軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

赤光の領域と三位一体の協力

赤光で遮られた空間を猛々しい稲妻が荒れ狂う。

その影響なのでしょう。夕焼けのように照らし出された上空には分厚い雲が湧き起こり、とぐろ巻く蛇のように荒れ狂っていました。

幸いこの場所は台風の目のように凪いでいますが、それもいつまで安全なのかは不明です。

天変地異の幕開けのようなそんな様子をじっと眺めていた私たちですが、いい加減痺れを切らして口々に疑問を呈しました。

「これいつ終わるのかしら?」

「いつになったら終わるのよ?」

「いいかげん終わらないんですか?」

「いつになったら終わるのかのぅ?」

「素敵なお嬢さん、これが終わるのはいつでしょう?」

「いつになったら終わるんだ、これ?」

私の後はエレン、ルーク、リーゼロッテ、ヴィオラ、セラヴィの順です。

と、視線の集中砲火を浴びせられたコッペリアが「――おや?」と首を傾げました。

それだけで非常に嫌な予感がします。例えるのなら曇り硝子の窓の向こう側から、こちらを窺う悪魔の気配が垣間見えたような……。

「もしかしなくても失敗ですね。完全に暴走して、このままだとこの大陸が吹っ飛ぶかも知れません」

窺うどころか悪魔は窓をぶち破って飛び込んできました。

「予定では指定領域を覆ったところで、速やかに空間を圧縮しながら縮退する筈なんですよ。――こう、キュッと鶏の首を捻る感じで」

キュッと雑巾を絞るようなジェスチャー込みで解説をするコッペリア。

「……どうしてこう、表現が猟奇的なのかしら?」

冷や汗を流しながらの私の問い掛けに、さらに首の角度を水平に近づけるコッペリア。

「では、こう……ギュッと人の首を絞めたような感じで」

妙に具体的な動きで両手をワキワキさせて訂正されましたけれど、

「余計に猟奇度が上がりましたわ! と言うか、人の首を絞めたことがありますの、貴女!?」

そう怒鳴りつけると、まるで去年の夏休みの宿題をしなかったことを、いまさら蒸し返された子供のような顔で、コッペリアは首を完全に水平に傾げました。

そそくさと周囲の面々が、自分の周りから距離を置いているのを確認して、

「えーと……ジョークですよ、ジョーク。HAHAHAHA……うちの地元では鉄板ネタだったんですけど、どうやら皆様方お気に召さないようで残念です」

ふーっ、やれやれ……とばかり両手を広げて肩を竦めるコッペリア。

当然その言葉を信じる人間はこの場に誰も居ません。

「ちなみに……人を殺そうと決意してから実行するまでって、案外人間平静でいられるものですよ?」

((((((やだなぁ、こんなメイド))))))

あの光の下で消滅していた方が世の為人の為だったのではないでしょうか?

いまさらながら一時の感傷で再会を喜んだ自分が馬鹿みたいに思えてきました。

「それで暴走の原因なのですが――」

首を元に戻して、多少は真剣な口調でコッペリアが続けます。

「複合的なものでしょうね。ひとつには、やはりクララ様の『 月落し(ルナテック・コンプレッション) 』の影響で周辺の重力や磁場が乱れていたこと」

「う……」

予想はしていましたけれど、やはり面と向かって糾弾されると後ろめたさを感じます。

「もうひとつがアホなイゴールの土壇場の余力が予想外に高かったこと。こういうのを火事場の馬鹿力って言うんでしょうか? まさかドラゴンの魔力の結晶体である 竜玉(カーバンクル) の暴走に拮抗するとは思いませんでした。さすが生にしがみ付いて 不死者の王(ノーライフキング) になる奴は根性が違いますね」

軽薄な口調で、『想定外です。ワタシ悪くない。原因は他にあるのです。突発事故ではなく突発的な 事象(、、) です』という説明に終始するコッペリアですが、

((((((安物の 竜玉(カーバンクル) 使ったんじゃね……?))))))

