軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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波の音が聞こえる。なんだか優しいものにくるまれているような心地だ。

寝返りを打とうとして、ハディスは目をさました。だが目を突き刺す夕日の光に目をつぶって縮こまる。その動作で、頭を撫でていた小さな手が止まった。

「気づきましたか、陛下」

「……ジル……」

どうも船の甲板に寝かされているようだ。けれど、頭は柔らかい。ジルが膝枕をしてくれているからだ。だからこんなに安心して、しあわせなのだろう。夢みたいだ。

だが、海面を赤く照らす西日が現実と時間の経過を認識させる。

「……僕……ラーヴェ、は……?」

「おー、いるぞ。ローは……まだ爆睡してるなぁ」

目の前にラーヴェが顔を出した。逆光で見えにくいけれど、変わらない。幼い頃から見知っている、いつものラーヴェだ――神格を、落としてなんかいない。

「さっきエリンツィア殿下が、竜騎士団と一緒にきてくれました。今、対応に当たってくれてます。ヴィッセル殿下に言われて、すぐにライカに飛べるようずっと海の向こうで待機しててくれたみたいで。陛下、覚えてますか? 空の魔法陣。あれが見えたそうです」

「……覚えてないけど……そっか、あれだけやれば竜にも伝わるよね……」

きっと驚いてまさに飛んできてくれたのだろう。政治面には疎いエリンツィアだが、復興作業などこういう現場には慣れている。それに、そうだ、あのロジャーという男はたぶん――。

「まだ寝てて大丈夫ですよ。みんながちゃんとしてくれてますから」

強い日差しから守るように、ジルが両目に手をかぶせてくれた。確かにまだ休んだほうがいいかもしれない。とても、疲れている。涙が涸れるまで泣いたあとのように。

「あ、でも体勢はそろそろ足がしびれてきそうなので――」

「……嫌な、夢だった……みんな、いない……」

腰をあげようとしていたジルの動きが止まった。緩慢な動作でその腰に抱きついて、目を閉じる。

「夢で、よかった……」

「――そうですよ、陛下。だって幸せ家族計画ですからね。おじいさんとおばあさんになるまでわたしたちは一緒です」

「おー、どんどん壮大になってくなー嬢ちゃんのそれ」

ラーヴェが笑っている。

よかった。

どうしてだか何度もそれを噛みしめる。

だからきっと、頬に落ちてきた水滴が塩辛いのも、気のせいだろう。

「……嬢ちゃん? なんで泣いてるんだ」

「陛下には、内緒にしてくださいラーヴェ様。……ただの感傷なので」

「……何か、あったのか? さっき」

神妙な顔で尋ねるラーヴェもやはり、理を書き換えたときの記憶はないらしい。なんだかおかしくなってジルは笑い、洟をすすった。

そう、あれは幻だったのだ。だから肩に受けたはずの傷もすぐ消えてしまった。

正しくない理が見せた、幻だ。

「前に、嬢ちゃんは未来を知ってるって言ったな。……それか?」

「いいえ。あれはもう、過去の話です」

きっぱり言い切って、ジルは寝入ってしまったハディスの頭を撫でる。

あれがひとつ前の竜帝。本当は、そのことの意味をきちんと考えるべきなのかもしれない。でも、今は。

「わたしが、二回分の人生をかけて、陛下をしあわせにしますから」

そうか、とつぶやいたラーヴェと一緒に空を仰ぐ。空の色が変わっていく。闇を抱えた夜がやってくる。当然のことだ。

時間は前にしか進まない――そういう理なのだから。