軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

転移した先は、ラーヴェ帝国の西方、ノイトラール地方だった。クレイトス王国との国境であるラキア山脈の北半分と接した、ノイトラール公爵家の領地だ。険しい山脈があるとはいえ、国境を守るために作られた街はどこも城壁があり、士官学校も多く、ノイトラール公爵家が誇る竜騎士団が見回りを欠かさない。

そもそもノイトラール公爵家とは、ラーヴェ帝国の三大公爵家――三公のひとつである。代々の皇帝は三公から妃をとるのが習慣で、ラーヴェ皇族のいわば親族だ。ハディスを偽皇帝と糾弾したゲオルグも、三公のひとつフェアラート公爵家の令嬢が母親だった。

貴族の後ろ盾なしに皇帝になったハディスにとって、三公は親戚であり政敵だ。すぐに追っ手をかけられてしまうのではとジルは焦ったが、ハディスが明かした内情は思ったものと違った。

「ノイトラール公爵家は、他の二公にくらべると騎士気質なところがあって、権力的な争いには中立を保つことが多い。帝位を狙うよりも、防衛と領地経営に口を出されないために立ち回ってる感じだ」

「じゃあ、ひょっとして陛下の味方をしてくれますか?」

「うーん。ノイトラール公爵家の皇妃が生んだ皇太子が死んでるからなあ」

呑気に言ったハディスに、ジルのほうが顔を引きつらせてしまった。

「そ、それってやっぱり呪いの……陛下のせいってことに……?」

「なってるね」

「……助けは求めないほうが無難だな」

ジークの判断に、カミラが眉をひそめる。

「っていうか、陛下が助けを求められる貴族っているの?」

「心当たりがない。僕の母親は平民――踊り子か何かだったらしいから」

身分が低かったとは聞いていたが平民だった。よく許されたものだと思ったが、前皇帝には大勢跡継ぎがいた。だから許されたのだろう。

「じゃあ、陛下の兄上……ヴィッセル皇子はどうなの? 今、皇太子なんでしょ?」

「兄上の後ろ盾は叔父上だよ。叔父上はひとりだけ娘がいるんだけど、その子が兄上の婚約者なんだ」

「味方の味方が敵になってんじゃねぇか! それ味方も敵のパターンだろ!」

吼えたジークの気持ちに、ついジルも追従したくなったが、こらえた。

少なくともハディスは実兄を信じている。できれば兄弟仲を裂くようなことは言いたくない。

「つまり陛下を皇帝たらしめているのは、女神の呪いをのぞけば、前皇帝の譲位と天剣なんですね……」

「その中でもいちばんの理由は天剣だ。ラーヴェの姿は普通、見えないしね。天剣が偽物だと言えれば、今の僕を皇帝から追い落とすのは簡単だろう。叔父上のとった策は正しいよ。帝都は僕抜きでもヴィッセル兄上がいれば政治は回るようになってるし」

「おい、じゃあ手詰まりじゃねーか」

「そんなことはないよ」

頭をかいていたジークがまばたきをする。カミラもさぐるような目を向けた。ジルも、さすがににこにこしているハディスの言っていることがわからずに、首をかしげる。

「何か手があるんですか?」

「あの天剣は長くはもたない。そのうち壊れるよ。それを待っていればいい」

「壊れるって……あ。魔力封じの反動……?」

ゲオルグが持っていた偽天剣が、強力な魔術の媒介にされているのは間違いない。ジルに加えハディスの魔力まで封じたのだから、並大抵の武器ではいずれ持たなくなる。

「僕とジルの魔力が回復するということは、あの天剣が力を失っていくということだ」

「……なるほど、だったら確かに待つのが一番の手だな」

「焦って敵の罠にハマるのもムカツくしね」

「まずは、安全第一でおとなしくしていよう。そうすれば戦い方も見えてくる」

ハディスの言うことには説得力があった。ほっとしたジークとカミラの顔に、ジルはちょっぴり誇らしくなったくらいだ。

だから油断した。

(まさか、本当に、ほんっとーーーーに何もしないなんて!)

まずは傷を癒やしつつ、安全を確保することで十日がすぎた。生活をととのえようと半月がすぎ、もうそろそろ何か変化や指示があるのではと待ってそろそろ一ヶ月だ。

その間の収穫といえば、ハディスが丁寧に育てたキャベツやじゃがいもくらいである。キャベツを作るハディスを蹴っ飛ばしたくもなるというものだ。背中の傷も完治している。

「いい加減! 何か! しましょう!」

ついに我慢できず、夕食のポトフを囲む食卓でジルは宣言した。