どうにも疑いの眼差しで見てしまうのは止むを得ないところでしょう。

「ま、あと強いて原因を挙げるなら、最後の最後でご主人様があっさり満足してメモリを消したことですね。このワタシに土壇場でコントロールを任せたのが運のつきというモノで」

「「「「「「やっぱり(貴女)(あんた)(お主)(君)(てめー)が原因か!!」」」」」」

全員の殺意を含んだ怒号がコッペリアに集中したのでした。

「まあまあ、過ぎたことを嘆いても仕方ありません。ここは建設的なお話し合いをしましょう」

『まあまあ』と広げた両掌を下に向けて落ち着くように身振りで促すコッペリア。なにかこちらが勝手に激高して理不尽な言いがかりをつけているような態度で……イラッと全員の不快指数がさらに上昇します。人を怒らせることにかけては天下一品ですわね、この駄メイドは。

「建設的って、そもそも一度発動した術を途中でどうにかするなんてことができるのか?」

この面子の中では私と同程度に魔法・魔術に詳しいセラヴィが懐疑的に眉を顰めます。

「確かに一度発動した魔術は火薬と同じで、もうコントロールはききませんが、幸い現在は次元破砕爆弾とイゴールの力が拮抗状態にあり、一時的ですが術が静止しています。ほどなくバランスは崩れると思いますが、その崩れる方向を誘導することができる筈です。大丈夫! 計算上は上手く行きます。皆さんはワタシを信じればいいのです」

「「「「「「…………」」」」」」

その場に何ともいえない微妙な沈黙が落ちました。

「まあ仮に失敗しても次で頑張ればいいんです。汚名挽回、名誉返上、失敗は成功の母とも言いますので」

軽薄な口調と態度で腕まくりするコッペリア。

意気込みはわかりますが、失敗を前提に(しかも諺も本来誤用ですし)話している段階で思いっきり信用できません。

◆ ◇ ◆ ◇

その場で車座になって作戦会議を開く私たち。

「方法は至ってシンプルです。現在拮抗状態になっている魔力の均衡を崩す為に、外部からちょっと力を加えて干渉するだけです。たったひとつの冴えたやり方ってやつですね」

コッペリアが地面に適当な木の枝で二重丸を描いて、内部の丸に『アホのイゴール』と書いて、外の円に向けて放出する力を矢印で示し、逆に外の円から内側に向かう矢印を書いて『次元破砕爆弾の縮退力』と注釈を書き加えます。

「理想としては、引き籠っているイゴールの力をクララ様の浄化で減じて、同時に外側の縮退力に魔力を加えて一気に押し潰すのがベストです。これで一発逆転ですね」

自信満々で胸を張るコッペリアですけど、私ってその手の『冴えたやり方』とか『一発逆転』とか『食べるだけダイエット』『寝るだけダイエット』『呼吸法だけダイエット』とかいう甘言蜜語は頭から疑って掛かる性分なのですよね。どうにも胡散臭いというか、インチキ臭いというか、自分に都合のいい解釈だけ提示されているというか……だって食べて、寝て、息してれば太るに決まっているでしょう!? 嘘よ、絶対に! と声を大にして言いたいです。

とは言え、ここでそんな益体もない議論をしていても仕方ありませんので、私は気になった点を指摘しました。

「干渉すると言っても私の魔力はほとんどありませんし、貴女もいまのボディにはもう最終兵器が搭載されているわけではないんでしょう?」

幸か不幸か『 月落し(ルナテック・コンプレッション) 』が途中で破られた為に、僅かばかりの余力はありますが、それでもあの無茶苦茶な“場”を突破して『 浄化の光炎(ピュリファイ) 』をイゴーロナクに当てるのは絶対に無理です。

「なら魔力の方で……俺がどうにかするってことか?」

セラヴィが面倒臭そうに蓬髪を掻いて口を挟みます。確かにこの場で戦闘的な魔術を使えるのは、他にはいませんからね(生活魔法程度なら貴族なら使えるのが普通なので、ルーク、リーゼロッテ、ヴィオラも心得がないわけではありません)。

