作品タイトル不明
4話 土下座しますか? 食われますか?
学長、参加者、そしてロリナ。
一人残らず腰を抜かし、恐怖から体を小刻みに震わせている。
『では、余は帰る』
「送ってくれてありがと〜!」
優雅に飛んでいくアルミラに手を振って見送る。
振り返ると、誰もが大口をあけて驚いていた。
ロリナが目を激しく瞬かせながら訊いてくる。
「どど、どういうことなの!? あんた、あれダークドラゴンじゃないの?」
「そうですよ。山で会って友達になったんです」
「友達って……」
「あ、これが私の集めてきた素材です」
アルミラの牙や山の草花を学長に見せる。
「牙が本物なら……いや、本物なのだろう。鑑定などする必要もなく、1位合格だ」
よし、と小さくガッツポーズを取る。
無事試験も合格したし、私はロリナや他の受験者たちの前に立って、リズム良く手を叩く。
「ど・げ・ざ! はい、ど・げ・ざ!」
さんざん私のことを馬鹿にしてくれたもんね。
約束は守ってもらいますぞ。
ドラゴンの友達が効果あるのか、ロリナ以外の参加者たちは素直に土下座して謝った。
残るは、一人だけ意地を張るロリナだ。
「どうして土下座をしなくちゃいけないの? そんな約束をした覚えはないわ!」
「アルミラ、戻ってきてー! あなたの嫌いな嘘つきがいるよ!」
「申し訳ございませんでしたっ!」
ビビりまくったロリナはジャンピング土下座を綺麗に決めて謝ってくる。
恐怖心には勝てなかったみたい。
もう馬鹿にしないと約束させたし、全員許してあげよう。
私は入学に必要な手続きを済ませて、会場を後にした。
☆
翌日。
制服の採寸を終えて帰ると、家の前でアレジオが待っていた。
「リナリー、話がある。町の外にいくよ」
なんの用だろう?
ほぼ強制と言った感じに外に連れて行かれた。
「……アレジオ家は学院とも親密でね。合格はともかく、ドラゴンを従えてたというのは本当かな?」
「ご飯係になったんです」
この状態だと下手な嘘は危険だ。
「どんな手か知らないが、ドラゴンの腹を満たした感じか……。大事なのは、牙を持ち帰ったということ」
「あれは、私が手に入れたものです」
反論すると、アレジオは婚約に関する巻物を出してきた。
何本もある内の一本をわざわざ持ってきたのだ。
「婚約規定第3条。『婚姻前であっても、妻となる物の財産管理権はブスマン家が有する』要するに、素材も金も僕が管理するということ」
片笑みするアレジオを私は睨みつける。
この巻物がある限り、法的には私が不利だ。
「力尽くで取ってもいいんだよ。やるかい?」
アレジオは剣を抜き、正中に構える。
……空気が凍りつくようだ。
唐突に、真冬の雪山にいるかのような体感温度で、指が上手く動かない。
冷気。これはアレジオの魔法だ。
牙は諦めるしかないのか、と諦めかけたとき……
——ゴォォォオオッ!
唐突に、地面に放射状のヒビが入る。
高速でなにかが降ってきたのだ。
漆黒の竜……アルミラだ。
『腹が減ったと来てみれば。おい、余の友達になにをしている?』
「ド、ドラゴン!?」
アレジオは目を丸くする。
でも驚愕は、すぐに歪んだ笑みに変わった。
「ハッ! リナリーが手懐けたと聞いて驚いたが……人間と手を組むドラゴンなど、強いわけがない。所詮はトカゲだ!」
アレジオは強く踏み込み、アルミラに攻撃を仕掛ける。
自信家で勘違いの激しい、彼らしい愚行だ。
「ごべぇ!?」
即座に、尻尾で払われて吹き飛ばされた。
アレジオは木に激突して、持っていた巻物は宙を舞う。
アルミラはそれをキャッチして口に入れた。
『やはりクソマズだな』
「あぁ、契約書がっ……」
ナイスすぎる!
これでアレジオに牙を渡さずに済む。
「ヒエエッ、お助けを——」
腰が抜けて立ち上がれないアレジオに、アルミラは顔を近づけた。
そして射殺すような眼光で睨みつける。
『次は貴様を食ってやる』
これがトドメとなった。
アレジオは白目を剥き、意識を手放す。
股間には、お漏らしのシミがじわりと広がっていく。
『汚い奴め。余は貴様などに興味はない』
冷たく言い捨てると、アルミラは私の前にくる。
『よくわからんが、余は腹が減ってしょうがない。素材はあるか?』
「少しならいけるけど、場所変えようか。ここアンモニア臭いし」
すぐに料理に取りかかる。
涎を垂らしながら待つアルミラは、よく見ればなんか可愛い。
ふと、私はいいことを思いついた。
「今度、魔物の素材って持ってこられる? それを売って材料を買ったりもできるし」
『お安いご用というやつだ』
ありがたやー。
できる限りの料理は食べさせた。
『また明日もくる』
量が少ないので不満げではあったが、アルミラは大人しく帰ってくれた。
アレジオがまだ目覚めないので、王都に戻って門番や通行人に大声で伝える。
「大変です! 町のすぐ外で、ブスマン家のご子息が倒れています! 皆さん助けてください〜」
貴族のご子息に貸しを作りたい人は大勢いる。
多くの人が、出入り口の方に走っていく。
「本当に倒れているぞッ」
「あれ……漏らしてないかアレ?」
「くっさ! これ近寄れないぞ」
遠巻きに聞こえてくる声をBGMに、私は勝利の舞を踏む。
アレジオ、どんまい!