軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

大和殿の秘宝と聖母の登場

「さすがはクララ様、金的への攻撃に一切の躊躇がありませんでしたね!」

「当然ですわ。非力な女子が、屈強な男性相手に身を守るには、金●を蹴り上げ、目に指を突っ込んで、髪の毛が引きちぎれるまで引っ張るのがセオリーですから」

股間を押さえて、その場でジャンプしながら身もだえる 両面宿儺(りょうめんすくな) 相手に、コッペリアとふたりで小ぶりの丸太を振り回しながら、私はフェイントをかけて再び股間を狙う――と見せかけて、 弁慶の泣き所(むこうずね) を強打しつつ間髪入れずにそう答えました。

大教皇ウェルナー(ベナーク公) 本来のものなのか、融合された騎士たちの技術なのかは不明ですが、両面宿儺の剣技は非常に真っ当なもので、一国の騎士団長クラスの技量があり、しかもそれが六本の腕から繰り出されるのですから、まともに相手をしていてはいくら強化していようと正面からやり合えるのは数合がいいところでしょう。

ですが、真っ当な故に逆に付け入るスキがいくつもあったのは僥倖でした。

なんとなれば、まず前提としてこの世界での剣技は基本的に片手で両刃の剣を持って、もう片手で盾もしくは斧や棍棒などのサブウェポンを持つことを基本としています。地球世界でいうところの西洋剣術に近いでしょう。

その性質上、剣も切れ味よりも丈夫さが重視された両刃の剣が主体であり、日本刀のように先端に近い部分で 沿(・) わ(・) せ(・) て(・) 斬(・) る(・) のではなく、全体で押しつぶすように叩きのめすか、フェンシングのような戦闘スタイルになるのが普通です。

そのため、いかに効率よくメインウェポンとサブウェポンを 組(・) み(・) 合(・) わ(・) せ(・) る(・) か(・) を試行錯誤し、実戦を想定して槍などの長柄の武器、接近した際には槍を捨てて剣や短剣を使い、さらに組打ちを合わせたものを『剣術』とまとめて『〇〇流剣術』としています。

ただし地球の東洋武術と違うのは、飛び道具を並行して学ぶという意識がなく(それは弓兵や魔術師の仕事と蔑んでいます)、また代々に亘って技を練って昇華させるという概念がないため(あくまでテキストを覚える……という感じで発展性がないのです)、意表を突いた不測の事態――ぶっちゃけ、初見殺しに 滅法(めっぽう) 弱いという欠点があるように、私には思えます。

この両面宿儺もそうした剣士の延長……と見て取った私たちは、最初に 飛び道具(丸太) で先制し、その後は徹底的に正面からやり合わずに、急所狙いでボコっているわけですが――。

「……なにげにクララ様って 容赦(エゲツ) ないというか、卑怯を卑怯と思わないところがありますよね。というか、それ護身術ですか?」

物理攻撃の合間合間に、得体のしれない液体が入ったビーカーを投擲しながら(着弾して中身がかかったところから火が出たり、溶けたり、紫色に変色したりしていますが、決定打には程遠いようです)首を傾げるコッペリア。

「攻撃的防御ですわ」

「そんな理屈初めて聞きましたが……」

ですがそこに 痺(シビ) れる、 憧(あこが) れるゥ! と喝采を放ちながら牽制の手を休めて、代わりに向こう脛を押さえて絶叫した両面宿儺の背後に回ったかと思うと、

「必殺っ、 ゲイ(Gay) ・ ボルグ(Bolg) ーーーツッ!!」

ふんどし越しに秘口――後蕾、肛孔、後孔、肛蕾、狭間、バックなどなど専門用語ではあげつらわれますが――要するにお尻の●目掛けて、異様に慣れた手さばきで丸太を突き刺すコッペリア。

「……微妙に発音が違いますわよ?」

伝説級(レジェンダリィ) の魔槍である ゲイ(Gae) ・ ボルグ(Bolg) 。確かに用法は間違ってはいませんけれど……。

一瞬の抵抗ののち、湿ったような怪音とともに、五メルトはありそうな丸太の半ばほどが両面宿儺の体内へと沈み込みました。

「「アッーーーーーーーーーー!!!!」」

途端、雷に打たれたかのように両面の目と口を大きく見開き、一瞬棒立ちになった両面宿儺。

そうして、そのまま口から泡を吹いて前のめりに倒れたところを、好機とばかりより大型の丸太でタコ殴りにする私とコッペリア。

ボコボコボコボコ……

「……気のせいかしら? 以前にもこんな場面があったような気がするのよね。私――というか誰かの記憶の中で……」

既視感を覚えながら小首を傾げる私に向かって、コッペリアが「気のせいですよ」と、気楽に答えます。

「 既視感(デジャヴ) なんてものは脳の錯覚です。それともクララ様、以前に変質者のケツに杭を差し込んでボコボコにしたことがあるんですか?」

ボコボコガスガス……

「いえ、ありませんわ!」

あってたまりますか!!