そんな彼の顔をちらり一瞥したコッペリアの目が一瞬光りました。

「総魔力量三千二百三十。属性は〈雷〉〈土〉〈識(下級)〉、栄養状態(下)、魅力Eランク、モテない歴=年齢――なるほど。雑魚ですね」

「………」

「「「ま、まあまあ、待て待てっ」」」

咄嗟にコッペリアに殴りかかろうとするセラヴィを、ルークとリーゼロッテとヴィオラの三人で無理やり押しとどめました。

「確かにいまは猫の手でも矮小なる愚民の手でも借りたい状況ですが……肉の壁以外に用途が思い浮かびません」

コッペリアの方はまったく気にした風もなく、歯に衣着せぬ表現で続けます。

「……お願いだから、いまこの場で問題を起こすような発言は控えてもらえるかしら?」

私の懇願に心外そうな顔で瞬きをするコッペリア。

「勿論です。時間は有限ですので、無駄な会話をする暇はありません。弱小な下々の者にかまけている時間はありませんから」

「それが余計な口っていうのよ!」

エレンが無造作にコッペリアの頭を叩いて黙らせました。

「~~~っ。なんでたかが凡人の拳がこんなに痛いのでしょう……?」

頭を抱えて涙目で疑問を口にするコッペリアに向かって、エレンが堂々と言い放ちます。

「当然よ。あたしはジル様の専任侍女なんだから。いうなればあんたの先輩よ。あんたもジル様の侍女になった以上、きちんと上下関係は理解しなさいよ!」

はて? いつからコッペリアが私の侍女になったのでしょう?

ぽん、と掌を叩いて頷くコッペリア。「……なるほど」

あ、そこ納得しちゃうんだ。

「よろしくご指導ご鞭撻お願いいたします。先輩」

「うん。任せておきなさい!」

なにか……。私を置き去りにして、エライことが進行しているような……。

じわりと背中に汗が流れ、思わず救いを求めるような目で他の皆様の顔を眺めますが、『任せた』と言わんばかりの生暖かい目で見返されるだけです(セラヴィだけはコッペリアを親の敵のように睨んでますけど)。

「それでは話を続けさせていただきます。―― ご主人様(マム) 」

なし崩しに私の侍女になったらしいコッペリアが、恭しく私に一礼をして話の続きに戻りました。

「えーと……」

「この膠着状態を打破する為には、クララ様とワタシ、信頼に従った互いの力を合わせることが肝要です」

「………」

できれば侍女とかご遠慮願いたいので、やんわり窘めようとしたそのタイミングを見計らったように、コッペリアが『信頼』だとか『互いの力を合わせることが肝要』とか言い出しました。

「具体的には〈空〉の魔術を使えるクララ様の能力で、現在均等に働いている縮退力に方向性を定めていただき、イゴールの魔力の弱い部分を一気に叩く形で誘導していただきたいのです」

「まったく未知の術に対して、いくらジルとはいえそんな無茶なことができるんですか?」

疑念というよりも非難する口調でルークがコッペリアに問い掛けます。

私もひとつ頷いて同意を示しました。

「そうですわね。さすがに一度見ただけではコントロールは難しいと思いますわ。あと二~三度見れば、再現できそうな手応えはあるのですけど……」

まったく同じではないでしょうけど、『 月落し(ルナテック・コンプレッション) 』の上位互換っぽいので、今後の試行錯誤で似たような術を開発できるとは思います。

そうなれば〈 不死者の王(ノーライフキング) 〉級の相手でも、次こそおめおめ遅れを取ることはない筈です。

「とりあえず再現できた際の術名は『 天輪落し(パイル・ヴァルティン) 』というのはどうでしょう?」

私の提案に諸手を挙げて賛成したのはエレンだけで、他はなぜか(コッペリアも含めて)怪物を見るような目になったのはなぜでしょうか?

