軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

持ち過ぎた者の苦悩と持たざる者の嫉妬

私の名はジル。親がつけてくれた名はシルティアーナといい、当時は新興国であったリビティウム皇国辺境伯家にしてオーランシュ王国の娘として生まれました。

その後側室であった母クララは五歳の時に 儚(はかな) くなり、後ろ盾のなくなった私は一夫多妻の奥方同士の鍔迫り合い、嫉妬のガス抜きにいいように扱われ――もともと実母が大陸一の美貌を誇る〈巫女姫〉と謳われていたという背景もあり――物心つかない時分からいいようにいびられ、気が付けば『リビティウム皇国のブタクサ姫』などという不細工・不器量・不教養というレッテルを貼られて、大陸中の嗤い者になっていたのですが、転機が訪れたのが十一歳の時です。

リビティウム皇国の中心であるシレント央国へと行くはずが、気が付けば馬車は道を外れて大陸中心部に広がる【 闇の森(テネブラエ・ネムス) 】へ。

そして謎の暗殺者によって 私(・) の(・) 一(・) 度(・) 目(・) の(・) 人(・) 生(・) は(・) 終焉を迎えました。

まあ早い話が私を疎ましく思うお妃方の手配によって闇に葬られたわけですが、様々な偶然が重なり【 闇の森(テネブラエ・ネムス) 】に庵を構える偏屈な魔女(見るからに魔女。絵にかいたような悪い魔女)に助けられて、シルティアーナからジルと名前を改め魔女見習いとして修行とダイエットに励み、その後、幻の 妖精族(エルフ) の集落で妖樹と戦ったり、紆余曲折の末にシレント央国にあるリビティウム皇立学園に留学したり……と思ったら〈 不死者の王(ノーライフキング) 〉と遭遇してこれをどうにか撃退するも、その余波でおよそ三十年前へとタイムスリップ。

なぜか私が〈巫女姫〉クララになって、聖女教団の暗部を知ってすったもんだあったのですが、無理やり帳尻を合わせて現代に帰還。

バックレる間もなく〈巫女姫〉クララの再来ということで外堀を固められ、せめてもの抵抗として聖女教団の本拠地であるユニス法国から離れた場所での活動に従事しようとすれば、吸血鬼の国であるユース大公国で伝説の吸血魔物を浄化するは、大陸中原部の動乱に巻き込まれて 黒妖精族(ダークエルフ) と不倶戴天の敵である 洞矮族(ドワーフ) の戦争を収めるために 東奔西走(とうほんさいそう) 。

さらには三つ巴で参入してきた謎の 神聖妖精族(サンクトゥスエルフ) であるアチャコの操る《 屍骸龍(ゾンビ・ドラゴン) 》との激闘――結果的に第三勢力が介入したことで、 黒妖精族(ダークエルフ) と 洞矮族(ドワーフ) が協力できたわけですが。

そしていつの間にか決まった私の《二代目聖女》という称号。

ついでとばかり【 闇の森(テネブラエ・ネムス) 】が【 闇の森(テネブラエ・ネムス) 】である旧神の負の遺産を苦心の末に――ほぼ奇蹟であり、同じことをまたやれと言われても無理ですわ――無くしたことで、なぜか【 闇の森(テネブラエ・ネムス) 】の土地を丸ごと丸投げ……もとい、いただくことになり、その準備でゴタゴタしているところへ、なぜか故郷であるオーランシュの奥方同士の確執と異母兄弟同士のドロドロが絡んで内紛状態になるというおまけつき。

様子を見に行ってみれば、今回も裏で暗躍していたアチャコと、行方不明になっていた実父であるオーランシュ辺境伯が 黒騎士(シュベリノアール) と名乗るふざけた扮装でアチャコを味方し、さらにはその正体が私が三十年前に奴隷として譲り受けた魔族の少年であったレグルスという訳の分からない状況に陥っていろいろと有耶無耶になってしまいました。

