると、こんな感じか。

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

名前:セイジ・アガツマ

種族:ヒューマン

年齢:18

職業:冒険者(ランクA)

特殊: 盗賊の眼(ライオットアイズ)

スキル

・ 盗賊の神技(ライオットグラスパー) Lv3(64/150)

・剣術Lv4(6/500)

・身体能力強化Lv4(56/500)

・体術Lv3(16/150)

・元魔法Lv3(102/500)

・状態異常耐性Lv3(98/150)

・生命力強化Lv3(88/150)

・モンスターテイムLv2(23/50)

・チャージLv2(46/50)

・料理Lv4(256/500)

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

スキルオーブ(5/10)

・弓術Lv3(5/150)

・火属性耐性Lv2(31/50)

・棒術Lv2(22/50)

・槍術Lv2(15/50)

・ 狂戦士化(ベルセルク) Lv2(1/50)

……我ながら色々と奪ったものだ。

ちなみに、冒険者ランクもA-からAに微妙に上がっている。

剣術以外の武芸スキルが増えてきたので、対応する武器を購入して魔法の道具袋に突っ込んでおこうとも考えたが、ライムが『わたし、お役に立てると思います』と一つの提案をしてくれた。

それが、さきほどの形状変化である。

一時的に身体を硬質化させることで、必要に応じた武器へと姿を変えてくれるのだ。

形状変化する意思を宿した武器――などというフレーズは大好物であるのだが、それで敵を殴ったときにライムは痛くないの? という疑問は当然ある。

本人は『大丈夫です!』と豪語していたが、ちょっと怖いので、形状変化は弓を中心的に使用させてもらっている。

まあ、戦闘時にスキルを入れ替えることで攻撃の幅が広がったのは良いことだ。

火属性耐性なんかは、ルークの強化用に取ってあるが、自分で所持していても損はない。奪う確率を少しでも上昇させるためにスキルレベルの高い料理スキルを構成に入れてあるが、戦闘に集中する場合は全て戦闘系スキルで埋めるべきだろう。

その都度、スキル構成を微調整するのは、なにげに楽しかったりする。

ともあれ、今日の成果で《身体能力強化》と《生命力強化》がレベルアップしたのは非常に喜ばしい。

リムに気づかれてしまうのも、仕方ないだろう。

そんなことを考えているうちに、村のすぐ近くまで来ていた。

――村へと到着し、オークキングを無事に討伐した報告をすると、村人たちは歓喜に沸いた。

今回、依頼を受けてからすぐに巣へ直行したため、さらわれた女性たちが色んな意味で無事だったのは幸いといえるだろう。帝都が救援要請に応えるまで待っていれば、たとえ巣を壊滅できてもここまで素直に喜べなかったのではないか。

わりと小さな村とはいえ、きちんと税を納めているのだから、こういった有事の際には即座に派兵すべきだと思うのだが……まあ、ここで帝都の対応に文句を言っても始まらないか。

ちなみに、なぜ女性たちが無事だと判断したか。

だって、まあ……その、オークのやつら、すごくアレがアレだからね。

まったく悔しくなんてないが、あんなものでアレされたらとんでもないことになるんじゃないかしらと思うわけです、はい。

とにかく、無事に依頼を達成した俺たちは、村人に手厚く歓迎されたわけである。

――翌日、無事に帝都まで戻ったら冒険者ギルドへと赴いた。

依頼を達成した報告と、その証明となるオークキングの頭を提出するためだ。

テーブルの上にごろんと転がった頭部を確認して、ギルド職員が「おお……」と小さく声を漏らす。

どうやら、オークの巣に一匹いるとされている王様も、個体によって強さに偏りがあるのだとか。俺たちが仕留めたやつは、そこそこ大物だったらしい。

このギルドでも、少しは信頼を得られてきたんじゃないだろうか。

「今、他に俺が受けられそうな依頼とかあります?」

「今ですか? そうですね……」

職員が、手元にある書類をぺらりぺらりとめくる。

「いえ、ランクAに該当する依頼は入っていないですね」

そうか……最近わりと難易度の高い依頼をたて続けに受けたからな。仕事がないというのは平和の証なのかもしれない。

「どうですか? それだけの腕をお持ちなら、あちらの貼り紙にも目を通してみては」

……うん?

