軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

21

「……わたしは放置しろと忠告したつもりだったんだが、リステアード?」

深夜、なんとかハディスを人目につかないよう街まで連れておりて、竜騎士団の執務室に連れてきたジル達を見るなり、エリンツィアはそう言った。答えたのはリステアードだ。

「見つけてしまったんだから、しかたないでしょう」

「見つけたんだろうが。よく言う」

「姉上だって、この少女を疑っていたんでしょう。竜帝が結婚したというなら、子どもだろうがなんだろうが竜妃だ。赤竜がこんな少女を対等に見るとしたら、それくらいしか理由が思い当たらない」

ハディスの横に立っていたジルと一瞬だけ目を合わせて、エリンツィアは頬杖をつく。

「私は素知らぬふりをしようとしたんだがな。それに、肝心のハディスは不本意そうだが?」

リステアードにがみがみ怒鳴りつけられていたせいで、ジルはハディスとここにくるまでほとんど会話できなかった。見つかってしまった以上、とりあえず話をしてみようとジル達に説得されて渋々ついてきたハディスは、子どものようにそっぽを向いたままだ。

「陛下」

ジルが服の裾を引っ張ると、ハディスがやっと口を動かした。

「……だって、何ができるわけでもないだろう。エリンツィア異母姉上は竜騎士団を指揮できるが、後ろ盾であるノイトラール公が僕を支持してない。リステアードも同じ状況だ。味方だと言って、うしろから刺されてはたまらない」

リステアードが苦い顔で黙る。エリンツィアは苦笑いだ。

「どうせ、夏までどこも大して動きはしない。なら僕の魔力の回復を待ったほうがいい」

「魔力が封じられたというのは本当なのか」

「ああ。……僕を始末するなら今かもしれないぞ?」

ハディスは唇の端をもちあげて、リステアードとエリンツィアを見据える。

「その前に叔父上が自滅する可能性だって十分あるけどね」

「どういう意味だ」

今までずっと聞いているだけだったエリンツィアが聞き返す。ハディスはつまらなそうに視線を斜め上にあげた。

「天剣の名を騙って、許されるわけがない。それだけだよ」

「具体的に言え」

「僕はそんなに親切じゃない。どうせ放っておけば全部解決するんだ。――帰る」

「陛下、だめです」

「僕は妻にはひざまずく男だが、今回の件に関しては譲る気はないぞ。ベイルブルグのときのように僕を祭り上げようとしても無駄だ」

冷たく言ったハディスが踵を返したので、すかさず足払いをかけて体勢を崩し、背中を踏んづけてやった。

「陛下はたまに頭にくる言い方しますよね。なんなんです?」

「君こそ僕に対する扱いがたまにおかしくないか!?」

「勘違いしてるくせにえらそうに言わないでください。わたしは別に、陛下に兵を挙げろとか考えてませんよ。ただ、お兄さんとお姉さんと、話をしたほうがいいと思ったんです」

床に伏せたまま、ハディスがまばたく。背中から足をどけて、ジルは両腕を組んだ。

「リステアード様は、兵も使わず自分の足で陛下をさがしてくれたんですよ。心配してくれたんです」

「……心配……僕を……?」

「おい、気持ちの悪いことを言うな。僕はただ、このままでは争いになると――」

「リステアード殿下も、わたしをつけ回すくらい熱心にさがしてたくせに、ぐだぐだ言い訳しないでください! 話がややこしくなります」

ぐるりと振り向いたジルに、リステアードが口を閉ざした。

「あと、陛下にはもっと優しく言ってください」

「なんだと」

「陛下は警戒心が強いんです! いいから、わたしと同じくらいの年代の子どもに話しかけるつもりで! まずちゃんと心配したって言ってあげてください!」

ジルとハディスを交互に見たリステアードは、ものすごい数のしわを眉間に作りながら、ハディスに手を差し出した。

「……とりあえず、立て」

ハディスは差し出された手をじっと見たまま動かない。頬をぴくぴくひきつらせながら、リステアードが続けた。

「――その、あれだ。無事だとは思っていたが……元気そうで、何よりだ」

「……」

「……なんとか言え」

「君が僕に普通に話しかけてくるなんて信じられない」

「おまっ……」

「――帝城に妹が残ってるんだろう。無理はしないほうがいい。ありがとう」

結局リステアードからの手は取らずに、ハディスは立ちあがった。

リステアードは虚をつかれたようにまばたいて、取られなかった自分の手を見ている。

「エリンツィア姉上も、ジルを見逃そうとしてくれてありがとう」

「なんのことだかわからないな。ジルは有望な竜騎士団見習い。わたしは今、お前と会ったこともなかったことにする」

「姉上!」

「お前もだ、リステアード。ハディスは正しい。――でもまあ、元気にしている姿を見られて嬉しかった。なんでエプロンなのかはわからないが」

勢い込んで何か言おうとしたリステアードが、変な顔になって止まる。嫌がるハディスを連れてくるのが精一杯で、着替えさせられなかったのだ。

「君のおかげかな、ジル。ありがとう」

「そうだ思い出したぞお前! そこの子どもと結婚したというのは本当なのか!?」

怒鳴ったリステアードにハディスが面倒そうな顔を返す。

「さっき自分で、ジルが竜妃だと言ってたじゃないか」

「認めるかどうかはまた別だ! お前、こんな子ども相手に何を考えている、何か変な取り引きや脅しをかけたんじゃあるまいな!?」

「ご心配ありがとうございます、リステアード殿下。ですが、わたしは自分の意思で陛下との結婚を決めたので大丈夫です。エリンツィア殿下も、ご心配なく。陛下を守るのもしあわせにするのも妻であるわたしの役目です」

背筋を伸ばして言い張ると、リステアードがなんとも言えない顔で黙り、エリンツィアがまばたきを繰り返してぎこちなく頷き返す。

「そ、そうか。……ハディス、顔色が悪いが大丈夫か?」

「だい……大丈夫……慣れ……僕は、もう、慣れっ……!」

「おら水飲め、水」

「はいはいこっちきて、陛下。看病したげるから」

「……そういえばあのふたりはなんだ?」

ハディスをソファに座らせているジークとカミラを見てリステアードが尋ねる。

「あのふたりは、わたしの部下です。竜妃の騎士というんだと、聞きましたが」

「……なるほどな。どうりで僕を牽制してくるわけだ」

「さて、話は終わりだ。夜も遅い。全員、どこへなりとも行くがいい」

やはり、エリンツィアはのらりくらりかわしていくつもりらしい。状況分析も方針も間違っていないだけに、説得が難しい。リステアードも何か言いたげにはしているが、言葉が見つからないようだ。

だが、それぞれの立場を考慮して辿り着いたのが、ジルの見たあの未来ではないのか。

顔色が戻ったハディスが立ちあがって、ジルに手を差し伸べる。

「姉上もこう言ってる。帰ろう、ジル……ジル?」

荒療治が必要だ。ハディスの手を取らずに、ジルは一歩前に出た。

「率直に申し上げます。エリンツィア殿下、リステアード殿下。陛下にふたりのお力を貸してください」