そしていま、【 闇の森(テネブラエ・ネムス) 】にある 師匠(レジーナ) の館で催していたガーデンパーティに突如として乱入し、コッペリアを完膚なきまでに破壊し尽くしたのは誰あろうアチャコの息子にして、旧神のただ 一柱(ひとり) の神子だというストラウス。それにずっと姿をくらませていた友人であるセラヴィが 混(・) じ(・) っ(・) た(・) 存在という怒涛の展開です。

というか普通の貴族の令嬢とか王女様とか、十五歳でここまで波乱万丈な人生は送らないと思うのですが!? 間違っても聖女のプロフィールではないと思いますわよ!

――と、いろいろとテンパりながら敵対する ストラトス(セラヴィ) を警戒しつつ、向こう見ずにも単身で向かって行った(友人として我慢できないところがあったのでしょう)ブルーノを 慮(おもんぱか) り、精一杯元気づけた私ですが、肝心のブルーノはなぜかあからさまに泡を食って狼狽しています。

「なに本気にしてるのよ、アホブルーノッ!!」

その横っ面にエレンが超反射神経で投擲したパンプキンパイが衝突するのとほぼ同時に、格下相手と見て温存しておいた ストラトス(セラヴィ) の《 真神(ヴァーサス・) 威剣(バニッシャー) 》から放たれた剣閃が飛来しました。

セラヴィらしい几帳面さで九つ裂き――正確に3×3の正方形のマス状に、物体を等分――にするつもりで放たれた斬撃に対して、反応することもできずに流れ落ちるパイの残骸を呑気に片手で拭うブルーノが、

「なにしやがる、この洗濯板女っ!」

「誰が洗濯板よ、鼻の下伸ばしたエロ猿が!」

エレンと痴話喧嘩をしているのを尻目に、思いがけずにこの場の騒ぎとエサの匂い、そして何よりも一連の破壊活動で厳重に仕掛けられていた魔物除けの結界が破れたことで、周辺に潜んでいた大型の魔物が本能のままに襲来したのでした。

巨大な獅子の体に醜悪な人の顔を持った体長三メルトほどもある 人面獅子(アブルハウル) が、ちょうど物陰から飛び出して大口を開けてブルーノに襲い掛かろうと、後ろ脚で立ち上がって覆いかぶさろうとした形となり、それが絶好の盾になる形で《 真神(ヴァーサス・) 威剣(バニッシャー) 》の直撃を受け、悲鳴を放つ間もなく豆腐のように九等分され巨大なブロック肉と化します。

「――刮目して見たか?」

と、肩を並べて ストラトス(セラヴィ) と対峙していたルークに向かってバルトロメイが意味ありげに囁きました。

「確かに……見ました。彼の剣筋を」

「どう見た?」

ついでに襲い掛かってきた尻尾を含めると五メルト近いマンティコア目掛けて、手近にあった丸太を片手で鷲掴みしてヒョイと投げ、轟音とともに体を背骨ごと『へ』の字に曲げて吹き飛んで行くのを、特に言及せず――気にすることもない些事なのでしょう――バルトロメイが試すような口調で再度問い返します。

「持っている武器の威力は凄まじいの一言ですが、剣術そのものは我流……付け焼刃ですね。 尋常(まとも) に勝負をすれば、正統派の剣術を修めているジルや僕なら武器の差を埋めてすべて 捌(さば) けるでしょう」

気負いなく言い切るルークの言葉に頷くバルトロメイ。

「うむ。これが試合であれば 我が弟子(ブルーノ) でも勝ちを拾えたであろうが、これは試合ではなく 死合(しあい) いである。 努々(ゆめゆめ) 油断せぬことだ」

いまだ意気軒昂なふたりの様子に、聞き耳を立てていた――ほぼ同じ見解ですが、バルトロメイのいまの行為は、剣士がどうこうと言うよりも世界一の殺し屋っぽい戦いっぷりじゃないかなと思いつつ――私は密かに胸を撫で下ろします。