俺は職員に勧められ、掲示板の横にあった貼り紙を見てみることにする。

「へえ……こんなのあったのか」

貼られているのは、懸賞金がかけられている人物の情報だった。

ギルドに寄せられる依頼は魔物を討伐するものが多いが、ここに記載されているのはどれも人間ばかりである。

その人物の特徴を詳細に記載したものもあれば、どこそこの街道に出没した盗賊団の頭目など、情報量もまちまちだ。

凶悪犯などの取り締まりは兵士がやっているはずだが、手が回りきらない場合はギルドにも情報を流しているのだろう。

ふーむ。

こういった賞金首が相手ならば、スキルを奪い取って捕まえるのも悪くない。

帝都に潜伏しているようなやつを発見するのは困難だが、街道に出没した盗賊などは意外と狙い目だと思う。

オークの巣を壊滅させた報酬を受け取り、しばし休憩してから俺たちは帝都を出発した。

「――ねえ、ちょっと気になってたんだけど」

「え、なにが?」

ルークに騎乗していると、後ろに座っているリムが尋ねてきた。

「レンって、なんでエリンダルに戻ったの?」

「ん? 俺もちょっと聞いたぐらいだけど、領主をやってるお兄さんともうちょっと話したいんだって」

レイがお兄さんを嫌っているせいか、この前はゆっくり話せなかったもんな。

「じゃあ、また帰ってくるんだよね?」

少し心配そうな口調だ。

「ああ、用事が済んだら帰ってくるってさ」

リムの気持ちは、実はちょっとわかる。

レンは色々と騒がしいやつだが、いないといないで静か過ぎるのだ。

もし気が変わってエリンダルで暮らすと言うなら止める権利はないが、俺が貸した大切な剣は必ず返却していただかないとな。

ぜひ、本人に持ってきてもらおう。

「それにしても……やっぱり考えが甘かったかな」

リムと話をしながらも、視線は下に見える街道に向けていたのだが、盗賊らしき物騒な輩はまったく見当たらないのだ。

街道を進んでいく馬車がちらりほらりと見える程度。

「あっ」

「え、なんか見つけた?」

「あっちのほうに人影が見えたような……」

「行ってみよう」

リムが指差した方向へとルークを進ませ、ゆっくりと高度を下げていく。

しばらくして、俺の目にも川辺にいる人影がくっきりと見えるようになってきたため、下降する速度を増した。

……あれ? あの人って……。

ズズン、と地面に着陸する頃には、当然向こうもこちらに気づいていた。

「……なんだ、お前らか。びっくりさせるなよ」

顔こそ隠しているものの、その服装や声にはたしかな覚えがある。

腰に帯びている曲刀の柄に油断なく手が添えられているが、剣の腕も相当なものだったはずだ。

「こんなところで会うってのも奇遇だな。うちの元副団長様は元気にしてんのか?」

――目の前の人物は、 夜鳴きの梟(ハウルオウル) の団長その人だった。

聞いた話によると、リムの母親であるミレイさんが記憶を失っているときに、色々と世話をしてくれたらしい。

「あ、はい。おかげさまで」

「そうか。そりゃよかった」

リムが返事をすると、彼は剣から手を離して警戒を少し緩める。

「……で、なんだって空からいきなり降ってくるんだ?」

「あ、いえ、この近くの街道で盗賊団が出没したらしくて、そいつらを探してたんですよ」

「ふーん、そりゃまた物騒な話もあったも…………んん?」

「ですよね。でも団長さんもなんでまたこんなところに…………あれ?」