軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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「竜神の封印を解くか解かないかだけで、あんなに強気に交渉できるもんか?」

見張りの兵をねぎらって塔の階段をおりるなり、ジークが頭上のロレンスの部屋を気にしながらぼやいた。

「できる自信があるんでしょ。でも本当にいいのジルちゃん、なんか会談するって前提での条件のすり合わせになってたけど……」

「本当は陛下に三人、つかせたかったけどな。そうすればヴィッセル殿下、リステアード殿下、エリンツィア殿下の三人で喧嘩が起こらずにすむ。でも言い出すとキリがない」

なら三公も、自分もと、手を挙げられ続けたら収拾がつかなくなる。みんな、ハディスの力になりたがっているから。

「それ、本気で喧嘩してるわけじゃないでしょ。みんなジルちゃんが出席できないのを気にしてるのよ、罠だって……いや本気で嫌がらせの可能性あるなあの狸」

「だが、わたしと女神が同席すれば話がまとまらないと言われるとな」

ちょっと振り返ると、気まずそうな顔でジークとカミラが黙り込んだ。笑って、ジルはベイル城内に入る。次に向かう場所は決まっていた。

「ジルちゃんがいいってならアタシは反対はしないけど、陛下がなんて言うか……あら」

目のいいカミラが、進む廊下の先で見知らぬ人物を見つけて声をあげる。遅れてこちらに気づいた相手は、はっとした顔になり、近づいてきてジルに一礼した。

「竜妃殿下でいらっしゃいますね。お初にお目にかかります。デリー・デ・レールザッツと申します。父の代理で参上しました」

レールザッツ公の息子だ。金髪に碧眼、絵に描いたような王子様ふうの微笑みがまぶしい好青年だった。若いとは聞いていたが、ハディスと同世代で通しても差し支えない。

当然のように、ジルの手をデリーが取った。口づけしようとしたところを、カミラがすばやくはたき落とす。

「竜妃殿下には不要よ」

「というかぜってー陛下の前でやんなよ、死ぬぞ」

「おい、デリー様に失礼だろう」

いずれレールザッツ公になる人物だ。竜妃のジルも軽々しく扱ってはいけない身分の持ち主である。

だがデリーはまばたきしたあとに、すぐに申し訳なさそうな顔になった。

「失礼しました。竜妃殿下は子どもではなくひとりの淑女として扱うべきと思ったのですが、早計だったようです」

ひとりの淑女。ぴんとジルの背筋が伸びた。ラーヴェ帝国貴族の中で、いや周囲で、率先して言ってくれたひとが、今までいただろうか。

「あなたは間違ってませんよ。わたしは陛下の妻、淑女ですから! ご挨拶、ありがとうございます」

帝都にいる女官長に教えられた淑女の礼を返すと、デリーはもう一度丁寧な礼を返してくれた。ジルの何倍も優雅で完璧だ。なのにちっとも嫌みじゃない。

「イゴール様――レールザッツ公のお加減はいかがですか」

「父なら元気ですよ。でもぎっくり腰で竜に乗るのは、さすがにね」

レールザッツへの襲撃は、ベイルブルグからフェイリスが脱出すると同時にクレイトス軍は引き上げていったが、ビリー・サーヴェルが出ていると知ったレールザッツ公自ら先陣を切って追撃に出たらしい。しかし竜に乗って指示を出している最中に腰を痛めてしまったとか。

「年甲斐もなく、サーヴェル家を追い払うのだと出陣するからです。最近の父は、陛下とご一緒できてはしゃぎすぎですよ。いい加減年を考えろと、今回は譲ってもらいました」

デリーはなんでもないように言っているが、休戦がかかっているこの状況でイゴールが代理をまかせるのだ。優秀なのだろう。でも、従者らしき人間が見当たらない。

「今、到着されたんですよね。迎えはこなかったですか?」

「ああ、大丈夫です。きちんと出迎えていただきました。こんな状況なのに、驚きました。ベイル城はきちんとした方が管理されているのですね」

「スフィア様が管理なさってるんですよ。ご存じですか、スフィア様」

「もちろん、存じ上げてます。リステアード殿下は素晴らしい女性を見つけられたようだ。羨ましいです」

「で? 迷子になったわけでもなかろうに、なんでうろついてんだ」

警戒を隠さないジークの口調にも、デリーは丁寧に応じた。

「早く陛下にお目通りしたいと思って、さがしていたんです。陛下のご意向をうかがわない限りは、私どもも動けませんから」

ジルが見あげると、デリーは両眉をさげた。

「ただ私は、陛下と面識がないんです。何度かお姿を見たことはあるのですが、緊張でお声をかけられずにいました。陛下は美しい御方ですから、いつも気後れしてしまって……」

「あっわかります! 陛下、遠くから見ると綺麗で緊張しますよね」

「本当に。お恥ずかしいことに、今も少し浮ついています。代理とはいえ、いよいよ父を通じてではなく、自分が竜帝陛下にお仕えできるのかと思うと……精一杯頑張りますので、よろしくお願いします。何かあれば遠慮なくおっしゃってください」

デリーが深々と頭をさげる。大貴族とは思えない、謙虚な態度だ。

「事情はわかりました! 待っててください。わたし、陛下呼んできますよ」

「よろしいのですか」

「あなただけ陛下と面識がないと意見が言いづらいでしょう。それはわたしも困ります。会談に出席はできないでしょうから、その前に話し合ってもらわないと」

「なるほど、クレイトスとの会談は決定事項なのですね」

さらりとジルも意識していなかった言外の情報を読み取って、デリーは微笑んだ。

「では、応接間でお待ちしてます。陛下のご都合もあるでしょうし、時間はかかってもかまいません。いつまででもお待ちしております」

「わかりました、まかせてください!」

お願いします、と再度丁寧に頭をさげる人物を置いて、ジルは再び歩き出した。