軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

11話【港街パスクム】

メルベイルの街の南側は既に馴染みともいえる商業区。

東側は多くの職人が工房をかまえる工業区。

北側はたくさんの人が生活する市街区。

そして西側は商業区と市街区を織り交ぜたような様相で賑わいを見せている。

西にある港町パスクムでは海路を通じて豊富な商品が輸入されるのだ。

それら生活必需品、実用的な品々、素材となる鉱石や皮など、多彩な物がメルベイルの街へと運ばれ、そこからさらにリシェイル王国内に広がっていく。

故に玄関口となる西側が賑わうのも理解できることだ。

まだこの街以外の場所に行ったことのない俺からすれば、今回のパスクムまでの護衛はどこか心躍るものがある。

そう、世界が俺を待っているんだっ!

まあ……ちょっと早く着いたせいで今は西門で一人、皆を待ってるんだけども。

しばらく経ち、アーノルドさんにリム、ベイスさん、最後にバトさんの順で皆が揃った。

バトさんが乗っている幌付き二馬立て馬車はなかなかに大きく、これが持ち馬車なのであれば商人としてかなり成功しているんじゃなかろうかと思われる。

さすが商才Lv2。

パスクムへ買い付けに行くと言っていたが、馬車の中に様々な商品が載せられているところを見ると、輸出用の品を売ることもするんだろう。

護衛の持ち場としては、馬車の後方が俺。

左右が獣人親子の担当となった。

ベイスさんはといえば、御者台にバトさんと並んでのんびりと座っている。

まあ、今回は試験官としてノーギャラで付いてきてるんだから? 別にいいけどさ?

