軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

27

ジルと槍先の間に割り込んだ天剣から、すさまじい魔力が放出されている。ジルは叫んだ。

「陛下、早く離れて! 魔力、使いすぎです!」

雪も何もかも吹き飛ばしながら、けれどハディスは天剣を動かさなかった。

「離れ、ない」

黒い槍先が、ぐにゃりと変化して天剣にからみ、そのままハディスの腕に巻き付く。黒い槍から手を離し、落ちていくロレンスが笑う。

「女神特製の捕縛結界です。竜神は、愛に対抗する術がないんですよね」

聖槍の形をした槍に捕縛結界を仕込むとか、どういう戦術だ。まんまと誘導された自分への不甲斐なさもこめて、ジルはハディスをとらえようとうごめく黒い魔力を素手でつかむ。

じゅっと手のひらが焼ける臭いがした。

「ジル駄目だ離れて、魔力が吸われる!」

「陛下は、わたしをかばってるんだぞ……!」

夫にからみつこうと、女神の愛とやらがばちばち魔力を放ちながら抵抗する。頭にきた。

「どう考えても、わたしのほうが愛されてるだろうが!!」

素手でそのまま、引きちぎった。ばらばらにちぎれて落ちていく黒い破片のような魔力もうっとうしく、竜妃の神器を剣に変えてかかげ、号令をかける。

「焼き払え、マイネ!」

マイネの炎は、ジルの魔力を焼かない。

竜妃の神器を振り下ろした。力まかせの魔力と、赤竜の炎。常人では絶対に受け止められないそれが、地面に膝を突いたロレンスを襲う。抵抗の素振りを見せないのは、わかっているからか。走馬灯のように奔ったかつての思い出は、甘さだ。

その甘さを思い知らせるように、突然現れた光がすべてを浄化した。

竜の炎も、竜妃の魔力も消し去る、黄金の魔法陣。雪も柔らかく溶かし、春の日差しのように輝くそれ。

「……フェイリス様」

呆然とロレンスが主の名を呼んだ。女王と呼ばないあたり、本当に驚いているのだろう。

つまりこれはロレンスの想定外だ。

「どうしてここにあなたがくるんです。サーヴェル伯は何を?」

「これだけの兵でどうするのかと思ったら……竜妃と刺し違えるとは聞いていませんよ」

フェイリスの声は冷ややかで、ロレンスは困惑したようだった。

「俺の策を台無しにするつもりですか。それとも信用ならないと?」

「そんなことは言っていません! わたくしはこんな作戦は聞いてないし、まだあなたの能力は必要なんです!」

声を荒らげるフェイリスは珍しい。ハディスを背にかばいながら、ジルは周囲を確認する。

崖下に落としてやったロレンスの部隊はまだ動けそうだ。だがこちらも、腹をぶち抜かれたハディスぐまが転がっているが、カミラもジークも無事。マイネとフリーデンはフェイリスを警戒するように、上空を旋回している。

ただ、ジルの魔力は大幅に削られていた。ハディスもおそらく全力は出せないだろう。

それを察しているように、ロレンスに怒っていたフェイリスが、こちらを見る。

「それに、今のでだいぶ竜妃も竜帝も魔力を削がれています。今こそ勝機でしょう」

「いや、あなたと対峙した竜妃が万倍元気になりそうなんですけど。竜帝を守る竜妃は女神をしのぐって話は散々しましたよね?」

「大丈夫です、今のわたくしは負ける気がしません」

フェイリスがジルを正面にして、対峙する。

「さすが竜妃。元部下であっても、慈悲のないことをなさいますね」

ロレンスを始末しようとしたことを言っているのか。ジルは鼻で笑う。

「そいつの厄介さはわたしがいちばんよく知ってるからな」

「そうですか。……やはり、ここで決着をつけてしまいましょう」

フェイリスが、聖槍を天に掲げた。ざっと、周囲を取り囲むようにクレイトス兵と、ジルの見知った面々が現れる。特に厄介なのは。

「お父様……いたんですか」

「どうしてサーヴェル伯までいるんですか」

娘とロレンスににらまれたビリーが、白い虎の魔獣に乗ったまま髭を撫でる。

「そりゃあ、フェイリス様のご命令とあらば、きくしかありますまい」

「……ようやくわかりましたよ、ベイルブルグの戦果の中途半端さが」

本来ならば、ビリーもベイルブルグにいるはずだったのか。それをフェイリスが止めた、あるいは戦力を分散させてロレンスを助けにきた。

だからベイルブルグは一気に陥落しなかったが、リステアードが捕虜になってしまった。

そして、今、この戦力差は――けっこう、まずい。カミラもジークもそれを察している。間合いをとりながら、全員がジルを中心にハディスのそばに集まる。マイネとフリーデンは、ラーヴェから指示がいっているのか、ゆっくり旋回しながら距離を取り始めていた。

小声で、いけますか、とハディスに尋ねた。ハディスは小さく頷く。

「戦力の逐次投入は愚策なんですけど」

「ならここで、勝負をつければいいでしょう」

フェイリスがまっすぐに延ばした黒槍から、魔力の網が飛び出た。それぞれ魔法陣になったそれが、ジルたち目がけて襲い掛かってくる。

魔力の光の隙間から、フェイリスの笑みが見えた。

「落ちろ、竜妃」

それらをすべて結界でふせぎながら、ジルは叫んだ。

「陛下だけでも転移して逃げてください!」

「駄目だよ、あいつらの狙いは君だ!」

「最終的には陛下です! わたしは平気です、負けませ――」

「ここで逃げるような男には娘を嫁にやれんなあ!」

女神の攻撃を背に平気で飛びかかってくるのは、ビリーだ。正面から飛んできたカミラの矢も弾き、ジークの剣を叩き折る。ソテーの蹴りは、膨れ上がった体積に逆に弾き飛ばされた。

「竜帝、覚悟!」

ハディスが天剣を握り直す。止めようにも、ジルは目の前のフェイリスの攻撃をふせぐだけで手一杯だ。ハディスが応戦するしかない。そうでなくても、周囲をサーヴェル家の面々が取り囲んでいる。転移でない最善の逃亡方法になるフリーデンとマイネは、すでに攻撃を受け始めていてそれどころではない。

このままでは駄目だ。

もしも、もしも本当に、竜神の力が――ハディスが、フェイリスの魔力に負けてしまうようなことがあれば。

「盛り上がっとるのお」

のんびりした声とは真反対の、暗闇が周囲を覆った。フェイリスの攻撃の手が止まる。魔力の輝きも太陽も空も、影に覆われた。