「……まあ、それは次回の課題としまして、現在はさすがのクララ様も無理なご様子ですので、魔力の把握はワタシが代わりに行います。幸いデータは残されているので、ある程度対応できる筈です。そこでワタシの指定する箇所へ、クララ様が〈空〉の魔力を注いでくだされば、なんとかなると思います」

地面に描いた二重丸のさらに外側に隣接する小さな丸を描いて、そこから矢印を一本引っ張り、外側から内側へと向かう力をそこだけ二重線にして、内側からの矢印と衝突する様子を描くコッペリア。

見ていた私たちも『なるほど』と納得しました。

「話を聞く限りは上手く行きそうな気がするが」

見直した、という顔でドヤ顔のコッペリアを見るリーゼロッテ。

「そうですね。いまさら不確定要素を議論しても始まりませんし……ただ問題があるとすれば――」

「ジルの負担がかなり大きいように感じるのですけど」

ヴィオラの懸念を引き取って、ルークが地面に描かれた小さな丸を見詰めます。

「………」

同じくその丸を見ていたセラヴィが、苛々とした態度で髪をかき上げました。

◆ ◇ ◆ ◇

「それじゃあ行きますよ。しっかりワタシの肩に手をかけててください、クララ様。――ついでに愚民」

徒競走のムカデ競争のように、前を歩くコッペリアの肩に私が両手を掛けると、同じ要領でセラヴィが私の肩に手を乗せました。

「――ッ」

思いがけなく大きくてゴツゴツした感触に、変な声が出そうになったのを必死に抑え込みました。

「ずいぶんと細くて華奢なんだな。力入れて握ったらなんか折れそうだ」

セラヴィが無遠慮な感想を口にしています。

「当然だよ。女の子はコワレモノなんだからね。力を込めるなんてもってのほかだよ。気をつけたまえ」

ヴィオラの真摯な忠告に、背後でセラヴィが渋い顔をしたのを気配で感じ取れました。

ルークとエレンは初めから苦い顔でこの陣形を眺めています。

「……なんでアイツが」

「……あたしにも魔法が使えれば、ジル様のお傍にいられたのに」

不平たらたらですが、こればかりはしかたありません。

赤光の領域に隣接して――見た目としてはある程度内部まで進む予定です――力を振るうため、結界を維持しないといけませんが、さすがに私が同時にふたつの術を展開するのは負担が大きいということで、急遽セラヴィも同行することになったのですから。

「――よろしいのですか? かなり危険だと思いますけれど」

首だけ振り返って見れば、セラヴィはいつもの仏頂面で、

「他に適任がいないんじゃしかたないだろう。王女様方を見捨てて逃げた……なんてことになって、あとでバレたら確実に打ち首だしな」

この場に留まっているリーゼロッテとヴィオラをちらり一瞥してため息をつきました。

私としては王女様おふたりには(と言うか私たち以外の全員には)この場からできるだけ退避していただきたかったのですが、

「妾は第三王女であるからな、いくらでも取替えのきく立場である……が、おぬしの友人として唯一の立場であると自負しておる。ゆえに逃げ出す訳にはいかんな」

「僕は宮廷でも持て余されている変わり者ですからね。いなくなったところで身内は誰も困りませんよ。ならば自分の流儀に従い、麗しの姫君たちの無事を祈って、この場に留まる方を選びますよ」

ふたりともそう言って譲りませんでした。

ルークとエレンについては言わずもがなですわ。

「仕方ありませんわ。――フィーア、なにかあれば後をお願いね」

私のお願いに、一緒について行けないのが不満なのか、不承不承フィーアが頷きます。

「大丈夫、ちょっと行って帰ってくるだけですから」

不安そうな顔を隠そうともしないルークとエレンに、あえて軽い口調でそう言って私は前を向きました。

「じゃあ行きますよ。出発ーっ」

私たちがきちんと付いてきているのを確認して、コッペリアがゆったりとした歩みで前に進みます。

「なにげに羞恥プレイですわね」

この年でこの格好はけっこう恥ずかしいものがあります。

頬を染める私の後ろで、セラヴィが小さく何かを呟いた気がしました。

君が……俺の世界の先……見極め……とか言ったようですが、よく聞こえませんでした。

「なんですの?」

「なんでもない、気にするな」

言葉少なに首を振る彼の態度に、これ以上訊いても無駄だと悟って私は再び前を向きます。

そして、いよいよ目前に迫ってきた赤光の領域に踏み込むべく、先頭のコッペリアが声高らかに武装を解除しました。

「オッ○イビィ――――ムッ!!」

閃光が赤光の領域を切り拓いて一筋の道を作ります。

凄い威力です。ですが……。

……もうちょっとなんとかならないものでしょうか?