一方、訳の分からない内に九等分された巨大な魔物の生肉が吹き飛んでくるという、目まぐるしい状況の変化(あくまで当人目線では)に――。

「――ふわっ!?!」

いまさら混乱してブルーノが目を白黒させるのと同時に、周辺の樹木に擬態していた魔物が十匹ばかり、群れの残りらしい 人面獅子(アブルハウル) が六匹ほど、さらに追加で巨大な蚊や蜂やカマキリ、甲虫といった昆虫型魔物が雪崩を打ってこの場に殺到してきました。

甘いお菓子の匂いが呼び寄せたのでしょうか? いまとなっては原因は不明ですが、下手に知能のない昆虫型魔物というのはある意味、普通の魔物以上に厄介です。

何しろ複雑な感情というものがないので、『餌の匂いがして、動いているものがいるのでまずは食いつく』、『反撃されたので攻撃する』という一貫した 反(・) 応(・) だけで、『相手の方が強そうなので逃げる』という選択肢をそもそも持っていませんから、完全に殲滅する以外にこちらも対処の仕方を持っていません。

知性のある 人面獅子(アブルハウル) は先の仲間の惨状を目にして警戒してか ストラトス(セラヴィ) を避け、また植物型魔物は精霊的性質を多少は帯びているのか、ストラトスの体に流れる 神聖妖精族(アチャコ) の血を苦手としているようで、明らかに敬遠しているように見受けられます。

もっとも正しく精霊に愛される普通の 妖精族(エルフ) 、 黒妖精族(ダークエルフ) であるプリュイ、アシミ、ノワさんは、魔物と化して歪んだ邪精霊・邪妖精のヘイトの対象となっているようで、積極的に攻撃の対象となっているのを精霊魔術で対抗する形でいまのところ互角に持ち込んでいるようでした。

で、一番厄介なのは昆虫型魔物で、その辺の忖度がないので敵味方構わずに一律に襲い掛かっています。

「ちっ、羽虫どもが鬱陶しい……!」

当初は雷の魔術でこれを追い払っていた ストラトス(セラヴィ) ですが、何しろ数が多い上に電撃にもある程度耐性のある個体がいて、段々と処理速度を上回る……撃ち漏らしが出るようになり、

「‟偉大なる蒼の神の名と御子たる我が名において召喚する。出でよ〈 白炎鳥(ホワイト・フェニックス) 〉”!」

それらに対応するため使役(ではなくて力づくで屈服させている)させている〈 白炎鳥(ホワイト・フェニックス) 〉を呼び出して、消し炭も残らないほどの超高温で蒸発させながら不快気に吐き捨てるのでした。

「にゃははは、ざまーみろですにゃ」

それを見て得意の糸で魔虫が通れない――無理に押し通ると比較的ヤワな手足が千切れ飛び、這いつくばったところを他の魔虫の餌になるという防御方法を取っている――シャトンが喝采を放ちます。

意趣返しと言うわけではありませんが、宣戦布告されて実際に実力行使に踏み切られた身としては、もとより手を貸そうという酔狂な御仁はさすがにいないようですわね。

私もエレンやブルーノといった非戦闘員――まあある程度の戦闘能力はあるのですけれど、この場の 面子(メンツ) と大挙して押し寄せてくるAランクからBランクの魔物集団相手には非力ということで――を守るのに手一杯で、あちらまで対処するリソースはさすがにありませんもの。

透明なバリアのような『 魔力障壁(マナ・シールド) 』と、鋼鉄でも切断する超高圧のウォータージェットのような『 水障壁(ウォーター・シールド) 』を、私とエレン、ブルーノ、ついでにいつの間にか足元に来ていたフィーアと、ちゃっかり安全地帯に逃げ込んできた 大根(キンタ) を囲む形で二重に張り巡らします。