前方については、何かあればバトさんがすぐ皆に声を掛けるので問題ないとのこと。

基本的に空気となると自ら宣言したベイスさんが、俺に一言だけアドバイスをくれた。

曰く、馬車の後方は馬糞地雷が炸裂することがあるため、気をつけた方が良いとか。

やだ、もう~。

さり気なく馬車後方の護衛を俺に勧めたの、ベイスさんじゃないですか~。

いつかギャフンと言わせたい。

メルベイルの街を出て一路、西へ。

緑豊かな平原がしばらく続き、後方の街影がだんだんと薄れていくのを見ると、十日に満たない時間しか過ごしていない場所がひどく懐かしく思えたのだった。

馬車の速度というのは、意外と速い。

体感で時速6~7kmくらいあるんじゃないだろうか。

早歩きでずっと歩き続けるのは結構疲れる。

もし身体能力強化スキルがなければ、俺は馬糞にまみれて捨て置かれたかもしれない。

左右を護衛する二人については、持ち前の体力がヒューマンとは異なるのか大丈夫そうだ。

ベイスさんについては、姿は見えないが……まあ、寝てるんじゃね。

太陽が作り出す影が短くなる刻――陽が中天に達する頃に馬車が一度止まり、休憩を取ることになった。

やや傾斜のある坂を登ってきたため、小高い丘のようになっている場所だ。

見晴らしの良さそうな位置に転がっている岩に腰かけ、水筒を傾けて水分補給を行う。

壮大な景色を見渡すことで、疲れが洗い落とされていく錯覚さえ感じるってもんだ。

空を見上げると、真っ青な空間の中をふわりと流されていく雲の一団。

視線を下げると、ずっとずっと遠くに薄っすらと見える水平線。

さらに下げると、左下方には俺が狩り場としていた南の森よりもずっと深い大森林。

右下方には、河の流れに沿って平野が広がっているのが見える。

パスクム街道は、その間を通っているようだ。

まだ少し距離はあるが、街道沿いに宿場のようなものも見える。

……あそこで昼飯にするとバトさんが言っていたっけか。

街道沿いに建てられている宿場とは、旅人や商人が利用する簡素な宿のことで、管理は近くに住む村人がしているとのこと。

確かに、宿場から分岐するように右に伸びている小さな道があり、ここからだと見えないけども、きっとあの先に村があるんだろうな――

「なにか見えるの……?」

――!? 不意打ち気味に問われ、喉を潤していた水がツンッと鼻に染みた。

リムだ。

「いや、綺麗な景色だなと思ってさ」

「そう。あたしの住んでた村はこんな風景ばかりだったから、どこか……なつかしい」

リムの茶褐色の髪が、陽の光を浴びて瞳と同じく金色のように輝く。

どこか憂いを帯びたような表情は、魔族に襲われた故郷を思い出してしまったのだろうか。

悪いが、俺にはそこまで気の利いた言葉は捻り出せそうにない。

「俺のポケットには大きすぎらぁ……」

「ぇ? なにか言った?」

……この素晴らしい景色、そしてリムの過去について、入りきらないことを表現したかったんだが、全然伝わらない。

「――そろそろ、馬車の方に戻るか」

「うん」

むしろ、リムが理解してくれなかったことが幸いだった。

早足で歩く俺の脳裏に浮かんでいたのは

『どうしよう。死ぬほど恥ずかしい』

だったから。

丘を下り、しばらく――

宿場に辿り着き、昼飯タイムとなった。

バトさんとベイスさんは元々ここで昼食を取る予定だったらしく、宿の中へ。

俺と獣人親子は持参した食事を外で食べることにする。

繋いである馬車に誰かが悪さをしないとも限らないので、これも護衛の一環といえるだろう。

ダリオさん作の『アルマ鶏のロースト・ミルフィーユ風』パンにかぶりつく。

温めるとより一層美味いと言われていたので、宿の人に軽く火で炙ってもらった。

これは一体どうやって作ったのか。

パンの中にいくつもの層があり、一つの層に一枚ずつ味付けが異なる肉が詰められていた。

第一層は塩胡椒だけで素材の味を楽しむオードブル。

第二層は肉汁を煮詰めたソースで濃い目に味付けされたメインディッシュ。

第三層は――……

「……ダリオさん、マジ神」

昼飯をゆっくりと堪能した後、ダリオさんから貰ったフルーツパイを取り出す。

俺の横で食事していた二人の内一人――リムがピクリと反応するのが分かった。

一個は俺が食べることにして、残り一個をリムに差し出す。

「本当にいいの?」

と聞き返してくるが、既に手は俺の持つパイを掴んでいるじゃありませんか。

「ああ、但し今回はアーノルドさんと分けるようにな」

「……うん」

面白そうだったのでどうするか観察していたが、ぐぬぬっ……という表現が似合いそうな顔でフルーツパイを半分に割り、アーノルドさんに手渡していた。

どこか微笑ましい光景である。

――ふたたび進路を西へ。

大森林を左側に見るかたちで街道を進んでいく。

右側は見晴らしの良い平野であるため、警戒すべきは森の方だろう。

盗賊なんかが出たらちょっと嫌だ。

人間を殺せるかは……やってみないと分からない。

しかしまあ、ちゃんと護衛がついていれば盗賊もわざわざ危険を冒して襲ってきたりはしない、というのがバトさんの言である。

心配し過ぎるのも気疲れするだけ――

「――プギィィィィッ!」「プギュァァァッ」

うん。襲ってきたのは、魔物でした。

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

森から出てきたのは、オークが四体。

外見は特筆すべきこともない、二足歩行の豚である。

灰色を混ぜたような濁った肌に人間並みの身長。口角から涎を垂らす様はどこか興奮しているようにも見える。

手に持っているのは、棍棒だ。

スキルは――《棒術Lv1》。

熟練度はまちまちで(6~8/10)ってところか。

棒術か。

無駄になるスキルじゃないし、盗れるなら盗っておこうかな。

「セイジッ! リムと一匹ずつ処理しろっ。オレは二匹を殺る」

馬車の左側を護衛していたアーノルドさんが真っ先に駆けていく。

続いて俺、そしてリムだ。

研いだばかりのバゼラードを鞘から引き抜き、相手の棍棒の動きを確認しながら距離を詰める。

それなりに腕力はありそうだが……当たらなければ意味がない。

振り下ろされた棍棒が地を叩いた。

横っ跳びに回避した後、敵が体勢を整えるよりも早く剣を振るって右腕を切り飛ばす。

それと同時に相手へと触れたのだが、結果は失敗。

……別に悔しくないもんね。

それよか、今は魔物の掃討が先決だ。

右腕を失って呻くオークの頭を切り落とし、リムに目を向ける。

「――ッハッ!」

ちょうど、棍棒を振るうオークがリムの拳に貫かれたところだった。

