軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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今からが、本格的な仕事だ。ハディスの肩からひょっこり顔を出したローが、ジルの腕に飛びこんでくる。

ジルは甘えてくるその頭を撫でた。

「お前はカミラたちと留守番だ。でないとレアが協力してくれないからな」

「う」

ローににらまれたハディスが嫌な顔をする。

「心配しなくても僕はお前のお嫁さんになんて興味ないよ」

「カミラ、お願いします」

「はいはい、ローちゃん。あとで車掌さんの帽子被ってみる?」

「うっきゅう!」

お洒落好きなローがはしゃいだ声をあげる。

「子狸には見られるなよ、そのちっこいのは。悪巧みに使われかねん」

「わかってるわよ。とにかくアタシと熊男、ソテーとくま陛下はロレンスと女王を追い回すことに専念するわ。竜帝夫婦はいるって体でね。あとは信じるわよ、おじいちゃん」

「ふん。何かあればそのちっこいのが指示を出す」

「それは……ちょっと信じられないかしら……」

「うぎゅう!?」

「隊長をまかせたぞ、竜妃の騎士」

念を押すように言うジークに、ロルフは答えない。ただ地図を取って、天井を見あげる。

「竜はきとるか?」

「そろそろくるね」

「じゃあ――」

行くぞ、と続いただろうロルフの声が途切れた。

いきなり走る列車の上に転移され、ロルフがハディスに振り返って叫ぶ。

「いきなり転移するな、心臓が止まったらどうする! いやしかし転移か……範囲は? 制限はあるのか?」

「え? ラ、ラーヴェからは僕が知ってる所以外には飛ぶなって言われてるけど……」

「ほお? その言い方だと、本当はそれ以外にも飛べそうじゃな。それはひょっとして竜帝の器として継承する何かがあるとか……いや竜神か!? 竜神のほうか!?」

「いいから、ふたりとも。竜がきますよ!」

列車を追うように、三頭の竜が飛んでくる。先頭は紫目の黒竜、竜の女王であるレア。その斜め後ろに飛ぶのは、ジルの騎竜で金目の赤竜マイネだ。そしてもう一頭、フェアラート公の預かりで協力に応じてくれたという竜も、金目の赤竜だった。

「乗れます、ロルフ?」

列車の風に煽られながら尋ねると、ロルフが目を眇めて真っ先に列車の屋根を蹴った。

「馬鹿にするな」

綺麗に金目の赤竜に飛び乗ったロルフにジルは笑う。さすがアンサス戦争の英雄――いや、今は竜妃の騎士というべきか。ジルもマイネに飛び乗る。ハディスはとん、と軽く列車から飛び降りた瞬間にレアに掬い上げられていた。

眼下で列車が走り抜けていく。方向転換をした竜が向かうのは、ラキア山脈の方角だ。

「それで? この先はどうするんですか?」

「見かけた敵を片っ端から処すんじゃあ!」

「それって作戦って言えるんですか……」

げんなりしたジルは、ロルフが乗っている竜を見てまばたいた。どこかで見たことがある気がするのだが、思い出せない。

「あの、その竜。名前あるんですか?」

何かのとっかかりになればと尋ねたジルに、ロルフが短く答える。

「フリーデン」

知らない名前だ。ううん、と眉をひそめるジルにレアが笑う。

『ステーキという名は諦めよ、竜妃』

「そういうことが言いたいんじゃなくて――あっ!」

「どうしたの?」

「へ、陛下のお弁当、持ってくるの忘れました……!」

戻るにも、もう列車は小指の爪ほどの大きさになっている。苦笑い気味にハディスがジルの横に並んだ。

「今回は僕も一緒だから、おいしい野営食、作るよ」

「ほんとですか!?」

「ほんとほんと。今回はさすがに僕も頑張らないとだしね――ああ、いるな」

近づいてきたラキア山脈の山肌を見て、ハディスがつぶやく。同じものを視認したジルも手綱を握り締めた。建物にでも降り積もったような、少し大きな雪の塊がある。だがわずかに魔力の気配が残っている。国境は、まだ先だ。

「そりゃ、もうこっちに入りこんどるよなあ」

周囲に目をやりながら、ロルフが笑う。

「魔術は雪崩をふせぐ結界かの。雪を掘っての行軍、怖いのは雪崩じゃ。さてどう――」

「レア」

『承知している』

レアが、雪面に向けて炎を吐いた。雪が吹雪のように飛び散り、山肌があらわになる。悲鳴と一緒に地面と現れたのは、防寒具を身に纏った兵士だ。

「なんっ……雪がなくなった!?」

「竜だ! 黒竜っ――竜帝!」

レアの背から飛び降りたハディスが地面に足を着けた瞬間に、身構えた兵士たちが雪解けの地面に沈んだ。同時に、嫌な音が一斉に鳴り響く。骨が砕ける音だ。

「僕の顔を知ってるなら話が早いよ。ついでにここが僕の国だってことも知っててほしかったかな?」

ハディスが、うめいて這いつくばっている全員を見おろす。

「大丈夫、僕は挨拶にきただけだよ。折ったのは腕だからみんな、生きて帰れる。信じられないかな。ならこうしよう。今から百数えるまで、僕はここから動かないって約束する」

よろよろと起きあがった兵たちの数は数十人。小隊といったところだろう。全員を笑顔で見回して、ハディスが告げる。

「さあ、かくれんぼしよう」

黒髪からのぞく金色の瞳の、なんと美しく、おそろしいことか。

いーち、という声に飛び上がるようにして皆が動き出した。肩を貸す者がいる一方で、やぶれかぶれか襲い掛かってくる者もいる。だがそれをハディスは剣も抜かず魔力の圧だけで沈めた。またごき、と嫌な音がする。たぶん、足の骨が折れた。

「にー」

「っ――退却だ!!」

「ですが」

「竜帝なんて想定外だろう!」

隊長らしき人物が唾をとばし、皆がじりじりと下がったあと、いっせいに駆け出す。足元に転がった兵の襟首を持ち上げ、ハディスが放り投げた。

「忘れ物だよ」

うろたえつつも仲間を受け止めた兵たちへの手向けか、ハディスはただ笑った。

虫をなぶり殺す子どものような無邪気な笑顔だ。悲鳴が上がる。

我に返ったジルがマイネに地上に降ろしてもらった頃には、兵の足跡が残っているだけになっていた。ハディスが振り返る。

「じゃあ、彼らのお友達のところに案内してもらおうか」

「はっはい!」

つい背筋を伸ばして敬礼してしまう。ハディスは鼻歌でも歌い出しそうな気楽な表情で、先に歩き出した。

逃がす気はないらしい。横に並んだロルフとその背を見つめてしまう。

どうすれば効果的か、よくわかっていらっしゃる。わかりすぎていて、怖い。

「……お前、あれ、止められるか?」

「今更!? だから陛下を最前線に出すなって言ったんだ、わたしは!」

「ええいもう遅いわ! 恨むなら女神を恨め」

そうだな、とジルは歯噛みする。そして今更、気づいた。

不安がる一方で、ハディスは怒っていたのだ――育て親を弱いなんて、馬鹿にされて。

(やっぱりわたしがいないと駄目な男にしておこう)

お花畑の恋愛思考で願っているわけじゃなくて、世界平和のために。

決意を新たに、ハディスを追いかけて雪が蒸発してぬかるんだ道に踏み出した。