これで大抵の魔物は迂闊に飛び込んでこられないはずですが――実際、魔虫が夜間に松明に魅かれて燃え尽きる蛾のように次々と自滅しています――気合を引き締めるためにも、私はだらりと 纏(まと) っていた上着の袖をまくって、ついでに胸の下のたるみをきっちり挟み込みました(いわゆる『乳袋』を作ったわけです)。

それから近接用に『ティソーナ』、『コラーダ』を取り出して、左手に抜身の一刀をもう一刀は予備として腰に佩いて、右手には『 光翼の神杖(アリ・ディ・ルーチェ) 』を握ったままの剣と魔術、どちらも状況に応じて使える準備は整いました。

「こんな時に何ですけど、 乳袋(それ) って意味あるんですか?」

気合を入れ直した私の胸のあたりにチラチラと視線を送るブルーノの足を蹴り飛ばしながら、エレンが小首を傾げながら……微妙に釈然としない口調で、先刻からもの言いたげだった疑問を思い切って口に出した様子です。

あー、そうよねー、なかなか理解されないのよね。この行為って。男受けを狙ったあざとい格好って(一部の同じ悩みを抱えている同士以外の)女性からも白い目で見られますものね。

「え~とですね。動き回ると下乳というかオッパイと胸の接する肌がこすれて痛いんです。あとぶっちゃけ汗で蒸れて肌が荒れて湿疹とかできますし……」

「……下着で調節できないんですか?」

「ブラの場合だと動くとズレるので、いちいち手を突っ込んで直すわけにもいきませんから、手っ取り早く上着を巻き込んで蒸れないようにするのが結局一番なのですわ」

「「「「「そうだったのか、乳袋に理由があったの(なんて)(とは)」」」」」

そんな私の赤裸々な告白に、エレンとついでに耳をそばだてていたらしいヘル公女とイレアナさん、プリュイ、ノワさんたち女性陣が目から鱗というか、長年の疑問が氷解したような晴れやかな表情を浮かべています。

「持ち過ぎた者の苦悩と持たざる者の嫉妬ですにゃ」

訳知り顔で私と他の女性陣の面々との顔を見比べて、しみじみと……嫌にしみじみと言い放つシャトン。

「――ふん」

それを聞いてどこか自嘲した笑いを放った ストラトス(セラヴィ) が、力づくで魔虫たちを灰にしながら一気にルークの元へ、六~七メルトの距離を一瞬で縮めて大上段から両断する勢いで《 真神(ヴァーサス・) 威剣(バニッシャー) 》を振り下ろしました。

「 殺(シャ) ーーッ!!!」

「ハッ!」

それを受けるのはルークの聖剣メルギトゥルです。

真龍であっても両断する聖剣とはいえ、さすがに神剣相手には三舎を避けるしかありませんが、ほとんど音もなく聖剣の光刃に沿って《 真神(ヴァーサス・) 威剣(バニッシャー) 》のベクトルを逸らし、刃の先端が下を向いたその瞬間には半身になったルークの聖剣メルギトゥルがすでに翻って、その腕ごと相手の胴を両断する軌道で振り抜かれていました。

「基礎能力とその剣の威力は凄いけど、尖ったところがないからさほど脅威は感じない。それに何より反応がイマイチ鈍い。技の選択、間合いの見切り、仕掛けるタイミング――どれもこれも一拍判断に遅れる。普通は考える前に修練で身についた動きが勝手に出るもんだ。つまり技術が体に馴染んでないってことだね」

聖剣メルギトゥルの剣先をゆらゆらと揺らしながらルークが ストラトス(セラヴィ) の剣筋について総評して一言――つまり素人のチャンバラと――感想を口に出します。

「……持って生まれた者と持たざる者との差か」

およそ人体を斬ったとは思えない金属質の音が響くと同時に、後方に弾き飛ばされた ストラトス(セラヴィ) が、横一文字に切れた服の端と、ドラゴンの鱗そのものが直接生えている腕と胴体部分――そこから流れる血を指の先で掬って吐き捨てるのでした。