「そういえば変質者で思い出しましたけれど、魔人国ドルミートの――」

ガスガスメキメキ……

「でも 魔王(シャイタン) アントンの依頼で赴いた敵の根城で、いきなりボスの膝の上にいたペットの三毛猫を攻撃した時はびっくりしましたわ。――まあ、結果的にボスだと思っていた魔族は傀儡で、猫の方が真のボス『大首領ヌコ』だったわけですけど」

『ふはははは、よくぞ見抜いた!』と、猫が立ち上がってマントを翻した姿が可愛かったので、思わず嬌声を放って首の下を撫でていましたわ。猫パンチされましたけれど。

「三毛猫の雄って段階で怪しかったですからね~。あとお約束ってやつですよ。不死身を自称する奴がいたら、まずペットやマスコットを狙えというのが 鉄板(セオリー) です」

「あと、命を分散していて、同時に倒さないと復活するというパターンもありますわよね?」

地球世界のゲームとかなら。

「そういえばそうですね。……念のために両方とも息の根を止めておいたほうがいいでしょうね」

何とは言わずに丸太を突き下ろす速度を上げるコッペリア。

ゴツゴツメキ…グシャ……

「――で、そもそもの問題は私ひとりが和を重んじて、人間関係を円満円滑にしようと努力するところにあると思うのですよ。つまり私が要求しているのは各自がもっと場の雰囲気や状況を察知して、会話や行動で穏便に人間関係を維持して欲しいというか……」

日本人特有の『空気を読む』という特殊能力ですわね。

「クララ様、おっしゃることを軽くシミュレーションしてみましたが、その技能はマスターし過ぎてしまうと自分の意見が何も言えなくなってしまう、諸刃の剣という結論が出ましたが?」

気の進まない表情でコッペリアが言い返しました。

まあ、確かに『すべてかゼロ』か『白か黒か』で、極端にデジタルで思考と行動をしているコッペリアには至難の業かもしれません。

「いえ、ワタシの賢者の石による人工知能は 曖昧(あいまい) さにも対応していますよ? そうでなければ『サービス残業500時間か会社辞めるか』レベルのクララ様のもとで働いていられませんよォ!」

「そんなブラックな職場ではありませんわ!」

ちょっと異空間で鬼神や蛇神相手にバトルをするくらいで。

そうこうするうちに、

メキグシャメキグシャ……

足元から聞こえてくる音が泥をこねるような鈍いものに変わってきたのを感じて、私とコッペリアとはお互いに目配せをし合いました。

「……そろそろかしら?」

「……そうですね。そろそろ原型をとどめていないかと」

敵とはいえ鈍器で撲殺するという残虐行為から目を背けるために、日常会話を挟んで直視しないようにしていた私たち。

ともあれ、『 いっせーのーせ(サンノーガーハイ) 』で手を休め、足元の両面宿儺へ視線を落としたその瞬間――。

「「――ウガオオオオオォォォォォーーーッッ!!!」」

半死半生の両面宿儺が雄たけびとともに六本の腕と両足を使って、 便所コウロギ(カマドウマ) のようにその場から飛び跳ねました。

「きゃっ!?」

「……しぶとい」

爆発したかのようなその勢いに、丸太を吹き飛ばされる私とコッペリア。

見るも無残な有様になっていた両面宿儺ですが、何かに魅かれるかのように跳び上がって、天井からぶら下がっていた丸い照明に手を伸ばします。

「穢れた手でそれに触るな、下郎がっ!!」

不意に切迫した女性の声が聞こえ、反射的にその方向を見てみれば、人間離れした美貌の 妖精族(エルフ) ――いえ、 神聖(サンクトゥス) 妖精族(エルフ) である――〈聖母〉アチャコが螺旋回廊を登ってきたところでした。

「聖母! 実在したの!?」

これまでずっと肖像画と伝聞でしかなかった聖母の登場に、思わず唖然としたその時、照明に手をかけた両面宿儺が、それを抱え込む形で無造作に力を込めると、一瞬輝きを増した球体全体にヒビが入り、次いで琥珀? 黄金色? に輝く液体が噴き出します。

「――むっ!? これは 万能薬(エリクシル) と 第五元素(エーテル) の混合液! 強力な再生薬です、クララ様!」

即座にその正体を看破したコッペリアの警告が響き渡りました。