軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

32

花火のように、対空魔術の魔法陣があがった。そうだ、とジルは拳を握る。隣で作戦を知らないロジャーが仰天した。

「対空魔術!? 学生が!? ……いや、制御なんかできないだろう! 魔力を無駄に」

「いいんですよ、制御なんかできなくて! いくら緑竜でも、竜に乗ってるほうによける力がないんですから――いけ!」

ジルの叫びと一緒に、散々ソテーに蹴り回された生徒たちが陣地から飛び出た。対空魔術に対処できず、上空でおろおろしているだけの生徒を狙い撃ち、あるいは竜を足場にして飛び移りながら次々殴り落としていく。ソテーが羽を広げて高らかに雄叫びをあげた。

「りゅ、竜じゃなく、乗ってる学生を落とすために……足止めの対空魔術か……」

「竜に乗ってるだけの人間なんかただの的だ、ひるむな! 叩き落とせ!」

「ちょ、ジル先生、落ち着いて! 魔獣も」

「うきゅー、うきゅうぅー!」

ロジャーがあわてているが、周囲もどよめきと興奮でこちらなど見ていない。既に金竜学級の生徒は半分近く叩き落とされていた。ここまで作戦どおりだ。

だが、対空魔術にひるまず飛ぶ竜の姿があった。ノインだ。

ジルは舌打ちする。やはりノインは優秀だ。ただ竜に乗るだけではなく、きちんと手綱を操れている。しかも何やら指示を出しているようだ。

(頑張れ、頑張れ……!)

ああ、自分があそこにいたら全部吹き飛ばしてやるのに。つい手を出したくなるけれど、それでは解決にならない。他人を信じなければ、まかせられなければ、育てられなければ、国を維持することも守ることもできない。

今、ジルはそれを学んでいる――先生として、竜妃として。

「対空魔術は狙いをさだめられていない、落ち着け! 人数はこちらが上だ、ぎりぎりまで竜で近づいて地上におりろ!」

そのほうがいっそ、戦える。上空を旋回して叫びながら、ノインは唇を噛んだ。

竜に乗れたら勝ちではない。当たり前だ。そんな単純なことにも気づかず、歩兵を用意しなかったせいで、大半の戦力をただの的にしてしまった。こちらだけ竜を使えるのは不公平だとか、笛で竜に乗るのが卑怯だとか、そんなことどうでもよかったのだ。大事なのは、竜を使えるのかどうかだった。

対空魔術は、蒼竜学級の旗が立っている場所から放たれている。魔術の得意な生徒たちが協力して魔術を維持しているのだ。その周囲には当然、旗と魔術を守るための守衛部隊がいる。

だが、竜を落とすため突撃してきたほうにも人数をさかれているので、多くはない。

布陣を上空で確認したノインに気づいたルティーヤが、こちらを見た。視線が交わる。

指揮官の一瞬の判断が、勝敗を決める。

「対空魔術に惑わされるな! 地上部隊の編成、急げ!」

「前衛、戻れ! 対空魔術は結界に切り替え、くるぞ!」

緑竜の炎が、たかが学生の結界に押し負けるはずがない。だが、ノインの指示で吐き出された魔力を燃やす炎は、届かなかった。旗を中心に結界を張っているのはルティーヤだ。旗を、周囲の生徒たちを守る姿に、ノインは剣を引き抜いて、竜の鞍を蹴る。

「今だ、突撃! 旗を狙え! ルティーヤは俺が引き受ける!」

「ノインは僕が相手をする、地上部隊を旗に近づけさせるな!」

ルティーヤが剣を抜いて、こちらを真っ向からにらんだ。なぜだかそれだけで、口角が持ちあがる。

竜を捨てての泥沼の地上戦だ。少しも優雅ではない。だが、響き合う剣戟は驚くほど澄んでいた。手加減など必要ない、そう確信させる響きだ。

観客席から飛んでくる声援も、野次も、怒号も、気にならない。

「やればできるじゃないか……!」

「上から目線かよ、胸くそ悪い!」

互いに悪態をつきながらも、戦場を把握しようとしているのがわかる。やはり対空魔術は消耗が激しいのだろう。竜に飛び乗り、生徒を落として回るというのも決して簡単なことではない。疲労が激しい蒼竜学級の円陣が崩れ始めた。

ルティーヤが振り向こうとしたが、すかさず押しとどめる。

「行かせないぞ、これでお前の校章を壊せば、完勝だ!」

視線を戻したルティーヤが、交わった剣の向こうで、いつものいやらしい笑みを浮かべた。

「――引っかかったな、エリート様」

上空を、大きな影が飛んでいった。まだ竜に乗っている生徒がいるのかと、ノインはつい視線を向けて、その竜が向かう先に瞠目する。

金竜学級の自陣だ。

乗っているのは、蒼竜学級の人間。

ラ=バイア士官学校の入学生は、優秀だ。竜に乗れる学生は毎年、何人か必ずいる。乗るだけでいいなら、蒼竜学級にも何人かまざっているだろう。

そして竜を止める術を、金竜学級は学んだことなどない。

「しまっ……!」

「自陣から前に出すぎたな、エリート様!」

気を取られたノインがルティーヤの横払いの一撃に弾き飛ばされるのと、竜から飛び降りた蒼竜学級の生徒が旗を倒すのは、同時だった。

まず訪れたのは、静寂だ。興奮していた観客席も、水を打ったように静まり返って、現状を認識しようとする。

「……まさか、金竜学級が……」

「……。やった」

誰かがつぶやく。金竜学級の生徒が呆然と膝を突き、蒼竜学級の生徒が立ち上がる。ルティーヤが拳を握るのをノインは見た。

歓声が、破裂する。

「勝ったあぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーー!!」