軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

18

丸いテーブルとそこに座る面々を見るなり、マイナードは柔らかく微笑んだ。

「王座に案内されないと思ったら、そうくるわけですか」

「ラーヴェ皇族だと名乗ったのはあなたでしょう、マイナード兄上」

どうぞ、と素っ気なく、先に紅茶をすすりながらヴィッセルが斜め向かいの席を顎で示す。

「謁見など堅苦しい。きょうだい水入らず、語り合おうじゃありませんか」

「親善大使として扱うよりきょうだい扱いしたほうがまだましだと。フェアラート公が言い出しそうな時間稼ぎですね。三公はクレイトスへの確認、私が入りこんだルートの確定諸々含め、今頃大忙しでしょう。それとも、やはり竜帝より担ぎやすい神輿がいいと私に接触してくるかな。どちらだと思います、ヴィッセル殿下?」

「いいから座ったら。きょうだい水入らずなんだろ」

ハディスの横に座ったルティーヤが、クッキーをつまみながら乱雑に言う。子どもっぽいところは多々あるが、ルティーヤは聡い。ここがどういう場面か理解し、それらしく振る舞うことができる。

「そうだね、ルティーヤ。では遠慮なく、お邪魔するよ」

優雅な足取りでやってきたマイナードが、ハディスの正面の席に腰をおろした。椅子を自分で引く動作も、かがんだ際に流れた長髪を後ろ耳にかける仕草も、演技がかっていていちいち絵になる。役者のようだ。

優雅にカップを取り、紅茶を味わう今は、皇子様役といったところだろうか。

「いいお茶だ。レールザッツの茶葉だね」

誰も答えない。ルティーヤがクッキーを咀嚼する音と、ヴィッセルがソーサーにカップを戻した茶器のこすれが、締め切った応接間に響く。ぱきり、と暖炉の薪が落ちる音まで聞こえる静けさだ。

「それで、聞きたいことはなんだい?」

小鳥の影が見えた気がして、ハディスは窓の外を眺めた。今日はいい天気だ。

(ジル、大丈夫かなあ)

(まあそこは信じるしかねえな)

肩からテーブルに移動したラーヴェが、菓子台に乗った焼き菓子を物色し始める。ヴィッセルは本を取り出していた。

「……。何かしゃべってくれると嬉しいのだけれどね」

「……」

「愛情の反対は無関心、とはいうけれどねえ。困ったな」

両肘をテーブルにつき、組んだ手の上に顎を乗せて、マイナードが溜め息をついた。

「わかったよ、教えてあげる。私が今回、親善大使としてクレイトスから仰せつかったのは、不作の支援申し出と、ジェラルド王子の安否確認だよ。謁見では面会を求める予定だ」

「この焼き菓子はおすすめですよ、マイナード兄上。口いっぱいにどうぞ」

「もちろん君たちは断ればいい。そこまで織り込み済みだ。でも、不作でクレイトスからの支援を受けたい馬鹿が、売国奴の自覚なくクレイトスの顔色をうかがっている。王子に竜の花冠祭も見学もさせず、友好な留学を主張するのも無理筋だ。貴賓席にでも座らせて、見学の体を保てばいい。私には竜の花冠祭をぜひ楽しんでいってくださいと言って、ジェラルド王子の姿が見える遠い席に座らせる。落とし所はそのあたりでどうかな?」

妥当な意見だ。ハディスが顔を戻すと、マイナードがにっこり笑い返した。

「十五年ぶりかな、ハディス。大きくなったね。私のことは覚えてるかい」

すかさずヴィッセルが鋭い声を飛ばす。

「焼き菓子を喉まで詰め込んであげましょうか」

「相変わらずヴィッセルは過保護だ。でも弟は竜神が見えるんだ、嘘なんかついてないと、半泣きで誰彼構わず殴りかかっていった頃に比べたら大人になったかな。いったい何回穴に落としてやったっけ? 返り討ちにされては図書室に閉じこもって、可愛かったね」

ばたんと音を立ててヴィッセルが本を閉じた。ぎろり、とマイナードに向けた目に殺意がこもっている。

「あなたにはずいぶん鍛えていただきましたよ。宮廷の悪意という悪意を学ばせてもらいました、感謝してます」

「そうか、よかった。今ならわかってくれると思ったよ。あんなふうに馬鹿正直に弟を竜帝だと訴えて回るのが、どれだけ危険か。今、どんな気持ちかな?」

「鼻の穴まで焼き菓子を詰め込んでやりたいです」

「そうそう、クレイトス女王即位の正式な通達も仰せつかってる」

話の緩急がうまい。知らんぷりをしなければと思いながらも、耳を傾けてしまう。

「ということで、謁見はしてくれるかな? 形だけでいいから。でないと私は早々にクレイトスに戻らないといけなくなってしまう。やはりラーヴェ帝国はジェラルド王子を監禁しているようです、面会も拒まれましたという報告と一緒にね」

それは余計な火種になりかねない。

人質にされた兄を取り戻す幼い女王は、演出次第でさぞ魅力的に映るだろう。

「のんびりさせてくれると嬉しいね。エリンツィア姉上は国境警備、リステアードはベイルブルグだから無理だとしても、フリーダとナターリエはどうしてるのかな」

「ナターリエとフリーダは、昨夜何者かに襲撃を受けました」

ヴィッセルに告げられたマイナードの反応を、まばたきせずにハディスは観察する。

塗り替えられた心配そうな顔は、おそらく作り物だ。ただ持っていたカップの取っ手をつかむ指のこわばりと、呼吸を整える一瞬の間が、本物に見えた。

「今日明日は公務も休ませています。会いたいなら、明日以降にしてください。特にナターリエにとって、あなたの顔は心臓に悪いでしょうからね」

「――そう、それでここにいないのか。怪我は? ふたりとも無事なのかな。君たちがここにいるということは心配しなくていいのだろうけど……」

「あんた、何か知ってるんじゃないのか? 犯人について」

ヴィッセルではなく、ルティーヤが切り込んだ。ヴィッセルは眉をひそめたが、ハディスは黙って成り行きを見守る。