心なしか、試合で見た時よりも重めの一撃。

確か……魔力変換のスキルを持ってるんだっけか。

インパクトの瞬間だけマナとやらを変換して攻撃力に加算させてるのかもしれない。

ほぼ頭が一回転したオークが、よろりとこちらへと倒れ込んでくる。

どさりと地面に転がった相手はもう虫の息だ。

俺はそっと手を添えてから、剣でトドメを刺してあげた。

――よし、盗れた。

ちなみに、死んだ相手からは当然スキルは盗れない。

これについては前に試したので間違いない。

後はアーノルドさんだが、こちらも全く心配なさそうだ。

反りのある独特な形状を持つ曲刀でオークを両断する姿は、手を貸す必要を感じない。

四匹全員に強奪を試みたかったが、団体行動でそうも言っていられないだろう。

一つ盗れただけで御の字である。

「いや――……本当に皆さんお強いのですね」

バトさんが感心したように息を漏らす。

ベイスさんは御者台から下りてもいない。

大丈夫だと判断されたのだろう。

「オーク討伐も依頼があればランクD相当なんですが……」

なんて呟いている。

「しかし、森からあまり出てくることのないオークが街道にまで出て来るとは……何かあったんでしょうか……パスクムで確認しておきますか……ね」

オークの身体は特に素材となるような箇所もなく、依頼を受けたわけでもないため放置して先へ進む。

しばらくすると左側に見えていた森は途切れ、前方に水平線が見え隠れしだした。

そのままさらに一時間ほど歩き……ついに俺達は港町パスクムへと到着した。

メルベイルの街よりも規模は小さいが、大きな港が存在する光景には胸が躍る。

夕暮れ時ということもあり、海岸線に沈む太陽の光が幻想的な彩りで港を包んでいた。

昼間は船が来航することで活気づいているだろう港が落ち着きを取り戻し、それが少し寂しくもある。

まあ今回は遊びに来たわけではないので、仕方ないだろう。

バトさんは宿の手配を済ませた後、馬車の荷を予定していた商館に運び込むらしく、商館前まで護衛したところで俺達は一旦解放されたのだった。

明日の朝、同じくこの商館で仕入れた品物を積んでメルベイルへと発つそうで、なんとも忙しいことである。

ベイスさんはここパスクムの冒険者ギルドで調べたいことがあるそうで、俺達とは別行動を取ることに。

正直、御者台でのんびりしていたベイスさんと違って俺達(俺だけかもしれないが)は歩き疲れているため、宿屋に直行した。

手配してもらった宿に入り、部屋へと案内される。

宿の造りは満腹オヤジ亭よりもグレードが上かもしれないな。

が、問題は料理だ。

魚が美味しい港町の宿屋だけに

『このあらいを作ったのは誰だぁっ!』

みたいにならないことを祈る。

……言わないけどさ。

――というか、三人部屋なんですね。

まあ、宿代は依頼者持ちだし、護衛一人一人に部屋を取れとまでは言えないさ。

にしても……リムが俺の同室に対して拒否反応を示す様子は見られない。

フルーツパイの連続投与が功を奏したのか?

それともアーノルドさんが一緒だから平気なのか。

おそらく両方だろう。

でもねぇ? ほら……湯を使う時とか……例え部屋から出るにしても……

そんな俺の心配を先読みしたのか、案内してくれた従業員が一言。

「メルベイルからここまでお疲れでしょう。当宿では別料金となりますがお風呂の用意もございます。どうぞご利用ください」

……であるか。

五人揃って食べた晩飯は、なかなかに美味しかった。

魚が新鮮ということもあり、特に猫であるリムには好みだったっぽい。

魚を丸ごと香草焼きにした一品は、あっという間に平らげられてしまっていた。

いつも通り剣の手入れを済ませてから、風呂に入って楽な格好に着替える。

歩き通して強張った足を揉みほぐし、明日も早いのでベッドに身を投げだした。

っと、寝る前に今日の戦果だけ確認しておくことにしよう。

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名前:セイジ・アガツマ

種族:ヒューマン

年齢:18

職業:冒険者(ランクE+)

特殊:識者の心得

スキル

・ 盗賊の神技(ライオットグラスパー) Lv2(6/50)

・身体能力強化Lv3(5/150)

・剣術Lv2(25/50)

・状態異常耐性Lv2(1/50)

・棒術Lv1(7/10)

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まだ六回残ってるけど、しゃあない。

目を瞑るとすぐさま疲れが解けていくような浮遊感に包まれ、眠りに落ちた。

「――……ぅ? ……なん、だ……」

何か……声が聞こえる?

目覚めた俺は朦朧とする意識を頭を振ることで揺り起こし、部屋を見回す。

まだ外は暗く、真夜中といったところか。

「――起こしてしまったようだな」

「ぇと……アーノルドさん? さっきの声って……」

窓からの微かな月明かりに照らされ、申し訳なさそうにポリポリと頭を掻くアーノルドさんは、リムのベッド横で椅子に座っていた。

「リムは時折、さっきのようにうなされることがあるのだ。村が襲われた時のことを夢に見ているのだろう」

途端、リムの口からふたたび苦悶に満ちた寝言が漏れた。

「い……ゃあ……母さん……どこ……やめて、やめてよぉっ……熱いよ、いたい……父さんどこに、いるの……」

それに応じるかのように、アーノルドさんがリムの手を握る。

寝息が次第に安らかなものへと変わり、苦しそうな寝顔が徐々に緩んでいく。

「あのですね。聞かないほうが良いかと思ってたんですけど……リムの母親って――」

「――死んだ。助けられたのは……娘だけだ」

「そう、ですか……」

「セイジも疲れているだろうにすまんな。オレがこうしていればもう大丈夫だ。寝てくれ」

って、アーノルドさん、今晩ずっとそうしてるの!?

「あの……俺にできることなんてないと思いますけど……何かあれば言ってください」

自然と、そんな言葉が出てしまった。

部外者の俺にできることなんてきっと何もないのに。

「……そう、か。良ければ、こいつの頭を撫でてやってくれないか……妻がよく、そうしていたのでな」

俺は戸惑いながらもリムの頭に手を置き、ゆっくりと撫でた。

サラサラの髪の上にある、フワリとした毛に包まれた耳の感触。

猫耳がピクリと反応して、リムが何かを呟いた。

「……おかあ、さん……ょかった……」

頬を伝う一筋の涙。

「感謝する、セイジ」

「いえ……おやすみなさい」

ふたたびベッドに入り、先程の感覚を思い出すかのように自分の掌を眺める。

――本当に……俺のポケットには大きすぎるわ……。