軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

35

北方師団に入る前は、カミラはジークと一緒に傭兵めいたことをやっていた。故に貴人づれの旅もそこそこ経験がある。野営も夜の見張りもお肌の大敵なので好きではないが、慣れがあるので気楽だ。

(食事がおいしい分、今回はいいほうよね。っていうか陛下すごすぎない?)

食べられる植物を瞬時に見分けるし、旅支度で持ちこんだ調味料選びは的確だし、そこら辺の雑草もおいしく調理できるんじゃないかと思うようになってきた。逆に言うのであれば、それだけ苦労をしている、ということだ。

「ジーク、あんたが先に寝て……ってあら、ロレンス君まで、どうしたの」

「ちょっと目がさえてしまって」

昼間、ジルに頼まれたばかりの人物が笑う。ふむとカミラは頷く。まだ起きていてもおかしくない時間だ。現に、リステアードの部下たちも少し離れた場所で談笑している。

焚き火に枝を折って放りこんだジークが振り返った。

「隊長たちの天幕は?」

「出入り口にハディスぐま置いてきたわ。ソテーも一緒に寝てる」

「……。あれ、なんなんです? 鶏もどきも。目立ちますよ」

焚き火は獣よけにいいが、煙が居場所を知らせてしまう可能性がある。故に、焚き火から距離を取った場所、木々の間で見えにくい場所にそれぞれの天幕をばらけて設置している。だが天幕の前に可愛いくまのぬいぐるみとそれを寝床にしている鶏もどきがいれば、ロレンスの懸念はもっともだ。

とはいえ完全に罠なのだが、まだ味方ではないこの少年に教えてやることはない。

「両方、陛下からもらったジルちゃんの大事なお守りよ」

「それなら普通抱いて寝るのでは……鶏も竜妃殿下が育ててるそうですが、なんでまたよりによって鶏?」

「言わせるな。名前から察しろ。ちなみに名付け親は隊長だ」

ジークの指摘にロレンスは賢明にも黙り、それからそっと目をそらした。

「なかなか豪快な御方ですね……ちなみに二品目とか三品目のご予定は……」

「その数え方やめろ」

「そうならないよう、こうして見張ってるんでしょ。何事もなく合流できればいいけど」

「罠かどうかなら五分五分ですね」

さぐりを入れたつもりがあっさり本人が罠の可能性を肯定した。

「罠だとしても、ヴィッセル皇太子がそもそも味方でない可能性。ヴィッセル皇太子は味方だが、ゲオルグ前皇弟にそれを看過されている可能性。色々考えられるので、どうせ飛びこむしかないんですが……まあそれでも最善手じゃないでしょうか」

「最善手? こっちには陛下がいるっていうのにそう言えるの?」

ロレンスが焚き火用にまとめてあった枝の一本を拾い、地面に四角を描く。

「罠だと仮定して話をします。もし、この件をリステアード殿下かエリンツィア殿下にまかせたとしましょう。その場合、俺ならノイトラールまで味方のふりで入りこみます」

「……最悪だな。内側から食い破られて全滅だ」

「でも、皇帝がきたら? こっちは少数です。皇帝を捕らえようとするでしょう。もともと向こうの一番の目的は皇帝ですから。皇帝さえ捕らえれば、エリンツィア殿下もリステアード殿下も降伏する。皇帝のために負ける戦いをしてくれる人物はいない。竜妃殿下以外は」

非情なその断言を、カミラは否定しない。ジークは頬杖をついて聞いている。

「そういう事情をあの皇帝はわかっていて、出てきている。この編制は、罠を最速・最善で見破り、損害を最小限に抑える手段ですよ。頭の回ることだ」

「あなたもね」

「俺について、竜妃殿下から何か聞きました?」

「無事、クレイトスに帰してあげてって言われたわ。お姉さんがいるからって」

そのまま伝えると、ロレンスはまばたいてから、苦笑いを浮かべる。

「……まいったな。本気で?」

「そもそもお前、ここにいていいのか。その姉貴ってのは今、無事なのか?」

こういうときずけずけいけるジークの神経はありがたい。ロレンスは気分を害した様子もなく答えた。

「手紙は届いてます。元気でやってる、大丈夫、心配しないでって。南国王はまだ姉に興味を持ってないみたいで、放置してるようだから時間はあります」

「放置? せっかく後宮に入れたのにか」

「あそこの後宮には山のように美男美女がいますし、もともと俺の生家が姉をご機嫌とりに放りこんだだけですから。それに今の南国王の興味は、年端もいかない少年だそうです」

ジークがげっと舌を出す。

「そりゃあ――なんというか、早く出してやりたくもなるな、姉貴」

「そう言われるの、新鮮ですね。クレイトスだと諦めろって言われること多いんですが」

「まあ、うちは所詮他人事だからねぇ」

ロレンスは笑って、何かを地面に書き始めた。何かと覗きこんだカミラはまばたく。ジークも気づいたのか目を細めていた。

「おい」

書いているのとは別の手で、ロレンスが人差し指を唇の前に立てる。静かに、という合図なのだろう。そしてその立てた指を、そのまま上空に向けた。

つられて、ジークと一緒にカミラは目線を上空にあげる。

弓を武器とするカミラにとっていちばんの武器は、目の良さだ。ジークより先に、焚き火の煙が消えたその先、夜空に光るものを見つける。

(竜騎士……! しかも先頭は赤竜!? まさか三公か、他のラーヴェ皇族の竜騎士団!?)